創作発表板@wiki

ANARCHY FOREVER FOREVER ANARCHY 第3話

最終更新:

mintsuku

- view
だれでも歓迎! 編集

ANARCHY FOREVER FOREVER ANARCHY 第3話



「…来やがった…」

規則正しい波音。そしてときおり妖しい生物が海面を跳ねる音。月光に煌めく夜の海は穏やかだったが、脅威は往々にして沈黙とともに訪れる。
岩陰から水平線上の小さな船影を睨み、葦屋我堂は獰猛な笑みを浮かべて愛用の戦棒を撫でた。異形たちを連れ去る異国船はやはり実在したのだ。
情報が確かなら、もうすぐ謎の異形誘拐犯が沖の『黒船』と接触する為その姿を現す筈だった。

(…出来りゃあ順番に片付けたいな…)

海からの上陸者と海岸に接近する不審車両、双方に注意を配りながら我堂は滅多に使わない蘆屋の呪術を起動する。その蝙蝠のごとき索敵の魔力は、ほどなく海岸に接近する車両の駆動音をしっかりと捉えた。

(…トラックが一台。方向は…昨日サザエを採った岩場の辺り…)

誘拐者はキヨヒメの姪をはじめとする何匹かのそこそこ強力な異形を捕らえた連中だ。多少は手応えのある相手だろう。幸い、沖合いの異国船にまだ行動の気配はなかった。

(…先に奴らをぶっ殺して、それから異国人どもの相手だな…)

その凶暴な念に応えて嬉しげに震える戦棒を握りしめ、我堂は音もなく岩の間を跳ぶ。多少スピードと技術を要求される局面だが、それもまた愉しみのひとつだ。

(…四人か…)

いかにも後ろ暗い佇まいのトラックは、砂浜に長い軌跡を描いて停車していた。しかし周囲を警戒しつつ下車した誘拐犯たちを見て、我堂は少しの失望を覚える。どうも…期待した程の腕利きには見えなかった。
彼らは闇に融け込む黒い装甲服を身につけ、近代的な小火器を構えている。それに何を想定しているのか知らないが頭部まで仰々しいゴーグルとマスクですっぽりと覆っている。

(…ふん、特殊部隊気取りだな…)

どうせ『黒船』の外国人に利用され、この片田舎の支配者を気取る手合いだろう。確かに装備はちょっとしたものだが中身は魔素など扱えぬごろつきの類に違いない。

(…『異形狩り』にしちゃお粗末過ぎる…)

だが我堂の探知できる限り、周囲に別動戦力の気配は全く存在しない。釈然とせぬまま岩陰に潜んだ彼は、ゆっくり黒い金属棒を投擲の姿勢で構えた。

(…新記録に挑戦だ…)

あとは待つだけだ。ウロウロと不安げに砂浜で異国船を待つ誘拐犯たちが、我堂の目前で一直線上に並ぶ瞬間を。
トラックの荷台にはキヨヒメの姪たち捕らえられた異形が乗っている筈だ。そして沖からはもうすぐ異国の取引相手。
修羅場をややこしくしない為には一瞬で誘拐犯たちを始末するのが望ましい。これまでの記録は二人と一匹、今度は…

「…そりゃあっ!!!」

ブン!! 我堂の腕から流れ込む魔素によって鋭利な穂先を形成した棒は、裂帛の気合いと共に重い唸りを上げて標的に向け飛んだ。
一人、二人、三人…そして、四人。誘拐犯たちは悲鳴を上げる間も、驚愕の表情を浮かべる暇もなく黒炎を纏う魔槍に深々と刺し貫かれる。
呆気なく四人の犠牲者を貫通し、なおその勢いを余した鉄棒は最後の一人を浜に聳える巨岩に縫い付けて止まった。

「…よっしゃあ!! 記録更新!!」

嬉しげに飛び出した我堂は急いでトラックに駆け寄る。捕らわれの異形どもを解放すれば、あとは珍しい異国人とのご対面だ。場合によっては闘いになるにせよ、滅多に味わえない面白い経験だろう。

「…う…う…」

「…なんだ。まだ生きてんのか?」

機嫌よくトラックの扉に手を掛けた我堂は、昆虫標本のごとく岩に留められた男の呻きに興味がなさそうな一瞥をくれる。
だがそのとき苦しげにゴーグルとマスクを外した彼は、我堂を驚愕させる言葉をその末期の吐息と共に発した。

「…我堂…坊ちゃま…」

「テ、テメェは!?」

我堂はどこか記憶にある彼の顔と、その掌の小さな装置を同時に睨む。ようやく男が葦屋の研究施設で働いていた徒弟の一人だと気付いたとき、瀕死の彼は握りしめたスイッチをカチリ、と押した。

「畜生っ!!」

瞬時に閃光と爆音がトラックを包み、押し寄せる灼熱の爆風は我堂を夜の海に放り出す。辛うじて張った耐熱結界のなか我堂を激しく動転させているのは、砂浜に立ち上る火柱などではない。

(…迂闊だった…考えてみりゃ親父や兄貴が大好きそうな茶番じゃねえか…)

熊野の山奥で自堕落な暮らしを送り、その獣のような勘を鈍らせていなければ気付いて当然の事だった。
異形の誘拐…闇貿易…そして、『突発事態にはすぐ爆破で証拠隠滅』。他ならぬ我堂の肉親、大嫌いな身内である葦屋一族こそが、この陰惨な一幕の悲劇に相応しい悪役であることを…

(…つうことは…ヤバい!!)

深く海中を潜行しながら、我堂はかつて自分も携わっていた葦屋流の商取引を思い出す。
危険な取引相手と初めに接触するのは使い捨ての人員。そして不慮の事態に備え、高い戦闘力を誇る『外野』が周囲を油断なく取り囲む…

(…なぜか知らんが取引に遅れやがったんだ…『外野』の連中が…)

周到な葦屋一門にしては信じ難い失態だが、そんな幸運に感謝している暇はない。碧黒い水面に顔を出した我堂は沖合いに目を向けたが、もうそこに異国船の影はなかった。
まあ、あの爆発を見て取引を中止しないほど、外国人というのは馬鹿ではないだろう。それより、我堂自身も早く逃げなければ命が危ない。

(…あの下っ端、躊躇なく俺を殺そうとしやがった…てことは『外野』共も遠慮なしだろうな…)

泳ぎついた浜には原型を留めず無惨に焼け焦げたトラックの残骸。嫌な臭いを漂わせて散乱する千切れた尻尾だの鉤爪だのは、可哀想なキヨヒメの姪たち異形の骸に違いない。
これは数多い追っ手に加え、我堂がこの界隈を縄張りとするキヨヒメ達上位異形にも追われることを意味していた。

「…バカバカ!! 俺のバカ!!」

葦屋にキヨヒメ一派、どちらも狡猾さと執念深さにおいては屈指の連中だ。手早く救えなかった異形たちに手を合わせ、まだ手を灼く熱さの鉄棒を握り我堂は夜の海岸を駆け出す。
彼の推測に間違いが無ければ、葦屋の殺人部隊はもう目と鼻の先で取引失敗の現場を目指している筈だった。


続く


[]]
[[]]
+ タグ編集
  • タグ:
  • シェアードワールド
  • 異形世界

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー