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「カボス」、「巫女」、「こたつ」②

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「カボス」、「巫女」、「コタツ」②




488 名前:お題:巫女、カボス、こたつ 1/2:2008/12/05(金) 11:47:28 ID:QjHhxKPt
 俺が学校からの帰り道商店街をいつものように歩いていると少女に話しかけられた。
「あんた、私の代わりに巫女になりなさいよ」
 巫女という字には女という文字が含まれており、
 俺は口調と一人称から判断できる通りに男なので、
 頼む相手としては相応しくないなぁとか、
 それを言うんだったら巫男という読み方も分からないような単語が適当なんじゃないかなぁ、
 と一瞬でよくここまで考えられるよな、と思わず自画自賛したくなってしまうような思考を経て、答える。
「お断りします」
 こういう輩に対しては明確な意思表示をする事が大切だ。
 曖昧な返事をすると間違いなく自分の都合のいいように解釈されてしまう。
「いいから、ほら、早くこれ着て」
 渡されたのは巫女装束であり、目の前にいる少女が着たらさぞ似あうのであろうが、
 俺が着てる姿を想像しても気持ちが悪いだけだ。
 いや、案外目の前の少女もそういう事なのかもしれない。
 人間だれしも自分に対する評価というのは低くなりがちだ。
「大丈夫、俺が保証する」
「はぁ? あんた何言ってるの?」
 何を言っているのかと聞かれれば、確かに何を言っているか分からなかったなぁ、と反省しつつ
 少女に手渡された巫女装束をどうしたもんかと逡巡する。
「早く!! ヤツラが来ちゃうじゃない!!」
 少女の焦り具合は尋常ではなく、授業中に便意に襲われた小学生のそれと同じくらいであり、
 こう表現するとイマイチ焦り具合が分かりにくくなるが、それはもう焦っている様に見えた。
「早く着替えなさいよ!! 地球のピンチなのよっ!!」
 俺が巫女装束を着ないと地球がピンチになるのか。
 地球の平和の安さに驚くべきなのか、自分の巫女装束姿の高さに驚くべきなのかを考える。
 しかしそれがこの事態の解決につながる訳ではないと、ふと気が付く。まさに天啓。


489 名前:お題:巫女、カボス、こたつ 2/2:2008/12/05(金) 11:48:17 ID:QjHhxKPt
「分かった、着るよ」
 別に何が減る訳でもなく、唯一減るものといったら俺の時間くらいなもんだろうが、
 この無意味な押し問答をする時間と比べたら、巫女装束姿を少女に見せる時間と大差無いように思えたのだ。
 流石にこの衆人監視の商店街で着替えるのは勘弁してほしいなぁとは思ったが、
 少女の眼圧に俺は耐えられれなかったのでいそいそと着替えることにする。
「あんたが着ればいいんじゃないか?」
「私には巫力がないの」
 巫力と言われても俺は浮力の方しか想像できず、
 遠まわしに俺が周囲から浮いていることを揶揄されたのかと深読みしてしまったが、
 少女の説明を聞くと巫力は霊力のようなものであり一種の才能のようなものであり、
 本来は修行をしなければ使えないらしいのだが、
 少女に手渡された巫女装束には着てる者に巫力を引き出す力を与えるらしい。
「おっし、着れたぞ」
「似あうじゃん」
 そう言って少女は不敵にほほ笑んだ。嫌味か?
「あれが敵よ」
 そういって少女の指さす先には確かに黒くてふわふわした何かが浮かんでいた。
「で、俺は何をすればいいんだ?」
「近づくと危ないから、遠距離から何かを投げつければいいわ」
 何か投げつけるのに適当なものがないか周囲を見渡すが何も見当たらない。
 とりあえず八百屋のおっちゃんに事情を説明すると、
 腐りかけのカボスを提供してくれることになった。
「巫力を込めて、思いっきり投げつけて」
 巫力を込めろと言われても、初めて使う力だから勝手が分からない。
 幸いカボスは大量にあることだし、とりあえず試してみるか。
「えい」
 やる気のない感じにカボスを放り投げる。
 近所の小学生でもこれをキャッチするのは容易いだろう、という球速、軌道。
 カボスはやる気のない放物線を描いて黒いふわふわしたもにあたり、消滅。
 余りのあっけなさに気が抜ける。そもそも気を込めていたのかは謎であるが。
「お疲れ」
 そういうと少女は俺の家の方向とは逆方向に歩いていってしまう。
 巫女装束は返さなくていいのかと思うも、これが報酬なのかもしれないと閃き、
 俺の生活に巫女装束がまた必要になる事態は無いので報酬としては成立していないという結論に達する。
 制服に着替えようかと思ったが、人目が痛いので走って家に帰ることにする。
 何がなんだか分からないが、人生なんてそんなもんかもしれない。
 突然人生なんて語りだしてどうしたんだコイツは、と思ったかもしれないが、
 こういう時は意味の分からない深そうな事を言って置くのが定石ってもんじゃないかと俺は思う。
 疲れた、思考のしすぎなのかもしれない。家に帰ってコタツにでも入って温まろう。
 如何せんこの巫女装束ってのは薄着でいかん。体の芯まで冷え切っている。
 人生とは巫女装束のようなものかもしれないな、そんな事を考えながら早足で家路につく俺なのであった。




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