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昼寝日和

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昼寝日和


「夢オチ!?」
教室内に妙な空気が流れている。視線が痛い。先生は私を見てため息をついた。
「ソーニャ。確かに胡蝶の夢は夢オチかもしれないな」
黒板には中国の有名人の一人である壮氏についてやその代表作として胡蝶の夢について書かれていた。
なるほど。確かに古典だったかの教科書に胡蝶の夢について書いてあったな。
先生は手に持った教科書を丸めている。何をするかは明白だ。
「しかしだ。問題となるのはそこではないな? うん?」
「ええ、全くその通りだと私も思います」
「なにせ今日は小春日和。弁当を食べ終わった後の五時間目。眠気もピークに達する頃だろう。
 何もお前だけじゃない。こうやって教室を見渡すだけでも船を漕いでいるやつはちらほらいる」
言われて見渡すと奇異だとか好奇だとか明らかに楽しんでいる目に混じって机に突っ伏している人がいる。
そんな生徒を横目に見ながら先生は近づいてくる。
「仕方ないですよね。この陽気にこの満腹度。今睡眠しなければどこで睡眠するんだって話ですよね」
はっはっはと笑ってみる。突き刺さる視線が「ああ、だめだこの人」みたな残念目線に。何ゆえ。
「それでだ。思わず叫びながら目覚めてしまったソーニャはよく眠れたのかな」
ここだ! 私は満面の笑みを浮かべる。きっと純粋な中学生なら恋に落とせるぐらいのレベルだ!
「もうちょっと寝たいですね!」

「くっそー。あの人割と本気で殴ったぞ」
「そりゃあ、あれだけぐーすか寝た挙句あんな起き方すればなぁ……」
時は変わって放課後。場所も変わって我が創作部部室。
我が学校では文武両道という信念を掲げており、それが関係しているのかどうかはわからないが
部活と同好会がとても多い。魑魅魍魎有象無象消灯闇鍋の様を呈している。正直言ってひどい。
同好会とは比較的簡単な条件で生徒会にのみ認可された集まりで部費がもらえない代わりに
例えばTCG同好会を作れば活動中のみTCGで遊んでもよいと言った許可が出ることになる。
部活の場合はそこそこの条件を満たした時に学校から認可された集まりだ。部費がもらえるし
部室も充てられる。そこに同好会がいた場合追い出せる。その代わり、部長会に呼ばれたら
部長は出なければいけないし何かしらで活動実績を作らないと同好会へ降格させられる場合がある。
話を戻し、我が創作部は学校からの条件を満たしたのでちゃんと部室を頂いている。ただし活動内容に
関係があるため「理科室の使われないほう」と言われる正式名称、地学室を活動の地としている。

さて、なぜ「満たしていた」なのか。それは簡単な話で先輩が先月卒業したため最低必要人数を割ったのだ。
あと一人誰かが入らないとこの部活は降格となる。期限は五月の終わり。現在四月なので一ヶ月ほど余裕はある。
「いや、しかしだね。矢崎くん。今日の天気を見たまえ。超青空じゃないか。超天気いいよ」
「お前の気持ちもわからんでもないがよだれ垂らして寝るのはやはりよくないと思う」
私は目の前にいる矢崎副部長を説得しようとするがやはり納得してくれない。どうやらよだれを垂らしたのは
だめだったらしい。言われてみれば私が先生だったら、下にタオル敷いてよだれ垂らしてぐーすか生徒が
寝てたら怒るかもしれない。そう考えると私が悪いのか?
「ほら、私って全体的に真っ白だしなんか儚げじゃん? 体力なさそうじゃん?」
「とか言いつつお前この前体育でハットトリック決めたって自慢してただろ!」
部室のドアががらりと開き、北乃門が抗議をしながら入ってきた。
「ひじりは黙ってて!」
「さとしだよ!」
あんな本質が残念なイケメンはどうでもいいんだ。今は授業中の睡眠について正当化するのが優先事項だ。
「そういえばさ。お前あのとき何の夢見てたんだ?」
「そーそー。俺も話聞いたんだけどなんか叫びながら起きたらしいじゃん」
「きたのは黙ってろ。えーっと何だっけな……」
北乃門だよと反論する人間を無視して思い出そうとする。なんだかおぼろげだ。
「えーっと確か私が片手剣を握ってたような……あれ、大きい剣だっけ?」
「なんじゃそりゃ。剣士だったってことか?」
「白騎士ってゲームあったな」
「んー……あとなんか銀髪にゴシックな黒い服着た少女がいて……」
ふと頭を赤い閃光と首が取れた人間が横切り思わず言葉が止まる。
夢のはずなのに妙に生々しい映像だった。そういう動画を見た記憶もない。
「どうした?」
突然言葉を切った私を不審に思ったのか顔を覗き込んでくる。思わずはたく。
「妙な夢だったかな」
「そういえばいいだろ。なぜはたいた……」
鼻を押さえている矢崎にごめんごめんと謝っていると最後の部員がドアを開けた。
桃花部長は何かあったのかちょっと不機嫌に見える。とは言ってもこれが普段どおりなんだが。
そのせいで仕事をしてもあまり感謝されないのだ。学級委員のくせに。
桃花は私たち三人を見てため息をついた。
「あんたたちあと一人部員が来ないと部活なくなるのわかってる?」
「俺は部長が部員を練成してくれるって信じてるよ」
「北乃門くん。あなたは私を錬金術師か何かと勘違いしてない……?」
再びため息をついて窓際へ近づく。そこにはいくつか水槽が置いてある。
片手で持てる小さなものから両手で担ぐ大きなものまで五個置いてある。
我が創作部の活動内容は何かを創作することだ。創作するのであればなんだって構わない。
無限部長が創作しているのはアクアリウムだ。入っているのは水草と小さなエビだとかタニシだ。
本人曰く自浄効果があるのでそんなに手入れはしなくていいそうだ。それでも毎日部活に来て
水槽のチェックはしている。まめな性格だ。
チェックが終わったのか私たちのほうに振り向いて無意識なのか胸の前で腕を組んだ。
私の横にいたきたのが心なしか前のめりになる。ここまで自分の欲求に素直になれるのはいいことだ。
無限と違って私は小さいので組んだ腕の上に乗っけるなんて出来ないし。うん。

「新入部員ねぇ。三年生が一人でもいればそんな心配はなかったんだけど」
「いないものは仕方ないし今から入ることもないでしょうね」
現在創作部には二年生しかいない。勧誘を失敗したのかなんだか知らないが現三年生は入っていないのだ。
「新入生歓迎会で矢崎と部長で部活紹介したんだろ? どんな感じだった?」
「他の学校には無い部活だから多少は興味を持ったかもしれないけど入るかどうかは別の話よ」
「やっぱり桃花が練成するしか」
「なんでそうなるのよ!」
「練成は置いといて創作部らしい何かをアピールできればいいんだけど」
四人で考える。創作部らしい何かをアピールねぇ。創作部の連中は誰も分野が被っていないので
共同作品というのも難しい。自由であることを主張するのが一番よさげではあるのだが。
「張り紙とかしてみるか? 聖が絵を描いてさ」
「美術部と被るだろうしなぁ。結局さ、矢崎は文芸部。部長は生物部。俺は美術部だからなぁ。やってることは。
 するとどこにも該当しない……」
自然に私にみんなの視線が集中する。
「私を見たって仕方ないだろ! 何を創作するか決まってないんだから」
他の人間と違って私はまだ自分が何を創作するか決めていない。あえて言うならば創作できるものを創作するとなる。
そもそも何か適当でゆるい部活がないかと探しているときにここの部員に捕まったのだ。私は悪くない。
「いっそのこと廃部するか」
「それはだめよ」
きたのの言葉に桃花が一番早く反応した。きたのとしては笑いながら否定されると思っていたのだろうけど
部長の即答かつ笑いの欠片もない反応に戸惑っている。部長自身もどこかばつの悪そうな顔をした後
水槽たちを見て
「あの数の水槽を置ける場所があまりないのよ。だから潰れると困る」
と付け足した。確かに桃花の水槽は結構場所を取っている。廃部になったらおそらく生物部なんだろうけど
普通の部室であればあれは置けない。そういう意味ではこの部活が潰れて一番困るのは桃花なのだ。
「よし、わかった。ソーニャ。部員を創作しろ。丁度いいだろ」
「任せろ」
私は両手を組んで天に拝むようなポーズを取る。その後、手を離し右手の人差し指を立てる。
最後に勢いよく部室の扉を指差す。
「召還!」
がらっとドアが開いてツインテールの小さな女の子が現れた。
少女は何かを言いかけたが私が指をさしていることに気づき、ゆっくりとドアを閉め始める。
「ちょ、ちょっと待って!」
桃花の言葉に意識を取り戻し指を引っ込める。適当にふざけてやったら本当に召還してしまった。
慌てて少女を追いかけて廊下に出た桃花を見届けた後、きたのと矢崎が寄ってくる。
「おい、本当に出てきたぞ」
「やるじゃん」
「ジュース奢ってよ」
ひそひそと話していたら桃花と少女が帰ってきた。桃花はどことなく機嫌よさげだ。
これはひょっとしてそうなのか?
「ということで新入部員よ。自己紹介お願いね」
少女が一歩前に出る。身長は低くツインテールがとても似合ってて可愛い。制服もまだぶかぶかで
ちょっと袖が余っているのも可愛い。

「一年の神楽坂美希といいます。えっと……頑張るのでよろしくお願いします!」
体験入部というのも出来るのだがどうやらしないみたいだ。みんなで拍手をする。
続けて矢崎が立ち上がって自己紹介をする。
「俺は矢崎歩。この部活の副部長だ。ちなみに文を創作する」
隣にいたきたのが立ち上がって自己紹介すると思ったら黒板に近づいて名前を書き始めた。
「北乃門聖と書いてきたのまさとしだ。きたのもんひじりじゃないからね! 俺の創作は絵だ」
必死だなと思ったが突っ込まない。既に同学年や先生にはきたのもんひじりと認識されているし
せめて新入生には正しい名前を覚えてほしいのだろう。
「私はシカ・ソーニャ。創作分野は未定かな」
「で、私が部長の無限桃花。創作しているのはアクアリウムよ。ちなみにみんな二年生ね」
最後に部長がしめる。これで創作部全員だ。顧問はとりあえず置いておこう。
全員の自己紹介を受けて改めてよろしくお願いしますと頭を下げた後、かばんの中をあさり始めた。
出したのは懐かしいリコーダーの入れ物だ。
「わたしは音楽を創作したいと思っています」
「ちなみにどれくらい吹けるの?」
「まだ少しだけどこれから頑張ります!」
そう言って吹き始める。少しといった割りにはかなり上手に吹いている。
これで創作部は存続だ。きっとこれからもこの部活はにぎやかだろうと思った。
……ところで流れで自己紹介したが他の人が来るたびにするのかな。



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