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act.33

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act.33


「皆さん、ご無事ですか!?」
「……リジュ」

疲弊したシアナの前にリジュが駆けて来る。
彼はシアナの前に屈む。怪我の具合を見るなり直ぐに回復呪文を口にする。
暖かな微風がシアナを取り囲んだ。
傷を負った部位に手を添えて、応急処置に布を巻く。

「ごめん、ありがとう……」
「いいえ、これが仕事ですから。動けますか?」
「なんとかね……ぐっ」

体を起こそうとすると痛みが襲う。
無理に起き上がろうとするシアナを制し、リジュは腰をあげた。

「まだ無理そうですね。僕の回復呪文は即効性があるものじゃないのでじわじわ効いてくると思いますが……」
「さっきよりは大分マシになったわ」
「それはよかった」

優雅に微笑するリジュの背後を狙い、兵士が剣を振り翳した。

「――あ!!」

しかし。シアナが声をあげ警告するよりも早く、兵士は烈風に塗れて吹き飛ぶ。
苛烈な風は容赦なく、白き爪牙を兵士へと向けて引き裂く。
「うわ、うわあああ!!」

風に揉みくちゃにされたゴルィニシチェ兵は、宙で切り裂かれた挙句地面に落下した。
兵士の死骸の上を砂塵がぱらぱらと舞う。
死神に剣を向けて生き残れるものはいない。
兵は自らの死をもってそれを証明した。

「おやおや。いけない人ですね。背後から攻撃しようなんて卑怯な真似をするからですよ」
「……」

敵を目に入れることなく術を発動したのか。なんて非常識じみた強さ。やはり睨んだ通り、この人物は曲者だった。
それもそうか。でなければこの騎士隊でやっていけないだろうし、死神などという渾名がつくわけがない。

リジュは翻り、攻撃してくる敵を風で払う。剣で切り裂きながら、同時に風で敵を切り裂く。
風は敵の血を流し、疾走する。それでも彼は身に纏った白い外套を汚すことなく。


呪文はいつ発動させたのだろう、とシアナはぼんやりと思う。
ここに来てから呪文なんて唱えていただろうか――?
思い当たったのは先程の回復呪文。まさか、あの時同時に攻撃呪文も詠唱していたのだろうか。
詠唱の合間に、他の魔術の詠唱を挟み、同時に複数の術を詠唱する。
それがどのくらい至難であるか、魔術を本格的に学んだことのないシアナですら想像がつく。
剣に例えれば二つの太刀で同時に二人の人間を相手に戦うようなもの。同時詠唱はどんな魔術師であろうと努力で習得できるような代物ではない。
それは才能が必要だ。……魔に対しての圧倒的なスキルと、生まれ持っての天賦の才が。

その時、覚えた感情は、このリジュという人間が味方でよかったという安心感と――
それとは裏腹に、心の奥で何かが震えるような……そう、最も近い言葉で言えばそれは戦慄、だった。

リジュは風と追走し、ノクトと打ち合っているエレの横に着地する。

「さて……どうしましょうか」

リジュの場違いな台詞に、エレは剣を受けながら答えた。

「手出しはするな。お前はそこで黙って見ているがいい」
「そうは言われましてもね、味方も限界が近いですし、さっさと終わらせたいんですよ。これ以上長期戦になると厳しいですし」
「ふ、ならばどうする? 俺を巻き添えにして得意の風でも起こしてみるか」
「――それもいいかもしれませんね」
「…………」
「ふふ、冗談です」

エレは鼻を鳴らす。
――フン、食えない男だ。何を考えているか読めないから余計始末に悪い。
後方に跳んで、エレはノクトと距離を取る。

「どうですか、ここはひとつ、共闘でもしてみませんか」
「ふざけるな。誰が貴様などと――」
「僕は別にいいですよ。戦いが長引いても。負けたとしても最後まで生き残れる自信がありますから」

でも、とリジュは声を低くした。

「シアナさん、このままだと死んじゃうんじゃないですか? 貴方としてはそれは避けたいですよね。
彼女と戦うのが貴方の望みなんでしょう?……だったら、さっさと僕の提案を受け入れた方がいいと思いますよ」
「……お前……」

エレが苛立ちをこめてリジュを睨みつける。
リジュは気にする様子なく、そよ風のような表情を湛えたまま。

「目的の為ならば瀕死の仲間さえ駆け引きに利用するか。……その貪欲さは悪くない」
「お褒めに預かり光栄です」
「調子に乗るな。死ね。……行くぞ」

二人の騎士が、ノクトに肉薄した。



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