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我はここに在り

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我はここに在り ◆YhwgnUsKHs


 会場内を横断している長い線路。
 それを2人の男女が辿って歩いていた。
 先を行くのは仮面を付けた男性、ハクオロ。その後ろを少女、園崎魅音が周りを警戒しながら歩いている。

 2人は簡単な自己紹介等を終えた後、まずは自分たちの位置を確認しようととりあえず西へとまっすぐに進んだ。
 そして線路に行き当たり、魅音がこれに沿って歩いていく事を提案。
 理由は、線路に沿って歩いていけば必ず駅にたどり着ける。地図を見れば、駅は3つ。
 もしかしたら、駅自体にエリア名が書いてあるかもしれない。なくても、周りの風景である程度の判別はできるはず。
 魅音がそう話すと、ハクオロはそれを承諾した。
 そして今に至る。


「ねえ、ハクオロさん」
「ん?なんだ、園崎」

 魅音が前を歩くハクオロに声をかけ、ハクオロが歩きながらそれに応えた。
 線路を沿って歩いてかれこれ1時間ほど。未だ目立つ建築物などは見当たらない。
 参加者ともいまだ遭遇していない。

「確認なんだけど、とりあえず信用できそうな人はアルルゥ、エルルゥ、カルラ、トウカ、ベナウィって人たちでいいんだよね?」
「ああ。全員このような殺し合いなどというものには乗るまいと断言できる。
 園崎の方は、前原圭一、竜宮レナ、園崎詩音、北条沙都子、古手梨花、で合っているか?」
「うん、大丈夫。みんな信用できる」

 2人とも互いの知っている人物で名簿に載っていた人物はみな信用できるもの達ばかりだった。それは恐らく安心していいこと。
 しかし、相手には2人ともそうは言ったものの、実は内心は一抹の不安を抱えていた。

(しかし、アルルゥやエルルゥはともかく、残りの3人は私に対して盲目的なところがある。
 自惚れるつもりはないが、もし私だけでも生き残らせたい、などと考える者がいたならば……。
 バカな。そんなわけがない。信じろ、彼らを)

(でも……詩音だけはわからない。詩音は悟史に対しては物凄い愛情を傾けてる……。
 もし、詩音が私たちよりも悟史との日々を優先したら……。
 それに、沙都子も心配だ。梨花ちゃんから聞いた雛見沢症候群……。
 沙都子はそれを一度発症してる分、潜在的に持っている私たちよりも発症しやすい。
 こんな状況下じゃ発症なんて簡単だ……。そうしたら沙都子は疑心暗鬼の固まりになって……。
 っ! 何考えてるのさ園崎魅音! 妹や部活仲間を信じなくてどうすんのさ!)

 互いに些細な不安を抱く。けれど、相手に話してもし仲間が安全だったなら、それは無用な不信感を植え付けることになってしまう。
 ハクオロと魅音。互いに先を心配することが仇となり、その不安を打ち明けられずにいた。


 そんな2人に、殺意は容赦なく牙をむく。

「園崎!」


 *****

 次々と消えていく人間達。
 最後に残されたのはオレだった。

「ふふふ。ミュウツー、だったな。なぜ君が最後までここに残ったのか、わかるかい?」

 知るものか、と奴に向けて念を送ってやる。
 本来なら信用していない人間相手にこのようなことはしない。
 自身の念を送るのは自分が信用した人間と、深い殺意を向ける相手だけだ。
 前者はオレをかつて捕まえたレッドとかつてともに戦ったイエロー。
 後者はオレを作り出した男、サカキ。
 そして今、その対象に加えた目の前の男。命を簡単に葬り、殺し合いを強要する下種、ギラーミン。
 当然理由は、後者だ。

「ほう。念の伝達能力か……安心してくれ。『その能力』には制限を加えていない」

 何?
 制限、という言葉が気にかかった。
 そして自らの体がやや重い事に気づき、更に自らの能力がいくつか使えないことに気付いた。
 念で相手を探知する能力、周りにバリアを張る能力……。
 この忌々しい首輪のせいか?
 オレは更に深い殺意の視線を奴に向ける。




「はは。まあ待ってくれ。さっきの質問の意味を教えよう」

 そう言うと、奴の背後にモニターのようなものが現れ、それに何かが映し出された。

 その何か、を見て私は愕然とした。


「喜んでもらえたかね。では、君に頼みがあるんだよ」


 *****


「なっ……」

 魅音は突然前にいたハクオロに飛び掛られ、わけがわからないまま組み伏せられた。
 そして、強風がすぐ上を通るのを感じ、轟音が響いた。

(なに、あれ)

 組み伏せられ地面に倒れた魅音が見た物。
 それは、大きなスプーンだった。
 それがすぐ近くの大木に突き刺さっている。
 そう、突き刺さっている。大木を抉り、深い傷を残している。
 ただのスプーンではない。もし、魅音がそれを受けていたなら真っ二つにされていたかもしれない。

 そしてそれを持っている、何か。
 真っ白な体。
 丸みを帯びた尾。
 カンガルーを思わせる脚。
 そして、自分たちを見つめる冷たい瞳。



 怖い。
 それが魅音の抱いた感想。
 人間ではない。
 そして、自分たちへの明確な殺意。
 冷たい瞳から発せられるそれに、魅音の体が凍った。

 何かは大木からスプーンを抜き、すぐさま振り上げた。
 自分たちに向けて突き刺してくる気だ。
 それでも魅音は動けない。
 迫り来る突然の死を受け止めるしかない。


 もう1人の男がいなければ。


「うおおおおお!」

 ハクオロは素早く起き上がるやいなや、デイパックから先ほど確認しておいた武器――魅音曰く、『十手』という武器らしい――を取り出し、
振り下ろされたスプーンを受け止めた。
 強い力に一旦弾かれる。だが、すぐに踏みとどまり、十手を突きの形で相手に突き出す。


 ハクオロとて、目の前の異形に恐怖はしている。
 だが、それ以上に死への抗いの念が勝った。
 そして目の前の相手への怒りが。

 相手はそれをスプーンで払うが、ハクオロはすぐに脚を払う形で蹴りを仕掛ける。
 相手もそれを察知し、地を蹴るとそれをかわす形で大きくジャンプし、やや離れて着地する。

「貴様! このような殺し合いに乗るなど、どういうつもりだ!」


 ハクオロは思いの丈を白い怪物にぶつける。
 言葉が通じるか。そんな事は関係ない。
 自分の命の為に、他者の命を葬ろうとする。
 それが彼には許せなかった。

「……」

 怪物は答えない。
 だが、その目はなんら変わらず、二人への殺意を表している。

「問答無用か……ならば私は、それに抗おう! 園崎も私も、貴様に殺されはしない!」

 そう叫ぶと、ハクオロは十手を構えて怪物に向けて走り出した。
 スプーンを槍のように構えた怪物はそれを待ち構える。
 接近したハクオロは怪物へ十手を振り下ろすが、怪物はそれに機敏に反応すると、スプーンでそれをあっさりと跳ね上げる。

「くっ!」

 ハクオロは本来、前線で活動するタイプではない。
 人を統率し、指揮する後方型。
 鉄扇を持つことはあるが、元来戦いはトウカなどの者が行ってきた。
 故に、戦闘慣れしている怪物には及ばない。


 1人ならば。

「バン!バン!」

 すぐさま攻撃に転じようとした怪物の体が突然小刻みに揺れた。
 ハクオロは咄嗟にさっきの声のした方を見やる。
 そこには果たして指に筒のような者をはめ、こちらにそれを向けている園崎魅音がいた。
 すでに立ち上がり、震えを止めて怪物への敵意を示している。

「園崎家筆頭、部活部長園崎魅音がこんな所で震えてちゃ話になんないよ!
 私だって……ただ殺されるなんて冗談じゃない!」


 彼女とてまだ死にたくない。
 まだ皆と部活をしたい。雛見沢で過ごしたい。
 ここでただ殺されるわけにはいかない。

「ハクオロさん!私が援護する!だから!」
「ああ、承知した!」

 ハクオロは再び十手で怪物に向かって襲い掛かる。
 怪物は再びスプーンでそれを払おうとしたが、その手元を正確に衝撃が襲う。

「バン!バン!」

 魅音の指に嵌めた空気ピストル。
 空気の弾を撃つそれは、さすがに人を撃ちぬくほどの威力はない。
 だがその衝撃は子供ならば気絶に至るほどの威力だ。
 しかもその弾は無尽蔵。
 更に言えば、使い手の魅音は射撃に関しては自信がある。
 なにせ外国に渡り実銃の研修を受けたほどだ。
 使い慣れないものでも、数発使えば要領はわかってくる。

 怪物は魅音の援護によりスプーンを上手く振るえず、ハクオロの十手は怪物の胴に直撃した。

「!!」

 怪物は顔を歪ませ、また地を蹴りハクオロから距離をとる。


 倒せる。
 ハクオロはそう感じた。
 理屈はよくわからないが、魅音の何かで相手は衝撃を受け行動を阻害される。そして自分が攻撃を受け持つ。
 少なくとも相手を気絶するまでは追い込みたい。
 最悪、殺す事もやむなしか。

 だが、怪物がそこで行動を変えた。
 手持ちの武器であるスプーンを消した。

(なんだと…!?)

 持っていた武器が消えること事態驚愕だが、自らの武器をこの状況で消す。
 それがハクオロには理解できない。

 いや、理解できる場合がある。
 もし、それが更なる攻撃の前兆だったら。

 怪物は両腕をゆっくり自分の前で円を描くように動かし始めた。
 やはり何かをする気だ。

「園崎!」
「バン!バン!」

 ハクオロの声を聞かず魅音が空気ピストルを怪物に向けて撃つ。
 だが、それは怪物の行動を止めるに至らず、更には相手に当たっている様子すらなくなる。
 まずい。ハクオロはそう感じた。
 足がすぐに動き、そして。


 嵐が吹いた。


 *****


「う……っ」

 魅音は声が出なかった。

 突然だった。
 怪物が腕を回し始めかとと思うと、突然その腕から放たれたかのように風が吹き荒れ、それに自分たちは吹き飛ばされた。
 ハクオロは目の前に倒れている。
 魅音の前に立ち、十手で相手の攻撃を防ごうとした結果、風に魅音もろとも吹き飛ばされてしまった。
 魅音をかばい衝撃を受けたのか、倒れたハクオロは意識を失っている。
 地面に尻をついた形になっている魅音は意識を保っているが、風で吹き飛ばされて地面に体を打ち、痛みが走る。


 そして、目の前に怪物が立っていた。
 再びスプーンを手に持ち、二人に狙いを定めている。


 勝てない。
 強すぎる。
 魅音の目には、絶望。
 空気ピストルはさっきの衝撃で手元から離れた。
 とても取りにいっている暇はないだろう。

 怪物が手始めにといわんばかりに、倒れているハクオロの頭上でスプーンを掲げる。

「やめっ……」

 魅音の声は最後まで続かなかった。
 なぜなら。


「聖上―――――!!」

 更に大きな声が、その場に響き渡ったからだ。


 *****

 敵。

 目の前にいる者は、敵だ。

 なぜか。

 主に武器を向ける者。

 主の命を絶とうとする者。

 他に理由があろうか。

 否。ありえない。


 *****


 彼を発見できたのは本当に偶然と言っていい。

 森を駆けていた彼女が戦いの音や声を聞き、1番捜していた主を見つけることができたのは、本当に偶然だった。
 倒れている主、傍にいる少女。そして主に武器を向ける怪物。

 彼女がとる行動は、たった一つしかなかった。

「聖上―――――!」


 茂みから飛び出した彼女はすぐさま怪物に向けて飛び掛った。
 デイパックから刀ではないが、それなりの大きさと長さはある鈍器――トウカは知らないが、レンチと言う物――を握り締め、怪物に向けて振り下ろす。
 怪物も彼女にはすぐに気付き、ハクオロへ向けていたスプーンの方向を変え、大型のレンチを迎え撃つ。
 激しい金属音が響き、互いに離れる。
 怪物はその一撃で彼女の実力を悟ったのか、その場で身構える。

 すぐに彼女はハクオロの様子を見やる。
 胸が上下しているのがわかり、彼女は安堵した。
 そして、ハクオロの傍にいた少女が彼女を見て呟いた。

「もしかして……トウカ、って人?」

「いかにも。某はエヴェングルガのトウカ……聖上を守る為、ここに参った」


 *****

 凄い。
 それが魅音の率直な感想だった。
 ハクオロから聞いていた外見通りの見た目の女性、トウカ。
 大きなレンチを持った彼女と怪物のぶつかり合いは、まさにその一言に尽きた。

 剣のようにレンチを振るうトウカ。
 槍のようにスプーンを振るう怪物。
 もし魅音が話だけ聞いたなら笑ってしまいそうな光景。
 だが、その当事者2人の真剣な、それでいて危機迫る顔を見れば、笑いなど浮かべられない。
 2人の戦いはまさに、熾烈だった。
 トウカのレンチによる攻撃を怪物がスプーンで裁くが、トウカはそれに怯まず格闘の攻撃を繰り出し、距離をとろうとする怪物にすぐさま追随する。
 怪物がスプーンを振るえば身軽にかわし、スプーンの突きもレンチで上手く逸らし反撃の攻撃を繰り出す。怪物もそれをかわして互いに攻撃を与えない。
 めまぐるしいスピーディな戦闘。互いの位置が次の瞬間には入れ替わる。少しの隙が勝敗を分ける。そんな戦い。
 次元が違う。空気ピストルの援護なんて入れられない。なにせそれほどまでに互いが速いのだ。トウカに当たらないかどうか、わからない。

 トウカと怪物、均衡しているようにも見える。
 けれど魅音はトウカの方が優勢になってきていると思った。
 怪物の息が少し切れてきている。
 さっきの自分たちとの戦闘、あの風のような攻撃のせいだろうか。
 それにレンチとスプーンではスプーンの方が間合いは広い。
 普通ならば有利だろうが、あそこまでトウカに接近を許してしまい距離を離せない状態ではそうはいかない。
 不安なのは風の攻撃だが、あれには予備動作が必要に見えた。あんなことをしている暇などない。


「いける、いけるよトウカさん……」
「う……」
「あっ、ハクオロさん!目覚ました!?」

 傍に倒れていたハクオロが意識を取り戻したらしく、魅音はそっちに駆け寄った。
 ハクオロはまだ意識がはっきりしていないのか、どうも視線が落ち着かない。

「園崎……一体何が……」
「さっきの奴が攻撃してきて、ハクオロさんは気絶してたんだよ。
 でも大丈夫、トウカさんって人が助けてくれて」
「トウカだと!?トウカがいるのか?」
「うん、ほら、あそこで」

 魅音がハクオロに見えるようにトウカたちがいる方向を指差した。


 次の瞬間、甲高い金属音が響き、そして。


「え?」


「がっ……」


 肉を抉る、音を聞いた。


「トウカァァァァァァァァ!!」


 *****

 危なかった。

 相手の女は私に全く距離を取らせなかった。
 スプーンの長さを変える能力さえ制限されていなければ近い間合いでも戦えたが、そうはいかなかった。
 仮面の男と髪を束ねた女相手のように“サイコウェーブ”を使おうにも、念のエネルギーを回転させる隙がない。
 それに“サイコウェーブ”の消費がやけに激しい。それがオレの体力を確実に削っている。
 このままではオレの方が先に力尽きるだろう。
 本当なら、使いたくはなかったのだが。

 オレはスプーンを消し、デイパックから『それ』を取り出した。
 それは剣。両刃の西洋風の剣だ。
 だがその間に女は素早く鈍器を振るってきた。
 剣を取り出したときにはもうそれは目前まで迫っている。

「覚悟!!」

 女が叫んだ。
 確かに剣は構える暇もなく、女の方に向いているのは刃のない部分だ。
 女の力と鈍器ならばろくに構えられていない剣などすぐに弾かれてしまうだろう。

 これが普通の剣なら、だが。

「なっ!?」


 女が驚愕の声を上げた。
 それはそうだろう。
 オレの剣が女の豪速の鈍器をしっかり受け止めているのだから。

 オレもこれがデイパックに入っていたときは驚いた。
 説明書によればこの剣は“ひかりのかべ”と“リフレクター”、両方の特質を備えたバリアアイテムらしい。
 つまり物理攻撃も特殊攻撃も対応できる防御装備だ。
 故に、刃がついていない部分であろうが関係はない。
 オレはそのまま剣を振るった。
 するとバリアが局所的に発生し、相手の鈍器を大きく弾いた。

「っ!!」

 そして、女の胴が完全にがら空きになる。
 こちらの振りと相手の弾かれた武器、その差は大きい。


 済まないな、トウカとやら。
 オレは……お前達を殺さなくてはならない。


「がっ……」

 女の腹にオレの剣が深々と突き刺さった。
 完全に致命傷だろう。
 手ごたえは充分。
 次はあの2人だ。
 すぐに標的を切り替えようと、オレは剣を女から抜こうとした。


 ……おかしい。
 抜けない、だと?


「某は、剣士だ……」


 何!?
 オレはその小さな声に驚いて女を見た。


「故に、使いたくは、なかった……」


 そこには、武器を既に捨て、その右手で自らに突き刺さった剣を握り締めた女の姿があった。
 まさか、あれほどの傷で……オレの力に抗う握力を持つというのか。
 そんな、バカな!




「だが……今、わかった……某の聖上を守ろうとする、この意志こそが……我が刃なのだと」


 私は再び剣を抜こうとするが、女の右手は尚も剣を掴んで離さない。
 なぜだ……なぜ、お前はここまでの力を出せる!!


「だから……某は、振るおう……我が刃を。
 聖上の命を奪おうとする、貴様に……!」


 そして気付いた。
 同じなのだと。
 私と、この女は……。

 主の為に、戦っているというその一点で。


 女が剣を握っている腕とは逆の、左腕をこちらに向けた。
 そこには、貝殻のようなものが握られていて……。


  リジェクト
「“排 撃”!!!!」



 *****


「トウカ!トウカ!」
「聖上……殿……」

 目を覚ませば、そこにあったのは地獄の光景だった。
 トウカが、誇り高き剣士が、腹を剣で貫かれる光景。
 剣は中ほどまで突き刺さり、背中から刃が飛び出していた。
 そして、トウカが左腕を向けたかと思うと、怪物が勢いよく吹き飛ばされ、そのまま逃走していった。
 ハクオロも魅音も追う事など出来なかった。
 それどころではない、事態だった。

「そんな……そんな……!」

 魅音は顔を真っ青にして、地に倒れたトウカを見つめている。
 剣は尚もトウカの腹に突き刺さっており、剣が栓をしているためか、血がゆっくりとトウカの服を染めていく。
 けれどトウカの命を奪うものはそれだけではなかった。トウカのデイパックから落ちた説明書。それを2人は見てしまった。
 排撃貝(リジェクト・ダイヤル)。トウカが最後に怪物に向けて使った支給品。
 ある雲の上の世界に存在する貝(ダイヤル)という物質の1種。衝撃をその中に溜めることができ、それを貝殻の一部を押す事で放出する事が出来る。
 排撃貝は衝撃貝と呼ばれるものの10倍の放出力を持ち、殺傷能力も高い。しかし、その分反動も強く、使用者自身にも衝撃が加わる。
 その危険性は、数回使えば死に至ると言われるほどである。
 腹に致命傷を負ったトウカには、その反動はとどめ、と言っていいものだった。

「何故だ!何故あのような危険な武器を使った!」
「……聖上、殿……頼みを、聞いていただけるでしょうか……」

 トウカはハクオロの問いを無視した。
 ハクオロ自身わかっていることだったからだ。
 何故トウカが危険な武器を使ってまで怪物を退けたか。
 本当は、知っていた。

「この剣を……某から、抜いてくだされ……」
「なっ……」





 その言葉に、ハクオロと魅音は絶句する。
 それはつまり、抜く事でトウカの傷を更にひろげ、死に至らせろと言っている様なものだ。

「そのような事!」
「一撃で……理解、しました……その剣、は……護る……剣……聖上に、相応しい、剣……」
「相応しい、だと……そのような理由で、お前の命を奪えというのか……!」

 トウカの呟きはたどたどしい。
 血は尚も流れ、口の中にも血が満ち始めている。
 ハクオロは苦しそうに答える。
 涙など、既に流れていた。

「聖上……アルルゥ殿や、エルルゥ殿は……どうする、のです……」
「っ!」
「最後に……告げて、いった……あの者は、ミュウツー、と言うよう、です……。
 あのような者が、まだ、いる中で……誰が、護るのです……」
「……」
「トゥスクルで……そうであった、ように……聖上は、護る、方……全てを……」
「トウカ……!
 すまない……私は、一瞬とはいえ、お前のことと疑った……!許せ……!」


「気にしないで、くだされ……。カルラ殿や……ベナウィ殿も、おられる……某は、ここで倒れることを……代わりに、お許し、ください……。
 某の意志は、血となりて……その剣と共に、貴方と共に……。
 聖上を、全てを護る、剣として……拭おうとも、共に……」


「……お前の意志、確かに、受け取った……!」

 ハクオロの声は痛々しかった。
 苦痛に満ちていた。
 それでも彼は、トウカの意志を尊重した。
 魅音はそれを見つめるしかなかった。
 口なんて、出せなかった。


「私は……守り抜いてみせる。
 アルルゥも、エルルゥも、園崎も、その仲間たちも……。
 カルラやベナウィと力を合わせ……ギラーミンを打倒し、必ずトゥスクルへ、戻ろう……。
 ここで、お前にそれを、誓う……!」

 ハクオロがトウカの腹に突き刺さった剣を握った。
 トウカはそれを安らかな顔で見つめる。


「某は……聖上を守る刃……永遠に、貴方を守り抜く……剣と、ならん……」



 剣は、抜かれ、命は消えた。

 だが、命は剣と共にある。

 トウカの意志は、剣に在り。



【トウカ@うたわれるもの  死亡】



【A-6 線路沿い/一日目 黎明】
【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備】:ガイルの剣(血塗れ)@ポケットモンスターSPECIAL スモーカー大佐の十手@ONE PIECE
【所持品】:基本支給品一式、不明支給品0~2個(確認済み)
【状態】:健康 体にやや痛み 深い悲しみ
【思考・行動】
 1:ギラーミンを倒す
 2:仲間(魅音の仲間含む)を探し、殺し合いを止める。全てを護り抜く。
 3:トウカを弔う。
 4:ミュウツーに対して怒りの念。

【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
【装備】:空気ピストル@ドラえもん
【所持品】:基本支給品一式
【状態】:健康 体にやや痛み 悲しみ
【思考・行動】
 1:仲間(ハクオロの仲間含む)を探し、殺し合いを止める
 2:詩音と沙都子にはやや不安。
 3:トウカを弔う。
 4:線路を辿って駅に向かう?
 5:ミュウツーに対して恐怖。
※本編終了後の参戦です。雛見沢症候群の事を知っています。

※トウカの死体の近くに以下の物が落ちています。
 『排撃貝@ONE PIECE、 大型レンチ@BACCANO!、
デイパック<トウカ>(ミュウツー細胞の注射器@ポケットモンスターSPECIAL、基本支給品が入っています)』
 注射器の説明書を2人はまだ見ていません。


 *****



 *****


 ぐっ……ううっ……。

 先のところから、少し南の方角。
 そこでオレは苦痛に耐えていた。

 女の動作に危機を感じた私は剣を諦め、すぐに距離を取ろうとした。
 だが、時既に遅く、強大な衝撃が私に襲い掛かり、オレは吹き飛ばされた。
 もし直撃を食らっていたら、動く事も出来なかったかもしれない。
 それでも残りの2人を相手にするには危険なダメージを負った。
 オレは逃げるしかなかった。

 “じこさいせい”を行おうとしたが、あまりに直りが遅い。
 完全回復には数時間以上かかるだろう。
 強力な武器を失い、かなりのダメージまで負ってしまった。
 まだ支給品も、能力もいくらか健在とはいえ、幸先は悪い。

 オレは、できるだけ殺さなければならないのだから。


 主催者、ギラーミンが見せたもの。
 それはオレのマスター、カツラの姿だった。
 オレを作り出し、そして一心同体とも言える存在。
 あらゆる存在の中で、オレにとっては別格の存在だ。
 そんなマスターが、ボロボロの状態で映し出されていた。
 どこか個室のようなところで閉じ込められているようにも見えた。
 その姿を見た瞬間、我を忘れたオレは念のエネルギー弾をギラーミンに向けて撃ったが、それはバリアに防がれるように空中で掻き消えた。

「忘れていないかね?彼の命は私が握っているんだよ?」

 そういう奴の言葉通り、マスターの首にも自分たちと同じような首輪があるのに気づいた。
 さっきの女のように、奴が首輪を爆発させるのは簡単だろう。
 オレは怒りに体を震わせた。


「さて。君への頼み、というものだが……。なあに、簡単な話。
 君には会場であるノルマをこなしてもらいたい。
 殺し合いを始めて24時間。
 その時点で……参加者65人を、半分以下の32人以下にまで減らしてもらいたい。
 24時間経過時点で、生きている人物が33よりも多かった場合……君のマスターには死んでもらう」
「!?」

 つまり、奴は1日で半分以下になるよう、オレに殺しまわれ、と言っているのか……!?

「主催者として、少しはゲームを加速させないといけないのさ。
 他の殺人者に期待してもいいが、それで間に合わなくなったなら、君は後悔するだろう。
 自分が殺して置けばよかった、と。
 それまでは彼の安全は保障しよう。彼の声を6時間経過ごとに聞かせてあげてもいい。その手段は、6時間後にわかる。
 更に……君にはタイムリミットも設けよう。2日目が終わるまでに君が最後の1人になれなかった場合も、彼を殺す。
 わかったかね?君は殺戮者に回るしかないのさ。
 では、24時間後に彼の断末魔が君に届かないことを、祈ろう」



 1日で半分以下に参加者を減らせ。
 そして、2日で優勝しろ。
 それが奴の要求。

 従いたくなどない。
 ロケット団に作られた身、あのような下種に従うなど吐き気がする。
 だが、それをさせるまでに、マスターの命を失いたくない自分がいる。
 だから、あの2人にも襲い掛かり、女も殺した。

 名簿は見ていない。
 元々人間には信用など置いていない。
 マスターの為ならば、殺す事に対して禁忌の念は少なかった。
 だから、名前など見ても仕方ない。どうせ殺すのだ。
 だが、あのトウカという女……。その闘志には素直に感服した。
 主の為に、という意志にも共感したのだろう。
 オレはあの女に念を送っていた。自らの名前を伝える為に。

 あの女のデイパックから、オレの細胞の気配を感じた。
 おそらくあの中にはオレの細胞がある。
 ならば、あの2人の誰かがオレに復讐を誓うなら、オレを追う手がかりになる。
 細胞を自らに移植してオレを追ってくるかもしれない。
 もし追ってきたならオレにもその気配が分かる。その時は、オレは逃げずに受けてたとう。
 それがあのトウカへのせめてもの償いになる。
 ただの自己満足かもしれないが。
 もちろん全力で相手をする。オレもマスターの為に、倒れるわけにはいかないのだから。

 それまでは、まずはどこかで休息を取った方がいい。
 見上げた空は、だんだんと明るくなり始めていた……。


 主の為に、ミュウツー、我はここに在り。


【B-6北東・森の中/1日目 黎明】
【ミュウツー@ポケットモンスターSPECIAL】
【装備】:なし
【所持品】:基本支給品一式、不明支給品0~2個(確認済み)
【状態】:健康 大ダメージ(じこさいせい中)
【思考・行動】
 1:マスター(カツラ)を救う為、24時間以内に参加者を32人以下まで減らす。
 2:体を休める。
 3:魅音かハクオロが細胞を移植し、自分を追ってきたら相手をする。
 ※3章で細胞の呪縛から解放され、カツラの元を離れた後です。
  念の会話能力を持ちますが、信用した相手やかなり敵意が深い相手にしか使いません。
 ※念による探知能力や、バリアボールを周りに張り浮遊する能力は使えません。
 ※じこさいせいは直りが遅く、完治には数時間以上を要します。
 ※名簿を見ていないため、レッド、イエロー、サカキの存在を知りません。
 ※ギラーミンに課せられたノルマは以下のとおり
  『24時間経過するまでに、参加者が32人以下でない場合、カツラを殺す。
   48時間経過するまでに、ミュウツーが優勝できなかった場合も同様。』
 ※カツラが本当にギラーミンに拉致されているかは分かりません。偽者の可能性もあります。

【スモーカー大佐の十手@ONE PIECE】
海軍のスモーカー大佐が使う、大きな十手。
先端には海楼石が仕込まれており、押し付ければ悪魔の実の能力者を弱体化できる。
現状の参加者で効果がある相手は、クロコダイル、ルフィ、チョッパーのみ。

【ガイルの剣@ポケットモンスターSPECIAL】
6章で鎧の男、ガイル・ハイダウトが使用した剣。
“リフレクター”“ひかりのかべ”両方の特性を備えたバリアアイテムであり、振ることで周りに真空のバリアフィールドを張る。
物理・特殊攻撃を跳ね返すことが出来る。ポケモンの技以外にも対応できる。また、バリアそのものを放つのか、ただ振ることで衝撃波のような攻撃を放つことも出来る。




時系列順で読む


投下順で読む


招かれたもの ハクオロ Beyond
招かれたもの 園崎魅音 Beyond
走れトウカ トウカ 死亡
GAME START ミュウツー 吉良吉影は静かに過ごせない
ラッド・ルッソは喪失感に打ちのめされる ギラーミン 第一回放送




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