「ロサンゼルス移送」、「最後の晩餐」、「鉄道」
179 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 23:44:17 ID:zgyGonTo [2/3]
いつもは一日のうちで最もくつろげるはずの我が家での時間。
しかも今日は明美がわざわざ来て料理を作ってくれたのだ。
気分が晴れないわけがない……はずなのに、今日は暗い気持ちで心が塞がっていた。
「これが最後の晩餐だな……」
「何言ってんのよ―。別に殺されるわけじゃないじゃない」
「でも、あっちは職場のほとんどのやつがネイティブだぜ?おまけにチーフが鬼らしい。死んでもおかしくはねぇな」
俺はネクタイを緩め、ビールをぐいっと流し込んだ。冷たさが喉を刺激する。
「でも、ロスで仕事なんてかっこいいじゃん。選ばれたんだから、胸張りなさいよ―」
「選ばれたっていうか……ロスに強制的に移送されるっていう表現の方が近いかも」
「だめよ、そんなネガティブに物事を考えちゃ。活躍のチャンスって捉えなきゃ、ね?」
明美が晴れやかな笑顔で俺の肩に手をのせ、顔をのぞきこむ。
幾度となく、俺はこの笑顔に癒されてきた。でも俺がロスから帰ってきたとき
この笑顔が俺に向けられることはないだろう。ロスでの勤務は3年。
俺達の距離が自然と遠ざかっていくには十分すぎるくらいの時間だろう。
明美ははっきり言って可愛い。ほっといても自然と男は寄って来る。中には心惹かれることもあるだろう。
そしたら……きっとその後は……。
しかも今日は明美がわざわざ来て料理を作ってくれたのだ。
気分が晴れないわけがない……はずなのに、今日は暗い気持ちで心が塞がっていた。
「これが最後の晩餐だな……」
「何言ってんのよ―。別に殺されるわけじゃないじゃない」
「でも、あっちは職場のほとんどのやつがネイティブだぜ?おまけにチーフが鬼らしい。死んでもおかしくはねぇな」
俺はネクタイを緩め、ビールをぐいっと流し込んだ。冷たさが喉を刺激する。
「でも、ロスで仕事なんてかっこいいじゃん。選ばれたんだから、胸張りなさいよ―」
「選ばれたっていうか……ロスに強制的に移送されるっていう表現の方が近いかも」
「だめよ、そんなネガティブに物事を考えちゃ。活躍のチャンスって捉えなきゃ、ね?」
明美が晴れやかな笑顔で俺の肩に手をのせ、顔をのぞきこむ。
幾度となく、俺はこの笑顔に癒されてきた。でも俺がロスから帰ってきたとき
この笑顔が俺に向けられることはないだろう。ロスでの勤務は3年。
俺達の距離が自然と遠ざかっていくには十分すぎるくらいの時間だろう。
明美ははっきり言って可愛い。ほっといても自然と男は寄って来る。中には心惹かれることもあるだろう。
そしたら……きっとその後は……。
そう、明美と俺が二人でテーブルを囲む晩餐はこれが最後になるに違いないのだ。
「ねぇ、明日は空港まで電車で行くんでしょ?何時発?」
明美がにこやかに聞いてきた。
「えっと7:20のやつには乗らないとまずいな」
「そっかー、じゃあ今日はあんまり遅くまで起きてられないね」
寂しげな口調ではない。いつも通りの口調。明美は寂しくないのだろうか。
明日からは一緒にいられないと言うのに。ひょっとしたら、関係を自然消滅させる良い機会だと思っている?
バカな。そう思いながらも、その考えを捨て去ることができない。
俺はビールの缶を握り締め再び喉を潤そうとした。しかし、既に中身は、空だった。
「ねぇ、明日は空港まで電車で行くんでしょ?何時発?」
明美がにこやかに聞いてきた。
「えっと7:20のやつには乗らないとまずいな」
「そっかー、じゃあ今日はあんまり遅くまで起きてられないね」
寂しげな口調ではない。いつも通りの口調。明美は寂しくないのだろうか。
明日からは一緒にいられないと言うのに。ひょっとしたら、関係を自然消滅させる良い機会だと思っている?
バカな。そう思いながらも、その考えを捨て去ることができない。
俺はビールの缶を握り締め再び喉を潤そうとした。しかし、既に中身は、空だった。
180 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 23:48:02 ID:zgyGonTo [3/3]
朝、駅の構内は人がまばらだった。発車を知らせるアナウンスが虚ろに響いている。
「悪いな、わざわざここまで送ってもらっちゃって」
「そんな……別にいいよ。せっかくの出陣なんだしやっぱり見届けなくちゃ」
そう言って明美は笑った。
「じゃ、行ってくるよ。元気でな」
俺はそう行って改札を通ろうとしたとき「待って」と明美が言って、俺の肘をつかんだ。
「これ持って行って……私とお揃いなんだ。御守りだよ」
そう言って小さな紙袋を渡してきた。
「お、サンキュ。ご利益がありそうだな」
「ううん、ないよ。中、開けといたから。御守りって開けて中を見ちゃうと
ご利益なくるんだよね。だからむしろ逆効果、かな」
「は?」意味がわからなくて呆然とする俺をよそに明美は話を続ける。
「それ恋愛守りなんだ。向こうでいっぱい新しい出会いがあるでしょ?だから……」
「俺と、他の女との恋愛がうまくいかないように……?」
明美はコクりと小さな首を縦に振った。そして、そのまま顔を下げたままにする。
顔は見えないが、肩がわなないている。
「そんな……俺は絶対、浮気なんかしないよ」
「本当に?」
うつむいたまま、声を震わせ明美が言う。
「だって3年だよ……?」
「大丈夫だよ」
俺はそう言って人目もはばからず、そっと明美を抱き寄せた。
今度、もしまた一緒に飯を食えるときが来るなら……そのときは……。
最高の晩餐にしよう。昨日のを最後の晩餐になんかさせない。
腕の中の暖かな温もりを感じながら、俺はそう心に誓った。
朝、駅の構内は人がまばらだった。発車を知らせるアナウンスが虚ろに響いている。
「悪いな、わざわざここまで送ってもらっちゃって」
「そんな……別にいいよ。せっかくの出陣なんだしやっぱり見届けなくちゃ」
そう言って明美は笑った。
「じゃ、行ってくるよ。元気でな」
俺はそう行って改札を通ろうとしたとき「待って」と明美が言って、俺の肘をつかんだ。
「これ持って行って……私とお揃いなんだ。御守りだよ」
そう言って小さな紙袋を渡してきた。
「お、サンキュ。ご利益がありそうだな」
「ううん、ないよ。中、開けといたから。御守りって開けて中を見ちゃうと
ご利益なくるんだよね。だからむしろ逆効果、かな」
「は?」意味がわからなくて呆然とする俺をよそに明美は話を続ける。
「それ恋愛守りなんだ。向こうでいっぱい新しい出会いがあるでしょ?だから……」
「俺と、他の女との恋愛がうまくいかないように……?」
明美はコクりと小さな首を縦に振った。そして、そのまま顔を下げたままにする。
顔は見えないが、肩がわなないている。
「そんな……俺は絶対、浮気なんかしないよ」
「本当に?」
うつむいたまま、声を震わせ明美が言う。
「だって3年だよ……?」
「大丈夫だよ」
俺はそう言って人目もはばからず、そっと明美を抱き寄せた。
今度、もしまた一緒に飯を食えるときが来るなら……そのときは……。
最高の晩餐にしよう。昨日のを最後の晩餐になんかさせない。
腕の中の暖かな温もりを感じながら、俺はそう心に誓った。