創作発表板@wiki

死者たちの夜

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

死者たちの夜


「あれ、なんだ?」
最初にそんなことを言ったのは誰かはわからない。
声につられ、見上げると空に大きな魔法陣が描かれていた。
空には魔法の結界が張られている。その魔法陣だろうか。
そんなことをソーニャはのんびりと考えていた。
「自衛団総員! 住民を全員避難させろ!」
亀の鋭い声が響いた。その声音に冗談の色はない。
酒を飲んでべべれげになっていた兵士たちが慌てて、誘導に当たる。
「亀、あれは一体……」
「詳しい話は後だ。あの形の魔法陣はおそらく……」
再び空を見上げるとどこからか小さな光がふわふわと空に集まっていっている。
「間違いありません。死者蘇生の魔法陣です」
駆け寄ってきたロゼッタが後を次ぐ。
死者の蘇生? なぜそのような魔法陣が空に描かれているんだ?
「ソーニャ。お前も住民の誘導…いや、護衛に当たれ。僕とロゼッタは陣の破壊に当たる。
 ビゼンは……既に先導してるか」
言われてみれば先ほどまでそこで飲み比べしていたビゼンの姿は見えない。
耳を澄ませば遠くのほうで誘導をかけている声が聞える。
「大聖堂への誘導が終わったらビゼンと一緒に侵入者の退治でもしててくれ」
そう言うとロゼッタと一緒に誘導先とは違う方向へと走っていた。
ソーニャもうかうかしていられないと誘導先へ走り出す。
酔っ払っているせいか特に騒ぎもせず素直に指示を聞いているようだが
眠りこけている人間も何人かいる。片っ端から兵士が叩き起こしている。
亀はソーニャに護衛に当たれと言っていた。死者蘇生の術式。侵入者。
大聖堂に向かって走る。この術式がどのような法則で死者を蘇らせることができるかはわからない。
だが亀の言葉から察すると誘導に当たる兵士では処理出来ない敵が出てくると考えていい。
遠吠えが空に響く。そのうちの一つはソーニャが大聖堂に着くと同時に姿を現した。
「久しぶりだな! 糞野郎! 地獄から戻ってきてやったぜ!」
その姿は過去に見た者と同じ。差があるとしたら少々淡い光を纏っているくらいだろうか。
かつてソーニャが仕留めた二本足の狼がそこに立っていた。
「死んだはずなんだけどどうやらいい奴が蘇らせてくれたみたいだな。
 やってほしいことがあるみてぇだけど俺様の目的と同じだしついでにやってやるか!」
「ほう。どんなことを言われたんだ?」
「ああん? 教えてやるよ……。この町の人間を殺しつくせだ!」
狼がこちらに向かって走り出す。周りにはまだ避難している人間がいる。
避けるわけにはいかない。獲物を剣に変え、攻撃に備える。
ただの振りかぶった右腕の一撃。剣で防御するが衝撃で後ろへ倒れそうになる。
左手を構えたのを見たと同時に後ろに下がる。先ほどまでいた場所を豪腕が風を切って通る。
狼が一歩前に踏み出し、再び右腕の攻撃。剣の間合いにしては近すぎて反撃が出来ない。
それを知っているかのように狼は間合いを常に詰めながら攻撃をしてくる。
武器を短くすれば相手の攻撃が捌けなくなるかもしれない。
素早く繰り出される連打を剣の防御と紙一重の回避でかわすがそれも長く持たない。
大きく右腕を振り上げた。足に力を込めて、前に出ながら短剣で相手の腕の付け根を切る。
やっと距離が出来た。辺りには人影がない。どうやら思ったよりも大聖堂から離れるように動いていたようだ。
代わりに普通の狼たちに囲まれていた。
しかし前回のアレから考えると今の一撃で戦意を消失させているはずだ。
だが振り返った狼にはいびつながら笑みと取れる表情を浮かべていた。
「痛みを感じねぇんだよ。死んだせい……いや、おかげっつーのか?
 おい! 狼ども! 手ぇ出すんじゃねぇぞ! こいつは俺が殺す!」
どうやら期待はずれのようだ。額を流れる汗も拭けやしない。獲物の刃を伸ばす。
前回は馬鹿みたいに同じことをしていたから迎撃のしようがあったが今回の間合いを詰めながらの
格闘攻撃は正直戦いづらい。考えてやるほどの脳味噌があるとも思えないし野生生物の本能で行っているのだろう。
近くで唸っていた狼にどこからか飛んできた火球が直撃した。
狼は断末魔を上げながら燃え、やがて淡い光になって消えていった。
「なんだぁ……?」
二本足の狼が後ろを振り向く。その巨体を影が飛び越え、目の前に着地する。
両手に短剣を握ったコユキだった。
「ソーニャさん! 助太刀に参りました!」



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー