創作発表板@wiki

副隊長

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

副隊長


「おうおうおうおう、これはこれはご機嫌如何ですか。嬢ちゃん」
「中隊長……殿」
本会議室で会った大柄な男、中隊長だ。
今は酒がほどよく回っているらしく、そのでかい顔はかなり赤みを帯びている。
同じ席に着いている男たちも自衛団の人間なのだろう。
「おいおい、殿なんてやめてくれよ。お前が俺の隊長なんだからよぉ」
「それはまだ承認していな……酒臭っ!」
席に座りながら肩に手を回し、顔を近づけてくる。が、その吐息を嗅いで思わず離れる。
同席していた男たちがふられたなーなどと野次を飛ばしている。
中隊長は大げさに落胆したような演技をした後、飲み物を呷る。
そのとき、魔女が容器を両手に持って帰ってきた。
「中隊長か」
「んー? 亀じゃねぇか。外にいるなんて珍しいな」
「面倒だがこれに教え込まないといけないからね」
そう言いながら容器をソーニャに容器を手渡す。先ほどと同じ葡萄酒のようだ。
「納得出来ねぇよなぁ。こんな小娘が俺たちの隊長なんてよぉ。
 兄貴の後釜がこんな奴なんてよぉ」
再び大げさな落胆をして、それに同席の男たちが深く頷く。
そういえば本会議室でも兄貴という言葉が出ていた。
「その兄貴と言う人が先代の隊長だったのか?」
「おう、兄貴は強かったぞ。それに体も俺よりでかかった」
中隊長はそう言って誇らしげに胸を張る。
目の前にいる人間が既にソーニャが遭遇した人間で最も大きいのだがこれ以上となると
何か別の生き物になるのではないかと疑ってしまう。
「誰にも振ることの出来ねぇ馬鹿でかい剣を振るってな。
 寄る敵を紙くずのごとくばっさばっさと切り裂いてる姿はまさしく二つ名の通りだった」
「二つ名?」
「兄貴の二つ名。それは『鉄の旋風』! まさしくこの町の英雄だった」
疑うわけではないがちらっと魔女を見る。目線が合って頷かれる。どうやら事実のようだ。
「だけどよぉ。そんな兄貴も殺されちまったんだ……。あのドラゴンに」
先ほどまでの雰囲気が一気に暗くなる。
その後の中隊長の暗い話すを聞く限りでは隊長は囮としてドラゴンに挑み、やられたようだ。
老いぼれのあれですらあの強さだったのだ。絶頂期のドラゴンなどあの比ではないはずだ。
「ドラゴンの鱗っつーのはよぉ。ちっとやそっとじゃ傷すら付かねぇんだよ。
 魔法だってそうさ。だからあいつは障壁を無理やり突破してきた。
 矢は通らねぇし、爆弾だって効果が薄い。だから魔法使いどもによぉ、大魔法を撃たせるために
 兄貴は囮となってドラゴンの前に出たんだ……」
町を守るべく、凶暴な魔獣の前に命を投げ出した英雄。
ソーニャは確かに町を守るためにやって来た。その意思は今より一層強くなっている。
だがもしも、英雄と同じ状況になった時。
躊躇せずに同じ行動が出来るかと聞かれたら即答が出来ないというのも事実。
おそらくは町の人間は次の隊長も英雄として見る。
それにソーニャが相応しいかと聞かれたら首を横に振らざるを得ない。
「だからこそ俺はお前を認められねぇ。だがお前が隊長であるという事項は覆せねぇ」
「私だって納得出来ない。しかし方法が……」
「ある」
中隊長がそう言って、ソーニャを見つめる。
赤ら顔ではあるが真剣な眼差しだ。
「隊長の座は兄貴の物だ。それは例えお前が本物だとしてもだ。
 副隊長がもう一人出来るぐらいならまだマシなほうだ」
「つまり副隊長に私もなれと?」
「そうだ。それほうがお前にかかる責任もちったぁ軽いし
 最悪俺が全部指示を飛ばせばいいからな。お前は人形にでもなってればいい。
 まぁ役所のおえらいさんの前では隊長らしく振舞ってもらうがな」
「辞退出来ない以上はこちらで細工をするしかないということか。
 だがそれなら最初から私が傀儡になってたほうがいいんじゃないか?」
「どちらでも構わんさ。それは今後考えればいい」
副隊長は残っていた酒を口に流し込む。
ソーニャは胸をなでおろす。辞退できるのが最善だが覆さないのならば仕方ない。
傀儡としてしっかり隊長の任をこなそう。最も何をするかわからないから副隊長に頼りっぱなしだろうが。
「しかしだ。お前の実力を俺たちはまだ知らない。
 自衛団の顔になる人間なんだし、ちったぁ強くないと示しがつかないと思わないか?」
とても嫌な予感がする。気づけば周りの人間がこちらを見ている。
どうやらここにいるのは自衛団の人間ばかりのようだ。
魔女のほうを盗み見したがあくびをしていた。味方はいなかった。
「何、実力を示せばいいんだ。簡単だろう? お前が本物ならな」
目の前の山がおもむろに立ち上がる。脇においていた獲物を手に取り、ソーニャを見下ろす。
「俺の名は『鉄骨折り』のビゼン。貴殿に決闘を申し込もう」



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー