マルチジャンルバトルロワイアル@wiki

奈落の花

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

奈落の花 ◆YhwgnUsKHs




「ラァァァァブ、アンド、ピィィィィス!!」

「……」
「……」
「……」
「……」

「…………。
あ、いやその……そこまで冷たい視線を向けられると僕も困るんですけど……」
「このような場に突然そのような乱入をしておいてそのお言葉ですか」

 ロベルタに組み伏せられた園崎詩音。
 それを止めようとしエコーズを出した広瀬康一。
 事態の推移を冷静に見極めるサカキ。
 そして、そこに乱入してきた男ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
 混迷の場は、男の呟きとロベルタの指摘で再開を迎えた。

「いや、だって……突然3人がかりで女の子を捕まえてるのを見たら、いてもたってもいられなかったんだよ!
 ほら、ラブ・アンド・ピース! その子を話してあげなよ! 苦しんでるじゃないか!」
 ヴァッシュが、頭に銃を押し付けられて呻く詩音を見てそう叫ぶ。確かに、組み伏せられ銃を突きつけられた少女。
対して、それを行うメイド、奇妙な人型を出す少年、黒服の男。どちらが被害者に見えるかは……一目瞭然だろう。
 ただし、それはその場面だけ見た場合の判断であり、その前からの経緯を知っている当事者3人としては、ヴァッシュの推測は大外れもいいところだ。
 ロベルタはヴァッシュを唯の勘違いの乱入者と判断して意識を既に詩音に戻し、康一はロベルタの強引な行動を止めようとしたところにヴァッシュが突然現れた事で、
どちらにどう対応したらいいかわからず戸惑っている。
 サカキは、どうやら自分しか手は空いていないらしいと判断した。

「少し落ち着いた方が良い。私が今から事情を説明しよう」

 サカキは冷静に対応する。ヴァッシュを見るからに単純なタイプと見た彼は、丁寧な対応で相手を冷静にしようと決めた。
 まったく、大人にはこういう時にこういう役目が周ってくる。

「じ、事情?」
「ああ。こちらの武器が不安ならば、私はいまからデイパックを捨てよう」
「ですけど……」

 ヴァッシュはどうもまだ不信感が拭えていない様子で、ロベルタを見ている。
(いや……違う)
 サカキはそこで、ヴァッシュの視線の先にある物がわかった。
 銃だ。ロベルタが詩音に突きつけている銃。それをやけに凝視している。
(あれはただ少女に突きつけられているから、という割には過剰だな。
 となると……拳銃そのものに何か不審を抱いて……)
 そのことについてサカキがヴァッシュに尋ねようとした、正にその時だった。

「ぐっ!」
「め、メイドさん!」
「あははははは!ざまあみろです!この暴力メイドが!」


 *****

(あの敵意……この少女から奪った銃に向けられているようですね)
 ロベルタもヴァッシュの視線には気付いていた。
 それが今詩音に突きつけている銃に向けられている事を。
(これは殺人を犯したと察するこの少女から奪ったもの……となれば、考えられるのはあの男はその殺された死体を発見し、
近くで銃を持っている私を疑っている、ということでしょうか。
 もちろんこの少女が殺人を犯したという前提の上の推測ですが……とはいえ、彼女から銃を離すわけにはいきません。
 あの男性に説明を任せた方がいいでしょう)
 他に2人も事の経緯を知っている人間がいる以上、自分は少女の拘束に専念する事をロベルタは決めた。組み伏せた腕を崩さず、地に顔をつけている詩音を見やる。
(?)
 見ると、少女が何やら小声でブツブツ呟いている。ロベルタにはそれがどういう意味の言葉かはわからない。
 小声なのもあるが、どうも別の国の言葉のように聞こえる。
 もっとも内容など、彼女には関係ないのだが。
「ぐっ!」
「喋る権利を与えたつもりはありませんが」
 ロベルタは銃を詩音の頭に押し付けた。それなりに痛みがあるように。少女には自分が拘束されている立場だという事をわからせねばならない。
 小言だろうが、自由を許しはしない。

 ただし、それは少し遅かった。


「む?」
 詩音を威嚇したロベルタの視界に、何やら鈍い輝きが入った。
 少し視線をずらせば、そこには銀色の球体が転がっていた。近くには口の開いた詩音のデイパック。
 組み伏せた時に彼女が落としたそれから転がり落ちたのだろうか。
(……それにしては今頃転がってくるのはタイミングがおかしい)
 ロベルタが詩音を組み伏せてからいくらかの時間が経っている。その時転がり落ちた、あるいはここが坂になっていたならば、何もおかしい事はない。
 だが、球体は今転がっており、ここは平地だ。あまりに奇妙だ。


 彼女の推測は正しかった。
 彼女の注意もまた正しかった。


  斬
「Scalp!」

 次の瞬間、球体から延びてきた攻撃に、彼女はすぐ気づく事ができたのだから。


 *****

「ぐっ!」

 自分を組み伏せていた女が、『それ』の攻撃を受けて自分の上から退いた事を確かめた詩音はすぐさま立ち上がり、女を見やった。
 女の右腕からは血が滴り落ちており、負傷した事が伺える。その表情がとても悔しそうで今まで組み伏せられた詩音にとっては喜ばしい事この上ない。

「め、メイドさん!」

 変な人型を横に浮かべた少年が、突然の出来事に声を上げた。
 何が起こったのか、信じられないという顔。それはそうだろう。突然、事態が急転し、拘束状態の詩音が開放されたのだから。

「あははははは!ざまあみろです!この暴力メイド!」
 清々した、という心持で心の丈をぶちまける詩音。その言動は、さっきまでの穏やかな顔とは似ても似つかない。
 そんな詩音の足元に、さっきの球体がコロコロと転がってきた。その一部にはロベルタの血が付着している。

「セニョリータ……!」
「あはは♪ 油断大敵、って奴ですよ。私も本気にはしてなかったんですけ」


 敵意をこちらに向けたロベルタに、詩音が言葉を返そうとした途中、容赦なくロベルタが詩音から奪ったグロックを詩音に向けて連射した。
 狙いは正確。頭、胸、腹。急所を狙った的確な射撃だった。
 だが、それは突然現れた白銀の膜に阻まれる。
「!?」
「えっ!?」
 ロベルタと康一がその奇妙な光景に、目を疑った。

 足元の球体がその姿を変え、詩音を護るように膜状になり銃弾を完全に防いだからだ。


「ちょっと。セリフの途中で撃つのやめてくださいよ。空気読めない人ですね、お姉と同類ですか」
 詩音が平然とロベルタにそう言う。
 とはいえ、かくいう彼女も球体の性能に内心驚いてはいるのだが。

 ヴォールメン・ハイドラグラム
『 月 霊 髄 液 』。
 それが詩音を護った球体の正体。
 第四次聖杯戦争において、ロード・エルメロイことケイネス・エルメロイ・アーチボルトが使用した魔術礼装である。
 “流体操作”の魔術により、蠢く水銀の固まりとなるそれは、自在にその姿を変容する事ができる。

 詩音がこれを見つけたのは、殺害した上条当麻のデイパックの中だった。とはいってもそれは白銀の入れ物である瓶。
 しかし、説明書を読んだ詩音はその性能をあまり信じていなかった。白銀が動いて守ってくれる、など詩音の常識では信じられなかったからだ。
 けれどとりあえず、始動のキーとなる言葉は覚えておいた。万が一の為に。
(やっぱり人間、備えはしておいた方がいいですねぇ)
 その万が一が、まさにさっきの事態。
 動かせるのは口のみ。ロベルタの注意がわずかに乱入者に向けられたあの瞬間がチャンスだった。
『Fervor,mei sanguis』
 『沸きたて、我が血潮』という意味のその言葉こそが、術式始動の呪言であり、それをキーに、デイパック内の瓶から白銀が流れ出て球体の形態を取るとデイパックから転がり出た。
『Automatoportum defensio : Dilectus incursio』
 そこまで言ったところでロベルタに邪魔されたのだが、詩音にとってはそこまでで充分だった。
 『自動防御』、『指定攻撃』。二つの指令を既に終えたのだから。
 『自動防御』はその名の通り、現在の術者である詩音をあらゆる攻撃から守る。それも、自動的であるため、詩音が気付かずとも、白銀自身が気付けば問題なく防御できる。ロベルタの銃弾を防いだのはまさにその機能だ。
 『指定攻撃』は、術者の意識を読み取り、攻撃対象を決定。声と共に攻撃を仕掛ける。先の『Scalp』がその合図だ。
 水銀から鞭のように延びた一部、さらに先端が剃刀のようになったものが、ロベルタに向かって攻撃を仕掛けた。チタンすら両断するそれを、ロベルタは反射的にかわしたが、避けきれず右腕にわずかに傷を負うことになった。

「これは……」
「な……」
 事に気付いたサカキとヴァッシュが、目の前の惨状を見て驚きを顔にする。
 詩音としてはチャンスを作ってくれたヴァッシュに礼の一つも皮肉で言ってやろうかと思ったが、その暇もなさそうだと判断した。
 何せ相手は4人。月霊髄液があればいくらでも立ち回りはできそうだが、大事なのはここから生き延びる事。ここは一旦退いた方が得策だろう。それには、2人が動きを止めている今がチャンスだ。
 詩音はすぐさま踵を返し、走り出す。それを攻撃を加えられたことでなおさらその顔に冷徹の色を滲ませたロベルタが、グロックを左手に持ち替えて詩音に向けて撃つ。
 だが、それも詩音の後ろを随行する白銀が、再び膜を構成して防ぐ。
「くっ……!」
 ロベルタが再び悔しさに顔を歪ませるのは、走る詩音は快感と共に見た。
「あっははは! 本当気持ち良いですね! さっきまで威張っていた奴が悔しそうな顔をするのは!」
 そう嘲り笑い、詩音は4人を後に走りぬけた。






 はずだった。

「え?」


 ロベルタの銃弾は白銀が防ぐ。
 サカキとヴァッシュは、事態の推移にまだ付いていけていない。


 ならば、残る1人は。


「しまっ…」

 詩音が自らの失態に気づいた時は、もう遅く。

 何かが、自分の足に触れて……。



 詩音は、突然地面に倒れこんだ。


 *****


 広瀬康一もまた、突然の展開に戸惑った一人ではあった。
 ロベルタの暴行を止めようとエコーズを出したが、彼女が思いとどまったのに安心して収めようとした。だが、そこにヴァッシュが乱入。警戒してそのままの状態を保ったが、今度はロベルタが突然負傷。
 彼女に攻撃を加えた物体は詩音に従っており、詩音はロベルタを嘲り笑って今ここから逃走しようとしている。

 ここまでで康一は考える。
 自分は何をするべきか。今、ここで自分が為すべきは何か。
 突然現れた白銀の物体。形を変え、詩音に従うそれを康一はスタンドだと判断した。彼が見てきたスタンドは人型をしているのが多いが、例外も中には存在する。
 だから、あれもその一つであり、サカキたちにはあれは見えておらず、宙で銃弾が弾かれているように見えているだろう、と康一は考えていた。
 詩音はスタンド使い。そして、あの豹変ぶり。ロベルタはとりあえず凶行を諌めると言ってくれた。ヴァッシュは見たところ、本当に詩音を助けたかっただけらしい。サカキは最初から協力的だ。
 ならば、この場で『悪』と断ずる事ができるのは、園崎詩音のみとなる。彼女がこの前にも人を殺し、そして今人を傷つけ笑いながら逃走しようとしている。恐らくはまた人を殺すつもりかもしれない。
 サカキに主催者の矛盾について説かれても、その後のロベルタの黒幕の方を信じたのかもしれない。
 許せない。自分だけ助かろうなんて。悩んだ末なら、康一だってまだわかる。
 でも、彼女は嗤った。それは、彼が見てきた『悪』の笑いだった。
 このまま、逃すわけにはいかない。

「エコーズACT3!」
『S・H・I・T!』
 康一がエコーズに命じ、逃走する詩音の足にその攻撃を加えた。
 康一が接近し、エコーズが逃げる詩音の足にその拳を触れさせる。月霊髄液がロベルタの銃撃で動きを止めた、その一瞬に。
 けれど、それだけだ。距離が僅かに届かず、少し触れただけ。詩音の逃走は阻めないはずだった。


 だが、次の瞬間に詩音の足が地面にくっつくように落ち、体が慣性に従って地面に倒れる。
 ロベルタやヴァッシュ、サカキ、そして当の振り向いた詩音も康一に視線を集中させた。
 既に人型は詩音から離れ、月霊髄液は動ける。だが、押さえつけられた詩音の足には何の反応も示さない。
 叫びや、その傍らの人型の動きから康一が何かを行った事は明白だった。
 だが、何が起こったのか。


 エコーズACT3の『攻撃』は、重力を加える事。
 物体に重力を加え、下方へ落下させ、押さえつける。
 詩音の足に攻撃を加え、逃走を阻止した。では、なぜ今かかる重力に月霊髄液が反応しないのかといえば、重力による直接的な、物質的ではない攻撃。
 銃弾も、刃にも反応するであろう魔術礼装の穴、飛んでくるわけでも向かってくるわけでもない、非物質な攻撃には無力。
 康一は図らずも、魔術礼装の穴を付いたのだった。

「ぐっ、うっ……足が、動かない!」
「無駄だよ。もう君の足は動かせない。メイドさんを傷つけたまま、君を逃すわけにはいかない」
「こ、の……!」
 詩音がこちらに怒りに満ちた視線を送ってくる。その激しさに、康一も一瞬ひるむが、それだけだ。あの町での戦いを乗り越えた彼に、その程度で竦むような精神はない。
「康一君……一体、君は」
「それは後で説明します! 彼女を早く拘束してください」
 困惑した様子のサカキに康一はそう指示する。

「っ!Sca…」
「させません」
 月霊髄液に康一への攻撃指示命令を出そうとした詩音だったが、そこにロベルタが銃撃を加える。
 銃弾はまたも、白銀の膜によって防がれる。だが、その様子にロベルタは満足した様子だ。
「やはり、同時に二つの行動はできないようですね。私があなたに攻撃を加える限り、それは防御を続けるしかない。そしてあなたは逃げられない。……詰み、ですね」
「っ!!」
 事実上の終了宣告。それを告げたロベルタは、月霊髄液を止めるべく銃撃を続ける。
 康一は詩音の動きを止め続ける。
「君。君も手伝ってくれないか」
「え、で、でも」
「今の状況では、止めた方がいいのは彼女だと私も思う。とりあえずは拘束し、説得をしようじゃないか。メイドの彼女は私が止める」
「わ、わかりました……殺さないでくださいよ」
「わかっている」
 サカキの説得により、折れたヴァッシュがサカキと共に詩音に近づいてくる。

 万事休す。
 盾は動けず、足は動かず、網が詩音を捉えようとする。
 これでいいと康一は思った。
 これで、詩音の凶行は止められる。
 人を傷つける『悪』は、ここで止められた。


 はずだった。


「うぐっ……!」
 突然、康一の首を圧迫感が襲った。
 締め付けられる。急激に、とてつもない力で。
(なん、だ……いっ、たい)
 康一はあまりの苦しさに膝をつきつつ、その目をなんとか動かし……とんでもないものを、見た。

「なっ……」
「む……!」
「な、何だよあれ!」
 ロベルタ、サカキ、ヴァッシュも同じ感想だったらしく、驚愕の反応を示す。


 康一が見たのは、2本の腕。細くも力強いその腕が、康一の首を締めていた。
 そして、その腕は……康一の胸から、『生えていた』。


 *****

 園崎詩音がそれを見つけたのは、やはり上条当麻のデイパックの中だった。
 月霊髄液の説明書を見て支給品にどうも胡散臭さを感じ始めた時、次に見つけたのが『それ』だった。説明書を見れば、これまた胡散臭さ極まりない。
 支給品自体も、奇妙な見た目ではあるが、強力な武器にはとても見えない。書いてあった効用も本当なのだろうか。
 と、詩音が考えた時、彼女の腹が鳴った。そういえば、来る直前はまだ食事をしていなかった。時刻も零時をとっくに回っている。腹が減っても仕方ない。
 目の前にある支給品は、食物だ。説明書の効用も毒とは書いてなかったはず。効用だって眉唾。ならば、食べてしまっても問題はない、と詩音は判断した。
 腹を減っては戦はできないとも言う。悟史の為に生き抜くと決めた彼女は、それをあっさりと口にして。
「うえっ!!」
 吐き気を催した。

「な、なんなんですか。この信じられない不味さ……! くそ!」
 詩音はまだ一口しか齧っていないそれを、学校の廊下に叩きつけた。それはぐしゃ、という音とともにバラバラに砕け散った。
 そうしたいくらい、それは……不味かった。
 あまりの不味さに、少し欠片を飲み込んでしまったが……当然、腹の足しにはならない。
 結局、彼女は元々あった食料でとりあえずの食事を済ませたのだった。


 そして、今。
(畜生畜生畜生畜生! あのクソガキ! なんでなんでなんでなんでなんで!あいつが私を止める!)
 地に伏せられた詩音は、広瀬康一に向けてその憎悪を滾らせていた。
 彼女はここで死ぬわけにはいかない。拘束なんて冗談ではない。
 一度はサカキの言葉で揺らいだ希望。けれど、黒幕の存在に自分も画点がいった時、彼女は再び闇の道を選んだ。
 悟史の元に帰るため、悟史の笑顔を見るため、悟史との生活を手に入れるため。
(何で邪魔する! なんでどいつもこいつも私と悟史くんの邪魔をする!? 私と悟史くんが何をした!
 こいつらも雛見沢の関係者なのか!? なんで私の邪魔をする!! くそくそくそくそくそぉ!)
 自分を邪魔する、全てが憎い。憎くて憎くてたまらない。
 当座は、あの少年だ。あの少年が自分の足を止めているのは一目瞭然。
 殺してやりたい。殺してやりたい。自分と悟史の邪魔をするあいつを殺したい。
 殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい!
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!


 その詩音の憎悪をきっかけに……『悪魔』が、覚醒した。


 詩音が口にした支給品……それは、『ハナハナの実』。
 ある世界で、『悪魔の実』といわれている代物だった。


「うぐっ……!」
「なっ……」
「む……!」
「な、何だよあれ!」

 康一の胸に現れた2本の腕。それが康一を締め上げている。
 背中から誰かが康一の体を貫いているわけではない。何もないところから突然腕が生じている。

 4人が言葉を失う中、詩音だけはその現象に心当たりがあった。
 説明書の文、『この実を食べた者は、好きな場所に自らの部位を生やす事ができる』。
 まさに目の前の現象だ。そして何より、詩音の手には感触があった。自身は何も握っていないはずなのに、何かを握り締め上げている感触がいつの間にか。
 詩音の康一への憎悪。それが無意識に彼女の中で既に使えるようになっていた能力を目覚めさせ、本能的な行為を康一に行っていた。
 それが、腕による首絞め。
 そして、それは詩音を救う事になる。

「っ、足が……」
 足が、動く。
 重力を加えていた康一の意識が朦朧とし、スタンドの維持ができなくなっていた。
 現に、エコーズの姿がもう消えている。
 3人は康一に気を取られている。
 チャンスだ。詩音は立ち上がり、今度こそ逃走を図る。
「っ!しまった!」
 いち早く気付いたサカキが声を上げるが、もう遅く、ロベルタが詩音から奪った銃も弾が尽きていた。
 月霊髄液も詩音を追うかのように、とてつもないスピードでその場から流れて消えて行く。

 刹那、詩音の頭にある策が去来する。
 それは悪魔の一手。
 詩音も一瞬躊躇うその一手。

 だが、悟史の面影が浮かんだ瞬間……躊躇いは、消え失せた。


「あはははは!この園崎家筆頭、園崎『魅音』を捕まえられるわけないんだよ! あははははは!」


 夜の闇の中に、叫びを残しながら……園崎詩音は姿を消した。


 *****

「げほっ、かほっ……」
「大丈夫かい? ねえ!」
 首の圧迫から開放された康一をヴァッシュが心配そうに見つめる。
 彼の首を絞めていた腕。それは詩音がこの場から去っていくと同時に、突然消えた。
(やっぱり、あれは彼女が……何者なんだ?あの子……)
 ヴァッシュが疑問に思うが、まずは目の前の少年だ。かなり力強く首を絞められたらしく、まだ息が落ち着いていない。

「はぁ……はぁ……あな、たは……」
「僕?僕は、ヴァッシュ……って、自己紹介してる場合じゃないや! 無理して喋らなくて良いよ。ゆっくり休んでて」
「は、は……い……で、でも、彼女、は……それに……」
 康一が息絶え絶えに辺りを見回すと、そこには詩音はおろか、ロベルタ、サカキの姿もなかった。自分の意識が朦朧としている間に、何が…?
 やけに疲れる感覚は……首を絞められたから、だろうか。

「ああ。あの子…魅音、って子…は、あのまま逃げていっちゃって……。メイドの人がそれを追っていって、さらにその後を男の人が追って行ったんだ」
「え……」
「あ、大丈夫。男の人が行く時に、僕が通信機みたいなのを預けたから。後で向こうから連絡を入れるって。
 だから、とりあえず休んでてよ。情報の交換とかは後でいいから」
「す、すいません……」
 康一がすまなそうにした後、声を落として息を吸い、早く呼吸を取り戻すことにした。
 その間、ヴァッシュが闇に包まれた森を見つめて、ぽつりと呟く。

「……僕は、何も……できなかった……」


【B-2 森/1日目 黎明】
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:疲労、黒髪化
[装備]:??? 電伝虫@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、不明支給品0~2
[思考・状況]
 基本:殺し合いを止める
 1:ラァヴ、アンド、ピィィィィィスだッ!!
 2:康一を守り、サカキの連絡を待つ。
※備考
 原作13巻終了後から参加
※康一、サカキ、ロベルタの名前はまだ知りません。
※詩音を『園崎魅音』として認識しています。
※口径などから、学校の死体を殺すのに使われたのはロベルタの持っていた銃ではないかと思っています。

【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労 首に痛み
[装備]:???
[道具]:支給品一式(確認していない)  不明支給品1~3
[思考・状況]
 基本:皆を守ってギラーミンを打倒する!
 1:少し休み、 サカキの連絡を待つ。
 2:少女を止めたい。
 3:同じ意志を持つ仲間を探したい
 4: ギラーミンと話していた少年に会う
※備考
 第四部終了した時間軸から参戦。
 名簿というか、ディパッグの中を確認してません。
 (支給品は次の書き手さんに任せます)。
 スタンドパワーの消費が激しいことに気付いてません。
※サカキ、ヴァッシュ、ロベルタ、詩音の名前はまだ知りません。
※詩音をスタンド使いだと思っています。

 *****

「どういうつもり、なのでしょうか?」
「別に。君を追ってきただけだが」
「その理由を質問しているのです」

 森の中で、ロベルタは足を止め、目の前にいるサカキに向けて銃口を向けていた。

「いいのかね。彼女、魅音とやらを追わなくても」
「とりあえずは追い、殺します。ですが……後ろから追われるというのは気分が悪いものですから」
「なるほど」

 銃口を向けられているにもかかわらず、サカキは余裕気だ。
 既に銃は弾切れの物と取り替えてあり、当然弾は入っている。サカキもそれは一目でわかっているはずだ。

「何故、追ってきたのです。彼らを捨ててまで」
「君と言う強力なカードを失いたくなかったのでね。それに、少年達を捨ててもいない」
「なんですって?」

 自分のことを、カードと呼ぶ。
 いささか不愉快だが、ロベルタは別のことに気が付いた。

 雰囲気が、違う。
 口調もだが、それ以前に。
 先ほどまでと男の気配が異なる。
 これは……。

 サカキはそんなロベルタを無視して、デイパックから何かを取り出しロベルタに見せた。
「エスカルゴ、にしては大きいですね」
「生物ではあるらしいがね。どうやら通信機能があるらしい。乱入してきた青年が、彼女を追おうとする私に預けてくれたのさ。
 これで後からでも連絡を入れるつもりだ。やはり合流するなり……君と共に、彼らとは別行動を取るなりな」
 サカキが見せたのは受話器のようなものがついた、大きなカタツムリ。『電伝虫』と呼ばれるそれは、仲間同士で念話の会話ができる生物であり、人間の技術により電話として使用可能になっている。
 ヴァッシュのデイパックには2匹入っており、それぞれの説明書に互いの電話番号が書いてあった。つまり、互いにしか掛けられないということになる。
 サカキとしては一旦戻ってくるつもりだったが、ヴァッシュのお人好しにより、連絡線を確保する事ができた。

「……今、なんとおっしゃいましたか?私と共に、彼らと別行動をすると?」
「ああ。君は彼らと行動したくはないのだろう?」
「……」

 図星だった。
 愛と平和を叫び、戦いを止めようとした男。
 凄みはあったが、それでも少女を殺そうとはせず、止める事に専念した少年。
 殺人を是としないであろう2人。
 ロベルタとしては行動を共にする事は避けたかった。
 彼女はいざとなれば優勝を目指す覚悟もある。人を殺すのも躊躇いはしない。
 その時に、もし彼らと共にいたならば、邪魔をされるかもしれない。
 そんなのは御免被る。
 彼らから離れたのは、少女を追跡する他に、彼らから離れる狙いもあった、のだが。

 それをサカキには見抜かれていた。

「だからといって、あなたと行動を共にする、という事にはなりません」
「その腕の傷。全く動かせないというわけではないだろうが……だいぶ辛いだろう」
「……」
「いつ襲われるかはわからん。幸い、私は応急処置はできるくらいの備品を持っていてね。君の右腕代わりになってもかまわん」
「その代わり……共に行動しろ、と?」

 ロベルタがそうたずねると……彼は、笑った。
 その時、彼女は確信した。
 彼の雰囲気は、よく似ていた。

「いや……少し、違うな」

 彼女が見てきた……率いる者の、気配。
 それも……犯罪者の、組織。

 サカキの笑みが……それを彼女に告げていた。


「私と……手を組め」


【C-2 北部・山道/1日目 黎明】
【サカキ@ポケットモンスターSPECIAL】
[状態]:健康
[装備]:投擲剣・黒鍵 10/10@Fate/zero
[道具]:支給品一式、包帯(少量)、薬(胃薬)、電伝虫@ONE PIECE
[思考・状況]
 基本:ゲームを潰してギラーミンを消す
 1:ロベルタと手を組む
 2:ロベルタの返答を聞いた後、康一たちに連絡を取る
※備考
 第三部終了(15巻)以降の時間から参戦。
※康一、ヴァッシュ、ロベルタの名前はまだ知りません。
※詩音を『園崎魅音』として認識しています。

【ロベルタ@BLACK LAGOON】
[状態]:健康 。メイド服。 右腕に切り傷。
[装備]:コルト・ローマン(5/6)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式 コルト・ローマンの予備弾42 確認済支給品0~2(武器の可能性は低い) グロック26(弾、0/10発)@現実世界 
[思考・状況]
1:サカキと手を組むかどうかを決める。
2:園崎魅音(詩音)を追い、殺す。
3: とりあえず殺し合いに乗るかは保留。
4:必ず生きて帰り、復讐を果たす。
【備考】
 原作6巻終了後より参加
※康一、ヴァッシュ、サカキの名前はまだ知りません。
※詩音を『園崎魅音』として認識しています。

 *****


「はぁ……はぁ……」

 森の中、園崎詩音は息を荒くしていた。
 月霊髄液はもうデイパックに戻してある。
 本当ならば常に出しておき、周囲の警戒を万全にしたかったが……そうはいかなかった。

「はぁ……凄い、疲れる……」

 ここまで必死に走ったから、だけではない。
 確実に疲労が激しい。
 詩音は月霊髄液の説明書の一文を思い出していた。
 『魔術回路、魔力を持たない者も使用可能です。
  ただし、その場合体力を魔力の代替として使用します』
 魔力とかなんだかはよくわからないが、体力を浪費する事は身に染みて実感した。
 アレを出すのは、限られた時にしないといけない。

「となると……」


 詩音は近場の木を見やり、そこに自分の腕が生えるイメージを浮かべた。
 すると、そこからは自分の腕に似た2本の腕が生えた。
 手を開く、閉じる、などの動作も行える。
 見ていて気持ち悪いとは思うが……これは確実に力だと彼女は感じた。

(カナヅチになる、とか書いてありましたが……そんなの関係ないです。
 悟史君の所に帰れるなら……人間なんて、捨てても構わない)

 彼女は笑う。
 月を見上げて嗤う。

「すいませんねえ……『詩音』。
 でも、いいよね?
 だって『魅音』は……元々私のものなんだから!」

 小さい頃、入れ替わってしまった双子の姉妹。
 『魅音』は『詩音』。
 『詩音』は『魅音』。
 だから、ここにいるのは本当ならば、『魅音』。
 だから彼女は躊躇わない。
 妹に罪を着せる事になる、行いを。

「これからは『魅音』として、みんな殺してあげるからね……。
 精精、私の罪を引き受けなよ、『詩音』。
 それがあんたの……悟史君を助けなかった罰だ!

 あっははははははははははは!!」

 魅音を名乗り、ここにいるであろう妹に罪を着せる。
 それが思いついた悪魔の一手。
 既に4人に流布した。
 髪や服の問題は、着替えたとでも思うだろう。

 彼女は、月を見上げて笑い続ける。

「とりあえず……どこかで休まなきゃ、話に…ならないですね」

 彼女は地図を広げ、自分がいるであろう場所を考えつつ、歩き始めた。



 園崎詩音の『鬼』は目覚め、『悪魔』がそれに手を貸した。

 闇の森を歩くのは、『鬼』かそれとも『悪魔』か。
 月を見上げて嗤うのは、『園崎魅音』かそれとも『園崎詩音』か。


【C-2中心部 道沿い/1日目 黎明】
【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に】
【装備】:なし
【所持品】:基本支給品二式、不明支給品0~2個(確認済み) 、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)@Fate/Zero
【状態】:健康 。 疲労中。 能力者<ハナハナの実>
【思考・行動】
1:優勝して、悟史のところへ戻る。
2:魅音の名を騙る。
3:どこかで休憩する。
【備考】
 本編終了後からの参加
※ハナハナの実の能力を得ました。任意の場所(自身の体含む)に、自分の部位を生やす事ができる。
 生やせる部位は、制限により『腕』のみです。
 ただし、今は『腕』を2本、それも互いにそれほど離れた位置には生やせません。
 時間の経過、能力への慣れによっては本数が増える可能性もあります。
 また、生やした全ての部位に意識を向けるので、慣れていない状態では単純な動作しかできていません。
 生やせる場所は、使用者を中心に15メートルの範囲内に制限されています。
 生やした部位がダメージを受ければ、本人にもダメージが伝わります。

※D-2学校廊下に、ぐしゃぐしゃになったハナハナの実が放置されています。
 なお、悪魔の実は一口食べただけで効果を発揮し、その後はただの不味い木の実になるので、食べても能力は得られません。







時系列順で読む


投下順で読む


Back Next
一触即発 ロベルタ BLACK FRACTION
一触即発 園崎詩音 愛しさの鬼と優しい姉と
一触即発 広瀬康一 本気のココロを見せ付けるまで 僕は眠らない
一触即発 サカキ BLACK FRACTION
一触即発 ヴァッシュ・ザ・スタンピード 本気のココロを見せ付けるまで 僕は眠らない




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー