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desire

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marurowa

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desire ◆Wott.eaRjU


E-5エリア、病院跡地に一人の参加者が立っていた。
男の真名は征服王イスカンダル。
第四次聖杯戦争においてライダーとして現界した英雄だ。
今までライダーはV-MAXを縦横無尽に走らせ、ある場所を目指していた。
だが、ライダーの前には二人の人影が彼の行く先を阻むように構えている。

「お前達、退くのであるなら今の内だぞ?」

片手に持ったファンクフリードの剣の切っ先を正面に据えて、ライダーが問う。
王として悠然たる態度を貫いてきたライダーだが、今の彼には焦りがあった。
ライダーには、ミュウツーに連れ去られたアルルゥを取り戻すという目的がある。
そのためにはこんな場所で時間を使うわけにはいかなかった。
しかし、移動手段として使っていたV-MAXは既に残骸へと姿を変え、周囲に散らばっている。
ライダーが破棄したわけではない。目の前の二人のどちらか、あるいは両方の手によって破壊されたためだ。

「バカ言ってんじゃないわよ。アンタは……ここで倒すわ!」

二つの人影の内、小さい影が甲高い声で叫ぶ。
白のナース服に身を包んだ少女の名は、御坂美琴と言った。
美琴は学園都市に属する超能力者であり、その中でも上位に位置する『レベル5』の一人だ。
そして美琴の周囲には溢れんばかりの電流が迸り、彼女の敵意を示している。
以前行動を共にした衛宮切嗣によれば、ライダーは殺し合いに乗っているらしい。
美琴にとって切嗣は、自分を助けてくれた参加者であり、彼を疑う余地はない。
だからこそ、殺し合いの肯定など出来ない美琴にはライダーを見過ごす理由はなかった。

「いいねぇ。こういうノリは嫌いじゃねぇ、むしろ大好きだ!ここしばらく身体がなまってきたから楽しむとするかぁ!」

もう一人、美琴の隣で嬉しそうに顔を歪ませる男が居た。
彼はラッド・ルッソであり、マフィアグループの用心棒として働いていた男だ。
殺しを好むラッドはこの場でも好きなように殺し回っていた。
そんなラッドが美琴と手を組んだのは、ギラーミンを倒すという目的が一致し、美琴は殺すに相応しくないと判断したためだ。
しかし、ギラーミンを殺すまでにラッドは殺人をしないという約束はしていない。
だからこそ、ラッドは意気揚々と美琴の指示にも従える。
ラッドもまた、美琴がこの殺し合いを止めるという想いと同じように、殺人への欲求を満たそうとしているのだから。

「さぁ、ぶっ放そうぜミコトちゃん!楽しい楽しい時間の始まりだ!」

一本の槍を携えて、ラッドがライダーに向かって弾丸さながらに飛び出していく。
一方のライダーは微かに表情を歪めるが、大きく動じた様子は見せずに正面を見ている。
そして間髪入れずに、ラッドの直ぐ傍を追いぬいていくものがあった。
紫電の光が、ラッドの目の前でチカチカと光を落していく。
美琴の<超電磁砲(レールガン)>が、一つの戦いの合図となった。

◇     ◇     ◇

迫りくる紫電の弾丸が、V-MAXを一瞬で破壊した攻撃であるとライダーは認識していた。
サーヴァントといえ、力を制限されているこの場では予想以上の傷になるかもしれない。
だが、避けようにもその隙をもう一人が見逃すとは思えない。
更に男が持っている武器は、ランサーが持っていた宝具であるため、侮ることは出来ない。
一瞬の思考を経て、やがてライダーは口角を釣り上げて笑った。
一人の殺人狂と、一つの弾丸を前にしてライダーが選んだ答えはとてもシンプルであった。
元より避けるつもりなど毛頭ない。
征服王は征服王らしく、目前に敵が居るのであれば――蹂躙するだけなのだから。

「この程度では、余は止められんなぁ!」

ライダーは前方へ突き進む。
美琴が放った弾丸に対し、真正面で己の得物を突き出し、その強靱な力で受け止める。
弾丸は目の前の障害を突き破らんとばかりに、閃光と火花を巻き散らすが先へ進めない。
ファンクフリードの剣は、悪魔の身を食べたことにより生まれ、その強度は目を見張るものがある。
象剣の名に相応しい刀身、そして左右に伸びた牙が弾丸を阻み、力同士が拮抗する
やがてライダーはファンクフリードの剣に走る衝撃をものともせずに、横薙ぎに剣を払う。

「ふん!」

弾丸はファンクフリードの剣により振り払われ、明後日の方向へ飛んでいく。
紫電の一撃を難なく弾き返し、ライダーは勢いを殺さず直進し続ける。
目指すはライダーの直線状に位置し、驚いたような顔を浮かべる美琴だ。
だが、不意に殺意を帯びた気配と強烈な風圧をライダーは感じた。

「おいおいおいおい、俺を忘れてもらっちゃあ困るぜ!」

ライダーを阻むようにラッドが、飛び出すような勢いで距離を詰める。
ラッドの動きは弾丸が弾き返されることを見越したかのように、絶妙な頃合いだった。
そしてラッドは両腕で握りしめた破魔の紅薔薇を、ライダーの頭部へめがけて振りおろす。
しかし、ファンクフリードの剣で受け止めたライダーには動じた様子は見せない。
先刻、弾丸を弾いたようにファンクフリードの剣で振り払い、破魔の紅薔薇ごとラッドを吹き飛ばす。

「なんて力だよ、おい! こわいねぇ……こいつはトンだ大物が残ってやがったか!」

ラッドは緩やかな着地を経て、言葉とは裏腹に嬉しそうな様子で体勢を整える。
吹き飛ばされたかに見えたラッドだが、彼は衝撃の瞬間に身体を後方へ浮かせていた。
ライダーの腕力を一瞬で図り、攻撃から防御へ転じる判断の速さは、彼の戦闘センスの高さを窺わせる。
いや、正しくは戦闘ではなく殺しのセンスと言うべきだろうか。
ルッソ・ファミリーの用心棒として磨いた殺人の技術は、ラッドの身体を馬車馬のように動かすことが出来る。

「黙っておれ。今の余は、ちぃとばかし気が短いのでな」
「ハッ!そんなの俺が知ったコトじゃねぇな。いや、こいつは訂正だ。そんなの――俺達が知ったコトじゃねぇなぁ!」

向かい合い、問答するライダーとラッドの間に、力が伴った無数の閃光が降りそそぐ。
ライダーとラッドが後方へ飛んだのはほぼ同時であった。
今まで彼らが立っていた地面には、黒色の焦げ跡が散らばっていた。
電気の放電による攻撃。この場で、そんな能力が使える参加者はたった一人しかいない。

「ちっ!見かけによらず、身軽ね」

舌打ちをしながら、ラッドの後方に位置する美琴が毒づく。
美琴の前髪は浮き上がり、彼女の顔からは小さな電磁波が走っている。
『超電磁砲』と呼ばれる超能力により、美琴は電気や磁力を自由に扱える力を有している。
先程の電撃も、ラッドの頭上を越えていくような形でライダーを狙ったものだ。
ラッドを囮として、必殺の一撃を与えるつもりだったが、美琴の目論見は外れることとなった。
もっとも、先刻の<超電磁砲>の一撃をライダーが容易く弾き返した時点で外れてはいたのだが。

「なぁに、伊達に征服王とは呼ばれておらん。戦で脚がすくむようであれば、征服など夢のまた夢よ」

体勢を整えて軽口を叩くライダーだが、眼は笑っていない。
征服王の異名が示す通り、ライダーの生涯と戦事を切り離すことは出来ず、彼もまた闘争を愛した。
正面から渡り合い、全力を以て勝利を得ることこそが征服と言える。
しかし、今のライダーはアルルゥを連れ戻すという目的があるため、時間を使うわけにはいかない。
この場でラッド・ルッソ、御坂美琴が自分を狙う理由よりも、アルルゥの身の安全が気がかりだった。
だからこそ、電気という能力に見覚えがあっても、深く追及しようとは考えなかった。

「だったら、夢で終わらせてやろうじゃねぇか!」

招かれるようにラッドがライダーを目指して再び走り出す。
今度は破魔の紅薔薇を振り下ろすのではなく、刃先をライダーに向けて突き出す。
器用に身を逸らすことでライダーは刃先から逃れる。
だが、ラッドは直ぐに腕を引きもどし、二撃目をライダーの分厚い胸板に向けて放つ。
必殺のタイミングともいえる動きであったが、ライダーの対応も速い。
ファンクフリードの剣をかざし、ライダーは二撃目を難なく受け止める。
同時に、ラッドとライダーは笑みを浮かべた。ラッドは大きな笑みを、ライダーは小さな笑みを。
続けて三撃目、四撃目、五撃目、六撃目――破魔の紅薔薇とファンクフリードの剣の応酬は、数を重ねるごとに勢いと速さを増していく。

「はっはっは!なかなかやるではないか。だが、あいにく余には時間がないのでなぁ!」

移動を伴いながら防戦を続けていたライダーが高らかに叫ぶ。
ライダーとラッドの介入者を許さぬ攻防は、既に戦場をE-4エリアに移していた。
そして最早何撃目かわからない紅薔薇を、ライダーはファンクフリードの剣で力任せに振り払った。
生来の腕力、更にサーヴァントとして強化された力はたとえ制限されていようとも強大だ。
ラッドはなんとか紅薔薇を手放さずに済んだが、無防備な姿をさらすこととなった。
その隙を見逃すほど、ライダーは甘くはない。

「そら、こいつは効くぞ」

鈍い音を伴った一撃がラッドの横腹を打つ。
確かな手ごたえをライダーが知覚した途端に、ラッドの身体は横っ跳びに吹き飛ばされた。
ファングリードの剣と、ライダーの力が合わさったことによる強烈な一撃。
勢いを殺すこともせずに、ラッドの身体は何度も地面に打ちつけられながら転がっていく。
後は後方に控えている筈である、もう一人を突破出来れば目的は達せられる。
そう考えていたライダーに、新たな衝撃が走った。

「いい気にならないでよね!」

ラッドと入れ替わるように、ライダーに対し美琴が踏み込む。
美琴は漆黒に染まった剣を両手に握り、ライダーに向けて振り下ろしていた。

「ふむ、面妙な力よ。先刻の電撃といい……なかなか興味深いヤツだな」

ファングリードの剣で受け止めたライダーがそう評する。
ライダーの表情に浮かぶ小さな驚きは、美琴は遠距離での電撃しか攻撃手段を持っていないと考えていたためだろう。
美琴の力は電気を自由に操るだけでなく、磁力すらも支配出来る。
磁力を制御することで、地面に存在する砂鉄を棒状に集め、武器として生成していた。
砂鉄の剣とでも言った得物は、真っすぐにファングリードの剣を捉えているが、両断には至らない。
たとえ美琴の力で強度が上乗せされていようとも、その現実は変わらなかった。

「っ!このぉ!!」

対して美琴は砂鉄の剣を一瞬の内に解除し、後方へ大きく飛びのいた。
両の足の裏に電磁波を生じ、地面に走る微小な電磁波と反発させることで跳躍の距離を延ばしていた。
砂鉄の剣による不意の一撃が失敗に終わった今、美琴が次の行動へ切り替えるのは素早かった。
美琴は近接戦闘では分が悪いライダー相手に、ただ距離を取ったわけではない。
レベル5である、美琴が得意とする能力の一つは――やはり電気の扱いだろう。
美琴は自らの力の支配に意識を集中し、両腕を前方に突き出す。

「これでも――喰らえ!!」

ライダーの全身を強烈な放電が襲う。
美琴の『超電磁砲』としての放電により白煙が生まれ、周囲に焦げくさい臭いが漂った。
手ごたえを感じた美琴は、その表情に笑みを浮かべる。
たとえ力の行使に不自由を感じるこの場でも、仕留めた感覚を見誤ることはない。
ライダーが強力な力を持っていたとしても、無傷とは考えられなかった。

「え……?」

しかし、美琴の予想を覆すように白煙の中から飛び出す影があった。
一直線に美琴の元へ詰めより、己の得物を左へ薙ぎ払う。
大柄な見かけに似合わぬ俊敏な動きを、美琴は両の目でしっかりと捉えた。
脳裏に浮かぶ危険信号に従い美琴は両腕を交差するように構え、やがて衝撃を知覚した。


「余を止めるには、まだ足りんなぁ!」

ライダーの怒号と共に繰り出された斬撃は美琴の身体を捉え、彼女の華奢な身体を容赦なく吹き飛ばす。
離れていく美琴を追撃せずに、ライダーは地に足を降ろして、体勢を整えた。

「ちぃ……まあ、無傷とはいかんか」

不機嫌そうに愚痴るライダーの身体には生傷が至るところに見えた。
美琴の感覚には狂いはなく、確かにライダーに傷を負わせていた。
しかし、ファングリードの剣を盾として使い、放電に対して突っ切ってみせたライダーの決断が功を奏していた。
致命傷には程遠く、ライダーが反撃の一手を繰り出すには十分であった。


「さぁ、時間を喰ってしまったが突破させてもらうぞ!」


やや遅れて、姿勢を崩しながらも着地した美琴を見やりながらライダーは宣言する。
言うや否やライダーは再び愛馬、ブケファラスを召喚し、軽やかに飛び乗った。
ブケファラス召喚には魔力を消費する必要があったが、ライダーには時間が惜しい。
アルルゥを連れ去ったミュウツーが飛び立った方角へ、ブケファラスを向ける。

「ま、待ちなさい!」
「貴様とはまた後で勝負をつけてやろう。貴様の力はなかなか面白い」

ファングリードの剣による斬撃の瞬間、美琴は両腕に砂鉄を纏わせて衝撃を殺していた。
それでも衝撃を完全に殺せていたわけではない。
両腕には強烈な痺れが今も残っており、能力の行使に向けて意識を集中するのも難しい。
そんな美琴を尻目に、ライダーはブケファラスの手綱に手を掛けた。

「おう、おっさん。そいつは調子が良すぎるんじゃねぇか?」

だが、ライダーを制する声が正面から陽気に響く。
声の主はいつの間にか体勢を立て直していたラッドだ。
ラッドをみやるライダーは訝しげな顔を浮かべた。
美琴の時は何らかの力で防御されたことはわかっていたが、ラッドの場合は違った。
脇腹を完全に捉えた一撃であり、肋骨の何本かが折れた感触をライダーは確かに感じ取っていた。
しかし、まるで傷が元通りに治ったかのように、ラッドは平然としていた。

「俺とおっさんは赤の他人だ。俺はおっさんのコトよく知らねぇし、おっさんも俺のコトよく知らねぇはずだ。
だけどよぉ……俺は、わかっちまったんだよなぁ!」

ライダーにはラッドの話しを聞く道理はないが、彼の言葉には引きつけるものがあった。
闘いの最中に、どこか知っている人間と同じような臭いを、ライダーはラッドから感じ取っていた。

「てめぇ――自分は絶対に死なねぇと思ってるだろ?
俺と電気人間ミコトちゃんを相手にしても、余裕染みた顔してやがる」
「ほぅ、余がそう見えるか?」
「そう、その目だよ。自分が死ぬなんてクソにも思ってねぇヤツは、どいつもあんたみたいな目をしてやがる。
そういう目を見せられちゃあ、温厚な俺もつい我慢ならなくなっちまう。
こいつは仕方ねぇよなぁ……殺したくなっちまうのは、仕方ねぇ!」

ライダーの疑惑は確信へと近づいていく。
思えばこの男とは初めて会ったわけではなかった。
最初の、殺し合いが始まる最初の場所で一方的に見かけている。
同時に、目の前の男が誰と似ていたかもライダーにははっきりとわかった。
脳裏に浮かぶは、真っ青な作業着を着た男の影だ。

「だからよぉ、てめぇはこのラッド・ルッソがキッチリ殺してやらぁ! 」

叫ぶや否やラッドはライダーに向かって走り出す。
ラッドの片手に握られた破魔の紅薔薇の切っ先が、ライダーの血肉を求めるように踊る。
対するライダーはラッドをどこか冷めたような目で見やり、そしてブケファラスの手綱に力を込めた。

「否定はせんよ。ならば、余は貴様を痛めつける程度に留めてやろう」
「っ!なめるんじゃねぇぞおっさん!!」

ライダーの言葉を挑発と受け取ったのか、ラッドは感情のままに激昂する。
対するライダーの表情はとても涼しげなものだが、両目には明確な敵意が宿っている。
ライダーの意思をくみ取ったかのように、ブケファラスが地を蹴って、駆け出す。
ブケファラスはミュウツーが飛びたった方角ではなく、ラッドへ一直線に向かっていく。
ラッドの速度、そしてブケファラスの脚力が合わさることで双方の距離はみるみると縮まる。

「なぁに、ただでは済まさんて。ラッド・ルッソよ、せいぜい――死んでくれるなよ?」

互いの距離が0となろうとする間際、ライダーが冷酷な声を発した。
すれ違いざまにファングリードの剣を掬いあげるように、振り下ろすライダー。
対するように破魔の紅薔薇の切っ先を突きあげるように、振り上げるラッド。
轟音が鳴り響いたかと思うと、両者の衝突は終わっていた。
その場に立っていた者は――誰一人としていなかった。

ラッドの身体は、背にしていた劇場の外壁に強烈な勢いで飛び込み、内部へと姿を消した。
ライダーの身体もまた強烈に地面へ叩きつけられ、何回かの回転を経てようやく止まった。
騎乗していたブケファラスは魔力粒子へ姿を変えて、空に昇っていく。
衝突の爆心地ともいうべき場所には破魔の紅薔薇が、迷い子のように横たわっていた。

◇     ◇     ◇

死んだかと思った。
瓦礫に埋もれながらラッドが先ず考えたのはそれだ。
ライダーという男は悔しいが、一筋縄ではいきそうにもなかった。
馬は潰せただろうが、それでも明らかに自分の方が傷はでかい。

「ちっ、まったくよぉ……ひでぇところだぜ、ここは」

立ちあがり、身体中についた砂を振り払いながら立つ。
辺りを見回し、自分が居る場所は劇場の中の通路であると大体の辺りをつける。
次に自身の確認。
幸い、身体にはどこも千切れているようなところはない。
仕留めそこなったか――ラッドはそう考えるが、不意に小さく笑った。
仕留めそこなったのは自分の方だった。
美琴が敵として判断したのがなりゆきだったが、ライダーは立派な標的の一人だ。
殺さない理由など、ない。
酒を買いにいくような気軽さで、再びライダーを殺しに向かおうとする。
しかし、ラッドの視界は一つの影を捉えた。

「おいおい、ここで会っちまうとはぁ……案外早かったなぁ」

足音が響き、止まった。
ラッドが声を掛けた人影が言葉を発する。
感情を押し殺したような声を。


「ラッド・ルッソ――貴様と話しがある」


仮面の魔王、ゼロがラッドと接触を試みる。


◇     ◇     ◇

「っ!ラッド!!」

劇場の方へ美琴が駆け寄ろうとする。
ラッドは気に入らない男であっても、一応は停戦協定を結んでいる仲だ。
いくら頑丈な男とは言え、見捨てることは美琴にとっても後味が悪かった。
このまま身捨ててしまえば命に関わるかもしれない。
それ以前に、即死している可能性だってあるのだから。

「おぉ……まったく、最後まで逃げずに突っ込んでくるとは大した度胸であるな」
「くっ、まだ生きてたの!?」
「当然よ。あのくらいで征服王イスカンダルを倒せると考えてもらっては困る」

美琴は驚きながら、声の方へ頭を向けた。
その先には傷だらけではあるが、しっかりと己の脚で地に立つライダーの姿があった。
片手にはファングリードの剣を、そしてもう片方の手には破魔の紅薔薇を握っている。
破魔の紅薔薇は魔力を打ち消す効力を持った宝具だ。
ライダーの魔力で生成されたブケファラスが消滅した理由はそこにあった。
美琴は身構え、いつでも力を使えるように警戒する。
ラッドが戦えない今、自分一人の力に頼るしかないためだ。
しかし、美琴の意思に反するようにライダーは疑問をよこす。

「時に小娘よ。貴様は何を目的に余と戦った? 敵は全て殺し、ギラーミンの望み通りに動くのか?」

征服王の目には純粋な疑問が浮かんでいる。
その目は美琴には堪らなく不快なものに見えた。

「そんなわけないじゃない! 殺し合いなんて……誰が好き好んでするのよ!」
「ふぅむ、ならばなぜ余を――」
「衛宮さんが言ってたのよ!」

ライダーの言葉を強引に押しとどめる。
何も言わせない。それはライダーでなくても、誰かに自分の言葉を聞いてほしかったのかもしれない。

「アンタはきっと殺し合いに乗っている、危険な人物だってね。
だったら……倒すしかないじゃない!
もうこれ以上、私のせいで、私の前で、誰かが……誰かが死ぬところは見たくないのよ!!」

それは美琴の心からの叫びだった。
ただ実験のためだけに殺されていく自分の妹達。
自分を助ける形で、見えない場所で死んでいった衛宮切嗣とストレイト・クーガー。
自分の目の前で、その命を散らせることとなったブレンヒルト・シルトと真紅。
彼らの死を経験した美琴には、ライダーの言葉を肯定出来る筈もない。

「アンタはラッドだって殺してみせたじゃない!
確かにあいつは危険なヤツよ……でも、だからといって殺すことはなかった。
アンタがあいつを殺したら、私は……私は――」

美琴にとって、ラッドは特別な存在ではない。
出会って数時間でしかも、最初はこちらを殺そうとしてきた男だ。
それでも、ラッドがもし死んでしまったとしたら、美琴は選択しなければならない。


「私は、アンタを殺さないといけなくなる……!
だけど、私は人殺しなんかしたくない……もう、あんなコトはいやなのよ!!」


脳裏に浮かぶのは、自分の電撃により首輪が爆発し、亡骸とした名前もわからない男。
御坂美琴の過ごす日常は、超能力という異能には溢れていても、“殺人”とは無縁の世界だ。
取るに足らないゴロツキが居ても、能力者が引き起こす事件があって、常に自分の力で解決することが出来た。
ただ、目の前に壁があれば乗り越えていくだけだった。
ひたすらに上を目指して、自分の力を信じて努力すればいつだって成長出来た。
こんなにまでも、自分の力の足りなさを実感することはなかった。
だからこそ、誰かを殺さなければ生きていけないこの世界が、美琴にはどうしても堪えられなかった。

「小娘よ、名は何と言う?」

一方、またしてもライダーは美琴の予想を反するように振る舞う。
ライダーは美琴の叫びに微塵も臆する様子は見せていない。

「……御坂美琴よ」

答えてやる義理はなかったかもしれない。
だが、美琴は何故か答えなければいけないと感じていた。
自分の叫びを、ライダーは黙って聞いてくれた。
その事が無性にも引っかかる。この男は殺し合いに乗るような、冷酷な男である筈なのに。

「美琴よ、余は殺し合いに興味はない」
「ッ!嘘よ! だってラッドは――」
「あやつは生きておる」

一瞬、美琴はライダーの言葉の真意を読み取れなかった。
ライダーは美琴の反応を見届けながら続ける。

「グラハムという男が居てな。ラッド・ルッソとは知り合いだそうだ」

美琴にはグラハムという名前に覚えがあった。
ラッドが口にしていた男で、彼と同じくらいの力を持っているらしい。
そして機械の解体に優れ、首輪の解除にも役立ちそうな参加者であると。

「じゃあ、あんた……そのためにラッドは殺さなかったっていうわけ?」
「はっはっは、そういうことになるであろうな。
余としてもあやつを殺したことでグラハムの坊主が騒いでも面倒ではあるし、あやつの身体はなかなかに興味深い。
そして御坂美琴よ、それは貴様も同じこと。
貴様の電撃は、是非とも我が陣営の力に相応しい」

用心棒として名を馳せたラッドの戦闘技術は非常に高い。
だが、それ以上に本人すらも知らない“不死者”としての生命力をライダーは見抜いていた。
殺すのは惜しく、あわよくばその力を配下におさめようとするライダーの欲求は、この場でも顕在であった。
またブケファラスを失った今、ミュウツーを追うには圧倒的に速度が足りない。
ならば自分達の戦力だけでも蓄えておこうとライダーは考えたのかもしれない。

「だったら……それにしてもやりすぎじゃない。
グラハムって人と知り合いなら、あいつだって考えを変えたかもしれないのに」

ライダーの危険性は置き、美琴はライダーに疑問を投げかける。
ラッドはひとまずは殺し合いの大元である、ギラーミンを倒すことを目的にしていた。
そのためには首輪の解除は必要であり、グラハムとの合流を考えていた。
ライダーが一言、『グラハムと知り合いである』と告げてくれれば、ラッドは戦闘を中止し、ここまで酷いことにはならなかったのではないか。
美琴はそう考えていた。

「……レッドという坊主が居てな。以前、余と行動を共にしていた」
「レッドって……? もしかしてあの子……」

美琴は知っている。
切嗣と共にライダーと名前も知らない男の戦闘に介入した直後、出会った少年だ。
名前も知らない男を殺してしまったショックから、彼には電撃を喰らわせてしまい、そのまま目の前から逃げ出してしまった。
次の放送で少年の名前が呼ばれなかったことから、自分の電撃が致命傷にはならなかったのだとあの時は安心した。
記憶を掘り返す美琴にライダーは、彼女にとって知るよしもない事実を告げる。

「レッドはラッドに殺されたそうだ。その身を焼き尽くされてな」
「え……?」

美琴には返す言葉が思いつかなかった。
確かにラッドなら殺人を犯してもおかしくない。
自分が関わった人間が、また一人ラッドに殺されていたと考えると心が重かった。
世話になった橘あすかもラッドに殺された。
だけど、美琴は復讐よりもこの殺し合いを潰すことを選んだ。

「レッドは余の臣下ではなく、あくまでも余と同盟を結ぶ立場としてこの殺し合いの脱出を目論んでいた。
余も同じである。同盟を結んだ者達の無念は確かに惜しい。
されど……それすらも越える目的こそが、我が陣営とギラーミンの対決!
それこそが先に逝った者達への手向けとなるだろう!!」

そしてライダーの進む道も、美琴と同じだった。
仲間の復讐よりも、この殺し合いの大元であるギラーミンを倒す。
理想を語るライダーの瞳には、まるで夢を語る少年のように純粋な光があった。
そう。まるでたった一本の右腕だけで、美琴に立ち向かったあの男のように。
何故か懐かしく、力強さを感じる瞳だった。
切嗣に聞かされたライダーのイメージと、現実の彼のイメージには大きな違いがある。
美琴の判断の秤は、片方へは傾きつつあった。

「御坂美琴よ、死者の言葉に惑わされるな!
我らは覇道を歩み、必ずやギラーミンを打ち破る。
その覇道を成すためには、余は貴様を我が臣下として迎えたいと考えている。
さぁ――返答を聞かせてもらおうではないか!」

切嗣の話を美琴は、忘れはしない。
しかし、それよりもこの場で美琴がやるべきことは一つだった。
自分の力で、皆に託されたこの想いで――



「――臣下なんてまっぴらごめんよ。でも、私だって殺し合いは止めたい。
だから……『同盟』を結ぶわ。私の力、皆のために使ってみせる」



御坂美琴は再び、この殺し合いの打倒を誓う。
手をそっと置き、胸に埋められたアヴァロンを抱くように。
誰もが人を殺さなくて済むような理想を、思い浮かべながら。



◇     ◇     ◇



E-4エリアに存在する劇場は、大きく分けて三つの劇場に別れている。
北劇場、中央劇場、南劇場の三つであり、基本的な構造は同じだ。
三つの劇場は連絡通路で繋がっており、ラッドとゼロはそこを通り過ぎ、北劇場へ入った。
北劇場に至るまでのホールは至るどころ破壊されていたが、劇場内の内装は保たれている。
備え付けの椅子以外にも、あちらこちらに予備用の折りたたみパイプ椅子が置かれていた。
やがて先導する形で進んでいたゼロは劇場内を進み、立ち止る。
やや遅れて歩いていたラッドも、ゼロに倣うように脚を止めた。

「さぁて、今更何の話しかねぇ?なぁ、自称“魔王”さんよぉ!
いや……“不死者”さんと言った方がいいかぁ!?」

軽く地を蹴り、ラッドはボクサーながらにステップを刻む。
ラッドの方にはゼロが今さら何の話しをしようと関係はない。
明確な殺意を以て、ただ殺すことしか考えはない。
ライダーも殺さなければいけないが、ゼロはまた違う。
ゼロは、ラッドが最も嫌う“不死者”であると彼は信じ切っているのだから。

「“不死者”……?まあ、いい。好きなように呼んで構わない。
貴様のような罪人にも、そのぐらいの権利は許そう。
そして、話しなど……ない。貴様はここで朽ちる。」

一方、ゼロにとってもラッドは殺さなければいけない相手だった。
ゼロは愛する妹、ナナリー・ランペルージはラッドにより殺されたと考えている。
細かい内容に差異はあれども、決して間違った認識ではなく、ラッドがナナリーの死の原因となったのは事実だ。
だからこそラッド、美琴、ライダーの戦闘を中央劇場通路内で観察し、ラッドをここまで誘導したのだった。
瓦礫に倒れるラッドをその場で仕留めなかったのは、距離が必要だった。
経緯は不明だが、ラッドと共闘していた御坂美琴が加勢にくることも考えた。
二人が相手でも後れを取るつもりはないが、かかる労力は違う。
速やかに古城へ向かう必要があったゼロは、この場ではひとまずラッドの命を貰う事を考えた。
そして、サンプルとして首輪も手に入れる必要があった。

(奴にも考えがあると思ったが……好都合だ)

素直についてきたラッドの真意は不明だが、ゼロには関係がない。
今度こそラッドの死を見届けるまでは油断するつもりはなかった。
数時間前にゼロはラッドを殺した。確かに殺した筈だった。
不死の酒によって彼こそが“不死者”となっていた事実に気づけなかったためだ。

「今度こそ首を落とし……ナナリーの仇を取らせてもらおう!」

そう言ってゼロはラッドとの距離を詰める。
いつの間にか右手に握っていた和道一文字を袈裟に振るった。
名工により打ちつけられた和道一文字の切れ味は非常に鋭い。
だが、和道一文字は虚しく空を切った。
それだけでなく、ゼロには視界が大きく揺れ、身体が下へと落ちていく感覚があった。

「そいつは――上等だぜ!!」

ラッドは体勢を屈めたことにより、ゼロの斬撃から逃れた。
ゼロの脚を払った後に起き上がり、続けて横に置かれていたパイプ椅子を掻っ攫い、乱暴に振り降ろす。
床を背にし、苦虫を潰したような表情を浮かべたゼロに衝撃が迫るが、彼は冷静に片腕を突きあげる。
紋章が浮かび上がったゼロの拳がパイプ椅子に叩きこまれ、四散した。
ゼロのワイアードギアス、“ザ・ゼロ”の力は万物を無に帰す。
四散した椅子の残骸を腕で防ぎながら、たまらずラッドは後ろへ跳ぶ。

「おいおいおいおいおい、その力だよ。なんだ、そのインチキな力はよ。
てめぇ、人間様ナメるのもよぉ……いい加減にしろってんだ!!」

ラッドは只逃げているわけではない。
先程と同じようにパイプ椅子を掴み取る。
今度は一つだけではなく両手に一つずつ掴み、折りたたむ。
そして手首を返すことでスナップをきかせ、軽々と投げつけた。
二つのパイプ椅子がグルグルと回りながら、獲物を求めて進んでいく。

「言っただろう。私は“魔王”だと。
只人である、貴様とはくらべられる器ではない!」

両手の反動のみで身体を起こし、立ちあがっていたゼロが構える。
その右手には和道一文字はなく、デイバックも全て投げ捨てている。
あるものは両の拳といった状態だ。
未だ魔王として日が浅いゼロが頼ってきたのは、その強靱な肉体である。
両の拳に浮き上がる紋章が再びギアスを宿し、彼に魔の力を与える。
そしてゼロは数歩の助走を経て、漆黒のマントを翻しながら一迅の風ごとく身体を跳ばす。

脅威的な跳躍力で跳んだゼロは空中で一つ目、そして二つ目の椅子を叩き落とす。
見透かしたようなタイミングでラッドは更にパイプ椅子の数を増やした。
三つ目、四つ目、五つ目のパイプ椅子が迫るが最早ゼロは止められない。
自らの身体に回転を加え、パイプ椅子をマントで跳ね返しながらラッドを狙う。
だが、それこそが――ラッドにとって最高なタイミングだった。

「もらったぜ、このクソ“不死者”野郎があああああああああああ!!」

渾身の力を込めて、ラッドが右腕を振りかぶる。
数えきれない喧嘩の中で培ってきたラッドの殺しのセンス。
そのセンスを総動員し、突き出した右拳は完全にゼロの左頬を捉えていた。
拳がめり込んだ左頬部分を起点にし、ゼロの仮面にヒビが入っていく。

「っ……だが、こんなものは計算の内に入っている」

だが、その間合いはゼロにとっても狙っていたものだった。
ゼロは右腕でラッドの首根っこを掴み締めあげる。
魔女との契約で膨れ上がった力は絶大であり、ラッドの身体はやすやすと持ちあがる。
拘束から抜け出そうと、必死に抵抗するラッドだが逃げられない。
身体の傷は癒せても疲労が癒えることはなく、ライダーとの戦いによる消耗が響いていた。

「安心しろ、ラッド。貴様は只では殺さない。
そう……ナナリーの苦しみも味わってもらおう!」

そう言ってゼロはラッドの身体を力任せに放り投げた。
そのまま首の骨をへし折ることも出来た筈なのに、ゼロはあっさりと解放する。
ゼロが持つ明らかな余裕をラッドは感じ、再度“殺し”のスイッチを入れ直す。
だが、ゼロの言葉通り、彼はラッドを逃がすつもりはなかった。
ラッドが投げ飛ばされた先にはゼロが、置いたデイバックが転がっている。
デイバックの他に、黄色い影がラッドには見えた。

「魔王ゼロが命じる。10万ボルト、最大出力だ!!」

ゼロの命を受けて、ピカチュウがラッドに10万ボルトを放つ。
あらかじめ劇場に忍ばせていたピカチュウの準備は万端であった。
宙を浮いた状態のラッドは避けることも出来ず、電撃は容赦なくラッドの身体を焦がしていく。
絶叫を上げながら床に倒れ伏せるラッドを、追いかけるようにゼロは追った。
右手には新たな剣、聖剣グラムが握られている。
そして聖剣グラムを逆手に持ち、勢いよく振り下ろした。


「がっあああああ……!て、てめぇ!絶対にてめぇは俺がぶち殺す!!」


聖剣グラムの刀身が容赦なくラッドの背中を突き刺さる。
肉を貫き、骨を砕き、血をその刀身にまぶした聖剣がラッドの身体を離さない。
全身を使ってもがくラッドに対し、ゼロは更に腕を振るった。
聖剣グラムの代わりにその手に握られたのは一振りの刀、和道一文字。


「――そろそろ気づいているのだろう、ラッド・ルッソ」

新しい鮮血が舞う。
ラッドの絶叫と重なり、酷く不快なハーモニーを奏でた。
しかし、ゼロはただ己の刀を振るう。
まるで虫を解体するかのような冷酷さを以てして完了した。
ラッドの四肢は和道一文字により全て切り落とされた。
そしてゼロは改めて確信した。

「串刺しにされただけでなく、両腕、両脚を失っても貴様はまだ生きている。
それも一度だけでなく、二度も。これは、もはや揺るぎのない事実だ……!」


それはラッドに致命的とも言える事実。




「“不死者”は貴様のコトだろう、ラッド・ルッソ」



そして、一つの世界が壊れた。



◇     ◇     ◇


わかってみれば簡単なことだった。
魔女との契約により魔王の力を手に入れた自分が殺し合いに参加させられているのだ。
力を制限されていようとも自分の力は全参加者の中でも、最上の位置にあるだろう。
更に出力や時間の制約はあっても、量子シフトによるガウェインの召喚も可能ときている。
そんな自分が参加者として呼ばれているのだから、四肢をもぎ取られても生きている参加者が居てもおかしくはない。
ラッドの言葉を借りるなら“不死者”という参加者が居ても、可笑しくはなかったのだ。
ただし、それが先天的なものか、後天的なものかは定かではないが。

「気分はどうだ?
まさか貴様自身が人間ではなかったとは……とんだ茶番だったというわけだ。
憎むべき存在と自分が同じであったなど、滑稽を通りこして愚の骨頂だな」

様子を見ればわかる。
不死者であることはラッド自身も知らなかったのだろう。
絶叫どころか一言も言葉を返さないラッドが全てを物語っている。
その姿はゼロにとって酷く哀れなものに見えた。

「何か支給品を使った……そういうところか。
だが、まあいい。所詮、只人が命の理を操作するなど、荷が重かっただけだ。
せめて……私が楽にしてやろう」

和道一文字を握った手に力を込める。
ゼロに今度は見逃すつもりはなかった。
たとえ相手がもう抵抗するつもりがなくてもやるしかない。
参加者を減らせる時には減らしておくしかないのだ。
首を落とす覚悟は出来ている。


「では、さようなら――ラッド・ルッソ。
貴様とは案外、死ねない者同士で同じ道を歩めたかもしれないな」


腕をふるい、和道一文字の刀身を振り下ろす。
そう。確かに振り下ろそうとした。
ゼロとC.Cは確かに、ラッドの首を落とそうと考えた。


「――黙れ」


その一言を聞くまでは。



「黙れ死ね黙れ死ね黙れ死ね黙れ死ね黙れ死ね黙れ死ね黙れ死ね黙れ死ね黙れ
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」



その様子を一言で表すなら――



「ヒャハハッハハッハッハアッハアハッハハッハハハハッハアハアハハッハアッハハハッハ
アアアアアハアハアアハハハアハッハハハハハハアアアハハッハハハハハッハハハハア
ハッハハハハハアアアハッハアッハアハッハアッハハアハアハハッハアッハハハッハアア
アアアハアハアアハハハアハッハハハハハハアアアハハッハハハハハッハハハハヒャハ
ハッハハッハッハアッハアハッハハッハハハハッハアハアハハッハアッハハハッハアアア
アアハアハアアハハハアハッアアハハハアハッハハハハハハアアアハハッハハハハハッ
ハハハハアハッハハハハハアアアハッハアッハアハッハアッハハアハアハハッハアッハハ
ハッハアアアアアハアハアアハハハアハッハハハハハハアアアハハッハハハハハッハハ
ハハヒャハハッハハッハッハアッハアハッハハッハハハハッハアハアハハッハアッハハハッ
ハアハアアハハハアハッアアハハハアハッハハハハハハアアアハハッハハハハハッハハハ
ハアハッハハハハハアアアハッハアッハアハッハアッハハアハアハハッハアッハハハッハア
アアアアハアハアアハハハアハッハハハハハハアアアハハッハハハハハッハハハハヒャハ
ハッハハッハッハアッハアハッハハッ――――!!」



狂気という言葉ですら、足りなかった。



◇     ◇     ◇


ラッド・ルッソは狂人だ。
壊れていると言っても過言ではない。
だが、一見無差別にも見える彼の殺しにもルールは存在する。
『自分が死なないと思っている人間を殺す』――それがラッドの殺しの大前提だった。
だからこそ、不死者という存在をラッドはこの世で最も憎み嫌った。


「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!もしかしてあの時か!?
あのふざけた酒飲んじまったせいで、俺が不死者になったっていうのか!?
俺のこの力は、俺が覚醒したお陰じゃねぇのかよ!!なぁ答えろよ、答えろってんだろギラーミンよぉ!!!」


その目は既にゼロを見ていなかった。
ライダーもゼロもラッドにとって殺すべき標的だ。
しかし、ギラーミンへの殺意は、二人に対するそれよりも圧倒的に高まってしまった。
殺意は振り切れてしまっていた。


「ルーアを殺しただけじゃなくて、俺に不死の酒を持たせたって言うのか……ハハ、笑えねぇな。
一体、どこまで俺をナメれば気が済むんだぁ、テメェは!?
クソ、クソクソクソクソクソクソクソクソクソ――クソ野郎がぁっ!!」


口元からは赤い血がこぼれおちる。
不死者といえども流れる血は、普通の人と同じだから。
ただ、ラッドの身体へ戻ろうと血や両腕、両脚が虫のように群がっていこうとすることを除いて。
そんな光景は、ラッドにとって酷く醜く映ったに違いない。
死なない身体という、クソッタレな自分を見せつけられるだけなのだから。


「決めたぜ。テメェは何があっても殺す。マジで殺す。殺して殺して殺して殺して――殺し尽くす。
観念しろよ?俺をここまでムカつかせてくれたヤツはてめぇが初めてだからなぁ……!」


ラッドは今まで自分が不死者だと本当に気づいていなかったのか。
自分の身体に起きた異常について深く考えなかったのだろうか。
彼は狂人とはいえ、馬鹿と評される人種ではない。
恐らく考え、そして止めたのだろう。

――死なない人間なんてどこにも居ない。
ラッドにとってあの日から、それは普遍の事実となったのだから。
誰だって死ぬ。どんな奴だって死ぬ。世界はそういう風に出来ている。
あの誰よりも強かった女は、死んでしまったから。
だからこそ、ラッドは認めるわけにはいかなかった。
自分が死なない人間、“不死者”となったことなんて、ラッドの本能が認めなかった。

「なぁ、“不死者”さんよぉ。いや“魔王か”……まあどっちでもいいか。
俺はアンタの目から見ると、立派な“不死者”なのか?」

ねじが切れたように大人しくなったラッドが尋ねる。
彼の視線の先には魔王が居た。
ただし、漆黒の仮面はいつの間にか砕け、素顔が晒されていた。
緑髪の、端正が取れた女性の顔がラッドの疑問に答える。

「ああ、お前は普通じゃない。
魔女である私が言うのだから、自信を持ってもいいぞ?」
「へっ!今度は魔女ときたか!
それに魔女なんかに言われても嬉しくもなんともねぇな……そうか、俺が“不死者”か。
だったらよぉ――」

魔女C.Cの言葉を受け流すかのようにラッドは続ける。
口角を釣り上げ、にやけるラッドの顔は普段と変わりなかった。
いつもの、彼が大好きな殺しをやる時に浮かべる笑顔と変わらない。
何一つ変わらない、ラッドの意思がそこにあった。



「俺はてめぇを殺すぜ。だから精々、俺を殺して安心しやがれ。
“不死者”なんていませんでしたってなぁあああああああああああああああああああ!!」
「ああ……そうさせてもらう」


瞬間。
C.Cの握る和道一文字が一つの軌跡を描く。
ラッド・ルッソの意識はそこで途切れた。









【ラッド・ルッソ@BACCANO:死亡確認】
【残り15名】



◇     ◇     ◇


エリアD-4南部をゼロが歩いていた。
目指すはエリアA-2であり、目的は古城の調査。
ラッドの首輪を回収し、更に御坂美琴達の追撃を警戒し、自身のワープを利用しここまで来ていた。
漆黒の仮面は既に元通りに戻っている。

「やはり“不死者”といえども致命傷は死にいたるか。
そうでなくては、殺し合いなど成り立たない」

ラッドの死はあっさりとしたものだった。
首を落とした途端に、除々に始まろうとした再生も止まってしまった。
やはり永遠の命など眉唾ものなのだろう。
だが、死ねない身体がもたらす悲劇はゼロが誰よりも知っている。
正確に言えば、ルルーシュ・ランペルージと契約した魔女C.Cが知っていた。

「自分の知らないところで、死ねない身体になったとしたら……それは悲しいことだ。
奴もギラーミンによる犠牲者だったのかもしれないな」

ラッドを許したわけではない。
ラッドの罪は死ですらも償えるものではなく、実際にゼロの感情は晴れなかった。
だが、ラッドは望んで命の理から外れたわけではなかった。
不死の身体となったせいで、迫害を受け続けたC.Cの記憶には少なからず、ラッドに対する同情のような感情があったのかもしれない。
そして改めてギラーミンの力の底知れなさをゼロは感じ取った。

「人間を不死にする力……シャルルのギアスのような力か。
やはりギラーミンが保有する力は侮れない。いや、奴の背後に居る力か……」


ギラーミンが約束通り、優勝者としての願いとしてナナリーを蘇らせてくれるならそれでいい。
しかし、決別した時には戦わなければいけない。
相手の保有する力は絶大であり、未だその全容もわからない。
それでもゼロは、進むのを止めるわけにはいかなかった。
ここで諦めてしまえば、自分が蹴落としてきた参加者が無駄になる。
彼らの想いを無に帰して、自分はここまで進んでいるのだから。


「シャルル、マリアンヌ……やはり人間は個でしか生きられないのだよ。
私達は、誰もが違っている。争うことで、互いの明日を求めている。
だからこそ私達も彼らと同じ……ルルーシュはナナリーという明日を、私は死という明日を求めて、まだ歩いて行ける」


故に魔王は己の道を進み。
両の拳をこの先、いくら血に染めようとも構わない。
魔王の本質は戦いを広げていくことなのだから。
ただ、魔王も救いという明日を求めて修羅の道を進んでいく。


【E-4 劇場周辺/一日目 真夜中】
【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(小)、全身に打撲と擦傷(小)、脇腹に打撲(小)、胴体に貫通傷×3(小)、全て再生中
    多大な喪失感、強い決意、≪体内:全て遠き理想郷(アヴァロン)@Fate/Zero≫
[装備]:薔薇の指輪@ローゼンメイデン、ナース服、コイン。
[道具]:基本支給品一式(食料一食、水1/5消費)、不明支給品0~2個(未確認)、病院で調達した包帯や薬品類
    コイン入りの袋(装備中の物と合わせて残り88枚)、タイム虫めがね@ドラえもん、首輪(ジョルノ)
    真紅のローザミスティカ@ローゼンメイデン、蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン
    ARMS『騎士(ナイト)』@ARMS、真紅の左腕(損傷大)、不思議の国のアリス@現実他、いくつかの本、ナースキャップ
[思考・状況]
0:ラッドとの合流。
1:首輪を解体できそうな人物(第一候補はグラハム)を探す。
2:一人でも多くの人を助ける、アイツの遣り残した事をやり遂げる。
3:人は絶対に殺したくない。
4:自分と関わり、死んでしまった者達への自責の念。
5:上条当麻に対する感情への困惑。
6:ライダーと行動する。
【備考】
 ※参加者が別世界の人間、及び参加時期が違う事を聞きました。
 ※会場がループしていると知りました。
 ※真紅と情報交換し、ローゼンメイデンの事などについて大雑把に聞きました。
 ※あすかと情報交換し、スクライドの世界観について大雑把に聞きました。
 ※地下空間の存在を知りました。地下にループ装置があるのではと推察しています。
 ※会場は『○』の形に成っているという仮説を立てています。
 ※全て遠き理想郷(アヴァロン)が体内にあることを知りません。
 ※ラッドの事を『原石』(天然の能力者)かも知れないと考えています。
 ※参加者についての情報は以下の通りです。
  協力できそうな人物:レナ、沙都子、梨花、ゾロ、チョッパー、アルルゥ、佐山、小鳥遊、グラハム、ウルフウッド
  直接出会った危険人物:ゼロ、ラズロ(リヴィオ)、メイド(ロベルタ)、宇宙人(ミュウツー)
  要注意人物:ライダー、白仮面の男(ハクオロ)、ヴァッシュ、水銀燈(殺し合いに乗っているようであれば彼女を止める)
 ※首輪の機能について、以下のように考えています。
  確実に搭載されているだろう機能:「爆弾」「位置情報の発信機」「爆破信号の受信機」「脈拍の測定器」
  搭載されている可能性がある機能:「盗聴器」「翻訳機」
 ※首輪は何らかの力によって覆われていて、破魔の紅薔薇にはその力を打ち消す効果があると考えています。

【ライダー(征服王イスカンダル)@Fate/Zero】
[状態]:魔力消費(やや大)、疲労(中)、腹部にダメージ(中)、全身に傷(小)および火傷(小)、腕に○印、怒り、焦り
[装備]:包帯、象剣ファンクフリード@ONE PIECE、破魔の紅薔薇@Fate/Zero
[道具]:基本支給品一式×3、無毀なる湖光@Fate/Zero
    イリアス英語版、各作品世界の地図、ウシウシの実・野牛(モデル・バイソン)@ワンピース
    探知機、エレンディラのスーツケース(残弾90%)@トライガン・マキシマム
[思考・状況]
 0:美琴、ラッドと共にミュウツーを追う。
 1:バトルロワイアルで自らの軍勢で優勝。
 2:首輪を外すための手段を模索する。
 3:北条沙都子とアルルゥを守る。
 4:サーヴァントの宝具を集めて戦力にする。
 5:有望な強者がいたら部下に勧誘する。
【備考】
 ※原作ギルガメッシュ戦後よりの参戦です。
 ※臣下を引きつれ優勝しギラーミンと戦い勝利しようと考えています。 本当にライダーと臣下達のみ残った場合ギラーミンがそれを認めるかは不明です。
 ※レナ・チョッパー・グラハムの力を見極め改めて臣下にしようとしています。
 ※『○』同盟の仲間の情報を聞きました。
 ※自分は既に受肉させられているのではと考えています。
 ※ブケファラス召喚には制限でいつもより魔力を消費します。しばらく召喚出来ません(詳しい時間は不明)。
 ※北条沙都子、アルルゥもまずは同盟に勧誘して、見極めようとしています。
 ※現在の魔力残量では『王の軍勢』をあと一度しか発動できません
 ※別世界から呼ばれたということを信じました。
 ※会場のループを知りました。
 ※オープニングの映像資料を確認しました。


【D-4 南部/一日目 真夜中】
【ゼロ@コードギアス ナイトメアオブナナリー】
[状態]:左前腕に幅広の刺傷(止血、応急処置済み)、疲労(中)、悲壮≪ルルーシュ≫
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×6(食料一食、水1/5消費)、MH5×3@ワンピース、治療器具一式、防刃ベスト@現実、電伝虫@ONE PIECE×2
    忍術免許皆伝の巻物仮免@ドラえもん、和道一文字@ONE PIECE、シゥネ・ケニャ(袋詰め)@うたわれるもの
    謎の鍵、レナの鉈@ひぐらしのなく頃に、首輪×5(サカキ、土御門、真紅、カズマ、ラッド)、首輪の残骸(圭一)
    ナナリーの遺体(首輪あり)、ビニール袋に入った大量の氷
    螺湮城教本@Fate/Zero、トーチの火炎放射器@BLACK LAGOON(燃料70%)、聖剣グラム@終わりのクロニクル
    モンスターボール(ピカ)@ポケットモンスターSPECIAL、あすかのメモ、不明支給品0~1個(確認済み)
[思考・状況]
 1:殺し合いに優勝し、ナナリーを生き返らせる。
 2:異形(ミュウツー)は見つけ次第、八つ裂きにする。
 3:ギラーミンを殺して、彼の持つ技術を手に入れる。
 4:自分の身体に掛けられた制限を解く手段を見つける。
 5:『○』対する検証を行うためにも、首輪のサンプルを手に入れる。
 6:C.C.の状態で他者に近づき、戦闘になればゼロへ戻る。
 7:首輪を集めて古城跡へ戻る。
 8:余裕があれば地下を調べる。
【備考】
 ※ギラーミンにはタイムマシンのような技術(異なる世界や時代に介入出来るようなもの)があると思っています。
 ※水銀燈から真紅、ジュン、翠星石、蒼星石、彼女の世界の事についてある程度聞きました。
 ※会場がループしていると確認。半ば確信しています
 ※古城内にあった『○』型のくぼみには首輪が当てはまると予想しています。
 ※魅音(詩音)、ロベルタの情報をサカキから、鼻の長い男の(ウソップ)の情報を土御門から聞きました。
 ※C.C.との交代は問題なく行えます。
 ※起動している首輪を嵌めている者はデイパックには入れないという推測を立てています。
 ※北条沙都子達と情報交換しました。
 ※ナイン、ラッド、ミュウツーの三人がナナリーの死に関わっていると確信しました。
 ※ガウェインの制限はマークネモとほぼ同様です。
  ただしハドロン砲を使用した場合は、再召喚までの時間が、一発につき二時間ずつ増加します。
 ※首輪の機能について、以下のように考えています。
  確実に搭載されているだろう機能:「爆弾」「位置情報の発信機」「爆破信号の受信機」「脈拍の測定器」
  搭載されている可能性がある機能:「監視装置」「制限の発生装置」「首輪表面の保護機能」
 ※首輪表面を覆う金属は、ザ・ゼロのような能力で首輪を解除できないようにするための保護機能だと考えています。
 ※地下空間の存在を知りました。地下に制限を発生させている装置があるかも知れないと考えています。


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