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「新聞」、「朝日」、「鳥肌」②

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「新聞」、「朝日」、「鳥肌」②




562 名前:新聞、鳥肌、朝日 1/3:2008/12/25(木) 00:53:55 ID:ny94vRhR
まだ夜も明けきらない時間帯、朝の6:00。朝日の気配が感じられるものの、依然として闇が辺りを占めている。
僕はそんな暗がりの中、息を切らしながら走っていた。走っているのに、身を裂くような寒さがなくなることはない。
厚手の服の上から、染み入る寒さが何とも辛い。なぜ、休日の早朝に、僕はこんな目に会わなければならないんだろう。
僕をこんな目に会わせている張本人は、そこの角を曲がったところの公園にいる。
きっと頬をふくらまして……
「遅いわ、優人君。10分遅刻!」
やっぱり……怒っていた。
「すみません。でも、こんな朝早くから待ち合わせしなくてもいいじゃないですか……」
「だめよ、ジャーナリストにとっていつでも活動できるようにしておくことは、すごく重要なの。優人君は朝に弱いみたいだから、訓練も兼ねて集合はしばらくこの時間帯よ」
最悪だ……。でも、口ごたえしたところで無駄なのかもしれない。それよりも今は、少しでも早く暖かい所へ移動したい。
「とりあえず、どこかに移動しませんか?まさか真冬の公園で打ち合わせするつもりじゃないですよね?」「そうね……私はそれでもいいかと思ってたけど、優人君寒そうだし、喫茶店に移動しましょうか」
綾子先輩はそう言うと、公園の出口に向かって歩き出した。僕もついていこうとしたところ、綾子先輩はくるりと振り返った。
「これ、貸してあげる。鳥肌立ってて、寒そうだわ」
遠子先輩はするりとマフラーを首から外すと、手早く僕の首に巻き付けた。心地好い暖かさが、首周りを覆う。
「ありがとうございます……。でも鳥肌なんて見えてないですよね」
僕は当たり前だけれど、半袖を着ているわけじゃないのだから。
遠子先輩は鳥の羽のように柔らかく微笑むと
「ジャーナリストの勘よ」
と得意気な顔で言ったのだった。



563 名前:新聞、鳥肌、朝日 2/3:2008/12/25(木) 00:57:41 ID:ny94vRhR
朝早くから営業している珍しい喫茶店に入ると僕達は打ち合わせを始めた。
正確に言えば、綾子先輩の思いつきから発動する暴走を抑止するのが僕の仕事だ。
「でね、目撃情報もあるのよ。だからここはひとつ未確認飛行物体の記事を一面に……!」
「だめですよ。それじゃ校内新聞じゃなくて、どっかの怪しいスポーツ新聞になっちゃいますよ」


「『木村先生の不倫疑惑発覚』なんていう記事は?不確かな情報だから少し調査する必要があるんだけど」
「誤報だったら訴えられるからダメです!っていうか、本当だったとしても校内新聞で取り上げるのはまずいですよ」


「森君失踪事件は?」
「今まで先輩が言った中では一番まともな記事になりそうですけど、森先輩は変わった人ですからね。
夏休みのときみたいに、どこかに旅に出てるだけじゃないですか?あまり騒ぎたてるのも良くないと思いますが」


あれやこれやと話し合い、結局決まったのは『運動部の大会結果』と『中華まんのグルメレポート』。
後者は校内新聞のネタとしてはどうかと思うけど、仕方ない。他にネタがないのだから。
というのも、綾子先輩の熱意が異常で、部員が四人しかいない(内、二人は幽霊部員)にも関わらず毎週一、二回のペースで発行し続けているのだ。
冬休みも『部活で学校に来る人は多い』との理由で、発行のペースはまるで落ちていない。




564 名前:新聞、鳥肌、朝日 3/3:2008/12/25(木) 00:59:51 ID:ny94vRhR
「さぁ優人君、たくさん食べて、しっかりレポートするわよ!」
首からデジカメをぶら下げて、やけに張り切っている綾子先輩に付き従い、僕は色々な店を回った。
コンビニ、スーパーなどの地域の店をのぞいて回れば意外とバラエティーに富んだもので、なかなか面白い記事になりそうだった。

「ピザマンやアンマンだけじゃないのよね、今は。見て!ストロベリー味やプリン味もあるわ!あ、でもあっちの豚の角煮まんも美味しそう……。これは全部トライしてみなきゃだめね」
「そうですね、でもお金、大丈夫ですか?」
「余裕よ、余裕。部費けっこうもらってるしね。お腹に入りきらなくなるまで、とにかく食べ尽しましょう!限界に挑戦よ!」
趣旨が変わってきている気がしたけれど、僕は黙って頷き、綾子先輩の差し出す袋を受け取った。
暖かい湯気が袋から立ち上り、香ばしい匂いが鼻を刺激した。



「優人君」
「はい」
僕達は部費を数千円使って、たっぷりと食べ尽した。既に昼ご飯の時間帯に近づきつつあるが、もう満腹だ。
「いっぱい食べたわね~。お菓子みたいな中華まんから、洋風だったり、和風だったり……中華まんの新しい可能性を探り続けている人達の努力が伺えたわね」
「そうですね。記事も意外と華やかなものになりそうですよね」
「でも……」
「ですね……」
僕達は、一つの結論にたどり着いていた。それは……
「普通の肉まんが一番おいしいわね」
「そうですね。やっぱり普通が一番ですよ」




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