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「隕石(ほし)降る国より」

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eroticman

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「隕石(ほし)降る国より」




「いやああああっ!?」

鬼として失格である情けない悲鳴を上げた怜角は、膝を抱えてペタリと床に座り込んだ。昨今頻発する大事件に神経を尖らせている鬼たちが、我先にと彼女の元に殺到する。

「何事だ怜角!!」「動くな!! そこの亡者!!」

ここは賽の河原を少し離れた亡者の待機所。三途の川を越え、冥府への第一歩を記した死者たちが集められ、諸々の登録や簡単な質疑を行う場所だ。
各々恐ろしげな戦闘体に変化し、じりじりと包囲を詰める鬼たちの輪の中、座り込んだ怜角の前には、平凡な…きわめて平凡な一人の青年が、怯えきった表情で佇んでいた。

「…な、なんなんすか!? お、俺、何にも…」

亡者として、彼の態度にとくに不審な点は無かった。つい先ほどまでごった返す待機所のなか、怜角も他の鬼と同じように忙しく亡者を案内し、名簿と照らし合わせて働いていた筈だ…

「…怜角?」

顔を見合わせる同僚たちの足元で、わなわなと唇を震わせ、制服の胸元をぎゅっと押さえた怜角は、彼女らしからぬ甲高い叫び声を上げた。

「…こ、この亡者、『誤爆霊』かも…」

「な、なんだとお!?」

『誤爆霊』。それは魔物たる鬼たちにも窺う術のない、幾多の平行世界から迷い込んだ死者の霊だ。確認されている希有な事例を思い起こしながら、分隊長である馬頭の鬼は半信半疑の声で怜角に確認した。

「…落ち着け怜角。なにか証拠が?」

「…私の…身体を透視したんです…まったく魔素の波動も無しに…」

怜角たち鬼の知る世界の超常能力は、全て『魔素』を基にして発動するものだ。比較的強力な魔物である地獄の鬼たちは、個人差はあるもののあらゆる魔素を感知し、その不本意な影響を遮断することができる。

「…い、いや…やっぱりトラのパンツ穿いてるな…って…つい、言っちゃって…ブラも…」

…先ほどまで忙しさにかまけ、大胆で無造作な立ち振る舞いで仕事に没頭していた怜角がきゅう、と呻く。その透視能力を当然のごとく釈明する青年に、鬼の一人が慎重な問いを発した。

「…君、名前は?」

「あ、天野翔太です…」

「…それじゃ、地球を初めて宇宙から見たガガーリン少佐の言葉は?」

「…はぁ?」

迫力ある鬼たちの真剣で珍妙な質問に首を傾げながらも、天野青年は当然の答えを返した。全く、地獄に堕ちてまで、また、意味不明な質問とは…

「…『地球は丸かった』でしょ?」

ゴクリ、と馬頭の分隊長が生唾を呑んだ。彼の震える声が、天野青年に次の質問を投げかける。

「…じ、人生で一番驚いたことは?」

「そりゃ、『チェンジリング』…」

「わああああ!! だ、『第二類』だあっ!!」

ぴょんと後ずさり、激しく取り乱す鬼たち。まだ数例しか記録のない、別宇宙からの招かれざる客だ。魔素を基本とする比較的近い平行世界から来る『第一類』。そして検知不可能な未知の力をふたつ備え、閻魔庁すら脅かしかねない危険な『第二類』…

「…ちょ、ちょっと!! 鬼がビビる程の力じゃないでしょ!? これから気をつけますから…」

「お、俺は紫角隊長に報告してくる!! お前らは『第二類』を逃がすな!!」

「ぶ、分隊長!!」

顔を赤らめた逞しい馬頭の鬼は、しっかりと股間を隠しながら閻魔庁の方角に走り去った。周囲の亡者たちが怪訝そうに見つめるなか、鬼たちは照れた表情で、来るべき地獄を間違えた『第二類』を包囲し続けていた。



地獄豆知識

怜角は古式ゆかしい官給品の下着を愛用しているぞ!!

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