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チート野郎ってレベルじゃねーぞ!

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匿名ユーザー

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時を止める幼女/チート野郎ってレベルじゃねーぞ!◆EHGCl/.tFA



煌びやかな遊園地。
そこから少し離れた森の中に二人は居た。
一人はニコラス・D・ウルフウッド。
ある砂の惑星にて牧師と殺し屋を成合としている男。
その実力たるやまさに一騎当千。
類い希なる戦闘センス、改造によりもたらされた常人を超越した身体能力と感覚神経で、与えられた任務をこなす殺し屋「だった」男だ。

もう一人は古手梨花。
何十、何百と同じ時を繰り返すという数奇な運命を背負い、そして遂にはそれを打破した少女。
精神年齢だけを取れば、隣のウルフウッドよりも遥かに上。身体は子供、心は大人を地で行く少女だ。
そんな二人が肩を並べて歩いていた。
会話はなく、ただ森林を進み続ける二人。

(なんか気まずいわね……)

そんな二人の片割れ―――古手梨花が、沈黙に気まずさを覚え始めたのは歩き始めてから数分経った頃であった。
二人がした会話と言えば、最初の自己紹介の時と支給品の確認、そして木の実を貰った時だけ。
古手梨花お得意の猫かぶりを見せる間すらない。
ただウルフウッドが危険な男ではない事は、梨花にも何となく判断できた。
元々無口な男なのか、ただ他の参加者を警戒しての沈黙なのか、その判別はできないが、少なくとも悪者には見えない。

(とはいえこうも会話が無いのは流石にねぇ……)

何をする上でもコミュニケーションというものは大切だ。
信頼を深めれば緊急事態への対応も円滑になるし、窮地に陥っても互いに励ましあう事で打破できるかもしれない。
仲間の大切さを、梨花は身を持って知っている。
一人では打ち破れなかった運命も、仲間と協力する事で乗り越えた。あの苦しい苦しい日々を打ち破れた。
仲間とならばこのふざけたゲームだって脱出できると信じている。
ゲームの主催者であるギラーミンの打倒だってできると信じている。
「運命」をぶち壊し「未来」を掴み取った仲間となら―――、

だからこそ梨花は考える。このゲームを打破するには仲間の存在が必要不可欠。
そして仲間という関係には、何もせずに至れる物ではない。
お互いを知り、言葉を酌み交わすことにより漸くスタートラインに立てる物。
少なくとも、今の自分とニコラスの関係は仲間と呼ぶには余りに不充分であった。

「……ニコラスは外国の人なのですか?」

だから梨花は一歩踏み出す。
自分から動かなくては運命は変わらない。
あの時もそう。仲間に秘密を打ち明けた事が運命を打開するキッカケとなった。
失敗はもう二度としない。漸く掴み取った未来を手放すなど、絶対にしない。
だから梨花は自ら一歩を踏み出したのだ。

「……外国いうんは良く分からんけど、まぁ基本は根無し草やな」

帰ってきたのは無愛想な返事。
でもそれで良い、と梨花は思う。
この些細な会話こそが運命の打開に繋がる筈の一歩目に繋がる、そう信じているから。
振り向き答えたウルフウッドに、梨花は微笑みを贈る。
そんな梨花を、男は眩しい物を見るように目を細めて見つめ、直ぐに逸らした。






眩しかった。

直視できなかった。

自分に投げ掛けられた言葉。

自分に向けられた笑顔。

思い出してしまう。

孤児院で暮らしている兄弟達を。

自分の手は血塗られている。

自分の心も血塗られている。

もはや拭い去ることなど出来ない漆黒に染まりきっている。

そんな自分が、どうしてこの少女の笑みに答えることができる?

悪党は何処まで行っても悪党。

居場所は血と血で争う地獄だけ。

今のような殺し合いの中がお似合いだ。

「そうなのですか。なら今度は雛見沢に来るといいのですよ。とても良い所なのです」

だからそんな顔を見せないでくれ。

希望を持ってしまう。

まだ引き返せるかもしれないと。

アイツのような生き方ができるかもしれないと。

そう、思ってしまう。

無理や。

いやまだ戻れる。

二つの思考がせめぎ合いを起こしている。

今、決めるんや、ウルフウッド。

アイツと同じ道を行くか、それとも自分の道を行くか―――今、決断しろ。






「そうなのですか。なら今度は雛見沢に来るといいのですよ。とても良い所なのです」

別に変な事を言ったつもりは無い。ただ本心から出た言葉を口にしただけだ。
なのに、ニコラスは視線を逸らし押し黙ってしまった。
そして空を見上げたまま、木の実を一つ口の中へ放り込む。
それを咀嚼しゆっくりと飲み込むニコラスは何かを考えているように見えた。

「――嬢ちゃんは人を殺した事があるか?」

唐突に放たれたその単語に、梨花は固まってしまった。
――「殺す」
何の脈絡もなく、突然ウルフウッドが呟いた血生臭い言葉。日常なら笑い飛ばせる言葉、でも今この状況ではあまりに重過ぎる言葉だ。
それをウルフウッドは易々と口にした。
サングラスの奥底に隠れた瞳が、鋭くなっているような気がした。

「……あ、ある訳ないのですよ。もしかしてニコラスはあるのですか? 怖い狼さんです」

にぱー☆と笑顔を作るが、その裏では声が震えないようにするので精一杯であった。
何とか猫を被ったまま喉から言葉を絞り出す。
一応、答えに嘘はない。ある世界では鉄平を殺そうともしたが結局は失敗した。
何回も殺された事はあるが、人を殺した事はない。

「ワイはあるで。まぁ、ワイの事はどうでも良い。今は嬢ちゃんについての話や」

サラリととんでもない発言をした。
さもそれが常識のようにアッサリと、本来ならば隠蔽すべき事をニコラスは打ち明けた。
先程までの恐怖も忘れ、ニコラスの顔を眺めたまま、ポカンと口を開けてしまう。
冗談なのか、本気なのか区別がつかない。
ただサングラスの奥で光る眼を見る限り、信じられないが真実のように感じた。
何なのだ、この男は。
訳の分からない質問を飛ばし、殺人を行った事実を当然のように口にする。
少なくともマトモな人ではない。
考える。質問の意図を、言葉の真偽を、男の思考を。
だが幾ら考えても答えは導き出せない。
逆に、考えれば考える程、今まで優しげに見えた男が異常者に思えてしまう。
その途端、背筋に、何かが這い上がってくるような寒気が走った。
体全体に鳥肌が立つ。
もしかして自分はとんでもないミスを犯してしまったのではないか?
目先の恐怖に捕らわれ、選択を誤ったのではないか?
脳内を駆け巡る疑問符。無意識に右足が後ろへと下がるが、それ以上は動かない。
蛇に睨まれた蛙の気持ちが少しだけ分かった気がした。

「次の質問や。嬢ちゃんは銃を撃ったことはあるか?」

自分の様子に気付いているのか、いないのか、ニコラスは飄々と悪びれた様子を一切見せずに、別の質問をした。
その質問もまた、こんな子供にするものではない、オカシナ問いである。

「な、ないわよ……ある訳ないじゃない!」

知らず知らずの内に地が出ていた。
まだ二、三言、会話を続けただけなのに、既に目の前の男が何なのか理解出来なくなっていた。
そんな梨花を尻目にウルフウッドは小さく溜め息を吐くと、デイバックに腕を突っ込み掻き回し始めた。
何を探しているのだ?
何故いきなりデイバックを漁り始める?
何故こんな子供に殺人をした事があるか、などと聞く?
何故こんな子供に銃を撃った事があるか、などと聞く?
何かが変だ。噛み合わない。
この男を本当に信用していいのか?
その時、ニコラスの手からデイバックが滑り落ちた。
慌てた様子で落下を防ごうとするも手は空を掠り、バックは地面へと落下してしまう。
そして私は見た。ニコラスのデイバックから飛び出た物体を。
地面に転がった漆黒の物体――俗に言うピストルとショットガンを。

支給品の内容を互いに確認しあった時、ニコラスは私の問いに答えた。
「武器はない」と。
確かにそう言った。だが目の前には確かに二つ、強力な銃器が転がっている。
ニコラスが嘘を吐いた? 何故、どうして、嘘を吐く必要がある?
別に銃器を保有している事は悪くない。
寧ろ幸運。それらを持っている事により戦闘は有利になり、生き延びる確率も上がる。
隠す必要もなければ、嘘を吐く必要もない。
なのに何故ニコラスは嘘を吐いてまで、武器を隠した?
―――いや、ちょっと待て。
そもそも私は聞いていない。
この男が殺し合いに乗っていないと。
男が自分を殺さず、名を明かし、不器用ながらも優しさを見せてくれた事により、自分は想像してしまった。
この男は殺し合いに乗っていない、と。
まさか。
まさか。
まさか!

疑い始めたら直ぐに、その考えへと行き着いた。
視界の中ではニコラスが武器を拾う為、屈み込んでいる。注意は自分ではなく、銃器に向けられている。
そのことを確認したと同時に駆け出していた。
綱から放たれた警察犬並のスタートダッシュを決め、全力で、ニコラスから少しでも遠ざかるべく、足を回した。
逃げられる、と思った。助かった、とも思った。
だがそれらの考えは、肩に乗せられた無骨な手の感触により、「どうしたんや?」というニコラスの言葉により、一瞬で吹き飛ぶ。
何より乗せているだけにも関わらず身体を固定する、抗いようのない力に、刹那の希望は易々と砕かれた。
全身を使って抵抗など歯牙にも掛けてもらえず、無理やり身体の向きを変えられる。
視線の先のニコラスは右手に拳銃を握っていた。
くそ。
くそっ。
くそっ!
こんな所で断たれるのか!? ようやく掴んだ未来が、こんな訳の分からないゲームで!?
ふざけるな! 私が、仲間がどれだけ苦労し、掴み取ったと思っている!
あんたが、あんたみたいな男が易々と奪い取って良い物なんかじゃない!!
ふざけるな、ふざけるな!

「ふざけるなぁぁぁああああああああああああああああああ!!!」

何時しか思いが言葉となり口から飛び出していた。
ただの子供としか思っていなかった人間の突然の絶叫に、ニコラスは表情を驚愕に染め、僅かに力を緩めた。
ただそれも一瞬。逃げ出す暇などない。驚愕は直ぐさま沈み込み、肩にのし掛かる力は元に戻る。
諦めるしかないのか。あの未来を、あの日常を、取り落としてしまうのか。
涙が零れる。悔しくて、悔しくて、たまらない。
視界が滲み、役目を失う。ニコラスの表情もぼやけ、確認できない。

――駄目だ。死ぬ瞬間までみっともない姿を晒すのか。
死ぬのならせめて誇り高く死ぬ。暴力などに屈しない。
涙を拭き、胸を張り、前を見据える。
自分は、自分達はあの運命を打破したのだ。
三十数年しかいきていない殺人鬼相手に弱みなど見せてたまるか!
晴れた視界の中ではニコラスが右腕をコチラに差し出している。
そこに握られているのは漆黒の拳銃――――ではなかった。

「あの、その、なんや、怒らせたんならスマン、謝るわ。そりゃそやな、いきなりこんなゲームやもんな、ビビる、そりゃビビる、ワイやってビビるもん。でも、な。スマンから泣かへんでくれ。な、ほら木の実全部やるから、な?」

まるで機関銃の如く謝罪。
ニコラスは困り果てた顔で頭を下げていた。
右手に乗せてある物は四粒の木の実と一枚の円形の何か。
拳銃は左手にあり、銃口は下に向いている。
この事態は何なのだ?
―――自身が思い描いていた予想とは全く違う展開に、古手梨花は混乱することしか出来なかった。





「ようするに、あんたは殺し合いに乗ってないのね」
「まぁ一応な。でも向こうから襲ってきた場合は別やで」
「じゃあ、何で武器を持ってないなんて嘘を吐いたのよ」
「嘘? ……あぁ、これの事か。水に浸かってしもうてな、これは使い物にならんのや」
「な……! な、なら、あの質問は何なのよ! 人を殺したことがあるかーとか、銃を撃ったことがあるかーとか!」
「一応確認しとかなあかんと思ってな。殺しや銃の経験あれば最低限、自分身くらいは守れそうやし」
「こんな子供がそんな事する訳ないでしょ!」
「いや、嬢ちゃんは知らんかもしれへんけど、結構いるもんやで。ガキのクセして殺しが当たり前になっとる奴」
「どこの国の話よ! あんたが知ってる国ならともかく、日本でそんなことある訳ないでしょう!」

悪びれた様子もなくしれ言い放つウルフウッドに、梨花は心底呆れ果てていた。
デリカシーが余りに欠如している。
一応こちらは小学生、まだ子供。しかもこんな意味不明な殺し合いの場。
そんな状況であんな物騒な質問、加えて紛らわしい故障中の武器。
配慮に欠けているにも程があると、梨花は思った。

だがこの擦れ違いには大きな原因があった。

ウルフウッドは人死にが当たり前の世界から連れて来られた。
人と人は些細な理由で殺し合いをする事を知っている。
親を殺害されたことにより、復讐に心を染め、殺しを行う子供がいる事も知っている。
単純に生きる為に、銃を持たざるを得なくなった子供がいる事も知っている。
殺人を犯す、または犯した経験を持つ子供というものはウルフウッドにとって決して珍しい存在ではない。

古手梨花は平和な村から連れて来られた。
何百回と友人の豹変を目にし、凄惨な殺人劇を経験してきたが、殺人が日常茶飯事というには遠く及ばない。

ようするに生きてきた世界が違うのだ。
確かにウルフウッドの行動にも問題はある。
が、真の原因は世界観の違いだということに古手梨花、ニコラス・D・ウルフウッド共に、気付いていない。
そして真の原因に気付かぬまま会話は進んでいく。


「……それでこのレコードみたいなのは何なのよ。これで身を守れって言うの?」
「よくは知らんけど、それを頭に差し込むとゴッツい力が手に入るらしくてな。ワイは駄目やったけど嬢ちゃんならもしや、と思ったんやけど。……そしたらいきなり逃げ出すんやもんなー」
「うっさい! あんたが悪いのよ!」
「ハイハイ、分かった分かった。あ、コレ説明書や。途中千切れとるけど、一応な」

怒り冷めやらぬ梨花は乱暴にウルフウッドが持つソレを受け取る、もとい奪い取った。
もはや猫かぶりをする気も起きないのか、その口調には地の彼女がありありと出ていた。

梨花は水にふやけ、途中で破けている紙へと目を通す。
書いてある事は非現実的。
頭に差し込むとのことだがその時点でかなり怪しい。
種類によってという事はまだ他にもあるのか?
というか超常的な力というは何だ?
抽象的すぎて想像がつかない。これでは説明書としての役目を果たしきれていないだろう、全く。
粗方の愚痴を脳内で吐き捨て、説明書からDISCに目を移す。
不思議な光沢の中に、変な姿の人影が映っている。
じっくりとそれを眺めた後、梨花は大きく――側でボンヤリと傍観に務めている男にも聞こえるようため息を吐いた。

「で、これを頭に入れろって言うの?」
「そや」
「ふざけてんの?」
「いや、別に」

再度ため息。
これ以上話しても無駄と判断し、DISCと向き直る。
「力が手に入る」―――これは梨花にとって魅惑的な言葉であった。
今の自分は無力。純粋な力だけで見れば、参加者中で最も下かもしれない。
それに支給品も外ればかり。
もし最初にウルフウッドでなく、殺人鬼に出会っていれば間違いなく死んでいただろう。
しかしこのDISCとやらの使用が可能なら、超常的な力が手に入れられる。
力を、得られるのだ。この場で生き抜く力を。

ウルフウッドは何も言わない。全ての決断を梨花へと任せている。
膨大な不安と僅かな恐怖に挟まれ梨花は逡巡する。
しかしそれも数秒、十秒にすら至らない。
梨花は覚悟を決め、不安を振り切るように勢いよく、DISCを頭に突っ込んだ。






世界が黒と白に染まっていた。

先程まで聞こえていた風の音や木々が擦れ合う音もない。

振り返り、あの唐変木を見るが、コイツもまた静止していた。

一歩、二歩、三歩、横に歩いてみる。

うん、私は動ける。

この状況には覚えがあった。

あの日、あの時、羽入を救う際に発動した不思議な力。

あの時の状況と今の状況は非常に酷似している。

これが超常的な力の正体なのか?

そこまで考えたところで不意に力が抜けた。

寸前、自分の後ろに誰かが立っている事に気付いたが、姿までは確認できなかった。

―――そして、時は動き出す。






「何やと?」

驚愕の声を上げたのはウルフウッド。
サングラスの奥の瞳はこれ以上なく見開かれていた。
それもその筈。眼前の少女が瞬間的に移動したのだから。
たった数メートルの距離だが、自分にすら知覚できない速度で、何の力も持たない筈の少女が移動した。
少なくともウルフウッドにはそう見えた。

「凄い……凄いわよコレ!」

歓声を上げる梨花を呆然と見やる。
不審と驚愕の混じった視線に気が付いたのか、梨花は満面の笑みを浮かべながら、ウルフウッドへと近付いてきた。

「……瞬間移動か?」

ウルフウッドの問いに梨花は首を横に振る。

「違うわ、時を止めたのよ」
「時を止めた……やと?」
「ええ、たった数秒だけどね、私が時を止めたのよ」

んな阿呆な、と思わず口から出掛けた言葉をウルフウッドは飲み込んだ。
確かに見てしまったからだ。
少女が何の前触れも、予備動作すらも見せずに移動した瞬間を。

「マジかいな……卑怯すぎるやろ、そんな能力」

下手すればあの歩く核兵器にすら勝利できるかもしれない馬鹿げた力に、ウルフウッドは天を仰ぐ。
何故その能力が嬢ちゃんに使えて、ワイには使えないんや、と心の中で愚痴るのも忘れていない。
ウルフウッドは大きく肩を落とした。

「みぃ~かわいそかわいそなのです☆」
「うっさいわ、ボケ……ハァ……」

嘲り百パーセントの励ましを右から左に聞き流すと、梨花の方へと向き直り―――そしてその瞬間、ウルフウッドはあらゆる動作を停止した。

「? どうしたのですか、ウルフウッド?」

まるで時が止まったかの如く固まったウルフウッドに不穏を感じ、梨花は首を傾げる。
そして、それと同時に視界が真っ黒に染まった。
続いて身体が横に傾く、いや強制的に傾かされる。
突然覆い被さってきたウルフウッドにより、餓えた野獣のように襲いかかってきたウルフウッドにより、押し倒されたのだ。
梨花とて外見は幼いにせよ、紛れもない乙女。
本能的な危険を感じ、悲鳴を上げようとする―――が、ウルフウッドの胸板に顔面を押し付けられ悲鳴も上げられない。
なんとか脱出しようともがくが、その瞬間、脳天と地面が熱烈なキスをかました。
頭に衝撃が走る。
埋め尽くされた漆黒に火花が走り、意識が真の暗闇へと浸透しかけた。
しかしそこでまた別の衝撃が意識を引き上げる。

梨花の瞳が数秒振りの景色を映し出す。
そこでようやく梨花も現状の一部分を理解した。
ニコラスに抱き上げられ――というより荷物のように脇に担がれ――何処かに移動しているのだ。
梨花は叫び声を上げるのを中断し、懸命に走り続ける男へと大声で怒声を浴びせる。

「離しなさいよ、この変態! いきなり、何すんのよ!」
「悪い、今は少し黙っててくれ!」

やけに切羽詰まったウルフウッドの返答。
今までのウルフウッドとは違う雰囲気に気圧され梨花は沈黙する。
途中一度足を止め、振り返り何かを振るったが、また直ぐさま走り出した。
結局、梨花が解放されたのはそれから十分程、疾走を続けた後であった。






「二本同時に防ぐとはな。なかなか楽しめそうだ」

つい数分前まで、一人の男に一人の少女が怒りをぶちまけていた場所にクレアは立っていた。
唯一の武器を奪われたというのにその顔に悔しさは微塵もない。
それどころか、珍しいことに感心の表情を浮かべてさえいた。

「だがあれでは貴重な武器が壊れてしまうぞ? 奴は馬鹿か?」

するとクレアは不意にうずくまり、何かを拾い上げた。
それを躊躇うことなく頭へと差し込むクレア。身体が弾かれることはなかった。

「さっきの少女は、驚くことにこの俺でさえ知覚できない速度で移動した。いや、俺が知覚できなかったという事はただ移動ではないか。おそらく瞬間移動。面白い能力もあるもんだ」

クレアはしっかりと見ていた。
梨花が円盤状の物体を頭に差し込む瞬間を。
梨花が時を止め移動した瞬間を。
ウルフウッドに押し倒された際に梨花の頭から飛び出たDISCの存在を――。

「さてここで問題なのは、その能力が少女自身のものか、それともこのレコードが関係しているかだ」

クレアはまた何の気なしに周囲を歩き、手頃な木の前で立ち止まる。
その後ろにはクレアより二回りほど大きい、人間の形をした何かが寄り添うように佇んでいる。

「よし、壊せ」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

人間が繰り出す目にも止まらぬ連打。
クレアの胴体視力でも全てを見切るには至らないであろう連打が、巨木をまるで紙切れのように宙へと誘った。

「ふむ、凄まじいパワーとスピードだ。それに感覚の共有もできる。こんな支給品を手に入れるとはな、やはり世界は俺を中心に回っている。……だが瞬間移動は出来そうもないな。ってことあの能力は少女自身のものか、まぁ良い」

クレアは満足げに笑い、再び歩き始める。
その圧倒的な自信――、一厘の疑いも持たない、異常とも言える自信により最強のスタンドを従えたクレア・スタンフィールド。
この出来事により、彼の中にあった確信はさらに深みを増した。

「さてと、武器……というのも変な物だが、武器は手に入れた。行くか」

ウルフウッドは気付くべきだった。梨花の頭からDISCが抜け落ちたことを。
図らずも彼は誕生させてしまったのだ。
最強のスタンド・スタープラチナ、最強の殺し屋・クレア――世界も次元も概念も越えた二つの最強が重なり合った怪物を。


【G-2 遊園地周辺 1日目 早朝】
【クレア・スタンフィールド@BACCANO!】
[状態]:健康 若干の疲労 拳に血の跡
[装備]:スタンドDISC『スター・プラチナ』@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:支給品一式×2 未確認支給品0~1
[思考・状況]
1:優勝し、ギラーミンから元の世界へ戻る方法を聞き出す。
2:優勝のために他の参加者を殺す
3:レヴィ、ウルフウッド、梨花と再び出会った時には彼女を殺す。
【備考】
※何処へ向かうかは後続の方にお任せします。
※参戦次期は1931~特急編~でフライング・プッシーフット号に乗車中の時期(具体的な時間は不明)
※未だ名簿は見ていないため、フィーロが居る事も知りません。
※スタープラチナを発現できますが、時止めの適正があるかは不明です。
※梨花が瞬間移動の能力を持っていると思っています。






より一層濃くなった緑の中、ウルフウッドと梨花は相対していた。
ウルフウッドは雑草をくわえ喫煙衝動を誤魔化しながら、古手梨花は怒りの感情を隠そうともせずに、二人は向かい合う。

「で、何であなたはあんな行動を取ったのかしら? 返答によってはあなたを変態扱いしなくてはいけなくなるんだけど」

眉間に皺を寄せ睨んでくる少女にチラリと視線を送り、ウルフウッドはため息を吐いた。
そして答えを返さずにただ無言でデイパックからある物を取り出し、梨花に見せる。
黒色のそれは、遂数分前に誤解の火種ともなったショットガンであった。

「なによ、これ……」

だがその銃器は先程と僅かに姿を変えていた。
鉄の銃身に巨大な刃物が二本食い込んでいるのだ。
先に行くに連れ幅を増していく特徴的な刀身が、銃身に挟まり日光に照らされていた。

「グルガナイフやな。武器にしとる奴はあまり見掛けへんけど、これはなかなか上物やで。まぁ、最初はただ逃げよ思うたんやけど、ご丁寧に追撃かましてくれたからな。ついでにナイフも貰といたわ」
「嘘……何時の間に……」

梨花は、呆然と戦闘が起きた証拠を見つめる。
自身が気付かぬ内に、命の危機に晒されていたのだ。
ショックを受けるなという方が無理な話だろう。

「……もしかして助けてくれたの?」

そして結論に至る。
あの時、ウルフウッドが自分を押し倒したのはナイフから助ける為に。
あの時、ウルフウッドが自分を荷物のように担いでいたのは襲撃者から逃亡する為に。
自分が知らぬ内にこの男は命を救ってくれたのだ―――ウルフウッドの行動の真意を古手梨花は理解した。

「気にする事はあらへん。子供は大人に助けられる物や。変に気ぃ使われると、逆にこっちが困ってまう」

口の中の雑草を吐き捨て、励ますでもなく、さも当然のようにウルフウッドは告げた。
彼方を向いた顔に、少量の気恥ずかしさが含まれている事に梨花は気付かなかった。

「…………ありがとう」

その時、静寂の森に言葉が響いた。
ウルフウッドの目が見開かれる。
その脳裏に浮かぶある光景。
自分に微笑みかけてくる子供達。
無邪気な笑みをあの時と変わらずに向けてくる子供達。
血塗られた自分には、変わってしまった自分には決して訪れないであろう光景。
思わず視線が梨花へと移る。
そこには、僅かに頬を朱に染めにぱー☆と微笑む少女が居た。






そんな顔を見せないでくれ。

希望を持ってしまう。

まだ引き返せるんやと。

こんな自分でも、救える者がいるんだと。

こんな自分でも、アイツのような生き方ができるんだと。

希望を持ってしまう。

勘違いをしてしまう。

悪党は何処まで行っても悪党。

変わらない。

たった一人の命を救ったところで、この事実は揺るがない。

悪党は何処まで行っても悪党。

頼む。

そんな顔を見せないでくれ―――




【E-3 森 1日目 早朝】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康 (少々の不安はあるが前向きに)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、王の財宝(の鍵剣)、インデックスの修道服@とある魔術の禁書目録、ミッドバレイのサクソフォン(内蔵銃残弾100%)@トライガン・マキシマム
[思考・状況]
 1:ニコラスと行動
 2:必ず生き残る。
 3:圭一達を見つける。
 4:安全な場所に行きたい。
 5:ネズミ?
 ※王の財宝の使い方(発動のさせ方)を分かっていません。(説明書もありません)
 ※ウルフウッドを信頼、けどちょっとむかつく。
 ※電車に誰か(橘あすか)が乗っているのに気づきました真紅に気づいたかどうかは不明です。
 ※サクソフォンの内蔵銃に気付いていません。
 ※スタープラチナに適正を持っています。僅かな時間ですが時止めも可能です。
 ※クレアの姿を確認していません。
 ※スタンドDISC『スター・プラチナ』を落とした事に気付いていません。

【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康
[装備]: [道具]:基本支給品(地図と名簿は二つずつ) デザートイーグル50AE(使用不能)
 SPAS12(使用不能)チーゴの実×3@ポケットモンスターSPECIAL シェンホアのグルカナイフ×2@BLACK LAGOON
[思考・状況]
 1:襲われたら返り討ち、必要以上に危険な事に首は突っ込まない。血まみれの謎の男(クレア)を警戒
 2:古手梨花を守る
 3:ヴァッシュとの合流、リヴィオとの接触
 4:ジュンを殺害した者を突き止め、状況次第で殺す。
 5:武器を手に入れる、出来ればパ二ッシャー
 6:この木の実結構ウマイ
 ※スタンドDISC『スター・プラチナ』を落とした事に気付いていません。




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たった少し希望と不器用な優しさと 古手梨花 救いと因果と
たった少し希望と不器用な優しさと ニコラス・D・ウルフウッド 救いと因果と
Show me the way to you クレア・スタンフィールド 心に滲んだ赤いアラベスク



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