R2-D2

ACT.13

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 カルロとの激闘を経て更に二度もの野宿を乗り越えた珠生たちは、遂に山の麓の町にたどり着くことができた。
「な、長かったぁー……」
 荷物持ちとツッコミ隊長を担う八重は、肉体的・精神的な疲労でクタクタのようだ。
「てか、何で私がずっと荷物持ちなのよ!」
「何か臭いな」
 漂ってくる匂いに、歩は顔をしかめる。
「硫黄の匂いだね」
「この町には温泉があるでゲス」
「なるほど、どうして活火山の麓に町なんかつくるのかと思っていたけど……温泉目当てだったんだね」
「この後山越えも控えていることですし、しっかり休養することにしましょう」
「オラはオンセン、入れないけどな~」




 ACT.13 Break
           ~温泉に入ろう!~




 活火山の麓にある、温泉の町キヌガータウン。そこは元々人間がつくった町であり、デジモンが住み着きはじめて久しい現在においても、住人の割合は人間の方が高い。
 温泉の町といってもここは大陸の西の果て。すぐ北には山があり、南にある街もグルーミータウンのみ。だから決して観光地とかではなく、温泉はもっぱら住人達が楽しむためにある。温泉と言えば宿の大浴場というイメージがあるが、ここではそのイメージはズレたものである。
 だが勿論、まったく宿が無いというわけではない。
 珠生達が宿泊することに決めたのは、高級感漂うとまではいかないがボロくもない、まあこんなもんかな、と思えるような、いわゆる普通の温泉宿であった。
「デジタルワールドの建物ってよぉ、オレらの世界では見ないようなヘンテコなものがたくさんあるのかなーなんて期待してたけど、案外フツーなのな」
「確かに。コンクリート使ってるのは意外ね」
「人間たちがもたらした建築技術を用いていますからね」
 部屋に入り、まったりしている八重たち。だがそこに珠生とヘリアンの姿はない。
「この部屋なんか畳だぜ」
「いー眺めだなー。山しか見えないけどなー」
 モユルは窓を開けて外を眺めている。そこから見える山肌には緑もチラホラ見られるが、そのほとんどは黒々とした火山岩であった。
「ねぇウィズ、あの山が最後に噴火したのっていつ?」
 八重は山を指差しながら訊ねる。
「確かそうとう昔のはずです」
「というと三年くらい前か」
「オラは二年前と見た」
「人間がここに町をつくる前と聞きましたから……三百年くらい前だと思いますよ」
「何ぃ!?」
「オラたち、二人とも惜しかったなー」
「そうでもないって……ていうか、え? そんなに昔から人間がいたの?」
「といってもデジタルワールドの時間で、ですが」
「どういうこと?」
「デジタルワールドとあなた方の世界では、流れる時間の速さが大きくことなります」
「どれくらいの差があるの?」
「さあ……詳しくはわかりませんが、デジタルワールドの方が圧倒的に早いらしいです。二倍、三倍ではきかないかと」
「へぇ……」
「珠生たちはどこ行ってんだー?」
「見物してくるって言ってたけど……」
「なんだ覗きかよ」
「いや、アンタじゃあるまいし」




 キヌガータウンの中央通り。温泉まんじゅうやら温泉タマゴやら温泉モチやら温泉ジュースやら温泉アイスやら、様々な食べ物を売っている店屋が立ち並ぶ。
「見てよヘリアン、温泉ティッシュだってさ。いったい何物なんだろう?」
「あっちには温泉メテオってのがあるでゲス。よくわからないけど世界の終わりを感じるでゲス」
 珠生とヘリアンは、主に地元の住人でにぎわうこの通りを、二人中良く歩いていた。
「ねぇヘリアン」
「ゲス?」
「どうしてデジヴァイスでデジモンは進化するのかな?」
「よくわからんでゲス」
「ウィズに訊いたら、『デジヴァイスはインターフェースに過ぎない。重要なのは人間の感情だ』って言ってたよ」
「そうなんでゲスか……デジヴァイスで進化しといて難でゲスが、アッシはそんなことちっとも知らなかったでゲス」
 ヘリアンは恥ずかしそうに頭を爪でボリボリと?く。
「そうか……じゃあ、いわゆる『理不尽な来訪者』についてはどれくらい知ってる?」
「なんでゲスかそれは」
 ヘリアンは、本当に何のことか分らないという顔をしている。
 珠生はそのヘリアンの様子で、兼ねてから抱いていた疑念のヒントを得た気がした。
「じゃあさこれは知ってる? この大陸のさ……」
 それは彼らのこの旅の意味に関わる疑念。
「初耳でゲスー……」

 ウィズこそが、「理不尽な来訪者」そのものなのではないかという疑念である。




 そしてその夜。
「なんでぇ! 男湯と女湯に分かれてんのかよ!」
 宿の脱衣所の前で、歩が抗議の声を上げる。
「人間もいますから。当然です」
「残念でした」
 そういう八重は内心ホッとしていたりする。
「なんで残念なんでゲスか?」
「人間の男はね、女の人に触りたいとか、裸を見たいっていつも思ってるんだよ」
「アッシにはわからんでゲス」
「デジモンには進化したいっていう願望があるみたいだけど、人間の男にはその願望の代わりにそういうのがあるんだよ」
「じゃあ女には進化願望の代わりにどういう願望があるでゲスか?」
「それは勿論、男の人に触りたい、裸を見たいっていう願望が……」
「ありません!」
 八重は珠生の頬を捻りあげる。
「痛い痛い痛い」
「あれ? でもガキのころ一緒に風呂に入ったときはオレの……」
「黙れ!」
 八重はもう片方の手で歩の首を握りしめる。
「ぐふっ……し、死ぬ」
 気道が締められている上に爪が肉に食い込んでいるのである。苦しさと痛さの二重苦に、さすがの歩も悶絶する。
「さぁ皆さん、早く入ろうじゃありませんか」
 ウィズがどうどう、と八重をなだめる。
「あまりモユルを待たせても可哀想ですし」
 モユルは湯につからずとも湿気が多い空間自体が苦手なため、荷物の見張りなども兼ねて部屋で留守番をしているのであった。
「た、助かった……」
「今度その話したら、殺すから」
 八重はさっさかと脱衣所に入る。
「ではお二人とも、また後で」
 ウィズは八重に続いて脱衣所に入ろうとする。
「「待てい」」
 珠生と歩は同時にウィズを引き留める。
「お前はどこに入ろうとしてやがる」
「脱衣所ですが?」
「なぜ女湯の脱衣所に入ろうとしてるんだい」
「なぜって……デジモンに性別はありませんから……」
「だったらコッチでもいいだろうが!」
 歩はウィズを自分たちの方に引っ張る。
「えー……」
「「えじゃねぇよ」」
 珠生と歩は、そのままウィズを無理やり男湯まで引きずって行ったのであった。
「……アッシにはわからんでゲス」
 やれやれ、と一人溜息をつくヘリアンであった。

 この宿の浴場には室内浴場と露天風呂があり、当然珠生たちは露天風呂に直行したのであった。何故「当然露天風呂」なのか? それがお約束というものだからである。
「そう、そしてお約束はもう一つある」
 歩は腰に手を当て、男湯と女湯のしきりの前で仁王立ちする。
「それはご存じ覗きであるッ!」
『こっちまで聞こえるような馬鹿デカイ声で宣言してんじゃないわよ!』
 しきりの向こうから八重のツッコミが聞こえる。
「ハッハッハ。お前のまな板がどれくらい成長したか確認してやるぜ!」
『――! アンタ後でコロス!』
「分かってないね歩」
 歩の隣に珠生も仁王立ちする。
「女性の体で見るべき点は足とお尻だよ。特に八重ちゃんの場合はね」
『ほっとけ!』
「おう珠生お前……やる気まんまんじゃねぇか!」
「フッ……そういう歩こそさすがだよ」
 珠生と歩は目で合図し、互いに頷く。
「行くぞ!」
「おう!」
 歩は仕切りの際まで音もなく移動すると、屈んで仕切りに手をつく。珠生は歩の肩に足を乗せ、同じく仕切りに手をついて体を安定させる。つまり歩の上に珠生が乗る形となる。
 だがこのまま歩が立ち上がったところで仕切りの高さを越えることはできない。
「だがもちろんそれはわかっている!」
「そしてそれをカバーするのがオレの体力と!」
 歩は、肩に珠生を乗せたままでジャンプする。珠生の伸ばした片手が、仕切りの上部に引っかかる。
「僕の頭脳だ!」
 そのまま珠生はもう片方の手も引っ掛けて胸のあたりまで仕切りの上に出すと、片手を下に伸ばして歩を引っ張り上げる。
「僕たちはいつもこうして来た!」
「珠生が突破口を見出して!」
引っ張り上げられた歩の片手が仕切りに掛けられる。
「歩がそれを切り開く!」
 歩の頭が仕切りの上に出る。
「そしてオレたちはこれからもそうする!」
「僕ら二人に乗り越えられない壁なんてないんだ!」

 露天風呂には、他にもお約束がある。
「うわ、ちょ、倒れ……」
 例えばそう、仕切りが倒れちゃうとか。
「うおおおおおお!? こ、こんな時にぃ!」
 それは多くの場合、嬉しいハプニングだったりするのだが……。
「やれやれだね……フッ」
 もう少しで覗きが成功しようという時には、なんというか、余計なお世話ですらある。
 仕切りの上部にいた二人は、そのまま女湯の露天風呂の湯船にダイブしてしまった。
 その後の二人の運命は、とてもではないが筆舌に尽くしがたい。書く勇気を持たない私を許してほしい。

「温泉は気持ちいいですねー」
「ホントでゲスな」




 そんなこんなで温泉宿で一泊した珠生たちは、翌朝早くに町を出て、早々に山越えに入った。ゴツゴツした火山岩の足場は何とも歩きにくく、八重やウィズは何度か転びそうになる。
「やっぱり荷物係はアンタで正解ね」
 度重なる協議と脅迫の結果、荷物係は歩に決定したのであった。
「まー特に文句はねぇけどもさ」
「この山を越えるのに、どのくらい日数がかかるでゲスかね?」
「休息を取りながら登らないといけませんからね……どんなにはやくても五日はかかるかと」
「オラは飛べるからラクチンだー」
「おや、あれはなんだろう?」
 珠生は前方に何か青い物体を発見する。
「あれ、デジモンじゃないのか?」
「大きさからして成長期ですかね」
「あれ?……なーんか軽くデジャブ……」
 八重はヘリアンの方を見る。
「な、なんでゲスか?」
 珠生たちがその物体の傍に寄ってみると、それはやはりデジモンであった。
「ウィズ、このデジモンは?」
 珠生が尋ねる。
「これは……ブイモンですね」
「ウィズは物知りでゲスなぁ」
「なんだよ、お前は知らないのか」
「オラも知らないぞーこんなデジモン」
「少なくともこの辺では見ないデジモンでゲス」




 突如現れた謎の行き倒れデジモン、ブイモン。彼が珠生たちにもたらすものは一体…?

 切れのいいところで次回に続く。

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