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結子と篠子


91 : ◆91wbDksrrE :2013/10/08(火) 13:06:06.99 ID:liltGv7E

「おはよう」

 そう言ってポンと彼女の肩を叩く。
 それだけで、わたしの胸はわずかに弾む。
 ……いや、わたしの胸は弾む程無いのだけれど。まあ、その、とにかくドキドキする。

「おはよーぅ」

 桜庭篠子。
 わたしに無い物を、彼女は持っている。眼鏡で陰湿な根暗女なわたしに対しても、彼女は分け隔てなく、
他の友人と変わる所無く接してくれる。そして当然胸は大きい。フカフカだ。マシュマロみたいという形容が
ぴったり来るという事を、そのフカフカに思う存分顔を埋めた事があるわたしは知っている。
 ……いや、変態じゃないですよ? 女の子ならそのくらいのスキンシップ当たり前ですよ?
 とりあえず断っておくが、別にわたしは彼女が巨乳だから好きというわけじゃない。
 彼女の胸を好きになったわけじゃない。というかもしそうなら最悪だ。いくら人は自分が持たざる物を持つ者に
対して羨望を抱くとは言っても、そしてその羨望が時として恋心に変ずる事があろうとしても、自分がスットン
だから、フカフカお胸のあの娘が好きになりましたとか、流石にどんだけだよと自分で思うだろう。それは流石に無い。
 話が逸れた。
 彼女は、わたしに無いものを、持っている。
 その最たる物が、その笑顔だ。明るさだ。見る者誰もが虜になる、その天真爛漫さだ。
 根暗な眼鏡女であるわたしにとって、それは眩しすぎた。眩しすぎたけれど、目は離せなかった。
 だから、彼女の姿はわたしに焼きついたのだ。瞳に。網膜に。心に。

「結子ちゃん、どしたの?」

 ふわふわとした胸――もとい、笑顔で、彼女はわたしに呼びかける。
 肌にふと手が触れた時のように、その声に触れた時もまた、わたしの胸は弾むのだった。
 弾みっぱなしだな、わたしの胸。弾む程無いというのに。

「ああ、うん……篠子は可愛いなぁ、って思って」

 焼きつく。焦げる――焦がされる。
 恋。それに気づいたのはいつの時だったか。

「あはは、結子ちゃんだってかわいーよぉ」

 ……どこが、だろう。そう問えば、彼女は答えてくれるだろう。恥ずかしがり屋さんな所だ、とか、いつも一生懸命だけど、
ちょっとだけドジっ子さんな所、だとか、一生懸命わたしの可愛さをわたしに説いてくれるだろう。
 だが、言わせてもらおう。んなわたしなんかよりそうやって一生懸命人のいい所探して褒めてくれるお前の方が
よおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっぽど、可愛いんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおっ!!?
 ……失礼、取り乱した。
 ああ、もう、ホント……どうしてこうなんだろうな、わたしは。

「……ホント、可愛いよ、シノ」
「そんなに言われると照れちゃうよぉー」

 ちょっとだけ頬を赤らめて笑う篠子は、その言葉が『そういう意味』だなんて、欠片も思っていないだろう。
 その言葉に込められた本当の意味――それはつまり、そういう事、なのだけれど。

「食べちゃいたいくらい」
「いやー、たーべーらーれーるー♪」

 彼女は気づかない。わたしの瞳の奥に、一体何が宿っているかなんて。だって、彼女にとってわたしは「そういう人間」では
無いのだから。仲のいい、一人の友達でしかないのだから。食べちゃいたいという言葉の意味に、「そういうもの」が含まれる
なんて、夢にも思っていない。自分の姿がどれほどわたしの心に焼き付いているかなんて。
 だから私は――

「……ホント、篠子は可愛い……ホントに」

 ――安心する。
 今日もまた、こうしてわたしはわたしでいつづけられるのだと。いつづけてもいいのだと。
 そう思えて、ホッとする。
 少しだけ寂しいし、ちょっとだけ悲しいけれど、それ以上に安堵するのだ。
 根暗眼鏡の――弱い、弱い、弱すぎる程に弱い――わたしは。

「もう、何度も言わないでよぉ」

 こうして、今日もまた一日が始まる。
 いつ終わるともわからない、恋に焦がされた心をのせて。



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