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act.52

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act.52




マントがなびく。風に攫われる前に前に出る。
剣撃を立て続けに放つ。呼吸が聞こえない程、速く。

――決して逃がすな。追い詰めろ。


声もなくビィシュから刃が振るわれた。
細い月のような軌跡が残像として瞳に焼きつく。

「ぐ……っ」

ギインギイン!!
切っ先を直前の所で、太刀が受け止める。
――押されている。

「シアナ隊長!!」
イザークが名を呼ぶ。

「大丈夫よ、手出しは不要!! イザークは黙って見てなさい!!」

攻防はビィシュの優勢にあった。
一対一、万全の戦いならば優勢を決定するのは武力に寄る所が大きい。
武力が勝る側が有利を取るのは必然と言えた。


刃の競合が続く。
長期戦に持ち込まれれば、ビィシュに体力が劣るシアナは不利だ。
それを計って、シアナは唇を噛み締めた。

――ああ、未だ自分は到らないのか。

悔しい。
ズイマ総長にエレの事を頼まれたのに――それを果たせないでいる自分が不甲斐ない。

総長は自分を庇って死んだ。庇わずに傍観する事も出来たのにそれをしなかった。
この命は――生かされた。一度目は父親に、二度目は総長に。
そして三度目は――エレに生かされている。

きっとエレを見捨てていたら、生きていたとしても心は死んだままだっただろう。
私は生かされた。色んな人の手によって、今ここに生きている――!
私は志として命を受け継いだ。誓いと祈りはこの手に。

だから、最後の望みくらいは絶対に聞き届ける。


――エレを、頼むぞ。

「分かってます――総長」


エレを今まで保護してきたのは、総長だ。
総長がこの世界でエレの味方だった。
きっと何を敵に回しても、総長はエレを守り続けただろうから。
総長がいなくなったら、エレの味方はいなくなる。
今までどんなに苦しくても頑なに助けを求めなかった頑固な騎士。


(エレ、あんたは馬鹿よ――苦しいなら苦しいって言えばいいのに)

だが、苦しければ苦しいほど言わないのだろう。
この戦いが終わったら、何度でも言ってやる。
この大馬鹿野郎。
そうしたらまた喧々とした喧嘩が始まるだろうが、知ったことか。



――到れ。そして勝利せよ。

「はあああっ!!」


一瞬の隙も与えず、一寸たりとも近づけさせはしない。
ビィシュを窮地へ追い詰めるにはそれしかない。
奴を人と思うな――あれは人の身において武の境地へ到った者。
其国の強者にして剣の覇者。
打ち勝つには自らもその高みに到達しなければ。



踏み出さなければ、届かない。
届かなければ、倒せない。
倒せなければ、進めない!!

ならば私が超える。幾千の強者を束ねる王者をこの手で。
超える。超える。超える。

――超えろ!!


ビィシュの眼前に接近した刹那、シアナは刻印を解放した。
白い光がビィシュの網膜に突き刺さる。
目を至近距離から光で直射され、――視界が白濁した。
心地の良い金属音が響く。ビィシュの剣は空を飛んでいた。
回転しながら、落ちていく。地面に落下した剣は乾いた土上に突き刺さった。

気付けば喉元にシアナの剣の先があった。
シアナは複雑な表情でビィシュを見つめている。
勝敗は決した。敗北を期した者に、剣を取る資格はない。
自らの敗北を受け止め、騎士はゆっくりと口を開く。

「……見事だ。今日から騎士隊一の腕と名乗るがいい」
「それは無理ね。こうして反逆者扱いされちゃ自慢にもならないわ。それに――こんな卑怯な手で勝ったんじゃね」
「勝ちは勝ちだろう――行くのか」
「ええ、行くわ」
「お前達は険悪な仲だと思っていたが――奴を庇って何の得がある」
「得? ないわよ。報酬もなければ、多分謝礼も言われないでしょうね。
それどころか厭味を吐かれる可能性大よ、言ってしまえば、これはただの自己満足なの」
「自己満足……成る程な。自己満足ならば理解に足る。独善的な正義よりはよほど好ましい」
「それはどうも。決めたの――他に誰もいないなら私くらいは味方になってあげようって」
「ほう?」
「それにね」

シアナは笑う。

エレはシアナを殺せるのは自分だけだと言った。
ならば逆にこうも言えるのではないだろうか。

「あいつを殺せるのも私だけだから――」









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