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ガンダム総合スレ「爆光に双子座は煌めく:3」

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爆光に双子座は煌めく:3



185 :爆光に双子座は煌めく 3:2011/04/02(土) 23:35:47.81 ID:qpZvpBwc

「実戦試験!? 今からですか?」

 『ニヴルヘイム』のブリッジに、ウルリケの声が響いた。フィッケル大尉とソウヤ艦長
が、揃って頭を抱えている。

 司令部から届いた電文に、602技術試験隊はソロモンから地球へ出立する艦隊の護衛に加
われ、との命令があった。丁度護衛機の数を揃えられない状況で、しかも時間的な都合か
ら、連邦軍の軍事要塞ルナツーに近い宙域を通らなければならない、とのことである。だ
が602の母艦たる『ニヴルヘイム』は貨客船を改造したもので、小口径の艦砲や機銃が少
数装備されているだけだ。とすれば、頼りになる戦力は試験中のツヴィリング・ザクのみ
となる。

「無茶です! 弾幕構築プログラムは調整中、それにヘッジホッグと長距離航行の試験も
終えていないのに!」

 ウルリケは必死で訴えた。中途半端なままの試験機を実戦投入すれば、どんな結果にな
るか想像もつかない。艦長やフィッケルも当然それが分かっているため、渋い表情をして
いる。
 しかしパイロットのレーゲル少尉、兵装士官のケイルズ少尉は何も言わず、ただ送られ
てきた電文を眺めていた。

「これでは何が起きても、責任が―――」
「責任取らなくてもいい、だとさ」

 フィッケルがウルリケの言葉を遮った。彼にとっても納得できる命令ではないのか、声
に苛立ちが感じられる。

「この実戦試験で試験機がどうなろうと、602が責任を取る必要はない……命令文にはそう
書いてある」
「なっ……それって……」
「ツヴィリング・ザクは捨て駒、ということだな」

 艦長が嘆息し、ブリッジは沈黙に包まれた。
 上層部はツヴィリング・ザクに期待していないのだ。仮にまだ正式採用の可能性が残っ
ていたとしても、上層部からはもはや捨て駒にして惜しくない機体と見られているのは確
かである。

 ウルリケは拳を強く握りしめた。
 彼女の父親はツィマット社の技術者として、モビルスーツの開発に携わっていた。しか
しその機体は試験中に事故を起こし、テストパイロットが殉職、欠陥機の汚名とともに葬
り去られたのである。ウルリケは兵器の欠陥でパイロットが死ぬことを憂い、あらゆる兵
器を正しく評価するべくこの仕事に就いたのである。それが今、不完全な兵器にテストパ
イロットを乗せ、戦場に送りださなくてはならないのだ。
 兵器開発は失敗の連続であることは分かっているが、機体とパイロットを使い捨てにす
るなど、技術者の本分ではない。結局自分たち602技術試験隊も、捨て駒の一つなのだろ
うか。

「……構いやしないさ」

 レーゲル少尉のよく通る声が、沈黙を破った。

「海兵が投入されるのは最前線と相場は決まってる。鉄砲玉になることも死ぬことも、任
務の内だ」
「少尉、今の貴方たちはテストパイロットです! もっと自分の身を……」
「ですが技術中尉殿、現に必要とされています」

 ケイルズ少尉が冷静に、ウルリケの言葉を遮る。彼はレーゲルと比べ線の細い、海兵ら
しからぬ印象だが、その双眸に確かな信念の光が宿っていることを、ウルリケは感じた。
同時に、有無を言わさぬ気迫も。

「僕らが護衛に加わることで、少しでも同胞を守れるかもしれない。いや、守らなければ
ならないんです」
「そう……やれと言われたことを、全力でやるしかないんだよ。連邦のクソ共だって、歩
兵のミサイルや戦車でザクに挑んでくるんだ。笑われちまうぜ?」

 レーゲルが艦長の方を見た。不敵な笑みを浮かべ、血を滾らせるレーゲルと、唇を固く
結んだソウヤ艦長が、しばらく互いを見つめあう。
 荒くれの海兵と、民間船時代からの船長……立場は違えど同じ海の男だ。彼らには互い
の思いが伝わっているのかもしれない。
 やがて、艦長は結んだ口を開いた。

「ソロモンに進路を取れ。本艦は艦隊護衛に加わる」


 ……その後、ウルリケはケイルズと共に、射撃管制コンピュータ『シューツェγ』の調
整、そしてシュミレーションを行った。一介の技術仕官が何を言ったところで、上層部の
決定は覆らない。彼女にできるのは、機体とパイロットたちを少しでも良い状態で送り出
してやることだけだ。

 ケイルズとレーゲルは、一切恐れていなかった。賞賛も栄誉も無くとも、自分の任務に
誇りを持ち、それが自分の生きる道と信じて戦い続ける男。
 ウルリケの父も、そのような人間だった。テストパイロットの死亡事故をきっかけに機
体の開発が中止された後も、罵倒と嘲笑を受けながらその後の仕事に携わっていた。それ
が、ジオンのため自分にできる唯一のことだったからである。

 調整作業の後、ウルリケは射撃プログラムのコピーを取った。まだ扱いが難しいとは言
え、シューツェγは非常に優秀な射火器管制システムである。実戦試験の結果がどのよう
な物になろうと、ツヴィリング・ザクの正式採用が立ち消えになろうと、自分たちが調整
したこのプログラムは次に伝えたい。それがいずれ、何かに活かされると信じて。

 彼女の父が、そうしたように。


 宇宙要塞ソロモンにて補給を済ませた『ニヴルヘイム』は、増援艦隊と共に出港した。
物資を積んだパプワ級補給艦の他、護衛モビルスーツを搭載したザンジバル級機動巡洋艦
も多数存在する。武装の少ない『ニヴルヘイム』は比較的安全な艦隊中央部に入って、ツ
ヴィリング・ザクのデータを収集するのである。

 ソロモン出港からしばらくして、ツヴィリング・ザクが発艦し、護衛位置で飛行を開始
した。双胴機の利点である長大な航続距離を試験するためで、今回はプロペラントタンク
も搭載している。

「レーゲル少尉、推力等に異常はありませんか?」
《問題ない。良い調子だぜ》

 モニターではレーゲルが余裕の笑みを浮かべていた。
 補給なしで長時間防衛目標に随伴可能ということは、それだけパイロットに負担がかか
るということに他ならない。護衛機はザンジバル級に搭載し、必要に応じて発進・迎撃さ
せる方が効率的だと、上層部は判断したのかもしれない。どんな優れた兵器でも人間が乗
るからには、人間の限界以上のことはできないのだ。他にも双胴モビルスーツを運用する
設備を艦や基地に設けなければならないなど、問題点は多く存在する。

「射撃管制コンピュータだが、結局どんな塩梅だ?」

 フィッケルが尋ねた。敵が出てくるまで暇だからポーカーをやろう、などと言わない辺
り、彼も軍人として同僚に配慮する能力はあるらしい。

「機体の挙動に追従できるよう、出来る限り改良を施しました。加えてより高い密度で弾
幕を形成するよう調整してあります。扱いは難しいですが、彼らなら……」
「よし」


 護衛機の目的は敵機を撃墜することでなく、敵の攻撃を妨害して味方を守ること。二次
大戦の頃から変わらない常識だ。それ故、勇猛なパイロットほど戦功にはやり、本来の役
割を忘れてしまうことが多い。
 しかしレーゲルたちは、突撃が主任務の海兵隊員でありながらも、護衛任務に優れた適
正を見せていた。彼らが何故この任務に志願したのか、ウルリケは知らないが、今は彼ら
の技術と判断を信じるしかない。


 しばらくの間、異形の機体は艦隊に寄り添って航行した。記録映像を撮影しながら、『ニ
ヴルヘイム』も周囲を警戒する。
 レーゲル少尉は落ち着いて、操縦を続けていた。

《入電! 10時方向より機影多数!》

 無線を通じて、ウルリケの声が聞こえる。すぐさまそちらへ機体を向けると、ブースタ
ーの炎が多数接近してきた。遠くから見れば蛍の群れにさえ見えるそれは、まさしく敵軍
の襲来だった。

《突撃艇の群れだ。サラミスもいるみたいだね》
「へっ……数は立派だな!」

 レーゲルは不敵な笑みを浮かべる。
 護衛のザンジバル級やムサイ級がザクを発艦させはじめ、護衛部隊が展開する。異形の
モビルスーツ、ツヴィリング・ザクも、初陣の時が来たのだ。

「やるぜ……漁の始まりだ!」

 二つのモノアイが光った。

【 続く 】

ようやく第3話。ちょい前に社会人になったせいでなかなか書けないが、次回で「ツヴィリング・ザク編」は終わると思います。
次の主役機も考えているので、暇なときにでも読んでもらえれば、と。




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