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Mad Nugget 第六話

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 「Mad Nugget」 第六話

 ビームサーベルをバウの腕部に収めたハロルドは、沈黙したガンダムヒマワリを睨み付け、ダグラスに問い掛けた。

「ダグ、手前……態とだな?」
「サーベルで突き刺す直前、ガンダムが微かに動いた」
「どうだか……今回は、そう言う事にしといてやろう」

 ハロルドは半信半疑ながらダグラスの言い訳を認め、小さく息を吐く。それでも不満は隠さない。
 詰まらない口論を避ける為に深く追求しなかったが、彼は確かにコクピットを狙っていた。
 しかし、実際に貫いたのは、その僅かに上。ハロルドの感覚では、サーベルがガンダムを貫く直前で“バウが”動いた。
 原因はダグラスとしか考えられない。しかし、戦闘が終わった後で無抵抗の相手に止めを刺すのは、ハロルドの信条に
反していた。今から止めは刺せない。

「チッ……」
「済まない」
「謝るな。殺すぞ」

 申し訳無さそうに項垂れたダグラスに、苛付いた口調で返すハロルド。殺すのはダグラスか、リリルか……。
 しかし、ダグラスは知っていた。それが“己の選択に自信を持て”という意味の彼なりの激励だと。

「有り難う」
「礼も要らん」

 拗ねた様なハロルドの声を聞き、ダグラスは小さく笑う。
 バウはヴァンダルジアを追って、ガンダムに背を向けた。

 ……リリルが目を覚ました時、そこは暗黒の世界だった。バウのメガ粒子砲でモニターが破壊された後、彼女は気を
失っていた。どの位の時間、意識が無い状態だったのか等、彼女自身には判らない。

(私……死んだのかな?)

 当然、違う。手足を動かせば、パイロットスーツの感触。リリルは一命を取り留めた事に、安堵の息を吐く。
 暗闇に目が慣れ、ややすると彼女は自らの情けなさに泣きたくなって来た。

(負けた……)

 挫折知らずの少女に、土星の魔王は厳しい相手だった。大口を叩いて出撃したのに、ギルバートの足止めすら
出来なかった。静かに泣いた後、恥を忍んで救難信号を発信するスイッチに指を伸ばす。しかし……。

(……システムダウン!?)

 リリルは焦った。本来なら、一度押したらスイッチに作動中を示す赤い灯火が点くのだが、何度押しても反応しない。
 頭部が消し飛んだ所為か、サーベルで胸部を貫かれた所為か、理由は明確で無いが、他の機能も死んでいる。
 真っ直ぐ火星に向かうペリカンが、果たして彼女のガンダムを発見出来るか……。

 ネガティブな状況下、絶望的な結論しか出て来ない。養成所で話に聞いた、宇宙漂流刑を思い出す。限られた酸素で、
孤独に死を待つ恐怖!

(誰か……助けて!!)

 ヴァンダルジアに向かい、ガンダムから離れ始めていたバウは、緩やかに速度を落とた。
 ハロルドは何事かとダグラスに問い掛ける。

「ダグ、どうした? エンジントラブルか? 動かないんなら、MA形態で……」
「ハル、戻ってくれないか? あのガンダムから救難信号が出ていない」

 頻りに後方を気に掛けるダグラス。ハロルドは溜息を吐く。

「……だから何だ? 放って置けよ。俺達には関係の無い事だ」
「そうだな。俺を置いて先に行ってくれ」

 ダグラスは何かに心惹かれている様子で、ハロルドの言う事に全く耳を貸さない。2度目の溜息が漏れる。

「やれやれ……俺も付き合うよ」
「済まない」
「謝るなっつったろうが」
「……有り難う」
「はいはい、どう致しまして」

 呆れた声で返すハロルド。ダグラスは再び小さく笑う。厳しい様で優しく、冷淡な様で付き合いが良い。不器用な
ハロルドを、ダグラスは心の底から愛すべき友人として認めていた。
 バウは180度方向転換し、壊れたガンダムの元へと引き返した。

 暗闇の中、絶望に囚われていたリリルは、突然の物音に耳を傾けた。
 ガリガリと機体の表面を削る様な音が、コクピット内の空気を伝わって来る。

「おーい! 聞こえるか?」

 続いて、メットのイヤホンから聞こえた男性の声。味方の救助が来たと思ったリリルは、表情に希望の色を浮かべた。

「……は、はい! 聞こえます!!」
「良し、ノーマルスーツは着ているな? ヘルメットを被れよ! 抉じ開けるぞ!」
「はい!!」

 ガゴン! ギイィ……。

 閉ざされたコクピットの中にMSの手が侵入し、ハッチに指を掛けて強引に剥ぎ取る。空気が吸い出され、気圧が
下がる。僅かに開いたコクピットハッチの隙間から、少女が目にしたのは……黄土色の機体、緑のモノアイ。
 リリルは素早くシートの陰に、その小さな身を隠した。

(……敵!! 捕虜にする気!?)

 警戒するリリルに、先程の男性が呼び掛けて来る。

「怖がらないで欲しい! 君に危害を加える気は無いんだ!」
「……ダグ、何やってんだ?」
「どうやら警戒されている様なんで、呼び掛けている所だ」
「何を間怠っこい事を……引っ張り出して事情を話させりゃ良いだろう?」

 2人の男性の話し声の後、コクピット内に侵入して来る人影。ここで捕まったら、どの様な扱いを受けるか……。
 リリルは意を決して侵入者に飛び掛った!

「えいっ!!」
「どわっ!? 何だ!?」

 侵入者が奇襲に怯んだ隙を突いて、コクピットから押し出す。2人は宇宙空間に身を躍らせた。

 外で待機していたダグラスの目の前で、ハロルドは少女に突き飛ばされた。少女は敵対心を剥き出しにして、
ハロルドを睨み付けている。自己防衛の為の、命懸けの行動。
 ニュータイプの強力な殺気を感じ取ったダグラスは、ハロルドとリリルの間に割って入った。ハロルドに背を向け、
リリルを軽く抱き止める。そして優しい声で諭した。

「能力は、そんな風に使う物じゃない」
「放せっ!」

 暴れる少女に構わず、ダグラスは目を合わせ、真顔で話し掛ける。

「俺はダグラス。ダグラス・タウン。君は?」
「リリル。リリル・ルラ・ラ・ロロ」

 リリルは驚いた。何故、初対面の男性の質問に答えたのか、自分でも理解出来なかった。考えるより先に、口が
自然に動いていた。

「リリル……良い名前だね」

 声と同時に、心に入り込んで来る優しい感情。安心した温かい気持ちになれる。頭では敵と理解しているのに、心が
認めない。リリルにとって初めての体験……ニュータイプ同士の邂逅。

「君の能力は解り合う為にある。人の行動や心理が幾ら読めても、それは半分だ。こんな風に、心を伝えないと」

 リリルはダグラスの言葉に無意識に頷いた後、我に返って首を横に振った。

「わ、私を惑わすな!」
「嘘でも何でも無い。君にも出来る。俺は君の声を聞いて、ここに来たんだから」

 変わらず優しいダグラスの声に、少女は顔を真っ赤にして黙り込んだ。助けを求める声が敵に伝わってしまった事が、
何より恥ずかしかった。

「君は若い。難しく考えなくて良い。今は、俺達を信じてくれ」

 リリルには解ってしまった。ニュータイプとして、人間として、ダグラスが大き過ぎる事に……。

 大人しくなったリリルをシートに固定し、ハロルドとダグラスは機器を調べた。
 数分後、ガンダムの胸部を調べていたダグラスが、原因を究明し、大きな溜息を吐く。

「こいつは完全に駄目だな。発電機がサーベルで焼けている。御丁寧に非常用の予備電源まで逝ってやんの」
「……お前の所為じゃないのか? 回路に異常が無いんなら、電源を引っ張って来れば良いじゃん」

 ダグラスの話を聞いて、ハロルドは平然と言った。ダグラスは首を捻る。

「何処にあるんだ?」
「ビームライフルの……別にサーベルでも何でも構わんのだが」
「成る程、分解してみよう」

 ダグラスがガンダムのビームライフルを弄っている間、ハロルドはガンダムヒマワリを見て回った。
 リリルは何か細工されたりしないかと気になり、そっとコクピットの外へ出て様子を窺う。

 ハロルドはガンダムヒマワリの武装に目を付け、物色し始めた。気に入った物があれば、貰って行こうという魂胆。
先ずは砲身が大破したハイパー・バズーカに手を伸ばす。

「このバズーカ……遠隔操作が出来るのか? これ、良いな」
「そいつは高度なサイコミュ兵器だ。お前さんに扱える様な代物じゃない」

 ライフルのトリガー部分を分解しながら、ハロルドの独り言に応えるダグラス。ハロルドはバズーカに興味を失い、
今度はハイパーメガライフルに触れる。

「良い獲物を持ってるな。こういうの、好きだね」
「これ以上、機体を重くするな。今でもバランスが悪いってのに」
「じゃあ、シールドは?」
「規格が合わん。止めろ」
「ちっ……はいはい」

 ダグラスの態度が徐々に冷淡になって行くのを覚り、ハロルドはガンダムを1周してコクピットの前に戻る。
 そして先程から自分を睨み付けているリリルに声を掛けた。

「冗談だって……心配すんな。何も取りゃしねえよ」

 見え透いた嘘。ダグラスに止められなければ、全部持っていく気だった。

 ハロルドは未だ睨み続けているリリルの頭に軽く手を乗せる。

「しっかし……お前、解ってんのか? 戦場は女子供の遊び場じゃねえんだぞ?」

 ハロルドは乗せた手の指で、トントンとリリルのメットを叩き始めた。体当たりの恨みも込めて嫌味を言う。

「それが女で子供とか……連邦の奴等は頭が可笑しいとしか思えんな」
「違う! 私は能力に目醒めた者! 自ら望んで……たっ!?」

 反論したリリルの頭を、ハロルドは手の平でバシッと叩いた。

「進んで戦場に出た? お前、馬鹿じゃないのか?」
「ばっ、馬鹿!? 撤回しなさい!!」
「良い調子でノコノコ出て来て、撃墜されて、それで馬鹿以外の何だってんだ? ん?」

 言葉に詰まったリリルの頭を、バスケットボールをドリブルするかの様にバシバシと叩き続けるハロルド。
 そこに発信機の応急処置を終えたダグラスが声を掛ける。

「終わったぞ。ハル、その辺で止めてやれよ」
「ああ、解った。さっさと帰ろうぜ」

 バシン!

 ハロルドは最後にリリルのメットを思いっ切り強く叩いた。衝撃でメットのクッションにリリルの口が埋まる。

「じゃあな! 2度と俺等の前に姿を現すんじゃねえぞ!」
「……あいつなりの親切心なんだ。気を悪くしないでくれ。導きがあれば……また逢おう、リリル」

 ダグラスは先にバウに向かったハロルドのフォローをし、慰める様にリリルの頭を優しく撫で、別れを告げる。2人は
バウ・ワウに乗込み、星の彼方へと消えた。

「……ハロルド・ウェザー、殺す」

 メットの位置を直したリリルは復讐を誓い、ビームライフルのトリガー部分に取り付けられた、発信機の赤い灯火を
見詰める。しかし、彼女自身にも解らない不思議な感情が、心を怒りに染め上げるのを阻むのだった。

(ダグラス・タウン……。ニュー、タイプ……)

 少女の心を占めているのは憧憬か、敬慕か、それとも……。

 明らかにヴァンダルジアを追撃して来た新型ガンダム。ヒラル・ローマン大佐は、ハロルドとダグラスの報告を聞き、
ある決断をした。艦長のヴォルトラッツェル中佐をブリーフィングルームに呼び付け、話した内容は……。

「補給地点をダイモスから火星アマゾニスに変更する?」

 ヴォルトラッツェル艦長は小首を傾げ、ローマンの命令を復唱した。

 火星も月と同じく独立国家扱いではあるが、実質的には軍・政府共に地球連邦の子飼い組織。
 先の大戦では公転周期の関係で突撃隊に素通りされた為、コロニー連合に対する民衆の感情は中立的。しかし、
軍の上層部には地球から左遷された者が多く、大戦で功績を上げる事で面目躍如の機会を窺っていた彼等は、肩を
透かされた格好。
 ヴァンダルジアを今の火星に降ろすのは、飢えた獣の眼前に餌を放り込むに等しい行為。

「ローマン大佐……何故、自ら敵地に飛び込む様な真似を?」
「連邦が何処まで反対派を抑えているか、試す」

 ローマンの答えに、ヴォルトラッツェルは上申する。

「危険です。火星軍は功名心に逸っている」
「果たして、どうかな? 火星は再戦によって得られる躍進の好機を天秤に掛けられるか」

 それは危険な賭け。しかし、ヴォルトラッツェルに権限は無いし、どちらにしろ補給を受けなければ木星まで帰れない。
彼は最後の質問をする。

「敵襲を受けた場合の対応は?」
「変わらない。現地には聖戦団が居る。火星程度の戦力なら抑えられる」
「……では、そこに連邦軍の討伐隊が加わったら、どうなると御考えですか?」
「火星は火の星になる。それだけの事だ」

 ローマンは不敵に笑った。ヴォルトラッツェルは、それ以上尋ねる事を諦め、口を閉ざす。

(全面戦争か……。切っ掛けは何でも良いと?)

 ヴァンダルジアはダイモスからアマゾニスへと進路を変えた。

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