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十二使徒~ 第10話

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正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第10話



――

―――

 「前衛部隊は前へ!異形の動きを止めろ!!」
 銃弾飛び交い、人と異形が渦のように入り乱れ、戦う。ここは戦場。死という圧倒的な現実と常に
隣り合わせに、戦闘員達は刃を振るい。玉を撃つ。死の恐怖を振り払うように。
 「対異形ライフル構え……撃てぇ!!」
 「第七隊、これより敵後方にて奇襲作戦を実行します!!」
 「さあ覚悟しろ!化け物ども!!」

 (何だか信じられないよ……未だに。自分がこんな戦場で戦っているなんて)

 前線で異形をなぎ倒す中、陰伊はふと思った。
 二、三年前までは田舎町で平和に暮らしていた彼女。戦う事を好かない彼女が一体何故再生機関に入ったのか?
再生機関では事情を持つ者がいることも珍しくない。この陰伊も、そんな事情を持つ者の一人。
彼女の意味深な哀愁漂う横顔が、深い訳があるであろう事を浮かばせる。
そしてそれは、彼女が英雄として戦う理由に深く結びついているのだ。  


 「第一~四隊は引き続き敵前線を叩きなさい。残りは私について来ること」
 「了解!!」
 戦闘部隊を指揮する第二英雄・王鎖珠貴。威勢の良い敬礼と共にそれぞれの持場につく戦闘員達。
前方では異形との激しい交戦が行われている。その中を王鎖は駆け抜け、それに戦闘員達が続く。彼らは皆、
王鎖に絶対的な信頼を寄せていた。戦闘での部隊の指揮は王鎖が取ることが多く、これまで幾つもの死線を
王鎖は彼らと共に乗り越えてきた。当然絆は深い。この絶対的な信頼関係が、部隊の統率を確固たるものと
しているのだ。「王鎖の判断に間違いはない」それが戦闘員達の迷いを無くし、強靭な結束力を生む。
迷いのない刃というものは、心強いものである。
 「11本の我が剣よ!悪しき異形を討ち滅ぼし給え!!」
 ―『イレブンソード』―
 どこからともなく現れた11本の剣が縦横無尽に飛び回り、異形達を屠ってゆく。黒い血が飛沫を上げて辺り
の草木を黒く染め上げ、禍々しい絵面を作り出す。一帯の異形は悉く王鎖の剣の餌食となった。 
 「さっすがたいちょー!!」
 「カッコイー」
 「惚れちゃう~」
 「え、お前男……」
 口々に賞賛を送る後続の戦闘員達。王鎖はなんてことないような涼しい顔をして「気を抜かない方がいい」
と戦闘員達を戒めた。


 「…しっかしよっ!何か今日はっ!敵の数少なくねぇかっ!?なぁ、白石!」
 大振りの薙刀を振るい、異形を切り捨てていく第五英雄・青島龍太。
 「そりゃあっ!あの二人がいるからっ!でしょやっ!ねぇ?北条院さん!」
 同じく鉤爪を装備し異形を退治する第十一英雄・白石幸。
 「そう!ですわねっ!あの二人はっ……正直異形なんかよりも化物ですわ!」
 そう言った北条院の視線の先にいたのは……二人の鬼畜、もとい英雄であった。


 「キシャアアアアア!」
 「ふぇ!いぎょーはサーチアンドデストロイ!」
 『"エナジー""ブレードライフル"』
 光の筋が一本、異形集団の中に射す。まもなくして銃口から放たれる極大の光弾。
その膨大なエネルギーがつまった球体は異形達を有無を言わず飲み込み、肉を焼き尽くし、
蒸発させる。地面に異形の影が焼きつく。その影を光弾を撃った張本人、トエルは満足気に数える。
 「ざっと30ってとこですし。ふぇ!!やっぱりわたしはさいきょうですし!ふぇふぇ!」
 「冗談。その程度?だったら興醒め」
 カチリ。
 『"Crush Load"』
 紅き鎧の拳から打ち出される衝撃波。黒い木を抉り、土を巻き上げ、異形を消し去っていく。
 衝撃波が通ったそばから土煙が上がり視界を遮る。圧縮され張り詰めた空気が解き放たれ突風が起きる。
 土煙が引いた後、のっぺりとした荒地ができあがった。鎧の戦士、天草五姫は己の力を確かめるように辺りを見つめ、
面割れしたような鉄兜から得意気な笑みを覗かせる。これは、天草の湛える事のない強さへの欲が生み出した力である。
 「……私の方が凄いのは見ての通りでしょ?」
 「いまのはほんきじゃなかっただけですし!」
 「…負け惜しみ?見苦しい」
 「ふぇ!おもいあがるのもいいかげんにするべきですしおすし」
 「なんなの」
 「なんだバカヤロウ」
 「あざとい幼女のくせに」
 「ゴスロリとかリアルじゃ、ふじょしぐらいしかきてるところみないですし」
 「…心外。私のアイデンティーを馬鹿にしないでくれる?ガラクタの分際で」
 「……なんだったら、そのみでさいしんかがくのおそろしさ、たしかめるかコノヤロー」
 「…上等。さっさとかかってきたら?」
 「そのよゆーブッこいてるカオが、くつうにゆがむのがめにうかぶ…!」
 戦場のど真ん中で喧嘩勃発。どうもこの二人、相性が悪いようである。
 『ね、ねぇ!喧嘩は良くないんじゃないかな…』
 険悪なムードを察してか、トエルの中に存在する不思議な同居人はトエルを慎ましくなだめようと試みるも、
トエルは全く聞く耳持たずといったところ。結局、異形そっちのけで喧嘩をおっぱじめてしまう。


 「あー、海とか行きてーなー」
 「スイカ割りしたいなぁ~」
 「ちょっとあなた達!何のほほんとおしゃべりしていますの!」
 「いや、僕達関係者じゃないんで」
 「だべさだべさ。私達通りかかった屯田兵だし」
 「嘘おっしゃい!」
 「んだよ!どうせ海に行けないことぐらいわかってるよ!思うだけならいいだろ?望むことさえ許されないワケ?
なんなの!北条院が水着になってくれるの!?水着視姦させてくれんの!?」
 「海に行く目的がそれとか青島先輩犯罪臭パネェっしょや。オッスオッス!」
 「そうじゃなくて!ちゃんと戦いなさい!!」
 真面目にやらない白石と青島を注意する北条院。戦場は、混沌としていた。


 「なんだか、いまいちまとまりがありませんわね、私達」





正義の定義・第十話
  「サイレント・ウンディーネ」



前回のあらすじ
火燐たん拡張
春夏秋冬変態
玉梓の読み方がわからない

の三本でお送りしました。
火燐たんはべつにディエンドライバー持ってないからね。あと性格が不安定だったり後半同性愛に目覚めて
「僕だけを見ていてくれよ」
とか言ったりもしないよ。どちらかと言えば、照井竜だよ。ドラゴンだけに。
それでは今回の話…



―――…

 「今回の戦闘におけるHR-500の働き、聞きましたよ」
 再生機関のとある一室 。重苦しい空気の中、機関の責任者達が集う。どうやら重要な会議の真っ最中のようだ。
 「何でも戦闘中に喧嘩を始めたとか……この事についてどう思う、王鎖君」
 白衣を着た恰幅の良い男がいじらしくほくそ笑んで言う。彼の真正面の席に座る王鎖は一言「私の不徳致す所です」と答えた。
 「いやいや、王鎖君。君の責任ではない。戦闘中だというのに任を放棄する非常識な連中が悪いのだ。
全く、あんな不安定な機体より、我々【戦闘兵器開発部】の開発した戦闘機体"Goddess "にデバイスを
搭載したほうが遥かに良い成果をもたらすことが出来ると思うのですが、どうでしょう、大和局長。
今からでも遅くはない、ぜひわれわれのGoddess にデバイスを!」
 「待ってくれないかねぇ、確かにHR-500…もといトエルは不安定だ。しかし彼女には高い学習能力が
備わっているんですよ!今はまだ学習量が少ないせいか未熟な部分はありますがその力は未知数!
今後必ずや良い結果をもたらしてみせます……」
 再生機関戦闘兵器開発部主任・竹中は声高に自分の部署が開発している兵器を推す。トエルの生みの親
である官兵も反論し、両者に不穏な空気が流れる。機関の最高責任者である大和局長は頭を抱えた。
デバイスは全部で12。既に12個それぞれに使用者が居るため、今更余程の理由がない限り変更は
できない。その上、英雄システムの開発主要メンバーである「天草 樋元(あまくさ ひがん)」「陣 道三(じん どうぞう)」
らは既に亡くなっているため新しいデバイスの開発は不可能。現状では量産型という名の劣化品を作るので精一杯であるのがその証拠。
 唯一第七デバイスだけは開発者が違い、開発した人間も死んでいる訳ではないのだが……
これまた色々事情があるようで。いずれにせよ手詰まり。
 「うーむ……」
悩む大和局長。痺れを切らした二人は「自分のロボにデバイスを!」と迫る。勿論大和局長は困惑せずにはいられなかった。
 十二番目のデバイスは身体への負担が大きく、人間が装着するのは厳しい。そこで考えられたのが負担に
耐えうる"ロボット"を作ること。それにより、十二番目はロボット枠となる。その枠をめぐって二つの部署が
ロボットを作ったところ、先進科学開発部がいち早くHR-500(トエル)を完成させ、その枠についた。
しかし同じくロボットを作っていた戦闘兵器開発部の竹中は納得してはいないようで、今もこうして12番目の
デバイスを自分達の作ったロボットの物にしようと日々画策し、こうして度々官兵と小競り合いをするのである。
 やれやれまいったなとヒゲをいじる大和局長。下手なことも言えない建前、答は一つしか無かった。
 「ま、まぁ今は様子見ということで……どうかな?官兵君。竹中君」
 「ふう…」
 「く…、わかりました」
 ほっと胸をなで下ろす官兵。反対側では納得行かないという表情を顔に滲ませる竹中がふてぶてしく頬杖をついていた。


 「…それにしても、第七デバイス……やはりあれは危険なのでは?」
 会議に参加している人間の一人が、指摘する。他とは異なるデバイス……フュージョンデバイスの事だ。
 「あれは……"あの事件"を起こした原因なんですよ?」
 「そうだ!やはりあれは厳重に保管しておいたほうがいい!"異形の力"など、人の身には余り過ぎる!
人間はあのような邪な力を使ってはならない!あれは……魔の力だ!」
 「異形と同じ力など使うべきではない!あんな力が知られてしまったから、何もかもおかしくなってしまったのだ!」
 口々に第七デバイスの使用に異議を唱える機関の人間達。第七デバイスには色々因縁があるようで、
再生機関の人間にはあまり良く思われていない。
 「まぁ、落ち着きたまえ君達。あの力もデバイスも国を再建するのに必要な力なのだ……もちろん、あのような
事件は二度とおこさせんさ。それに……第七デバイスの装着者はあの天草博士の信頼していた五姫君だ。
それに言ったところで彼女はあのデバイスを手放さないだろうて。今は彼女のことを信じるほかない」
 大和局長がそう言うと、場のざわめきは一気に収まった。
 この、「天草博士」という人間がいかに信頼できる人間だったのかがわかる。一体、どのような人物だったのか…?



―――…

 「くそ!官兵の奴……デバイスを絶対に離そうとはしないとはなんと傲慢な奴だ!」

―「お父様。そんなにかっかしないで。いずれチャンスはかならず来るわ」―

 「ああ、わかっているさGoddess…」

―「私の力を見せることができたら、きっと皆分かってくれる…その時まで…」― 

―――…



 「……という訳で、今回は再生機関のお仕事で水の都『水萌』にいくことになったんですわっ!」
 「そうなんだ、すごいね!」
 制服に身を包む北条院はパジャマ姿で眠そうにしている青島に嬉々として話していた。青島としてはこの後
完全にオフなのでさっさと寝たかったが、北条院の話がなかなか終わらないようで。聞くところによると、水萌とは
街の半分が水に沈んでいる水上都市で、水鳥がよく撮れるとマニアの間ではもっぱらの噂スポットなんだとか。
そんな事は青島にとって至極どうでもいいことだった。
 「それで景観も水没した町をバックに正にアートのような……ってちゃんと聞いてますの!?」
 「もういいからさっさと行ったらいいじゃない」
 「…これだから芸術の分からない人は嫌ですの!この手の輩は十中八九美術館とかに行っても
裸婦のおっぱいしか見てないタイプですわ!」
 「そんな事ないし!ちゃんと股間もみてるし!」
 その瞬間、青島は北条院との心の距離が開くのを感じた。
 「あれ?何話してたんですか北条院さん達」
 ひょっこりと二人の間に現れる陰伊。二人の顔を覗き込み、微妙な雰囲気を察した模様。
 「陰伊さん。この変態とはあまり話さない方がいいですわよ」
 「え?」
 北条院が突然そんな忠告をしたものだから、何かあったのかと勘繰ってしまう。ふと、陰伊は青島の方に
目をやると、「じゃあ何が正解だったんだよ……」と不満そうに呟いている変態の姿が写った。
お前はさっきのが正解だと思っていたのかと北条院は呆れた。やっぱり変態は変態だった。
 「全く、登場人物を変態ばかりにすればいいというものではありませんわ、ねぇ陰伊さん」
 「えぇ?」
 北条院はワケの分からないことを言った。


 「あ、陣くんっ」

 「……陰伊さん。今から…また出動なの…?」
 後方を通りかかる前髪で目が隠れている青年、陣辰興の姿が目に入った陰伊は彼を呼び止め、歩み寄る。
 「そうなんだよ~…皆のために、頑張ってくるよっ!」
 「ふぅん…そうなんだ…僕も一緒に行きたかったなぁ……陰伊さん、怪我しないように…気をつけてください」
 「あ、うん!ありがと!陣くんはやさしいね!」
 ぱぁっと明るい笑顔を見せる陰伊。普段暗い陣も、陰伊の明るさには弱いようで、少し照れている様子。
 「そ、そんな事ない…さ。陰伊さんのほうが……ずっとずっと、やさしい」
 「陣くんもやさしい!わたしもやさしい!皆やさしければ…良いんだけど…ね…」
 「陰伊さん…そうだね」
 (陰伊さんだけだ…僕と…同じ目線で…話してくれる人は…)


―――…


 「皆揃った?忘れ物はないわね?」
 「ふぇ!」「だべさー」「おっけーですっ」「ですわ」「・・・・」
 車の前に集まる六人、冴島を筆頭に北条院、天草、陰伊、白石、トエルといった女性メンバーだけの編隊だ。
何故こういう組み合わせになったのかはわからない。わかっているのは、天草がとてつもなく不機嫌だということ。
 「……大勢。一人の方がやりやすくていいのに」
 「五姫。たまには皆でお仕事するのも、悪くないものよ」
 刺々しいオーラを放つ天草。そんな彼女に話しかけたのは冴島だった。
 「…足手まといになるだけ」
 「もう、いっつもこれなんだから。そんなんじゃ、友達できないわよ」
 「…いらない。……六槻がいるし」
 「嬉しいこと言ってくれるじゃなぁい……でもそれじゃあだめなのよ」
 「そうそうそうだべさ!友達は多いほうがいいべさ!」
 こっそり話を聞いていた白石も同意する。ここで天草が後ろから現れた白石を見て一言。
 「…誰?」
 「結構前からいるのに酷い!」
 本気でわからないといったように眉を顰める天草。白石と天草はなんども面識があるはずなのだが……
 「白石幸!白石幸だよ!もういい加減覚えて欲しいしょや!」
 「興味の湧かないどうでもいい事が記憶に残らないのはごく当たり前の事」
 「悲しくったってー苦しくったってー…」
 「五姫。それは酷いでしょ。仲間なんだからちゃんと仲良くしなさい」
 ここで冴島の助け舟。どういう訳か天草は冴島の言うことを素直に聞くようで、「六槻がいうなら」と
納得したかのように見えた。
 「よっし!!じゃあ今日は宜しく!!仲良くしようね天草ちゃん!」

 「あん?天草さんだろ白崎」

 やっぱり納得してなかった。
 「あ、ていうか名前…」
 「…馴れ馴れしいよ白倉」
 「もう、いいです……」
 逆に関係が悪化しているのではないかというのが気のせいであって欲しかった白石であった。


 そんな茶番も程々に、一同は車に乗り込んだ。運転は冴島。全員が乗り込んだのを確認すると冴島は
「シートベルトしめたー?」と、まるで母親のように確認するのだった。
 ワゴン車のため、車内は広々としており、六人が入ってもぜんぜん余裕のある広さだった。
 出発進行。いざ水萌へと、車のエンジンがかかる。車体が微かに振動し、軽快なエンジン音が後部から唸る。
全員がシートベルトをしめるのを確認した冴島はようやく車を走らせる。
 バックミラーに映る再生機関の本部がどんどん小さくなっていく。殆どそれが見えなくなってきたところで、
運転席の隣助手席に座る北条院は暑くなってきたのか冴島に窓を開けてもいいか聞いた。
冴島は前を向いたまま「いいわよ」と一言。北条院はすぐさま車の窓をあけた。
 「風がきもちいですわ~」
 「顔なんか出してると危ないわよ。虫とかが」
 「そんな訳…んむ!?ブッフォ!虫が口の中に入った…おえええええええ!」
 「ほら言わんこっちゃない」
 「ゲロゲロ…うう……そういえば冴島さんは何故か天草さんと仲がよろしいですわね?」
 「ゲロった流れからどうしてそういう話になるのかわからないけど、まあそうね」
 先程のやりとりから、天草は冴島にのみ心を開いているようだった。それが気になった北条院は冴島に問いかける。
 「あの方は結構人見知りするタイプですわ。どうして貴方とだけ仲がよろしいんですの?」
 「そうね……話すと長くなるから簡潔に言うけど、私とあの子は姉妹のようなものなの」
 「でも苗字違いますわよ」
 「みたいなものっていってるでしょう。貴方は天草博士を知っている?」
 「はい、デバイスの開発に関わった方ですわね」
 「……私は訳あって、幼い頃に孤児になってね、身寄りもないから行く宛もなかったんだけど、その時
たまたま出会った天草先生に拾ってもらったの」
 「そうだったんですの……」
 「天草先生はとても優しい御方で、私を自分の子供のように思ってくれていたわ……」


 「…天草先生に拾われて数年が経ったある日、天草先生は森で異形に育てられたっていう少女を保護したの」
 「それが、あの子、五姫よ。」
 「異形に…?何気に凄いこと言ってません?」
 「別に珍しくないわよ。知能のある異形は幼児が成長するまで食べないで生かしたりするものなの。一番美味しい時を待っているんでしょうね。
幸い、食べられる前に救出できて……天草先生は子供が好きだったからその子の事も引き取ったんだけど、
異形に育てられてたもんだからその子、名前がなくって……それで苗字は天草先生から、名前は私から。
ほら、私の名前は"むつき"。あの子の名前は"いつき"。似てるでしょ?そういう縁もあって、昔っから面倒見てきた私にはあの子
心を開いてくれてるみたいなのよ」
 「そうでしたの……何だか皆さん、壮絶な半生を送っているようですわね…」
 「今のご時世じゃよくあることよ」


―――…

 「ふぇ!ついたぞおまえらーーー!」
 「ここが水の都…水萌……!」
 眼下に広がる水とオーストリア風の建築物。そこら中を小さな小舟で移動する人達が見られる、水上都市ならではの光景。
 ここは水上都市水萌。今回、一行はある騒動を解決するためにやってきたのだが…
 「あ!トモエガモ!トモエガモですわ!」
 北条院は水面を泳ぐ白い線の入った緑頭の鴨を指差して興奮気味に叫ぶ。トモエガモは絶滅危惧種に指定されている希少な水鳥である。
 「北条院さん!走って落ちても知らないよっ~?」
 「大丈夫ですわ!ああ鴨かわいい!早速フィルムに収めなければ!」
 「ふぇ、あいつはおちる。おれのうらないはよくあたる」
 「へぶ!?」
 バッシャーン!
 水辺で湿り気を帯びていた石の足場に北条院は足を滑らせ1m程の水しぶきを上げて湖に落ちる。
期待を裏切らない見事な働きである。
 「ふぇ…どんだけバカなの…」
 「うるひゃい…へっくし!」
 「ちょっと、遊びに来たんじゃないのよ?」
 やんちゃを叱るのは最年長の努め。冴島はずぶ濡れの北条院を引き上げて注意する。
 「全く、はしゃぐのはいいけど節度を持ってね」
 「はい…すみません…」
 「あーあ、北条院さんダメでしょやー、こんなに濡れちゃって」
 「うう、面目ない…」
 「ちゃんと私みたいに……」
 そう言って、白石は上着を脱ぎ捨てる。いきなり何事かと思えば案の定…
 「水着を下に着てこないと!私に死角はないのだよ!!」
 「ふぇ、およぐきマンマンですしこのひと」
 フリルのレースが付いたビキニ姿の白石が得意気に自分の水着姿をひけらかすのであった。
 「あ そ び に き た ん じ ゃ な い っ て い っ て る で し ょ !」
 勿論、この後白石が説教を受けたのは言うまでもない。


 「ようこそ!水の妖精の集う水上都市・水萌へ!だってさ」
 「みずのようせいとかなめてんのかよ。ふぇふぇ。」
 そんなメルヘンな看板を掲げた入り口をくぐり、街中へと足を踏み入れる一行。水上都市というだけあって、
街中は水を利用した造形物やギミックに溢れている。
 「うーん、小舟を借りないと移動に不便かしら…?」
 「へん!そんなのひつようありませんし!」
 『ホバリング』
 「ふえーい!」
 ホバリングにより、忍者のように水面に立つトエル。移動速度を上げるだけではなく、こういう使い方も
あったのかと感心する一同。
 「でも、街中で武装展開するのは気が引けるよ…」
 陰伊が困惑気味に言う。トエルと違い、陰伊達は武装展開しないとホバリングが使えない。街中で英雄武装
なんて身につけていたら目立って仕方がない。結局、一行は小船を借りる事に。


―――…

 「ところで天草ちゃんは?」
 「あれ?いないよっ……」
 小船を借りた一行はどこかへと消えた天草の存在に気がついた。そもそも街に入る前から消えてたけどね!
 「全くあの子ときたら……いいわ、私達だけで依頼主のところへ行きましょう」
 天草の事は一番良く知っているであろう冴島が言うのだから、大丈夫なんだろうと他の面子は冴島の提案に
のった。天草はよっぽど団体行動が嫌いなようだ。それにしても、誰にも勘づかせずに消えるとは、大したものである。

 船を漕いで街中を移動すると、どこもかしこも忙しそうな人ばかりで、何かの準備に追われているように見えた。
何かが始まるような、そんな雰囲気をひしひしと感じさせる。あちこち奔走する人々、めまぐるしく変わっていく風景。
それは街の中心部に近づくにつれどんどん顕在となっていき、最終的に何か祭事でもやるのかという予測が
一行の中で立てられた。
 「そいえばさ、この前陰伊ちゃんが2つのデバイスを展開してたんだけど…あれどうやったの?」
 小船の中でひと息つく少女達。おちついたところで白石はこの前の本部侵入騒動の際に陰伊がやってみせた
2デバイス同時起動の話をした。
 「ねぇ、どうやったのさ陰伊ちゃん」
 「わ、私もあの時必死だったから……わかんないよっ」
 「ふくごーきどーですね」
 「ふくごうきどう?」
 困惑する陰伊の代わりに答えるトエル。
 《複合起動》。様々な条件が重なった時にのみ起こる現象である。デバイスには、適合率というものがあり、
デバイスの装着者に選ばれる基準は主にこの適合率によって決まっていた。
 「そうなの?北条院さん」
 「そ、そうですわよ!?貴方しらなかったのかしら!?(そうだったんですのね……全然知りませんでしたわ…)」
 「ちなみにみつの使用デバイスとのてきごーりつは70%」
 「それって高いの?」
 「たかくても50%ぐらいだから、みつはちょーゆうしゅう!ふぇ!」
 「陰伊ちゃんすごいべさ!」
 「そんなことないよ~…」
 「因みに私は!?」
 「しらいしは38%」
 「低っ!?」
 「そんなことないですし。けんさでいちばん11ばんめのデバイスのてきごーりつがたかかったのはしらいしですし」
 「わ、わたくしは…?」
 「21%」
 「なんという低さ…」
 「それでも何百人もの中から選ばれたんだから、いいじゃない」
 北条院をさり気無くフォローする冴島。その優しさに北条院は涙した。
 「それで、そのてきごーりつなんですが、なんと、みつは11デバイスのてきごーりつも25%あったのです」
 要約すると、白石の持つデバイスにもある程度適性のあった陰伊。複合起動は、二つ以上のデバイスが
存在する時、装着者がその両方に適性があり、且つ両方のデバイスがスタンバイ状態(武装展開前の認証を
行った後の状態。強制的に武装解除された後も10秒間だけこの状態になる)であることが条件。その条件が
揃ったときに武装展開すると、二つの武装が合体した強力な武装を装備することが出来るのだ。
 「つまり…才能ってワケ」
 「そーです!」
 「はぁ…じゃあ私はできないってことか~…そんなのってないべさ~…」
 「だいじょうぶです、てきごーりつはくんれんであげることができますし」
 「まじか…」
 「……訓練してるのに自分のデバイスですら20%の私って一体……」
 「ふぇ!こじんさがありますし!」 



―――…

 「うわあ…すっごーい!」
 街の中心部も広場までやってきた一行。まず目についたものは巨大な噴水。中心にある小さなビル程度の
大きさの塔から噴出する水が高所から絶え間なく流れ落ち、巨大な水の壁を作り出している。
 水の壁に映る人影。どうやら広場の人々を映し出しているようで…いうなれば自然の力を使った鏡だ。
そして極めつけは絶えず浮かぶ七色の虹。その全てが芸術的で、心を震わせずにはいらないような、
そんな風景を目の当たりにした一行は、ただただ圧倒されるばかりであった。
 「これは、この街のシンボル。土地神様が宿ると言われている聖なる泉の噴水なんですよ」
 「あら、どちらさま?」
 見とれている冴島達に話しかける一人の女性。カチッとしたレンズ細めのシャープなメガネがいかにも聰明な女性
というものを演出している。見たところ30代半ばといったところか。熟れた落ち着きのある女性である。
 「私、『声魂祭』の祭司を務めます敬保(たかやす)と申します。再生機関の方々…ですわよね?」
 「はい。あなたが依頼主の方ですね?私達が来たからにはどんな問題もたちどころに解決してみせます」
 冴島の心強い一言に期待する敬保。一体、再生機関に頼まなければならない怪事件とは一体何なのか?
 「みんな、この方が今回の依頼主の敬保さんよ」
 「ふぇ」「だべさーー」「こ、こんにちわっ」「ですわ」
 「よ、よろしく」
 適当すぎるあいさつを済ませつつ、早速問題の話を聞くことに。
 「今この街では困った事件が起きてまして」
 「そういえば、さっき"祭司"と言っていましたけど、何かお祭りでもやってるんですか?」
 「……ええ。水萌の土地神様を鎮めるための『声魂祭』の準備の真っ只中。ですが、この事件はその…
声魂祭に深く関係することでして…」
 「はぁ、一体どのような…?」
 冴島の問に、黙りこんでしまう敬保。よっぽど言い難いことなのだろうか?察した冴島は相手方から話し始める
まで無理には問いかけず、無言で答えを待つ。するとしばらくして敬保は一言「盗まれたんです…」と呟いた。
 「何が…?」

 「盗まれてしまったの…"歌姫の声が"!!」

 「歌姫の…声?」


―――…


 「えと、つまり……"声魂祭"の儀式で必要な聖歌を歌う歌い手方の声がでなくなってしまったんですね!?」
 水上を、他とは一線を画した高級な作りの船の上、冴島達は敬保の話に耳を傾けていた。
敬保の話を聞く所によると、水萌では毎年行われる"声魂祭"なるものがあり、土地神を鎮めるため
大勢の人が歌や踊りや等の音楽を捧げ、最後は水の妖精と呼ばれる街で一番美しい歌声を持つ女性が
歌姫として祭事のフィナーレを飾るというカラオケ大会的な祭事を行うという。
この声魂祭はとても重要な儀式で、キチンと行わないと土地神は街を守ってくれず、結果水害等に
見舞われるのだとか(科学的根拠はないようだが)。
 今年も例年通り行われる予定の声魂祭だったが、なんでもフィナーレを飾るはずの歌姫の声が出なくなるという
緊急事態が発生した。まぁそれだけなら何らかの病気だと片付けられるところだったが……やむなく立てた代理
の歌姫も同様に声を失ったのだ。そしてその次も代役も。その次も……といったように、もはやこれは意図的に
なされているものと考え、調査したところ、ある一つの線が浮かび上がってきたのだという。
 「そのとおりよ、えっと…陰伊さん、でしたっけ?」
 「はい。ところで、その線って言うのは…?」
 「歌姫たちは、声を失う前……謎の影に襲われたと言っていたわ…」
 「謎の影…ねぇ?どう思うべさ、北条院さん」
 「はぇ!?犯人はヤス!」
 「はなしきいてねぇなこいつ。ふぇふぇ」


―――…


 「つきました」
 「ここは…?」
 冴島はやってきた建物を見て言う。ここだけ他の建物とは年代が違った。協会のような、年季の入った荘厳な造りの建物だ。
 「ここは歴代の歌姫たちが譜歌の練習場所として使った場所です。ここに、声をなくした歌い手がいます。さぁ、入りましょ…」
 木造の扉を押し開けると、まず目に飛び込んてきたのは赤青黄のステンドグラスだ。
太陽光を取り込み、鮮やかな三原色の光が室内に差す。外から見ると協会に見えたが、入ってみるとそこは小さなコンサートホールのようだった。
客席とステージ。ステージを彩るカラフルな陽の光。そのステージの中心に立つ一人の少女。
胸に手を押し当て、口を開いて何かを歌っているような素振りをしている。しかし声は出ていない。
 そんな声のない歌を見守る少女が客席に一人、ポツンと座る。
 「絵里座、再生機関の方が来てくださったわよ」
 「!」
 敬保が少女の名を呼んだ。彼女、絵里座は歌うのをやめてこちらに顔を向ける。そして、ちいさくお辞儀をした。
 「彼女は……?」
 「あの子が、今回の声魂祭で歌姫をやるはずだった絵里座(エリザ)よ。声を奪われてしまって、
歌をうたうことができなくなってしまったけど……」
 「ふぇ!こえをけすなんて、にんげんにはとでもできるげいとーじゃありませんし」
 「異形の仕業…でしょうね、十中八九」
 こんな事が出来るのは、極めて優秀な魔導の心得を持つ人間か異形くらいのものだ。
このレベルの魔法が使える人間となると相当限られてくるので、異形の仕業と見てまず間違いないだろう。
 「…っ……、……!」
 声を奪われた少女、絵里座は何かを言いたそうに口を動かす。しかし声が出ない。
 「もう、絵里座ったら!ほら、紙とペン!」
 その様子に見かねた先程まで客席に座っていた少女は、スケッチブックとペンを抱えて絵里座に駆け寄る。
 「はい、これ」
 「……っ!……!」
 キュッキュ
 『"ありがとう"』
 「わかってるから、一々紙に書かなくていいから。あ、ども~。私はこの子の親友の瀬鈴栖(セリス)っていいます」
 瀬鈴栖はさばさばとあいさつをした。その隣で絵里座も「初めましてよろしくお願いします」と書いた
スケッチブックをこちらに見せる。声が出ないというのはなんと不便なことか。
 「あなた、ほんとに声が出ないの?」
 「…、……っ」
 北条院がそう尋ねると、絵里座はこくこくと頷いた。加えて敬保が病院での調査もしたが全く原因不明だと
補足する。彼女たちが見た謎の影といい、やはり人為的なものであると断定せざるを得ない。
 「うーん、これはやっぱり異形の仕業ね……大本を叩けば声もきっと…」
 「ですかね~?」

 「ねーねー」
 「?」
 様々な仮説を立てる冴島達。そんな中、トエルは絵里座に話しかけた。絵里座が振り返るとトエルが何かを
持っているようで、それをトエルは絵里座に手渡した。
 「くもー」
 「…~~~~~っ!!!!!!!!」 
 トエルが渡したものは、生きた蜘蛛。蜘蛛が平気な女の子なんて極小数、当然絵里座も悲鳴を上げ……
はしなかったが、悲鳴を上げたように大きく口を開けて気絶した。
 「え、絵里座!?ちょっちょっとあんた!?なにすんのよ~!」
 「ふぇ!ほんとーにこえがでなくなったのかかくにんしただけですし!ふぇふぇ!」
 いつものように全く悪びれる様子もなく言うトエル。瀬鈴栖は鬼の形相になって怒ったが、敬保が宥め、
なんとか場を収めた。
 それにしても、本当に声がなくなっている。現状を把握した一行は早速調査に
乗り出そうと施設の扉に冴島が手を掛けたその時、事件は起きる。


 「きゃああああああああっ!?」

 「悲鳴!?」

―――…


 「なんてことなの……」
 突如として耳を衝く悲鳴。声がした場所まで駆けつけると、そこにはびしょ濡れで倒れて気絶している女性の姿があった。
 「だ、大丈夫ですかっ!?」
 女性に駆け寄る陰伊。体を揺すられた女性はゆっくりと目を開き、何かを伝えようとしている。
しかし彼女の口から声が出ることはない。
 「これは,まさか……」
 「彼女は、次の歌姫代理だったの……護衛してもらおうと呼んだのだけど……遅かった……!」
 敬保は掌に爪の跡が出来るほど強く拳を握りしめた。よっぽど悔しいのだろう。
 冴島は冷静に現場を見渡していた。びしょ濡れの被害者。そこら中が水辺。もし犯人が泳ぎの得意な異形なら
この街は絶好の狩場じゃないか。と、冴島は考えた。
 「ん?なんだべこれ」
 ふと、白石が女性の髪に付く何かを取った。クンクンと匂いを嗅ぐ。どうやら海草のようだが……
 「むしゃむしゃ」
 「たべた!」
 「幸ちゃん!?」
 「……うまい!」
 食した結果、大変美味であったそうだ。

 「一体、誰がこんな事……」
 「声魂祭まで日にちがありません。どうか、再生機関の方々…よろしくお願いします」

 「これは……なかなか厄介なことになってきそうね…」
 「ふぇ!わたしにまかせとけ!」

 水上都市・水萌。この美しい都市にで突如起きた怪事件。
 この事件の裏に隠れた真相とは一体……?トエルとその他の仲間たちはこの事件を解決することが出来るのか!?
 そして、無事声魂祭は行われるのだろうか!?

 「次回へ続く!!」
 「白石さん、誰に向かって言っているんですの?」




―ふふふ、なんだか……面白いことになってるみたいだねぇ……?―





 「今日は偵察ですよ。下手な真似はやめろなのですよ」

 水萌の街を塔の上から見下ろす二つの影。

 「わかってるよ。ふふふふふひっ!!くくくアッハッハッハ!アーハッハッハ!!」
 「こいつ完全にヤク決めてるですよ」

 …彼らは一体何者なのか?

 「ハハっウグッッ……ゴホッゴホ、み、水……」
 「そこら辺にあるのを勝手に飲めですよ」
 「……僕は高所恐怖症なんだ」
 「何が言いたいですか」
 「降りられないのさ!!」
 「じゃあ何で登ったですか……猫ですか」
 「だってほら、格好つかないじゃないか謎の新キャラクター登場っていうのに」
 「馬鹿は高いところが好きと言いますですが、本当のようですよ」
 「待っていろ再生機関の愚か者どもよ……我らに仇なす愚か者ども!この僕が、直々に鉄槌を食らわしてくれる!」
 「足を震わせて言っても全然格好ついてないですよ」
 「う、うるさーい!怖いものは怖いんだから仕方が……っ!?」

 「あ、こいつ足を踏み外したですよ」

 「あれえええええええええぇぇぇぇぇぇぇ……」

 「…次回はもっとまともなところを見せるですよ……」




―次回予告。
水萌を襲う怪事件。その事件に立ち向かうは我らが再生機関!
「ふえぇ、おおいそがしですし」
なぜ歌姫から声が消えるのか、犯人は一体…!?
「これって、金田一的に言ったら犯人死ぬパターンだよね」
刻々と迫る声魂祭までの時間。そして現れる謎の男……
「僕達の周りを嗅ぎまわってるみたいだけど、計画の邪魔はさせないよ?」
「特別に見せてあげよう……僕の力をねッッ!!変身!」『"Fusion Load"』
次回・正義の定義第十一話
     『NEXTフェイズ』
君にこの謎が解けるか!?






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