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黄昏の国と恋した乙女

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黄昏の国と恋した乙女


白の割合が多かった地面は気づけば緑に侵食され、さらに色とりどりに覆われていった。
そう、春が来たのだ。生命の息遣いを感じる季節だ。
瓦礫を片付け、ちゃんと地面をむき出しにしたのが功を奏したのかその辺中雑草だらけになった。
咲き誇る小さな花たちの間を虫が飛び交っている。なんとものどかな光景だ。
私はその雑草をひとつひとつ観察し、抜いている。
「結構食べれる野草が生えているな」
食料確保である。冬の間、倒壊した家屋などからかき集めた食料の備蓄は既に底が見え始め
畑を起こし始めたものの作物が成るには時間がかかる。私は狩りが専門なのでよくはわからないが
春になれば種を植えたり、なんだり出来るようになるからそれまでの我慢ですとコユキに言われた。
なので野草を収穫して一時凌ぎをすることになったのだ。
奇妙な話ではあるが野草については少し知識がある。と言っても食えるものと食えないものの見分け方だ。
なにせ森は子供の頃から慣れ親しんだ場所だ。そこらに生えているものをむしゃむしゃとよく食べたものだ。
時々死に掛けることもあったが丈夫な体は作れたし、体で覚えたので忘れることもない。
摘んだ野草をカゴに突っ込み、他に食べれるものがないかと目線をあげると遠くのほうに動く何かを見つけた。
いや、あれは間違いない。あの姿は……肉。じゃない、ウサギだ。野生の肉……ウサギがどこからか入ってきたのだ。
目標は時々耳を立てて、周りを見ながら野草を食べている。
獲物を弓矢に変え、狙いを定める。相手の動きが止まった。目線が合う。
ひゅんと風を切って矢は飛んでいった。

「機嫌がいいみたいだな」
「まぁな」
いい加減この唐突さにも慣れたものだ。慣れてみると夢との違いがよくわかる。
空気の色や風のにおいは夢ではこんな複雑には表せないだろう。
あたりを見回す。緑色の床が続く廊下と右手には横開きの扉が一定の間隔で並んでいる。
廊下に差し込む光は赤みを帯びている。おそらくは夕方。見える限りでは近くに人はいない。
「これが学校と言うものか」
「うむ。対象はこの学校の生徒の無限桃花だ。おそらく今までで一番簡単な仕事だろう」
「簡単? それはどういう」
私が振り向いて質問しようとしたら既にそこにハルトシュラーの姿はなかった。
訓練の意味合いもあるからあまり簡単なものがあっても困るんだがなと考えつつ
例の気配を感じる教室の扉を開ける。
外から差し込む光でオレンジ色に染まった教室で若い制服の男女が手を握り合っていた。
私は静かに扉を閉める。
私にはそういう経験はない。それでもあの雰囲気は邪魔しちゃいけない気がする。
だが無限桃花はあの制服の女なのだ。入らないことには始まらない。
少しだけ開けてそーっと中を覗く。既に手を離した男女が私を睨んでいた。
なぜ私がこんなに気まずい思いをしなければいけないのだと心の中で愚痴を言いつつ、教室に入る。
同じ形の机と椅子が埋め尽くす部屋の窓際に立つ男女。なかなかよい雰囲気だ。帰りたい。
「お待ちしてました」
口火を切ったのは桃花だった。予想もしなかった言葉に虚をつかれる。
「一応確認しますとあなたが私の仲間を倒して回っている騎士で間違いないですね?」
「い、いや、待て。仲間というのはどういう意味だ」
思わずどもりながら言葉を返す。
「そのままの意味です。私と同じ種となった仲間、そして無限桃花を、ということです」
「それなら間違いないがなぜ知っているのだ」
無限桃花同士は感知するし彼女の周りに他の無限桃花がいると考えれば
その特異性について知っていてもおかしくはない。
だが他の世界での出来事を知っているのはおかしい。
その上彼女は自らが種であると言った。寄生されていると知っている上での発言になる。
「まずはひとつ。あなたの目的である私に宿っている寄生には母親がいます。
 先日、何の前触れもなく母親から私に寄生しているものと役割、そして脅威となる存在を教えられました。
 その存在とはつまりあなたのことです」
「なるほどな。他の世界の出来事を親を通じて知ったというわけか」
「そうです。そしてもうひとつ。私の能力である予知です。元からはっきりとわかる能力でありませんでしたが
 ちょうど母親からの交信があった時からある日から先の出来事が読めないということがわかりました。
 その日が今日です。読めないのは私の未来がここでなくなるからでしょう」
「させねぇよ」
おとなしく桃花の話を聞いていたらそれまで黙っていた男子が私にバットを突きつける。

「桃花には指一本触れさせねぇ!」
「……彼女の未来はないのだろう? ならばお前がどう行動しようが……」
「だからっておとなしく殺されるのを見ているってか! 出来るはずねぇだろ!
 こいつの未来予知は完璧じゃねぇ! 俺がここで未来を変えてやる!」
「桜木くん……」
そういって桃花を守るように前に立ち、バットを構える。
桃花はうれしそうだけど悲しそうな困ったような矛盾した表情をしている。
守ってくれることはきっとうれしくて堪らないことなのだろう。
でもわかっているのだ。彼ではどんなにあがこうが私には勝てないということを。
そして自分の命はここで確実に絶えるということを。
私は右手を差し出し、腕輪をわざとゆっくりと剣の形の変えていく。
彼女たちが息を呑んでそれを見ている。剣を掴んで、一振りすると彼の肩が一瞬飛び跳ねた。
「あの、騎士さん。お願いがあるんです」
「なんだ」
「私に戦闘能力はありません。いえ、あったとしても抵抗しません。
 だから彼だけは、桜木くんは傷つけないでくれませんか?」
「桃花。なんでだよ、なんでそんなこと言うんだよ!
 お前も一緒に未来を変えようよ。俺は一緒に未来を歩みたいんだ」
「桜木くん。私はね。きっと私は存在しなかったんだよ」
「桃花……?」
「私はね、このまま生きてたらいつかこの世界を滅ぼしちゃうんだ。
 そういう種を植え付けられちゃったんだよ。桜木くんだって世界が滅んじゃうのは嫌でしょ?」
「そんなの信じられるわけないだろ……」
彼の言葉はだんだんと力を失っていく。
助けを求めるように私の目線を送る。
「……事実だ。彼女はこの世界を滅ぼした後、違う世界にむけて自らの種を飛ばす。
 そして着いた世界で何かに寄生し、その世界を滅ぼす。私もそう聞いている。
 寄生されたが最後。寄生された本体ごと殺すことでしか寄生生物は殺せない」
現実は非情だ。
力の無い者はいつも悲劇を嘆き、不幸は一陣の風のように人の幸福を切り裂いていく。
「桜木くん。君ならきっと、いや、絶対もっとかわいい女の子を見つけ出せるよ。
 知ってる? 君って結構もてるんだよ? 3組の皆本さんとかかわいい子にさ」
「そんなのどうだっていいんだ。俺はお前がいいんだよ」
皆本さん可愛そうだ。
「俺は諦めない。もしもお前が世界を滅ぼすって言うんなら俺がお前を止めてやる。
 お前が見つけられない未来を俺が持ってきてやる。
 だから俺と一緒にいてくれ」
彼はそう言って立ち上がり、私にバットを再び構える。
本気の目つきだ。仕方ない。
剣を横に振るう。彼の前髪がふわりと風に浮き、バットが中ほどから切れて先端が落ちていった。
それでも彼は半分なくなったバットで私に向かってきた。後ろで叫ぶ彼女の制止を聴かず。
振りかぶったバットを避けて、振り返りに合わせて首元に剣を突きつける。
「諦めろ。お前が例え一万人集まろうが私に傷ひとつ付けられやしないさ」
バットが手から落ちて、大きな音を立てる。歯を食いしばって嗚咽を堪える彼の目元から涙が零れた。
「なんで、なんで桃花なんだ。あいつが、何をしたって、言うんだ」
嗚咽交じりに言葉を紡ぐ。私は剣を引っ込めて、腕輪に変える。
「何もしてない。ただ彼女は選ばれただけだ」
その場に膝をついて、項垂れる。彼の下に涙がぽたぽたと落ちていく。
私は彼女のほうに目線を向ける。
「お前の要望を通そう。私は彼を傷つけない」
「ありがとうございます」
彼女は笑顔でそう言った。
その笑顔はこれから来る死への恐怖もこの理不尽な運命への怒りも私に対する恨みもないかわいらしい笑顔だった。
私は彼の肩を叩き、桃花のほうへ行くように促す。
彼はゆっくりとうなづいた後、その短い距離を惜しむように歩きながら彼女の元へと向かった。
二人は窓際で見つめあい、言葉を交わす。

「俺さ、お前が告白にオーケーしてくれたとき超うれしかった」
「私もうれしかったよ。それ以上に驚いたけど。まさか桜木くんが私に告白するなんて」
「一年の時にさ、お前が自己紹介で噛んで。あの時照れ隠しみたいに笑ってさ。あれからだったんだよ」
「懐かしい上に恥ずかしい思い出をよくも思い出させたね」
「いいじゃんか。でもさ、最初俺たち友達グループ的なやつ違ったじゃん」
「男子女子混合なんてあまりなかったしね」
「部活も違ったし接点なくてさ。それでもどうやって話しかければいいかずっと考えてたんだ」
「君も努力家だね。おかげで修学旅行では同じグループになったんだけどさ」
「あの時すげーうれしかった。お前が「一緒に組まない?」って言ってきたとき
 もうワイシャツ脱ぎ捨てて教室走り回って窓から飛び降りたくなるぐらいうれしかった」
「それやったら間違いなく組まなかったよ」
「まじで耐えてよかった。夏の間何もできなかったから本当にうれしかったんだ」
「秋の奈良か。楽しかったね」
「鹿に追いかけられてたな」
「君は鹿せんべいぼりぼり食べて突進されてたでしょ?」
「あれは痛かった」
「あはははは」
「……」
「……」
「そうこうしているうちに冬が来て、年が明けて」
「年賀メールで済ます私と違って君はちゃんと年賀状くれたね」
「一年の計は元旦にある。こういうところで手を抜いたらダメだって親によく言われたんだ」
「まじめだねぇ。それに奥手だし」
「俺もそう思って決心したんだよ。三学期に告白しようって」
「忘れないよ。あのバレンタインデー。まさか男子がチョコ持って告白してくるなんて」
「別にいいだろ。お前らだって友チョコーとか言ってチョコ配ってたし」
「あれとそれはわけが違うよ。しかも手作り。その上、おいしいとか」
「作ってるとき散々母親に冷やかしされたからな」
「あの時はいろいろ衝撃的な日だっよ。でも私は勢いでオーケーしたわけじゃないんだからね」
「うん。お前はそういうことしないって知ってるから」
「君はもっとおとなしい子が好きだと思ってからさ」
「他のやつにも言われた。なんでそんなイメージが付いたんだろうな」
「さぁねぇ……」
「……これからだったんだ」
「うん」
「二年に上がって、クラスが一緒でうれしくてさ」
「うん」
「色々一緒に出来るって、思ってさ」
「うん」
「なのに、なんで」
「うん……」
陽は既に残光を残すのみ。暗くなりかけている教室に嗚咽が響く。
会話は途切れ、彼がひたすら彼女にすがりついて言葉にならない言葉を呟いている。
桃花は彼の頭を抱いて、優しくなでる。何も言わず、涙も流さず、母親のように優しく何度も。
桃花がこちらを見て、頷く。私はゆっくりと彼女のもとに歩み寄る。

「……もういいんだな」
彼の肩がびくりと動く。桃花が彼の肩に手を置き、体がゆっくりと離れていく。
「男の子でしょ? ね? 泣かないでよ」
そう優しく言うが彼は泣き止まない。でも声だけは上げないように必死に堪えている。
「桜木くんにひとつお願いがあります。ちゃんと聞いて下さい」
彼は自分の腕で乱暴に顔を拭いて、彼女を見る。
「私を忘れて生きてください」
「無理だ」
がらがら声だったけど力強い即答だった。
桃花はむーと唇を尖らせた後、仕方なさそうに
「じゃあ生きてください。超長生きしてください」
とお願いを改めた。彼はゆっくりとそれに頷いた。
今度は私のほうに向く。
「ではお願いします。出来るだけ痛くない方法で」
「心臓を一撃で貫こう。たぶん痛くない」
死ぬのが怖くないのか?
私はそう聞きたかった。でも聞かなかった。
彼女の手が少し震えていたからだ。
なかなか離れない彼を彼女がぐいぐいと押して離す。
くっついてても問題は無いが返り血などあるかもしれないしそっちのほうがいいだろう。
剣を構える。動かない的を仕留めるなどたやすいことだ。
最後の残光が消えていく瞬間。私の剣は彼女の心臓を貫いた。
私はあの刹那の時に彼女の一粒の涙を確かに見た。
倒れた桃花を抱いている彼を私はなんとなく見下ろしている。
罪悪感を感じているのだろうか。理不尽さに憤りを感じているのだろうか。
私は自分自身の心にあるその感情を処理することが出来ない。
「ハルトシュラー」
喉から捻り出すように言う。
ふわふわと例のごとくどこからともなく現れた。
「なぁ、俺はこれからどうやって生きていけばいいんだ?」
いつの間にか泣き止んでいた彼が桃花を見つめながら言う。
「彼女に言われたとおりにすればいい。
 だけどお前が立ち止まって彼女を見続けているのを彼女が望んでいないのは確かだ」
彼は何も答えなかった。
私はその姿を最後の瞬間まで見つめていた。



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