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甘味処繁盛記 感謝編

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甘味処繁盛記 感謝編


昔の夢だ。
いわゆる神の視点。
自分がいる、と桃太郎を薄らぼんやり記憶の中の自分を見つめる。
対するは二刀流。
御伽の国の、最後の作品。
最強。
武蔵と呼ばれた男。

桃太郎から、切り出した。
手を上げる。

『よう』
『よう』
『めちゃくちゃだな、ここ。加減ぐらいしろよ?』
『いや、局所的な地震と台風と津波と自然発火が不幸にもいっぺんに起こってな。いつも善行を積んでいる俺以外何もかも壊れて全員死んだ』
『まぁ、お前が暴れたら自然災害みたいなもんだからな。いや、前、クレーターみたいな穴開いてたな。やったな宇宙災害クラスじゃねぇか』
『俺にも人権を認めてくれ』
『勝ち取れよ……いや、お前は、お前だけは、お前だけが、御伽の籠の中で勝ち取ったんだな……』
『謙遜するな、お前も俺と同格さ。ケンカするならお前だといつも思ってた』
『お前の方が強いよ』
『お前の方が長いよ』
『ずっと戦い続けては、いたな』
『じじいが頑張ったもんだ』
『だからこれにて頑張るのはお仕舞いだ。団子でも売って暮らすさ』
『第三の人生だな。俺はこれから人生が始まるぜ、大先輩』
『目的は?』
『戦う事』
『何と?』
『強い者』
『いつまで?』
『いつまでも』
『なぜ?』
『そりゃ、お前、決まってるだろう、』

声がそろう。

『『面白いから』』

『さしあたって北に行く』
『何か狙いがあるのか』
『御伽噺の真似して生まれた俺たちだ。本物に挑んでやろうじゃねぇか』
『本物?』
『白面金毛九尾の狐』
『殺生岩のアレか』
『皮剥いで土産にしてやるよ』
『青森でリンゴ採ってきてくれ』
『自分で作れよ、果実』
『必要最低限しか、もう作らん』
『恐いか?』
『いや、恐くはない』
『ほう?』
『三人、ついてきてくれるやつらがいるんだ』
『どいつもこいつも、群れるのが好きな事だ。鶴女は子供に情をかけすぎ、女男は俺と兄弟になりたいとよ、笑わせる』
『つうとかぐや……まだ生きていたか』
『どうでもいい。そして、お前も異形と群れるか』
『お前と違ってみんな弱いのさ』
『謙遜するな、と言った。龍種相手にバチバチやったんだろう?』
『俺が異形の天敵ってだけだ。例えば機械でできた戦闘幼女が襲ってきたら死ねる』
『天敵なのに異形とつるむか』
『俺も異形だ』
『お前は人だ』
『なら、あの三人も人さ』
『なぜ、寄り添う』
『弱いからだ』
『強弱は問題ではないな。思いの問題だ』
『なら当人にしか計りしれんぜ』
『聞かせろよ』
『…………家族をな、もう一度欲しいと思った』


「おい! おい!」

天を衝かんばかりに成長した樹。
今なお、自然界に存在しえない速度で健やかに、伸びやかに大きくなる根元から。
一人の男が這い出ててきた。
いや。
二人だ。

「桃太郎以外にも誰かいたぞ!」

片や和泉武装隊、通称番兵筆頭。
隊長、門谷 義史。

そしてもう片方は。
干からび、ひなびて痩せ縮み、枯れ木よりも枯れた――老人の姿。
赤子よりも軽い、もはやミイラと見まがうしなびたその男を担いで、門谷は出てきたのだ。

「……主殿!」
「た、大将!」
「店長!」
「何ぃ!? これが?!」

いまだ奮闘を続ける魔犬が明らかな喜色を声に滲ます。
同じく、倒れ付す怪鳥も。
樹に埋もれ、もがく妖猿も。

水分という水分を失い、腕も細り、肉が削げ、髪もなくなったしわくちゃのソレ。
人と認めるにも難儀してしまう。
それが、あの活力にあふれた桃太郎だと。

「うははは、うははははは! 良し! 良し! 隊長、一生感謝する!」
「いや、しかしお前……これじゃあ」
「心配御座ざらん。本来の年齢に追いついただけで御座る」
「後は、……後はあの果実を……!」

怪鳥が身を起こす。
そして、妖猿が、見るからに消耗した疲労の顔つきなのに無上の喜びを咆哮に乗せるのだ。

「もう、キモイ吸収される必要もねぇ! 招杜羅、実ぃ頼むぞ!」
「承知!」

妖猿が、一層激しく身をよじる。
そして耳をつんざく裂帛の気合と共に、右腕を根の束縛から解き放ってみせた。
五指に……五爪に、荘厳な白いきらめきを宿し。
樹に突き立てた。

光が広がる。
まばゆい、白い光。
息を呑むほどに美しいのに、その光源に裂かれる樹が朽ちていく。
まるで錆び、壊れていくように。

散々の労力を果たし、それでもなお適わなかった樹の脱出をそれで簡単に妖猿は成す。
樹が震える。
まるで摩虎羅を吐き出すように。
それでも光は止まない。
錆びていくように、樹が腐り爛れ……滅びていく。

「俺はもういい。あいつらにも食わせてやれ」
「しかし……」
「今回はほとんどがあいつらの生命だからな。返してやってくれ」
「……承知」

招杜羅が、他の二騎へと駆けよれば。
桃太郎は門谷たち武装隊の面々へと向き直るのだ。
ほとんどの武装隊員の眼から、いろいろな感情がよく分かる。

「さて、何から話したものかな」
「お前らの経緯だ」

無論、応じるのは門谷だ。
桃太郎が頷いた。

「俺は一次掃討作戦よりも以前に死にかけていてな、そこを変人に助けられたんだ」
「変人?」
「まぁ、いわゆるマッドサイエンティストと言うと分かりやすいか。その時分で俺はすでにじじいでな」
「……さっきの干からびていたような、か?」
「あぁ、あれぐらいが実年齢だと思ってくれて多分問題ねぇくらいだ。で、そのマッドサイエンティストにな、植物の異形を移植されて生き延びた」
「移植だと?」
「移植だ」
「待て、一次掃討作戦より以前の話なのだろう?」
「そうだ。無論、魔素に対して理論も論理も確立されていない。異形は正真正銘の正体不明」

治療と言うには無謀が過ぎる。
そしてざわつく武装隊たちを見渡し、桃太郎は皮肉そうにこう言った。

「……だからこそ面白い」

門谷が目を丸くする。

「はぁ?」
「と、そのマッドサイエンティストは言っていたよ」
「狂ってるな」
「まぁ、俺はそれでそれで一命取り留めたわけだがな。しかもそれだけじゃなく、若返りまでしてな。以降ずっと異形の討伐やってた。さっきあの三人が滅ぼした樹、あるだろう」
「あれが、お前に移植された植物の異形か」
「そうだ。あれはどうも異形を食う異形らしくてな、二次掃討作戦までずっと戦いっぱなし……いや、食い散らかしてきたわけだ」
「異形の天敵というわけか、お前は」
「もともと、それを狙って移植がされたわけじゃないんだがな」
「摩虎羅たち、……あの三人については?」
「一次掃討作戦の後に出てきた異形でな。人間に好意的な異形で徒党を組んでいた中の三人だ」
「京都のようにか」
「もともと、各地を転々としていたのが、集まってできた徒党らしい。最終的には京都の一角を十二人で守護するに落ち着いていたな」
「……各地を転々としていた理由は、やはり、」
「そうだ、人に好意的だと言っても信じられなかったからだ。あいつらにとって京は天地だった」
「お前と会ったのも京か」
「ああ、共同戦線を張った間柄でな、二次掃討作戦が終わって、……目的がなくなってな。団子売り歩く俺のぶらり旅についてきた」
「……その、理由は?」

少し、桃太郎が考える仕草をした。
そしてまだ怪鳥と妖猿は横たわったままなのを確認したのだ。

「……家族だ」
「……ん?」


か細い声であった。
元の活力精力を取り戻した桃太郎にあるまじき、小さな声音。
もう一度、桃太郎が真達羅たちが横たわっているのを確認して、

「あいつらとはもう、家族みたいなもんだから、だ」

照れを隠せずこう言った。

「……そうか」
「なに笑ってやがる」
「お前のそういう表情は、始めて見るな」
「恥ずかしがり屋なんだよ」
「厚顔のくせによく言う」

桃太郎が笑う。
門谷も笑った。

さて、存在感が二つ、増す気配。
見やれば真達羅と摩虎羅が人の身に化けていた。
怪鳥の本性、妖猿の正体と比べて随分と縮んだが、しかし分かる。
疲労困憊してた先程よりも圧倒的に元気になっている事が。

桃太郎が作る果実は異形にとって極上の栄養だ。
異形そのものを果実に変えているに等しいのだから当然と言えば当然なのだが、
桃太郎以外の異形が摂取しても問題ない。

この性質を利用し、かつて瀕死の真達羅たちを、自分を後回しにして完全に回復せしめている。
これもまた真達羅たちが桃太郎を慕う理由の一つだろう。

三騎がそろって桃太郎の後ろに控えた。
桃太郎の頭が下がる。
同じく、三騎も。

「最後に迷惑をかけた。そして、……俺の命を助けてくれて感謝する」
「最後……?」
「和泉に来たのはな、割りと体力がカツカツだったからなんだよ。それもさっき戻った」
「……つまり」
「また旅に戻るさ」
「……行く先は」
「さて、な。言ったろ、真達羅たちは最初転々としてたって。それと同じさ」
「何? 待て、それじゃあ、お前ら、異形だから、旅してるってのか」
「そうだ」
「なぜだ?」
「異形だから、だ」
「そうじゃねぇ。なぜ京に留まってない」
「……いろいろあってな。真達羅たちの仲間に龍がいる。こいつが二次掃討作戦中に暴走してな、俺が封印はしたがいずらくなっちまったんだ。留まっているのは封印を見ている虎だけだ」
「……なぜ、和泉に留まらねぇ」
「異形だから、だ」
「理由にならねぇ。おい、なぜ俺がお前を助けたか分かるか?」
「番兵だから、だろう」
「そうだ。番兵だからだ。番兵は誰を守るか、分かるか?」
「……身内だ」
「つまりお前らは、もう身内だっつってんだよ」

桃太郎が、目を閉じる。
三騎は口を挟まない。


「異形は…… 「もう、一組いるんだよ、和泉にゃ」
「……クズハという少女か」
「そうだ。その娘とな、ある男が家族なんだよ」
「……聞いてはいる」
「血じゃねぇつながりだ。むしろ、血を流してできたつながり……お前らも、そうだろう」
「そうだ」
「分かるか。もう、そんな土台がある。お前ら一人二人増えて、問題あるかよ」
「あるだろう」
「和泉ナメんじゃねぇ。誰が隊長をやってると思ってる」

うつむく桃太郎の顔は、しかし穏やかだった。

「こいつらは、和泉にいてもいいのか」
「ああ」
「俺は、和泉にいてもいいのか」
「ああ」
「……俺は 「そろそろ、うぜぇぞ、おい。お前は誰のおかげで助かった」
「隊長だ」
「なら、恩人の言う事ぐらいは真に受けとけ」

桃太郎が笑った。

「そうだな」





<甘味処 『鬼が島』>
本日休業
不在:桃太郎、真達羅、摩虎羅、招杜羅

<お品書き>
 ・吉備団子
 ・きなこ吉備団子

 ・カルピス

<お品書き・裏>
 ・吉備団子セットA
 ・吉備団子セットB
 ・吉備団子セットC



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