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「Chenge The world」  第六話

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第6話 降臨~片翼の天使~





淳子が目覚めると、まだ日の出前だった。
しかし目覚めが非常によい淳子はそのままベッドから起き上がり、深呼吸と間延びをした。
窓から外を見ると、日の出前ということもあり薄暗い。
もっとも日が出てもあまり変わらないのだが。しかし淳子は日の出前のこの独特の空気が気に入っていた。
自分たちの世界のように小鳥がチュンチュン鳴いたりすることはないから物足りない気はするのだが。
隣を見ると、美伽とその先生は相変わらずベッドの上だ。先生の隣に立ち、その手を握りしめながら淳子は言った。

「あなたの大切な教え子が心配してるわ。早く起きてあげてね」
そして彼女は病室を後にし、一階のロビーへとやってきた。早朝ということもあり誰もいない。受付もまだ開いていない。
ロビーのベンチに腰掛け、しばし物思いにふける淳子。
どうすればこの世界を変えられるのだろう。人差し指を立てて指先にライターのような小さな火をおこす。

「私にはこの力がある。でもそれは世界一つを変えるにはあまりにも小さすぎる。どうしたらいいの?」
その時、誰かの気配がした。その方向を向く淳子。
そこにいたのは…昨日の闇人甲型よりもさらにおぞましい闇人だった。
昆布まきのような姿に鶏のような足、そしてなにより、昆布まきの先端の…顔。
淳子は頭がくらくらした。その闇人がいった。
「あら、朝早いんですね。隣座ってもいいかしら?」
その姿でどうやって座るというのか、と淳子は心の中で思った。
が、特に断る理由もなく淳子はうなずいた。淳子の隣に「座る」闇人。


「あなた、別の世界からやってきたんですって?
頭巾屋の彼から聞いたわよ。この世界を変えるために神様が遣わしたそうじゃない」
頭巾屋の彼とは、淳子と美伽が最初に出会った闇人のことだ。

あの店は頭巾屋だったのだ。
彼ら闇人は例外なく頭巾をつけているから、そんな店が一つや二つあってもおかしくはない。

「ああ、あの人ですか…あの人は私のことをほかに何か言ってませんでしたか?
「いえ、別に何も言ってなかったわよ?」安堵の息をつく淳子。
自分の右腕を燃やされたなどと触れまわれられたら化け物扱いは必至だ。
化けものはどっちだ、という話ではあるのだが。

「先生から聞いたわ。昼間出歩くそうねぇ。彼も言ってたと思うけど屍人には気をつけてね」
「あの、屍人ってなんなんですか?あのお医者さんはゾンビみたいなものだって言ってましたけど」
「あらあら、ずいぶんアバウトな説明ね。まあ間違いじゃないんだけど。まあいいわ、教えてあげる」

そう言って闇人は「屍人」の説明をしてくれた。
まず、姿かたちは人間そのものなのだが、目から血の涙を流している。
さらにたちの悪いことに、不死なのだ。肉片からでも復活するというから驚きだ。
「そんな生き物が…どうして屍人は生まれたんですか?」当然の疑問を口にする淳子。答える闇人。
「今はもう跡形もないけどずいぶん昔、この町に工場があってね。ある化学薬品を作ってたそうよ。そこまではいいんだけど…」
「けど?」淳子が尋ねる。

「突然の事故でその化学薬品が工場全体に漏出する事故が起きちゃったの。その薬品に感染した職員たちのなれの果てが…屍人」
「もしかしてその事故が原因で人間たちはこの街から去って行ったんじゃないですか?」
淳子が指摘する。しかし闇人は首を振る。
「当時、芹沢大介という科学者がいてね、その人が作ったある『兵器』によって屍人は一掃されたそうよ」
「一掃された?じゃあなぜ今も屍人はいるんでしょうか?」
当然の疑問を口にする淳子。

「それはわからないわ。でも今も屍人はこの街の地下にいるわけだし、生き残りがいたとしか考えられないわ」
生き残り…そいつらが先生を襲った。そして殺そうとした。なんの罪もない先生を―。
その時淳子の心に屍人に対する憎悪が芽生えた。しかもそれはどんどんと肥大化していった。
不死?肉片からでも蘇る?そんなこと知ったことか。すべてを炭へと変えてしまえば生き返れるはずなど無い。屍人をこの世界から抹殺する。
それがこの世界を変えるために歩みだす一歩だと淳子は思った。


気がつけばすっかり日は昇っていた。腕時計に目をやる。9時だ。
そろそろ美伽が目を覚ましているころだ。淳子は立ち上がり、闇人に言った。

「いろいろとありがとうございます。ところで、穴ナたちのような闇人は何て呼ばれてるの?」
「私たちは一般的に闇人乙式、って呼ばれてるわ。でもそれは総称、結構数がいるから個別に呼び名があるんだけどね」
「ちなみにあなたは何てお名前なんですか?」
「暗井安子。暗い所だと落ち着くから」なるほど、と淳子は感心した。
「それじゃ私はこれで。ご縁があればまたお会いしましょう、暗井さん」
「あなたもね。お気をつけて」といって暗井はトコトコ歩いて行った。
病室に戻る淳子。美伽が起きていた。開口一番で尋ねる美伽。


「ちょっと青木さん、どこ行ってたんだよ?起きたらいないから心配したんだよ?」
「ごめんね美伽さん。ちょっと病院の中をふらふらしてただけだからね。それより、先生はまだ起きないみたいね」
「そうなんだよね。本当心配だよ…早く目を覚ましてくれないかな…」
淳子もそれに同意した。そして美伽に告げる。

「ねえ、美伽さん。私これからちょっと街へと出かけてくるわ。やりたいことがあるの。詳しいことは聞かないで」
「わかった。あたしはここで先生を見てるから」と言ってほほ笑む美伽。
そういえば、彼女の笑顔を見たのはこれが最初だと淳子は気づいた。

「ありがとう。それじゃ、行ってくるわ」
病室を再び後にする淳子。そして受付で地下道への道をを聞く。

「この病院を出て左手に500m進んだところに廃墟があります。そこから地下道へといけますが…本当に行かれるんですか?」
「もちろんよ。そのためのこの力よ」

そう言って淳子は今朝やったように人差し指を立て、先端に火をともす。
「魔法が使えるんですか?」淳子は拍子抜けした。魔法?そんなものを信じているのか?
「超能力よ。パイロキネシスっていうの。思うだけで火を起こせるの」
自分の力について解説する淳子。

「驚きました。超能力って言ってもスプーン曲げくらいのものだと思ってましたから」
そういえば以前、スプーン曲げで話題になったユリ・ゲラーって人がいたっけ。
ポケモンのユンゲラーの名前の由来にもなった人だ。だがそんなことはどうでもいい。
「それじゃ、『終わらせてくるわ』」
と言って淳子は病院を後にし、言われた道を進み廃墟へとたどり着く。



「ここね。すべてを終わらせてあげる」

淳子は廃墟の中へと歩を進めた。何もない。ただ下りの階段があった。
その階段を下りる。そして地下一階へとたどり着く。何も見えない。深淵の闇とはこういう闇のことを言うのだろうと淳子は思った。
とりあえず、何も見えないのではお話にならないので、掌の上に炎を起こし松明の代わりにする。

とたんに明るくなる視界。
地下道の直径はだいたい5メートルくらいか。ところどころに細い道が何本も枝分かれしている。
どうやらこの道が大通りのようだ。その大通りをまっすぐ進む淳子。

それにしても、何の目的でこんな地下道を作ったのだろう。
だがそれを考えていても仕方ない。淳子は歩を進め続けた。しかし行けども行けどもコケやカビの生えた壁だ。
ただ片道の数が不自然なほど多い。こんなに片道をつくる必要がどこにあるというのか。

侵入者を迷わそうとしている?
迷わそうとしてもこの大通りに抜けられたら終わりだし、それ以前に自分たちも迷ってしまうのではないだろうか?
それとも、自分たちだけが迷わずにいられる方法があるというのだろうか?
もしもそうだとしたら…自分はクモの巣にかかった蝶と何ら変わらないということになるが、
すべて終わらせると誓った以上、引き返すことはできなかった。


その時、淳子は急に開けた場所に出た。
手の炎では小さくてよく見えないため、両手で器をつくるようにして炎を起こした。
どうやら何かの神殿のようだ。大きな祠がある。そしてその祠の前には…10人程度の人影があった。おそらく「やつら」が屍人だろう。
いきなり明るくなれば気がついて襲いかかってこられてもおかしくないのだが、目を閉じながら何か熱心に祈っているらしく、気づいていないようだ。
これ幸いと淳子はしばらく遠くから様子をうかがうことにした。

すると全員でなにかお経のようなものを唱え始めたが、淳子には彼らの言葉が理解できなかった。
しかもどこか恐怖にとらわれている感じがする。こうして全員で一つのことをすることでその恐怖から逃れようとしているようだ。
何かがおかしい―。淳子はそう直感した。こんな行動をとる連中が人間を襲ったりするだろうか?
だいたい、彼らの手には先生にあんな大けがを負わせられる爪が見当たらない。

先生を襲ったのは彼らじゃない?とすれば一体誰の仕業なのか。
そう考えていたその時、彼女の背後から「ガシャンガシャン」と機械的な音が聞こえてきた。
あわてて近くの柱に身を隠す。それと同時にひどく怯えたそぶりを見せる屍人たち。
10秒ほどたち、その足音の主が現れた。その姿を見て、淳子はあわや大声を出すところだった。
何とかその声を抑え、両手の上の炎を消し、息をひそめる淳子。

機械兵器―。すなわち、ロボットだった。
それも体調が3メートルほどあり右手には巨大なツメ、左手には何かレーザー砲のようなものを搭載している。
そのレーザー砲の出力を供給するためか、左肩が右肩に比べて異様に大きく、結果、左右非対称の奇妙な姿を形作っている。
さらに頭部は―まるで悪魔を思わせるような凶悪な形相をしている。
さらに全身に重装甲を施し、ちっとやそっとの攻撃ではびくともしないほどの耐久力と、その巨体を支えるために肥大化した足。
そして背中には巨大な推進装置らしき部分が確認できた。


このとき、淳子の頭の中ですべてのピースがつながった。つまりこうだ。
大昔ここでは大勢の人間が暮らしていて、その人間たちの一部はある化学工場で働いていたが、突然の事故で薬品が漏えい。
外部に漏れるのを防ぐために工場は封鎖されたが、その結果工場内の人間は見殺しにされ、薬品に感染し屍人化。
ウイルスは撲滅できたものの肝心の屍人たちが残っている。彼らが襲いかかってこないという保証はどこにもない。
いやむしろ見捨てられたのだから襲いかからないほうがおかしいのだが。

その屍人たちをせん滅するために芹沢大介が作った「ある兵器」というのが…すなわちこいつのことだ。
こいつによって屍人は虐殺され、最後に残った10人をも今その手に掛けようとしているところなのだ。そしてその兵器は左腕の砲塔を屍人たちに向ける。
キュィィィィィンという起動音とともにエネルギーが充てんされ、最大になったところでそれは発射された。
しかも直線と思われたが、拡散式のレーザーだった。その光線を浴びた屍人たち10人は…消滅した。
それを確認し、その凶悪な顔を満足げにゆがませるロボット。

その刹那、淳子の心はその兵器に対する憎悪に支配された。
渾身の力をこめ、ロボットに巨大な炎の玉を浴びせる。

が、まるで効いていない。それどころか、即座に反応し右腕の巨大な爪を淳子に振り下ろしてきた。とっさによける淳子。
そして再び炎を放つが、やはりまったく効いている様子が見えない。
そしてついに拡散砲を淳子めがけて発射しようとしたまさにその時その左腕がボトリと落ち、爆発を起こす。片膝をつくロボット。

一体誰が?淳子はあたりを見渡した。しかしその姿は見えない。
まだ残っている右腕の爪を振り回すが、空しく空振りするだけだ。
そして右腕も切り落とされる。

そしてまたも爆発。衝撃でその場にあおむけに倒れこむロボット。
起き上がろうともがくが両腕がないのと、重すぎる体重のためにそれはとてもできそうになかった。
その刹那、巨大な隕石がロボットに向けて落下し、その重みで押しつぶされ、大爆発した。
あの化け物をいとも簡単に…誰がこんなことを?淳子は再び炎をともし、あたりを探る。
が、誰もいない。360度あたりを見回すがやはり誰もいない。

その刹那後ろから声をかけられる淳子。
振り返ると銀色の長い髪をした男がやたら長い日本刀を携えて立っていた。

「さっきからきょろきょろとせわしいようだが…私のことを探しているのか?」
「ええ、その通りよ。それにしてもよくあの化け物をあんな簡単に倒せたわね?いったい何者なの?」
「人にものを尋ねるときはまず自分の名を名乗るものだと思っていたが…違うか?」
「…失礼。私は青木淳子。ごく普通のアルバイト。さて、私は名乗ったわ。あなたの番よ」
「セフィロスだ。ソルジャーをやっていてな。一時は英雄として崇められたこともあった。だからあんな玩具、破壊することなど造作もない」
そして小さく笑うセフィロス。

「さて、私からも聞かせてもらおうか。ここはいったいどういう世界なのか。なぜ私はここにいるのかを」
淳子は自分のこれまでのいきさつと仕入れた情報をセフィロスに話した。

「なるほどな。私にとってみれば迷惑な話でしかないのだが
この世界を変えなければ元の世界に帰れないというなら仕方がないな。私には元の世界で果たすべき目的もある」

その目的を聞いたところで教えてはくれないだろうと直感した淳子は、別のことをセフィロスに聞いた。
怒らせると恐そうだったので声をやわらげて。
「あの、ところであなたは元の世界では最後に何をしていたんですか?私は先ほど話した通りですが」
セフィロスは一瞬困った表情をしたが、すぐに淳子に向けて言った。

「考え事をしていてな。そのうち眠ってしまったらしい。気がついたらこの闇の中だ。
しばらく歩いていたら、お前とこの玩具が戦っているのが見えたからお前を助けたというわけだ」
「それはありがとうございます。おかげで助かりました」
「気にするな。それより、先ほどのお前の話では仲間がいるようだが…どこにいるのだ?」
「この上に町があります。そこの病院に二人ともいますが…あなたはこれからどうされるんですか?」
「一人でいても世界は変わりそうにないからな、私も一緒に行こう」
「ありがとうございます。それじゃ行きましょう」



そして二人は病院に向けて歩き出したのだった。



第6話 降臨~片翼の天使~ FIN

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