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コンクリートジャングルとセーラー服

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コンクリートジャングルとセーラー服


暑い。むしろ熱い。
天上に輝く太陽は容赦なくその身から発生させた熱を浴びせ、
さらに地面に敷かれたコンクリートロードは落ちた熱をご丁寧にも照り返してくれる。
天然オーブントースターである。
周りを見渡す。ガラス張りの高層ビルたちが太陽の光を反射させている。
どうやら都会の中心ではあるらしい。なぜらしいなのかというと人気がないからだ。
人工に満ちているというのに人口がいない。集団失踪でもしているのか?
「ハルトシュラー……」
さきほどまで傍らにいたはずの案内人の姿も見えない。とは言っても夢の中だ。何があっても不思議ではないはずだ。
「どうだい? 周りの景色に違和感があるかい?」
頭上のほうから声がして振り向くとハルトシュラーがふわりふわりと浮いていた。
どう飛んでいるのかはわからないが魔法でも使えばこのぐらい朝飯前だろう。
「いや、違和感はあるが……どうやら私はこれらを知っているようだな」
ビルやコンクリート。オーブントースター。そういった類のものは見聞きしたことがないものだ。
そして先ほど彼女が私にやった行為を思い出す。
「情報を注ぎ込むとはこういうことだったのか」
「ご名答。ここはお前の世界の旧世界に近い文明がある場所だ。
 最も別世界であるからここでお前が何をしようとそっちの世界に影響はない。そこは安心していい」
「そんな派手に暴れなきゃいけないのか」
「いや、あれを殺すだけだ」
ハルトシュラーの指すほうを見ると陽炎の向こうの十字路の真ん中に人間がいた。
よくみればその奥にはぼんやりと統一された装備をしている人間が並んでいる。
この構図はどうみても真ん中の人間を制圧しようとしている形だ。
「あれが寄生か。思ったよりも人間っぽいな」
それだけじゃない。あの人間から感じるモノ。これは……亀と同じモノ……?
歩いて距離を詰める。次第にその人間の姿がはっきりしてくる
いわゆる女生徒が着るセーラー服。そして長い髪を束ねたポニーテール。血塗れの刀。
彼我の距離がおよそ十メートルのところで足を止める。
「……ハルトシュラー。彼女は私と同じ人間だな」
「ああ、そうだ。あれは無限桃花だ。よく目を凝らせばぼんやりと黒い影のようなものがまとわりついているのが見えるだろう?」
言われてじぃと目を凝らす。突然の私の出現に少し戸惑っている表情を浮かべている。
確かに黒い影というか煙というか何かがうすぼんやりと出ている。
「あの黒い影を仕留めればいいんだな」
「ああ、彼女ごと斬らないと殺せないがな」
「……あんたたち、私を殺すの?」
ハルトシュラーの言葉を聞いて少女の表情が変わる。
先ほどの戸惑った表情だとその手に持つ刀はあまりにも不釣合いであったが
なるほど、この眼差しならば人を殺していてもおかしくはない。
「すまないが私の世界のためでもあるからな。おとなしく斬られてくれると嬉しい」
「誰が……殺されるか!」
地面を蹴って私に向かってくる。刀を大きく振り上げて。
私の目の前まで来た少女は最後の一歩を大きく踏み出し、振りかぶった刀は弧を描いた。
あまりにもまっすぐな軌道。少しだけ体をずらしそれを避け、地面を叩いた刀を踏み折る。
少女が回避行動に入る前に私の剣が彼女の体を貫いた。いや、こんな動作必要なかったかもしれない。
攻撃の始まりからその全ての動作があまりにも稚拙で大雑把。そして最後は刀が折られた瞬間、逃げることすらなかった。
仮に少女が私の世界の狼、そうあの普通の狼に会っていたら九割がた殺されている。それほど弱い。
刺さっていた剣を抜き取ると少女は何も言わず膝から崩れ落ちて動かなくなった。
「これで終わりか?」
傍らに浮くハルトシュラーに問いかける。なぜか難解な物を見たような顔をしている。
「お前は人を殺すのに何の抵抗もないのか」
「進んでしたくはない。が、私に害をなすのであれば仕方あるまい」
このまま放っておけばいつか私の世界に害を成す可能性があると言ったのはハルトシュラーだ。
この程度の雑魚の処理で世界が救われるならお安い御用である。
先ほどまで遠巻きに見ていた統一装備の人間たちが近づいてくる。面倒なことになる前に帰りたい。
「で、そろそろ帰してくれないか?」
「ん、ああ。わかった」
世界が灯りを消したかのように暗くなる。
自分が瞼を閉じているということに気づいたのはすぐだった。
ゆっくりと目を開けると見慣れた天井が映った。
「……世界救済とハルトシュラーか」
実に珍妙な夢だった。最近は働きづめだったし精神が疲労しているのかもしれない。
今日あたりはゆっくりと休むか。伸びをして立ち上がり、右手を見る。
夢の割にはその手に残った感触が妙に生々しかった。

「ああ、僕も見たな」
朝食後。亀に夢の話をするとなんでもなさそうにそんな返答を寄越した。
「僕も見たって……夢って共通してみるものじゃないだろ。それともあのハルトシュラーという輩のせいか?」
「のはずなんだけど他で聞いた覚えがないんだよね。ハルトシュラーなんて名前の生き物」
「夢の中だし今のところは害がないから別に放っておいてもいいか」
「いや、それはよくない。出来るだけ夢の世界でも現実だと思って行動してくれ」
やはりよくわからないものが絡むと夢の中でも慎重に行動したほうがいいようだ。
私は了解の旨を伝えて、精神疲労ではないとわかったし元気に瓦礫の片付けをすることにした。

いつも通りヘッセと組んでやっているときにふと気になったので昨日夢を見たか聞いてみた。
「夢、ですか」
「ああ、アンドロイドというのが見るかはわからないが」
ヘッセが持っていた瓦礫を所定の場所に置く。今日は両脚の車輪をつけていない。
前に聞いた話だと特に急ぎたいときに装備するらしい。浮いているのだけど装備しているそうだ。
額に浮いた汗を手でぬぐった後、ヘッセは話し始めた。
「私の知識では夢というのは人間および生物たちが覚醒している状態で得た記憶を
 整理するために発生する現象だとなっています。そのため記憶に強く刻まれたものほど夢に見やすいようです。
 我々アンドロイドは一応生物ではありますが通常の生物と記憶の仕様が違うようなので見ることはありません」
こうやって一緒に過ごすとわかるがアンドロイドというのはぱっと見、普通の人間にしか見えない。
食べるし寝るし時折調子も悪くする。人工生命体と聞いていた割にはなかなか人間くさい。
しかしその能力は人間の能力を遥かに超えているのは確かだ。
事実、先ほど持っていた瓦礫はヘッセぐらいあるものだったし、そんな大きな物を片手で持ってたりもする。
「どうかしましたか?」
「ん、いや。なんでもない。今日中にこの区間終わらせるか」
「はい。頑張りましょう」
まだやることは山積みだ。急ぐ必要はないがゆっくり休む時間はない。
空を見上げれば雲はずいぶんと高くなっている。季節は夏が過ぎ、秋へと差し掛かっていた。



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