創作発表板@wiki

Mad Nugget 第三話

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

Top>ガンダム総合スレ

 「Mad Nugget」 第三話

 月。アステロイドベルトの内と外に別れる世界では、地球連邦に属する大国。
 戦中は地球連邦軍の防衛態勢が整っていない事を理由に、迫るコロニー連合軍に対して主立った抵抗をしなかった。
 月の思惑通り、コロニー連合軍は月の制圧より地球上の連邦政府施設への攻撃を優先。結果、月は戦争の被害を
最小限に止める。その代償はユノーの壊滅として返って来るのだが、月は無傷……。
 今も変わりなく静かな光を湛え、暗黒の宇宙に浮かぶ。

 ローマンはヴァンダルジアのブリッジで巨大な月を見詰めていた。鋭い視線は、睨み下しているかの様。
 月は蝙蝠。中立を装い、甘蜜に酔う。コロニー連合に、月に対して好い感情を抱いている者は少ない。

「未だ月の都が見えるとは、随分とゆっくりしているな」

 周囲への気配りを忘れる程に思い耽っていたのか、彼は何時の間にか隣に並んでいたハロルドに驚いた。
 しかし、隙を見せていた気恥ずかしさを表に出す事無く、冷静に……飽くまで冷静に応える。

「君達が解放されると聞き、木星圏から飛んで来たのだ。燃料は尽き掛けている」
「……どうやって帰るんだ?」
「案ずるな。火星ダイモスにて聖戦団から補給を受ける」

 疑問は御見通しと言わんばかりの態度。ハロルドは低く鼻を鳴らし、話題を変えた。

「1つ訊ねるが、連邦軍にだって戦争の再開に反対している奴等が……」
「全体の5分の1程度だ」

 ローマンはハロルドが最後まで言い切る前に答えた。ハロルドは疑問を隠さず、横目で一瞥する。
 5分の1。決して多くはないが、少なくもない数字。

「……何処まで信用してんだ?」
「この艦にはステルス機能が付いている」

 的外れなローマンの返答に、顔を顰めるハロルド。ヴァンダルジアは他のギルバート級巡洋艦と何ら変わりなく、
特別な機能など持っていない。
 それが暗に連邦軍内の戦争を再開させようとしている派閥の影響力を言っているのだとしても、反対する派閥が
果たしてヴァンダルジアを放って置くだろうか……。

(血眼になって探し回るさ。連邦軍の防衛網の抜け道を知っていようが、当てには出来んぜ……)

 話は終わりと踵を返したローマンの背を睨みながら、ハロルドは戦いの予感に慄き、独り不敵な笑みを浮かべた。

 艦内に敵機接近を知らせる警報が鳴り響いたのは、それから約1時間後の事だった。
 折り良く、ハロルドとダグラスは格納庫にてパイロットスーツを着用し、MSに乗込む所。

「来たか」
「……早いな」

 艦体と同じ赤錆色に身を包んだダグラスの呟きに、愛機と同じカーキのハロルドは小さく零した。
 突然の警報に慌てる整備班員を置いて、タラップを駆け上り、頭部に乗込むハロルド。腹部に乗込むダグラス。
 同時にブリッジのローマンから通信が入る。

「敵襲だ。後方、月方面より1機のみ。連邦軍とは違う。月の警備隊だろう」

 予定外の事態に動揺しているのか、彼にしては落ち着きを欠いた早口。ハロルドは嘲りながら揶揄する。

「断言するのかよ」
「早過ぎる」
(……同感だ)

 ハロルドは心内密かに頷いた。

 聖戦団の活動域は、地球連邦軍の影響力が弱い火星軌道外に集中している。当然、連邦軍の警戒も火星より
外に向いていた。シャトルが襲撃される、つい先日までは……。
 地球圏内でのシャトル襲撃は連邦軍の“意表を突いた”作戦であり、24時間以内に人員を募って新たな部隊を
編成するのは不可能。敵機が単独と言う状況から、月の警備隊が巡回中に“偶然”不審艦を発見した可能性が高い。

 全ては連邦軍の裏切りが無いと仮定しての話。
 ローマンにしてみれば、そうでないと困る。

「直ちに迎撃せよ。この艦……」
「解ってるよ」

 ハロルドは一方的に通信を切り、苛立ち混じりの息を吐いた。

「その為のMSだろうが」

 カタパルトに固定されるバウ。整備班員が格納庫から撤退する。
 ギルバート級の艦体中央底部が前方にスライドし、格納庫が開放される。下がる気圧と共に、バウは宇宙へ!

 交戦距離まで数分。ハロルドとダグラスは、感覚を確かめる様に、ヴァンダルジアに添って機体を泳がせた。
 艦体を撫でる様に移動していると、蒼い鳥の紋章がバウの横に並ぶ……。
 ダグラスはシャトル内で見た物憂気なハロルドの表情を思い出し、重々しく口を開いた。

「……ハル、敵機が追い付くまでに話をさせてくれ」
「何だ?」
「蒼い鳥の紋章に……何か、思う所があるのか?」

 ダグラスの問い掛けは慎重だった。彼はハロルドの胸中を誰より……時には本人より、理解している。戦いを前に、
心が揺らいでいないかと訊ねているのだ。
 ハロルドはモノアイを紋章に向けた。全天周囲モニターの真ん中に、翼を広げた蒼い鳥が映る。

「……逃亡中の事を思い出したってだけさ。俺達が逃げれば逃げる程、追跡者を墜とせば墜とす程、蒼い鳥は増え、
 活動範囲を広げて行った。それが……正直、気に入らなかった。真意を曲解されているのが」
「何だ、そんな事か」
「何だとは失礼な奴だな。ダグ、お前は……どうなんだ?」

 軽く脹れて訊き返したハロルドに、ダグラスは笑って応える。

「別に、俺は何とも思っていないぜ」
「そうじゃねえよ……。後悔しないかって訊いてんだ」
「何の話だ?」
「……戦争を始める事、だよ」

 投げ遣りなハロルドの声は、僅かな照れと後悔を含んでいた。

「ハル……お前……」

 彼の意外な一面を垣間見た気がして、ダグラスは口を閉ざした。
 戦争になれば、敵味方問わず多くの人の命が奪われる。その銃爪を自ら引く事に、躊躇いは無いのか……。
 それはダグラスと同時に、己に問うているかの様だった。

 微妙な間を感じ取ったハロルドは、答えないダグラスを怒鳴り付ける。

「おい、ダグ! 誤解するな! 俺は別に構わねぇんだよ! お前の話だ!」
「……俺か?」

 ダグラスは悩んだ。迷いが無いと言えば嘘になる。今、自分が信じられる事は……。

「ローマン大佐は、閣下の命で動いていると言った。事実ならば、あの御方の事、何か思惑があるに違いない」

 アーロ・ゾット総代表は戦争の開始を渋っていた。連邦軍が反攻に転じた時は、先行していた突撃隊を捨て、
優劣が明確になる前に敗戦を認め、可能な限り不利にならない停戦条約を結んだ。
 ダグラスは知っている。弱腰とは違う。機を見るに敏で、徹底して慎重、そして冷静。その総代表が戦争を再開すると
決めたのだ。必勝の策を持っている。確証は無いが、確信ならあった。

 ……そんなダグラスの想いを無視して、ハロルドは押し付ける様に言う。

「良し、全ては特別監査官殿と総代表閣下の責任だ。忘れるなよ」
「いや、それは……」
「中将の肩書きは忘れろ。お前は俺と同じ、単なる逃亡者だ」

 勢いに任せて捲くし立てる彼に、ダグラスは閉口した。まさか彼に気遣われるとは思っていなかったのだ。
 どう反応して良いか惑うダグラスに構わず、ハロルドは続ける。

「お前は他人を解ろうとするから、周囲に流され易い。その癖、責任感は人一倍だ。解ってるんだろうな?」
「自分の事なら、言われなくたって……」
「そうじゃねえよ! この艦はヴァンダルジアだ。俺達は艦を守り、木星に行く他に無い。だから……これから先、
 何が起ころうと、お前が責任を感じる事は無い。全部、御上に擦り付けろ」

 押し黙るダグラス。真面目な彼の性格からして、承服しないのは判り切った事。
 ハロルドは外方を向き、独り呟く。

「全く、戦わなくて良くなったってのに……揃いも揃って馬鹿な連中だ。しかし、俺達の機体とノーマルスーツに
 鳥の紋章を付けなかった事は褒めてやろう」

 そしてビームサーベルで払い一閃。蒼い鳥は削り落とされ、塗装が剥げた灰色の跡が残った。

 ハロルドとの会話後、ダグラスは気落ちしたかの様に沈黙していたが、敵意の接近に感付き声を上げた。

「……来る! ハル、艦体後方に回るぞ」
「ああ」

 戦闘前は神経質になっていようが、いざ開始となると2人の目付きは急に鋭くなり、呼吸が合う。
 艦の後ろに回り、迫る敵機を迎え撃つべく虚空に向かって構えた時……超高速の青緑色が、彗星の様にハロルドの
視界の隅を過ぎった。ダグラスが叫ぶ!

「ハル! あれだ!」
「何っ!?」

 巨大なキャノンを思わせるMA形態は高機動ΖⅡⅩ。地球連邦軍最速を誇るガンダムタイプMS。パイロットは撃墜王
セイバー・クロス!

 剰りの高速に、目で追う事すら出来なかった。バウは急いで方向転換する!
 ΖⅡⅩは大回りして艦の前方に立ち塞がり、MA形態からMS形態に変形。即座にメガビームライフルを構え、艦橋に
照準を合わせて発射!

 バッシュゥ!!

「間に合えぃ!!」

 信じられない速度で移動するMSの射撃、戦艦では避け切れない。ハロルドは大型のシールドを突き出し、
メガビームライフルの射線に割って入った。

 バァーッ!

 淡い蛍光緑色のビームはバウのシールドに直撃し、四方に分散する。対ビームコーティングが施された専用
シールドは鉄壁。受けた直後に、内蔵されたメガ粒子砲で反撃する!

 ドォオッ!

 しかし、既にガンダムの姿は無い。ΖⅡⅩは再びMAに変形し、距離を取りながら艦体右舷に移動していた。
ハロルドは目視を諦めレーダーで追うが、速過ぎる為にワープしている様にしか見えない。
 ΖⅡⅩはMSに変形すると、遠方からビームライフルを連射する。

「速っ!! 中の奴は人間か!?」
「高機動ΖⅡⅩ……連邦のエース、蒼碧の流星群だな」
「流星“群”? 成る程、確かに流星群だ」

 冷静に解説したダグラスに、ハロルドは頷く。青緑色の機体が持つビームライフルから放たれる青。時折、メガビーム
ライフルの緑が混じる。機体と2種類のビームが織り成す流星“群”!

「機動性を重視し、装甲は最低限。軽合金アーマー装備、シールド無し。武装はサーベル、ライフル、メガライフル、
 全てビーム系統。スピードは驚異的だが、こいつのシールドなら背後を取られない限り大丈夫だ」

 バウはヴァンダルジアの盾になりながら、ΖⅡⅩを逃がさない様に慎重に迫った。相手は単機、月から遠ざかる
艦を深追い出来ない。艦との距離が開けば追撃を諦める。2人は、そう考えていた。

「あれが魔王……。俺の留守中に好き放題やってくれたらしいじゃないか」

 セイバー・クロスは好戦的な眼差しでバウのモノアイを睨み付ける。

 大戦中、彼の戦場は火星周辺宙域。コロニー連合軍の補給艦を襲撃するのが主な任務だった。この時、戦線は
既に地球圏に移った後で、彼は撃墜王でありながら、その功績を認められる事無く終戦を迎えた。

「良い予感は的中だ。その実力、試させて貰う!」

 彼は歯痒い思いをさせられた過去を振り払う様にガンダムを駆る!
 ビームライフルで牽制射撃を行い、高機動を活かして一気にバウに接近。ライフルから伸びるビームが剣になる!

「無駄な事を! メガ粒子砲の餌食になれ!」

 ハロルドは盾でロングビームサーベルを受け止め、同時にメガ粒子砲で反撃して撃ち墜とそうとした。
 瞬間、ダグラスが声を上げる!

「盾を使うな! 切り払え!」
「はぁ!?」

 ガガッ!

 ガンダムはビームの刃を消し、銃身でシールドを突き上げた。盾に大きな引っ掻き傷が付き、発射口が逸れる!

 ドォッ!

 メガ粒子砲は虚空に放たれ、ΖⅡⅩはバウを押し退かして通り抜けた。ハロルドは嬉しそうに気を吐く。

「へっ! やりやがる!」
「ああっ、盾に傷がっ!」
「うるせえ! 傷ぐらいでガタガタ吐かすな!」
「馬鹿野郎!! ビームコーティングが剥げるだろうが!!」

 ダグラスの言葉に、ハロルドの心臓はドクンと高鳴った。焦りに声を詰まらせながら、思考を巡らせる。

「ま、未だ大丈夫だ! この位の傷なら! それより奴を追うぞ! 艦に近付かせてなるか!」
「……その必要は無いみたいだ」

 バウはΖⅡⅩに向き直って動きを止めた。
 擦れ違ったガンダムはMAに変形し、メガビームライフルの銃口を向けて折り返して来る!

「最初から俺達が狙いだった様だな」
「望む所よ!」

 ハロルドはシールドを立て、ビームライフルで迎撃するが、全く当たる気配が無い。完全に動きを読まれていた。
 砲口が迫る。身構えるバウに、ΖⅡⅩは零距離からメガビームライフルを……撃たない!!

 ガガガッ!!

 メガビームライフルの砲口は、シールドの塗装を大きく削ってバウを撥ねた。
 ΖⅡⅩは直後にMS形態に戻って急旋回し、メガビームライフルを構える。

「ダグ、緊急回避ぃい!!」

 バァーッ!!

 回避は間に合わない。ハロルドは素早くシールドを向けて防御を固めたが、対ビームコーティングを傷付けられた
シールドではメガビームライフルを防ぎ切れない。
 強力なビームがコーティングの弱い部分を破壊し、盾は中央から真っ二つに割れた。
 ハロルドが居るコクピット内のモニターは、全面真っ白に埋め尽くされ、ビームの洪水がバウを呑み込む……。

 後に残ったのは、上半身のみのバウ。モノアイは消え、シールドを持っていた左腕は消失していた。腹部の損傷が
著しく、下半身は吹き飛んだと推測される。

「……大した事は無かったな」

 そう言いながらも、セイバーは気を抜かない。バウの右手は未だビームライフルを握っている。彼は止めを刺そうと、
再度メガビームライフルを構えた。

「去らば、土星の魔王」

 ……瞬間、背後に敵意を感じる!
 コクピット内で振り返ったセイバーは、真っ直ぐに向かって来る黄土色の戦闘機、バウ・ナッターを見た!

「分離!? 俺の背後を取るとは、こいつ!?」

 セイバーは危機感を抱いた。彼の知る限り、バウ・ナッターは武装を持たない。攻撃手段は……特攻!
 不意を突かれ、回避は困難。ガンダムはナッターに背を向けたまま、バーニア全開で回避行動を取る。

「逃がさん! でぇいっ!」

 ダグラスは全速力で突撃しながら変形した。機体を回転させ、右足で無防備なΖⅡⅩの背を一蹴!

「だぁっ!? つっ……このっ!!」

 セイバーは機体を振り向かせ、ビームサーベルで下半身のみのバウに斬り掛かろうとしたが……。

 ドドォッ!

 背中に2発の榴弾を浴びてしまう。背後では、モノアイの光が戻ったバウの上半身が、右手の甲を突き出していた。
 ハロルドは死んでいなかった!

 再び変形し、上半身に向かうナッター。上半身はビームライフルを乱射し、ガンダムを牽制する。
 セイバーは追撃を試みたが、先程の蹴りとグレネードが背面のバーニアを破壊していた。
 バウの上半身はライフルを手放してナッターの足に掴まり、遥か遠くのヴァンダルジアへと引き揚げて行く。

 追撃を諦めたセイバーは、静かに息を吐いてメガビームライフルを構えた。
 狙うはヴァンダルジア。最後に一矢報いる。完全に射程外だが、当たれば儲け物。

 バシュッ!

 ……緑色のビームはバウを追い抜き、真っ直ぐヴァンダルジアに向かった。セイバーは命中を確信する。

(当たったな……と思ったが)

 しかし、ヴァンダルジアは戦艦とは思えない反応で、事も無気にビームを避けた。
 戦艦を追い越し、虚空に消えるビーム。セイバーは肩を落としてヴァンダルジアを見送った。

 ヴォルトラッツェル艦長は追い付いたバウに通信を入れる。

「艦隊機動力に於いて、連邦軍の我が方に優る所無しであります」
「うむ」

 彼の自信に満ちた声に、ダグラスは深く頷く。それは木星圏での緒戦、地球連邦軍を圧倒した際の報告と同じ。
 ヴァンダルジアは半壊のバウを収容し、月を後にした。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー