スポーツタイプの長所/短所

ママチャリ以外の自転車を買うのは初めて、という人に比較的人気が高いのがスポーツタイプの自転車であるが、「電動以外も含め、スポーツタイプの自転車自体、今まで乗った事が無い」という人には戸惑う要素もある。購入前によく検討して、自分の環境に適した車種を選ぼう。



スポーツタイプの長所

  • 電動に頼らない素の自転車部分の素性としては、スポーティな乗車ポジション、多段変速を活用した走行が可能、ホイール性能の高さ、等で走行性能重視の特性を持つ。実用性一辺倒の乗り味のママチャリタイプに比べれば、自転車の趣味性である「自分で漕ぐ楽しさ」をある程度は感じながら走行できる。
  • 非電動のクロスバイクやロードバイクに乗った際に初心者が音を上げるポイントになりやすいのが「思ったより漕ぎ出しが重くて疲れる」「平地は良いが、坂道と向かい風が来ると地獄」と言った点。電動アシストはそういった漕ぎ出し・坂道・向かい風での人間の負担を減らし、「常に時速20km/h台を維持して走る」という特性に関しては優れている。
  • 以上の二点から、「スポーツ自転車の趣味性である『漕ぐ楽しさ』をある程度は味わいつつ、電動アシスト自転車の実用性である『発進や坂道での疲労の軽減』も享受できる」と言う、趣味性と実用性の両立がし易い。

  • 長距離巡航に適したライディングポジションが取れる。スポーツ自転車の前傾姿勢は、体重が腰に集中せず腕と脚に分散でき、より広範囲の筋肉を効果的に使って走れるので、乗り方のコツを掴んだ熟練ライダーにとっては長距離走行で疲れ難い。つまり初心者ほど「前傾姿勢が苦手」と言う感想を持ち易く、上達するほど「前傾姿勢の方が長距離は楽」と、まるで正反対の意見に変わっていく。乗り手が上達する程にメリットが増えるポジション。
  • 多段変速(内装8段や外装7~8段等)を搭載しているので、ママチャリタイプの内装3段よりも幅広いギア比を使え、モーターの力に頼らずにある程度自分の脚力で漕いで斜面に対応できる。またペダルを1回漕いだ時に進む距離(=GD値)がママチャリ型よりも大きい場合が殆どであり、高速巡航性能が高いと言える(車種にもよる)。

  • カスタムセットアップを楽しむ等、趣味性の高い乗り物としての楽しみがある。各パーツがMTBやクロスバイク用の規格なので、ママチャリタイプと比べると遥かに交換パーツの選択肢が多い。本格的な性能を持つホイールから、外見重視のド派手なカラーホイールなど、タイヤ・ハンドル・サドル等を自分好みのパーツに交換する事で「自分だけの1台」を作るのに適している。隅々まで手を加え、愛着を持って接する事のできる趣味の乗り物としての側面も強い。




スポーツタイプの短所

  • 荷物積載性の面で不便を感じる事がある。まず標準装備では前カゴやリアキャリアが付いて居ない事が殆ど。もちろん後から汎用のMTB用キャリアや純正オプション品を増設できるのだが、MTBやクロスバイクのフロントフォークの構造上、前カゴには2kg~7kg位迄の耐荷重制限が生じる。リアキャリアも取り付け不可能なパーツがあったりするので注意が必要。買い物して食材や本を大量に積む等の用途には不向き。

  • 「スポーツ」という言葉で誤解されやすいが、「スポーツ型=アシスト力が強い」という訳では無い点に注意。「スポーツ型=運動の爽快感がある」と言う解釈に近く、アシスト力の差で言えば、スポーツタイプのアシストは弱い部類に入り、ママチャリタイプの上位モデル(大容量電池搭載)が一番アシスト力が強い傾向にある。
  • スポーツタイプのアシスト力がそれ程高くない理由として考えられるのは、1つはスポーツ自転車としてあくまで自分で漕ぐ事の楽しさを味わうのがメインでアシストは最小限、そして普通のクロスバイクでは厳しく感じる坂道等に差し掛かった時だけ、アシストにサポートしてもらうと言う、「人力が主、電動が従」のスタンスを持つ点が挙げられる。
  • もう1つの理由として、高アシスト比率を実現するには、高耐久タイプのチェーンと高耐久ハブが必要な点も挙げられる。外装変速は多段化するとチェーン幅に限界が生じ、内装も多段化するとギア歯数の増加とハブ容積の制限から耐久性に限界が生じる。スポーツタイプで1:2近い高トルクを設定するのは難しい、と言う事情もあると思われる。

  • 前傾姿勢のポジションは、普段からスポーツ自転車に乗り慣れてないライダーに取っては辛いポジションとなる場合がある。前傾ポジションは慣れてしまえば長距離走行では疲労が少ない合理的な姿勢なのだが、慣れるまでは逆に股間や手首など体の一部が痛くなる場合がある。慣れる迄は前傾ポジション独特の体重配分のコツが掴めず苦労する可能性があり、慣れる前に挫折して乗らなくなる「三日坊主」状態になる人も居る。

  • ハンドルやサドルは位置調整可能だが、自分の体格に合ったポジション調整やそれに伴うワイヤー類の微調整など、各パーツの機能や正しい使い方を理解するのに少々の知識を必要とする。
  • 特にハンドルの高さに関しては注意が必要。クイルステムでは無くアヘッドステムの場合が多いので、ママチャリに比べてハンドルの上下の高さの調節幅が狭い傾向にある。
  • 車種によってGD値の差が大きい。中には内装3段ママチャリと殆ど変わらないGD値のモデルもある。購入前に良く確認しておき、自分の使用環境に適した車種を選ぶ必要がある。





お尻の痛み対策

電動/非電動に関わらず、初めてスポーツタイプの自転車に乗った人から良く声が上がるのが、「サドルに長時間座ったらお尻が痛くなる」という症状。
理由と対策が分かれば対処可能なのだが、知らずに我慢して乗り続けると「スポーツ車はお尻が痛くなる」と誤解されて敬遠される理由にもなり易い。原因と対策を把握して対処したい所。
大まかな対策としては「座る角度の変更」「サドルの角度変更」「柔かいサドルやサス付きに変更」等の方法がある。

●乗車ポジション図 → 【図解】



座り方の改善

「お股」が痛い場合

  • もし、「お尻」というよりもいわゆる「お股(股間・急所)」そのものが痛い場合なら、これは座る時の角度が正しくない(骨盤が寝すぎている)ので座り方を変える事で改善可能である。

  • 一番多いのは、本来は坐骨(お尻の後ろ側にある硬い骨)の辺りがサドルに接して体重を支えるべき所を、お尻の後ろ側ではなく前側の「股間をサドルにこすりつける様な感じ」の乗り方の人(前述の【図解】を参照)。サドルが股間に食い込んで痛みを感じる事になる。
  • スポーツ車が初めての人は「良い姿勢=背は真っ直ぐピンと伸ばす」と思い込んで背を反らしてしまう事が多い。これだとお腹が下に出っ張った状態のままで前傾してしまう事になる。すると股間(急所)に体重がかかり尿道等を圧迫して座る際に苦痛を感じてしまう。

  • この様な人は骨盤を寝かせすぎる傾向にあるので、骨盤を垂直に起こす方向で座り方を変える。前傾姿勢を取る際の表現は幾つかあり、「ボディブローを喰らった時の前のめりの姿勢」「アマレスのタックルに行く構えの猫背ポーズ」等、各自で表現は異なる。お腹の部分は垂直にして骨盤を立て、丹田(おヘソの下)辺りのお腹を少し膨らませて力を込める感じにして、丹田より上半身の部分だけを前方へ曲げて、ウルトラマンの飛行姿勢みたいに前に水平に伸ばす姿勢を取る。
  • すると骨盤の角度は前に寝そべらずに垂直に起きる様になる(オヘソが下を向かず前方正面を向く感じ)。股間ではなくお尻の穴に近い後ろ側(坐骨の辺り)がサドルに触れて体重を支えるので、股間(急所)が直接サドルに当たって痛む事は無くなる。


「腰」が痛い場合

  • もし長時間乗ると腰が痛くなると言う場合なら、個別のケースによる差が大きい(特に腰痛持ち等の持病がある場合)ので理由を限定するのは難しいが、やはり骨盤の角度が前か後ろに寝すぎている場合には影響が大きい。

  • 骨盤の傾斜角度は個人差があり、自然に跨った状態で骨盤が前傾し過ぎている人は骨盤を立てるイメージで、骨盤が後傾気味な人は前に寝かせるイメージで調整する事になる。どちらもやり過ぎるとかえって腰の負担が増す(【図解】参照)ので、前後どちらにも偏り過ぎない適正な角度に調整する事が必要になる。
  • また電動アシスト自転車はフレームサイズが1種類しか無いので、車体サイズが体格と合ってないとポジションに無理が出易い。165cm~170cm辺りを基本設計とした場合、150cm台など体格が小さいと骨盤が前に寝そべる姿勢になり易く、180cm超など体格が大きいと骨盤が後傾した窮屈な姿勢になり易い。多少ならサドルやステム(ハンドル)の変更で対応できるが調整幅にも限界がある。

  • ママチャリタイプの様にアップライトな姿勢だと、腰を曲げずに済むが上半身の体重や衝撃が全部腰に集中し易い点に注意が必要となる。スポーツタイプの様に前傾姿勢だと、体重を分散できるが不適切な乗車姿勢ではかえって腰の負担を蓄積させる危険がある。
  • いずれにせよ、負担の少ない乗り方なら不自然に痛くなる事は無いので、不審な痛みを感じたら、無理せず姿勢を見直すなり治療のプロに相談するなりする方が良い。ただ整骨・整体等の治療担当者が必ずしも自転車競技等の経験や知識が豊富にある訳では無いので、痛みの原因が分かっても、自転車の乗車姿勢として理想的な乗り方を指導できるとは限らない点には注意。




サドル角度の改善

  • また、サドルの取り付け角度前上がりの場合にも痛みを感じる。サドルは横から見てほぼ水平が基本だが、購入直後の状態では稀にサドルの前方が上を向いて、サドル後方が下を向く前上がりの状態になっている事がある。この状態では前傾姿勢を取ると股間(急所)が圧迫され、長時間座ると痛みを感じてしまう。サドルの角度は六角レンチ等で変えられるので、水平に近い角度に調整しておく。

  • もし水平でもまだ痛いという場合には、僅かに前方を下げて後方を上げる様な前下がりの角度にすると、股間への圧迫度が減って痛みが改善される場合がある。やりすぎるとお尻が滑り台の様にサドルからずり落ちたり、上半身に体重が寄って今度は掌が痛くなったりするので程々に。
  • 乗車姿勢の改善には慣れるまで時間がかかる。それまでの一時的な措置としてはサドル前下がりは有効。慣れてきたら次第に水平に戻していき、それでも痛みを感じなくなってくれば適時自分に合った角度に調整すると良い。



サドル変更

  • これでも痛みが改善されない場合は、ゲル入りのコンフォートサドルサスペンション付きシートポストに交換するという手もある。コンフォートサドルとシートポストサスペンションを併用すると痛みはかなり軽減される。また正しい乗車姿勢ができる人の場合も、連日長距離走行する様な場合には圧迫感を減らしてくれるので、これらの装備は効果的となる。
  • デメリットとしては、サドルのクッションやサスペンションが振動を吸収するので、ペダルを漕ぐ力も若干吸収されて僅かなエネルギーロスになる事。漕ぐ力をモーターで補える電動アシスト自転車の場合は比較的ロスを体感し難い。

  • サドルの形状がライダーの骨盤の大きさに適していない場合もある。特に性別による骨盤形状や股間の状態の違いはサドル選びに大きく影響するので、「男性用サドル」「女性用サドル」といった専用サドルも存在する。
  • 男性専用サドルの場合は、骨盤が狭く股間陰部の血管・神経が広範囲な男性の身体に合わせて、サドルの幅は狭くなり、サドル中央にある穴あきor凹みの部分は大きくなっている。サドルの穴や凹みは長時間の尿道圧迫による健康への悪影響を防ぐ役割を果たしている。
  • 女性専用サドルの場合は、骨盤が広い女性の身体に合わせてサドル幅は広くなり、サドル中央の穴あきor凹み部分は小さく狭い範囲になっている。もし女性が男性用の幅の狭いサドルを使った場合、坐骨(お尻の底部にある硬い骨)でサドルに座る事が出来ず、股間に直接体重がかかって痛くなる事がある(乗車ポジションや個人差にもよる)。
  • 座るだけで瞬時に骨盤の幅を測定できるサドルサイザーを置いている店もある。自分に合ったサドルを選ぶ際の参考にできる。
  • またポジションによっても最適なサドルは異なる。ママチャリの様に上半身が直立状態で乗るなら、お尻の部分のクッションを厚くして体重の負担を減らすサドルが向いている。逆にスポーツ車の様に前傾姿勢を取るなら、体重を腕と分散できるのでペダリングの邪魔をしない細いサドルが向いている。





前サスペンションの有無

電動/非電動に関わらず、初めてスポーツタイプの自転車に乗った人が注目するのが「フロントサスペンション付き」のクロスバイクやMTB。
しかし、電動アシスト自転車に付いているフロントフォークサスペンションにはダンパー(減衰装置)が付いてなくて、コイルスプリングのみの構造である事に注意が必要。

本来のサスペンション(ダンパー付きサス)の機能【メリットや機能】
上記のリンク先の様なサスとは違い
電動アシスト自転車に付いているのは
減衰機能の無い「単なるバネ」であり
厳密には「サスペンション」では無い

これらの事情を踏まえ、フロントフォークにバネが付いた時のメリット・デメリットを把握しておく必要がある。



ダンパーが無い点に注意

スプリング(ショックを和らげるバネ)
ダンパー(伸び縮みをすぐ沈める減衰装置)
  • サスペンションには大きく分けて上記「スプリング」と「ダンパー」の2つの機能が欠かせない。しかし、ハリヤやリアストやブレイスなど電動アシスト自転車に付いている前サスはコスト重視の安物なので、ダンパー(減衰装置)が無いのが問題となる。
  • この安いグレードのサスは、フロントフォークの右側にコイルバネが1つ入っているだけで、左側は空洞と言う、非常に簡素な構造になっている。つまり、便宜上ここでは「サスペンション」と呼んでいるが、正確には電動アシスト自転車に付いているのは「サス」ではなく「バネ(コイルスプリング)」とも言える。

  • サスペンションの働きには主に「衝撃吸収性向上」「路面追従性向上」の2つがあるが、これらはダンパーがあって初めて有効な働きをする。路面の凸凹を乗り越えた場合、まずスプリングが段差で沈み込んで衝撃を和らげる。その後バネは反動でしばらく上下に伸び縮みを繰り返そうとするが、ダンパーはオイル等によって、その伸び縮みを素早く鎮める働き(減衰能力)がある。スプリングが沈んでその後にダンパーが伸び縮みをすぐ止めさせる事で、凸凹を乗り越えたのにハンドルは全然上下動しないと言う状態になれる。
  • しかしダンパーが無いと、スプリングが衝撃を和らげるまでは良いのだが、その後にスプリングの反動でハンドルはボヨンボヨンと上下に跳ね続けるので、乗り心地がフワフワした感じになってしまう。これでは「タイヤが路面を常になぞり続ける事でロス無く走れる」というサス本来の機能(路面追従性)を果たせない。
  • 更に荒れた道の場合は絶えず微細な路面の振動が入るので、バネの反動による上下動が収まる前に次の段差で振動が…を延々繰り返す来る事になってしまい、サスは上下動しっぱなしで真っ直ぐ走る際の駆動ロスになる事すらある。

  • ダンパーが付くと「コストが跳ね上がる」「車体の重量が増す」「定期的なメンテがより複雑になる」等のデメリットもある。また電動アシスト自転車は本格オフロード走行厳禁で舗装路の段差程度しか走らない設計なので、本格的なサスペンションは必要なく、簡易なバネのみで十分と言う面もある。逆に言えば、バネ程度ならそもそも必要無いという見方もできる




抜重による衝撃吸収

小さな段差の場合

  • カーブした道路にある滑り止め舗装の凸凹の様に、数cmにも満たない小さな凹凸が連続して十数m続いている場合などには、「抜重」と呼ばれるテクニックを使う。
●小さな凸凹への抜重 → 【図解】

タイミング 主な操作 効果
【1】段差の手前 ペダルを漕ぐのを止める 姿勢の安定。
体重がペダルに集まる。
【2】前輪が段差に
接触する寸前
小さな段差なら、グリップを握る力を緩める
大きな段差なら、軽くハンドルを持ち上げて前輪を浮かす
前輪の荷重が抜ける。
前輪段差衝突のショックを軽減。
【3】後輪が段差に
接触する寸前
小さな段差なら、サドルからお尻を浮かし膝の力を抜く
大きな段差なら、ハンドルに体重を掛ける
後輪の荷重が抜ける。
後輪段差衝突のショックを軽減。
  • 上記【図解】の様に、前輪が凸凹を乗り越える瞬間には、前輪に掛かっている体重を後輪側に移動する事で、前輪が凸凹に衝突する時のショックを軽減する事ができる。凸凹がある程度小さければ、前輪を持ち上げる必要は無く、軽く掌と肘の力を緩めるだけで十分。
  • そして後輪が凸凹を乗り越える瞬間には、前輪側に体重を移動させる事で後輪が凸凹を乗り越える際のショックを無くす事ができる。やはり凸凹が小さい場合には、ハンドルに体重を掛ける必要は無く、軽く膝の力を緩めるだけで十分。

  • 人間の肘と膝は、どんな高度な電子制御でも真似できない優秀なサスペンションでもある。自動車やオートバイの機械式サスペンションと違い、目と脳と言う優秀なセンサーと制御コントローラーが付いているので、路面に合わせてサスペンションの強さを微調整できるのが最大の利点。
  • 例えば小さな凸凹がたくさん続く場所では、掌と膝の力を抜いて、柔かいサスの様な働きをさせて細かい振動が頭や胴体に伝わらない様にできる。逆に大きな段差の着地では、強い衝撃に耐える為に膝を強く踏ん張って、硬いサスの様な働きに変化させられる。走行中は硬さを変更できない機械式サスペンションにはできない高度な制御と言える。
  • オフロード走行の様に恒常的に大きな段差が入る場合には事情が異なってくる。サス無しでハードなオフロード走行をすると10分で手が痺れる事もあり、肘と膝だけでは許容範囲を超えてしまうのでMTBにとってサスペンションの恩恵は絶大である。
  • しかし、舗装路を走る事が殆どの電動アシスト自転車なら、歩道の段差程度なので手足による人力サスペンションだけで十分とも言える。上記【図解】の様に、両腕がフロントサスペンションの如く前輪を支持し、両足がリアサスペンションの如く後輪を支持するイメージで、掌や肘と膝を柔かく使えば、乗員と車体へのダメージを抑えて快適に走行できる。


大きな段差の場合

  • 自転車で車道と歩道の間等、10cmを越える様な大きな段差を乗り越える際には、よりダイナミックなモーションで「抜重」を行う必要がある。
  • 前輪が大きな段差に触れる直前には、ハンドルを少し持ち上げてウィリーさせる感じで衝撃を回避する。実際に持ち上げなくても、持ち上げる動作で前輪から体重が抜ければ段差乗り越え時の衝撃の大半は逸らす事ができる。
  • 後輪が大きな段差に触れる直前には、前輪が段差を乗り越えて元の高さに戻る反動を利用して、そのままハンドルに体重を掛け、後輪に掛かっている体重を抜く。車体が前方に回転する形の力が働き、後輪が浮き上がる形になる。実際に後輪が浮かなくても、後輪から体重が抜ければ段差乗り越え時の衝撃の大半は逸らす事ができる。

  • 日常生活では10cm程度の段差を乗り越えられる様になっておけば十分で、熟練すれば段差のショックを、殆ど無しに近い状態にして乗り越える事ができる。抜重動作は別に人に教わらなくても、幼少時より山野の不整地を自転車で駆け回っている間に、自然習得的に覚えている人も多い。だが都心部等の住む環境によっては、自転車の使用頻度や使われ方は大きく変わるので、技術の習得には個人差も大きい。
  • なお、実生活では全く必要ない話になるが、抜重の動作を極端に推し進めると、この【段差乗り越え】の様に30cm近い大きな段差もスムーズに乗り越える事に繋がっていく。電動アシスト自転車は後輪が重い(前輪モーターなら前輪が重い)ので、大きな動作でハードな路面を乗り越えるトライアル走行のテクニックには参考になる部分もある。




前サスの長所

●GIANT CROSS3400のサスフォークの動き → 【動画】
※ブレイス・リアストについている物と同じサス(NEX 4100系)による走行動画(ハリヤもほぼ同等品)。

抜重ができない超初心者の人
通勤で疲労困憊状態で乗る人
高齢で身体能力が落ちている人
  • 電動アシスト自転車は老若男女様々なタイプの人が乗っている。抜重と言う単語は知らなくても、段差を目の前にすれば自然と抜重動作を行っている人が殆どだが、中には10cm近い段差に対して全く減速も操作も行わず、戦車の様にそのまま段差に突っ込んで、ドゴーンと派手な音を立ててパンクさせる様な操作に著しく無頓着な人も居る。
  • こうした人は大抵タイヤの空気圧管理も杜撰な事が多く、空気の抜けたタイヤで全く減速も抜重もせずに全ての段差に突っ込むので、段差の度にリム打ちパンクの危険性があり、ホイールやフロントフォークなどの車体寿命も著しく縮める事になる。段差衝突の衝撃を軽減してくれるフロントサスの役割が他の人よりも大きくなる。

  • 前述の様な極端な人だけでなく、普段はちゃんと適正な操作ができる人でも、通勤の帰り道等では体力的・精神的に著しく疲労していて操作が散漫になる事もある。もちろん極度に集中力が落ちているならば自転車の走行自体が危険であるが、多少疲れている程度でも、目の前に段差があるけど面倒だからとラフに突っ込む様な走行になり易い傾向がある。こうした場合に段差乗り越えの煩わしさを軽減してくれる前サスが有効な事がある。

  • 加齢で反応速度が鈍くなっている場合にも役立つ。車道走行中に危険を感じてパッと段差を乗り越えて歩道に一時退避するなど、機敏な動作は高齢になると難しくなる。一瞬の判断が遅れて(頭に身体が付いていかず)抜重にも失敗して段差に乗り上げる様な場合に、前サスがあれば失敗時の衝撃を最小限に抑えてくれる安全マージンとなる。


ある程度体重がある人
  • また体重が重く、俊敏な抜重動作が難しい体格の場合には、見逃した段差を咄嗟に跳び越える際等で、抜重動作が間に合わずに段差に突っ込んでしまった場合の衝撃を和らげてくれる。ただし、極端に体重が重いと、段差衝突時にサスペンションの許容限界を超える衝撃を与えてサスが壊れる場合もあるので注意が必要。
  • 若干大柄で体重が重い人だと、抜重しても段差に衝突した際の衝撃はどうしても大きくなる。お腹が大きな体型で前屈みの姿勢が取り難い人だと、上手く抜重ができない場合もある。こうした車体へのダメージの蓄積は体重が軽い人よりも大きくなるので、衝撃を吸収してくれる前サスは車体寿命を伸ばすのに有効となる。



減衰特性の高い高級サスペンションに交換した人
  • 電動アシスト自転車の前サスのデメリットの多くは、コスト優先の安いグレードの前サスを使っている事にあるので、後から高級グレードの高性能サスペンションに交換すれば、デメリットが減ってメリットをより多く享受できる事になる。また、電動アシスト自転車でもエネループバイクSPKの様な高級モデルの場合には、量販グレードよりも高性能なサスペンションが標準装備されている。
  • ただし、標準装備以外の部品に交換した場合、保証期間内であってもメーカー保証などを受けられず、万一自分の取り付け不良ミスによる事故があっても自己責任となってしまうので注意。
  • ストローク長の違うサスペンションフォークに交換してしまうとジオメトリーが狂ってしまい、サスペンションが本来の性能を発揮できない場合もある。標準装備のフォークと違うストロークのサスペンションは避けた方が良い。




前サスの短所

抜重の代行をしてくれるメリットと引き換えに、
駆動ロスや長距離走行での疲労に繋がるデメリットが発生
  • 最も大きい理由となるが、付いているのは前サスと言うより単なるコイルバネ付きフロントフォークであり、抜重ができない初心者向けの衝撃吸収機能程度しかない。サスペンションが本来行ってくれる筈の減衰特性が無いので、段差を乗り越えた後もしばらく上下動の減衰が遅く、路面によってはずっとバネが反動でリバウンドし続けてフワフワした感じの乗り心地になる。
  • 更にペダリングのパワーを吸い取ってしまう働きをする。特に上り坂では踏み込む力を相殺する様にサスが浮いたり、反動の上下動が乗員を揺さぶるので、ケイデンスを高回転に保って漕ぐとペダリングが阻害される。この為、長距離パワー走行or登り坂走行をすると、疲労を感じる原因となる。
  • この為、衝撃吸収を全て抜重動作で行えば前サスは無い方が快適且つ高速で走れる事になり、そもそも車重が100kgに満たない自転車の衝撃吸収は乗り手の抜重程度で十分可能である。

  • 全体的な傾向として、前サス未体験の人ほど前サス車に乗りたがる傾向が強い。主な理由は「前サスの自転車に乗った事が無いから」「乗り心地が良さそうだから」と言った未知への興味である。しかし多くの場合、1年程乗り込むと「前サスがあるとグニャグニャするし重りになってるから、もう前サスは外したい」と言う声に変わっていく事が多い。比較的ライト層をターゲットにした、安い価格帯のクロスバイクに前サスを標準装備した物が多いのは、こうしたニーズに応えた結果とも言える。
  • 感覚的には前サスが付いている方が衝撃吸収してくれて乗り心地が良さそうに思えるが、実際にはハリヤやブレイスリアスト等の前サス車も、サスの無い軽量なカーボンフォーク等に交換した方が、快適且つ軽快な乗り心地で好感触な事の方が多い。


サスの設計範囲を超えた体重の人には効果が薄い
  • オートバイのサスペンションだと「乗員体重よりも車体重量の方が遥かに重い」のを想定された設計なので、元々サスペンションが凄く硬く、かなり重い重量にも耐えられる様になっている。そして乗員体重が10kg20kg増えてもサスの沈む量には影響が少ない。しかし、自転車の場合は「車体重量よりも乗員体重の方が遥かに重い」事が前提の設計なので、サスの効果は乗り手の体重に大きく左右される事になる。
  • 例えばメーカー側が仮に体重65kgを想定したサスの場合、極端に体重が軽いとサスがあまり沈んでくれないので効きが不十分な場合がある。逆に極端に体重が重いとサスが沈み過ぎて限界突破してしまう事がある。段差の度にサスが一番下まで沈み切ってゴツーンとサスの底に当たる音がする場合には、部品が傷む事になる。
  • 高価格帯のサスならば「バネの硬さ、ストローク長、減衰特性」等を調整できる。つまり、高価なサスペンションほど調整の幅が広いので、多少の体格差を吸収してくれる様になる。しかし電動アシスト自転車に標準装備されている前サスはコスト優先の安物なので、そういった調整の幅は殆ど無い(=調整ネジを回してもちょっとしか変動しない)ので限界が来るのが早い。
  • よって「調整ネジを目一杯回しても、底まで沈んでしまうor全然沈み込んでくれない」様な場合には、前サスは上手く機能してくれずデッドウェイトになってしまう。


サスは消耗品であり、長期的には交換が必要
  • サスペンションは消耗品であり、永久に使える訳ではない。長く乗っていると金属疲労や錆やゴムの劣化等で機能が落ちて行き、最終的には交換が必要になる。もしノーメンテでずっと使い続けた場合、バネが錆びて折れたり、フォーク外側に亀裂が入ったりして、最悪フロントフォークが破断する恐れがある。
  • 電動アシスト自転車に付いている前サスはコイルバネが中に入っているだけの単純構造なので、オイルダンパー搭載の高級サスの様なこまめなメンテナンスは必要ない。しかし、長期的には内部のコイルバネの金属疲労や錆、チューブに使われているゴムパッキンの劣化等で、オーバーホールや交換が必要になる。
  • 定期メンテや雨天時走行後の清掃では、水抜き穴が塞がれて内部に水が溜まって錆びて居ないかの確認が重要となる。また、チューブとサスペンションアウターの境界部分をシリコングリスでグリスアップしておくとゴムパッキンの劣化や内部への水の浸入などを防いで多少は寿命を伸ばせる。




添付ファイル