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CIRCLE RHYTHM ~ブレイス・オブ・ピリオド~

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CIRCLE RHYTHM ~ブレイス・オブ・ピリオド~ ◆YhwgnUsKHs



『       ♪ ♪ ♪
       『←Past―』

【舞曲(ボレロ) ~四重奏・Ⅰ~】



「く、そ!」


 既に右腕のシェルブリットを展開した男、カズマは先刻グラハムによって強打された脇を抑えながら立ち上がった。
 不覚だった。まさかファーストブリットを直撃させる寸前に男に割り込まれ、しかもよりにもよって先の乱戦で銃弾を受けたところを剣で思い切り叩かれてしまった。カウ
ンターの勢いによるダメージ増加もそれを助け、強烈な痛みがカズマの脇に襲い掛かった。さすがのカズマも、一旦距離を置くしかなかった。
 手で押さえている箇所から血が滲んできていた。撤退するべきか?そんな言葉がカズマの脳裏を――


「ふざけるんじゃねえ」


 わずかな可能性を、カズマはシェルブリットを構えることで捨て去る。グラハムたちは何やら3人で集まって何か話している。時折驚いた声や悲痛な声が聞こえるが、カズ
マにとってはどうでもいいことだ。
 全員倒す。それ以外に何を考える必要がある。脇の傷も自身の疲労も、それを止める理由にはならない。

(前へ、前へだ。決して退くな。俺の目の前の壁って奴を)

 カズマとは、そういう男なのだから。



「うおおおおおおおおおお!!」



 カズマはシェルブリットの拳をゆっくり握り締めると3人向けて走り出した。その様は、まるで弾丸。シェルブリットの様だけでなく、彼自身が弾丸のように突き進む。敵
意と殺意を引き金に、意志を火薬に飛んでいく。まさに弾丸。


「!」
「ほら、もう時間がない。今あんたにできる最良はそれだけだと俺は思うんだが」
「……チョッパーくん……」
「っ!! ちっくしょおおおおおおおおおおおおおお!!」


 対する3人の反応は、極めて迅速だった。
 悔しそうに叫び、泣きそうな顔をしたチョッパーは四足歩行のトナカイに姿を変えて、
 こちらは一見泣いてはいない、だが、目はグラハムに対して悲しそうな視線を向け、唇は無意識に噛み締められていた、そんな表情のレナは、チョッパーの変身が終わるや
いなやその背中に飛び乗った。
 カズマは判断する。逃げる気か、と。


「させると思ってんのかよ!!」


 逃亡を許すわけにはいかないと、カズマはシェルブリットの発動を――


「違うな、ツンツン野郎」


 そこに、再び割り込む影。
 デジャヴのようなその光景。女を攻撃しようとして、別の影が割り込んでくる。


 最後の1人、グラハムは、剣を構えてカズマへとその剣を振りかぶった。


「っ!」


 だが、カズマとて歴戦の強者、二度も同じ奇襲は喰らわない。腹へと迫る刃はこちらを向いていなく、剣の腹が向いている。さっきもなぜかそうだった。ならば――

 カズマの足がすかさず振り上げられ、グラハムの剣の腹をその靴で受け止める。
(ッ!なんて、力だ!)
 グラハムの贅力により引き出されたパワーに、カズマはわずかに顔を顰めた。
(クッ!)
 悔しそうに顔をゆがめると、剣の腹を思い切り蹴り飛ばして後方へ飛び、着地した。前のめりに姿勢を留めたままで。
 勢いを殺したことで、ダメージは防げた。だが、その代償は


「絶対、絶対だぞ! 絶対戻ってこいよ!」
「グラハムさん! 絶対、絶対助けを――」
「おっと、それ以上は駄目だ。命の恩人A。奴に聞かれてしまう」
「っ! ……ごめんなさい……!」


 トナカイとその背に乗った女が悲痛な声を残しながら、高らかな音を残して走り去っていく。その速度たるや、先のカズマ以上。流石馬とよく似たフォルムを持った動物
なわけはある。


 そして、残ったのは――2人の男。


「てめえ……」
「ああ、そういえば……まだ話の途中だったな。どこまでだった?『悲しい、悲しい話を』……あ、これは戻りすぎているなと俺は自分で気づいてしまった。『ああ、そうい
えば』……ああ、駄目だ。これは戻ってもいない。くそ、続けるはずだった話は現在と過去の間に消え失せたというのか!? む、今俺は凄い哲学的なことを言ってしまった
気がするぞ!」


 アホなことをつらづら言っているグラハムにカズマは構わない。
 目の前の壁が、さらにわかりやすく壁になっただけ。なら、自分がすることはまったく変わらないではないか。
 そして、この壁は、強い。だが――


「ああ、そうだ。思い出した」


 独特の青繋ぎのところどころは裂け、そこから見える肌からは血が滲んでいる。
 頭からも血が流れており、流れた血がグラハムの頬を赤く彩る。


「『違うな、ツンツン野郎』、からだったな」




 いくら直撃を逸れたとはいえ、発動させたシェルブリットの一撃。それは、グラハムのすぐ横の道路に直撃した。


「逃げさせると思っている、んじゃあない」


 シェルブリットによって散った道路の瓦礫を、グラハムが避ける手段は――――なかった。


 グラハムが無傷でいられるわけがなかったのだ。



「逃げさせるんだ、この俺が」



 ******



「くそぉ!ちっくしょぉ!」


 2人の対峙する場から逃げ出したレナとチョッパー、そのうちチョッパーは走りながら泣いていた。
 本当ならばグラハムを見捨てたくなかった。傷だらけのグラハムを残していくなんて。
 でも


『俺と命の恩人A、2人とも載せて速いとは思えない。あの男に追いつかれてしまうだろう』


 理屈はわかる。
 自分にできることは、これしかなかったのだと。援護は出来ない。共に戦おうにも、自分にはランブルボールがない。チョッパー自身が作り出した、悪魔の実の波長を狂わせる劇薬。それにより彼は、3形態への変身だけでなく、7形態へ変身する事ができる。それにより引き出される力は、亡国の悪臣チェスマーリモ、空番長ゲダツをも単独で撃破せしめたほどだ。だが、逆を言えば、そのランブルボールがなければチョッパーの戦闘力は激減する。そして、今がまさにその状態だ。
 彼に残されたのは、グラハムが提案した方法だけだった。


『命の恩人Aと共に劇場へ向かい、救援を呼べ』


 既に劇場にはレッドとイスカンダルが到着しているはずだ。ならば、彼らに救援を求めるのが今できる最善。特にイスカンダルの力は誰もが(グラハムは『悔しいが』とつけた)認めている。ここから劇場までそう遠くはない。妥当な選択と言えるだろう。
 だが、レナは苦言を呈した。『レッドくんたちが劇場にいるかどうかわからない』と。何か不測の事態が起こり到着が遅れることだって考えられる。今の自分達がまさにそうではないか。
 だが、グラハムは頑なで、かつ狡猾だった。カズマが立ち上がるまで間がないことを強調し、2人を焦らせた。このまま迷ったままここで3人ともにいるか。戦えない自分達では足を引っ張る。援護できる武器は強力過ぎて使えない。ならどうする。


 2人は、少しでもグラハムを助けられる道を選んだ。
 そして、その為にグラハムが残らなければならないことを。彼の力を信じて。
 けれど


「レナ!おれ、急ぐから!全力で走ってやる!絶対、絶対イスカンダルをつれてきて、グラハムを助けるんだ!」




 チョッパーは泣きながらも前を見据える。転んだりなんてしないように。
 泣きながら足に力を込める。少しでも速く進める様に。
 泣きながら叫ぶ。自分の意志を確かめる為に。


「…………」
「レ、レナ!? レナ!」
「あ……ご、ごめん。チョッパーくん。そうだね、速く劇場に行かないと」
「ああ!」


 チョッパーのけむくじゃらの背中にしっかりしがみつきながら、レナは思う。

(また、私は……)

【仲間を増やすって意気込みながら……結果が、仲間を見捨てて自分は逃亡。ははっ、素晴らしい喜劇だわ、ぱちぱち】

(うるさい……うるさいうるさいうるさい!!)

 目を瞑り、苦悶に顔を歪める。
 頭二響く声、一体これは誰なのか。

 どこか聞き覚えのある声なのは、気のせいか。

(私は、私は助けを呼びにいくの! 見捨てたんじゃない!)

【なら、なんでそんな苦しそうなの? 後ろめたいんでしょ? 認めちゃいないよ、偽善者】

(黙れ、黙れ、黙れ!)




 ひた走るチョッパー。その背で、罪悪感を刺激するあらぬ声に苦しむレナ。


 そんな彼らの元に、さらなる悲報が襲い掛かる。


『ごきげんよう諸君』



 ******



「うおおおおおおおお!!」
「るああああああああ!!」

 二つの力が激突する。
 1つは、カズマのシェルブリットの拳。もう一つは、グラハムの振う宝具『アロンダイト』。片やアルター、片や英霊の振う宝具。強度においては優劣は着けがたいだろう。
 だが、力はどうか。シェルブリットは当然その力は攻撃にこそ特化する。力が弱いわけがない。だが、グラハムの方は宝具を使っているとはいえ本人自身は特に能力はない。
常人よりは強く、ラッドをして『俺より喧嘩が強い』と言わしめるとはいえ、真っ向からシェルブリットのパワーに対抗できようはずがない。勝負はグラハムに不利に思える。


 真っ向からぶつかれば、だが。





「ッ!!」

 拳をグラハム向けて繰り出したカズマはまたも起こった結果に対して歯噛みする。
 迫る拳に対してグラハムが行った行動。それはアロンダイトで攻撃する、ただそれだけ。
 ただし、相手はシェルブリットの拳ではなく、それより先――腕自体。シェルブリットで包まれているはずのその腕に、剣が命中する。もっとも、刃を向けていないが。
 だが、逆を言えば……面積の広い腹である分、打ち払う分においてはこの方が効果的だ。

 ガキィッ、と言う鋼と鋼がぶつかるような音が響いた。
 シェルブリットの拳も、その砲台である腕を揺るがされては照準はズレる。結果、拳はグラハムに当たらずあらぬ方向へと向かってしまう。
 勿論、素人がマネした程度ではこのようなことはできない。これができるのはグラハムが的確なポイントを狙っているからだ。拳に力を込め、1番力を入れるポイントを。
破壊することに特化した男は、そのポイントを理解していた。攻撃において脆いポイントを。
 空を切る拳。その隙に、打ち払った力を利用してグラハムがくるりと回りもう片方の手何かを突き出してくる。
(させるかよ!)
 カズマはとっさにそれを左手で打ち払おうとした。それは成功し、グラハムの手は宙へと払われた。


 ただし、ゴキッ、という鈍い音と、激痛と共に。


「ッ!!!!!!」


 ニヤ、と笑ったグラハムに向けてカズマは激痛に顔を歪めながらも蹴りを繰り出した。蹴りはグラハムの腹に命中し、グラハムが後ろに吹き飛ぶ。だが、すぐに着地し笑みを浮かべている。

(後ろに飛んで当たりを浅くしやがった、かっ……にしても、くそっ)

 激痛が未だに走る。その元はグラハムの武器を払った左腕。その左腕がだらんと下がっている
 関節が、外された。しかも腕を払ったはずのあの一瞬で。
(違う……あいつ、払われたふりをして……!)
 余裕の笑みを浮かべるグラハムを見やる。右手には黒剣アロンダイト。そして、左手には――小型レンチが握られていた。
 どう見てもそれしか握っていない。つまり、それを突き出してきてカズマに払われたと見せかけ、一瞬でカズマの関節をレンチで挟み、的確に外した。神業、という呼び方
すら生ぬるいかもしれない技術だった。壊すことに特化するグラハムだからこそ、できたことだ。


「どうしたツンツン頭。派手な鎧も、当たらないと意味がないな」
「……! ツンツン頭じゃねえ、カズマだ」
「そうか。俺はグラハム・スペクターだ。よろしくはしねえがな、カズマ」

 怒りに顔を歪ませるカズマ、対してそのカズマを見やるグラハムは笑っている。そしてその笑みのまま、誰ともなく呟いた。

「しかし、なんだかいつもよりやけに体が軽い気がするな。それに……なんだ?アイツのあの輝いて見えたり濁ったり見える部分は」

 グラハムには相対するカズマのシェルブリットを纏った左腕、そこが煌びやかに輝いて見えている。同時に、剣を叩き込んだ脇腹や、左肩は濁って見えている。
 カズマと戦闘を始めてから見え始めた異常だった。

「これは、まさか」

 明らかな異常。それに対してグラハムが出した結論は――


「俺の中の隠されていた力が目覚めてしまったのか! 一度生死の境をさまよったことによって俺の中の生存本能が刺激されて、そして今お前との戦いで今俺の――」



 兄貴分が兄貴分なら弟分も弟分ということなのかもしれない。



 そんなグラハムの無駄話をカズマは禄に聞いていない。だが、一つだけ引っ掛かるところがあった。

(輝いて見えたり濁ったり見える、だと?)

 普通ならばグラハムの戯言としか受け取らないだろう。なにせ日頃が日頃だし。もっともカズマはグラハムと初対面だからそこは関係ないが。
 だが、グラハムの言っている現象、それは今まさにカズマにも起こっていることなのだ。グラハムの輝いている場所、濁っている場所が見えている。そして、それは初めてのことではない。
 遊園地で相手にした3人にも、少し前に一方的に殺害した少女にも、同様のものが見えていたのだから。
 今までは特に気にしていなかった。それこそ目の錯覚か、シェルブリットの新しい力か何かかとでも適当に考えていた。だが、敵であるグラハムにも見えているとなると話は別だ。一体、自分に何が起きているのか――



 そんな時だった。



『御機嫌よう諸君。無事第2回目の放送を迎えられて嬉しいよ』



「!コイツはっ」
「ギラーミン……もう放送の時間か」


 2人とも当然この声の主は知っている。ギラーミン。こんな場所に自分達を放り込んだ張本人だ。その声が聞こえる。つまり、今放送の時間を迎えた事になる。


『諸君もこの放送を聞けば生き残っている実感を得られるだろう?その感覚を忘れないでくれたまえ。
 当たり前の話だが死んでしまえばもう何も感じることはできなくなる。』


 その言葉にカズマは不快感を味わいながらも、浮かぶものがあった。
 死んでしまえば――もし、自分が死んでしまったら――


『カズくん!』



「うあああああああああああああああああああ!!」
「なっ!」


 放送の声をバックにカズマが猛り、叫んだ。天高く、叫び、左肩の羽が消えていく。その様に、グラハムも放送を聞く耳を止め、剣とレンチを手に構えた。
 放送を聞きながら、勝てる相手ではなさそうだ。


「撃滅のぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 カズマの右肩の車輪が回り、ヘリコプターのように宙に浮かび、グラハム目掛けて突っ込んでくる。
 小細工などない。ただ、突っ込んで拳をぶつける、それだけの一撃。

 もっともグラハムにそれを真正面から受ける義理はない。
 足に力を込め、当たる寸前に避ける。やけに体が軽い今なら充分できる芸当。グラハムにはその確信があった。





 力を入れた足から、突然力が抜けなければ。



「あ……?」


 疑問を思う暇もない。
 疑問を考える暇などない。
 目の前には、カズマが急接近してきている。うなりを上げ、あたりの瓦礫を散らし、突っ込んでくる敵意の弾丸。


 瓦礫の直撃によるダメージ。それをグラハムは――読み違えた。
 それだけの、話。


「セカンドブリットォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」




 轟音と共に、グラハムの体がピンポンダマのように弾けとんだ。ガスッ、ゴスッ、という音ともに地面をバウンドし――露店のガラス窓に突っ込んだ。


 ガシャァアン、というけたたましい音。それが、終焉を告げるドラの音だった。




       ♪ ♪ ♪
     『―Same Time―』


【聖譚曲(オラトリオ) ~レッド~】



「そんなっ……ちく、しょう!」


 空。ただ広がる青空。信じられない話だけど、俺はそこを飛んでいた。まあ、プテに掴まれて飛んだことはあったけどさ、自分の意志でこんな自在に動くのは初めてだ。
 俺は早く劇場に着かなくちゃいけない。だから、できるだけ急いだ。放送までには間に合いたかった、けど、流石に距離が遠すぎたみたいでそれは無理だった。劇場に着く前に放送になってしまったんだ。


 そして俺は、俺が間に合わなかった事を知った。
 聞いてしまった。衛宮って人の名前を。名簿を見ても、そんな名前の人は他にいない。

「ごめん、ごめん……!」

 まただ。また、手が届かない。
 イエローにも、魅音さんにも、衛宮さんにも、手が届かない。伸ばしても、伸ばしているはずなのに、届かない。
 俺は……無力、なのか?


「っ!! いや、まだだ! まだ……!」



 チョッパーも、レナも、グラハムさんも、もちろんイスカンダルのおじさんも、ハクオロさんも、まだみんな生きている!まだ、まだ手が届くんだ!

「あきらめるもんか!」

 このまま劇場へ向かおう。
 もし俺たちみたいにレナたちにも何か起こっていたら、助けられるかもしれない。どの道、到着が遅れたんだから連絡しないといけないしさ。



 5分くらいで目的の劇場が見えてきた。ガラス張りの入り口が見える。あそこにレナたちがいるはずだ!


「着いた!」


 そして俺は建物からいくらか離れた道でX-Wiをゆっくり降ろしていく。それで着地して、すぐに駆け込んでレナたちを捜すつもりだった。衛宮さんが死んでしまった以上、イスカンダルのおじさんもこちらに向かってるはずだ。あの馬で、きっとハクオロさんと一緒に。だから、皆でおじさんを待つつもりだった。3人に何も起きてなければ、そうなるはずだった。



 でも、俺は忘れてた。
 それは、俺にも何もないこと、も条件だったんだって。


 ゴウッ、という音がした。突然何かが俺の上を掠めたんだ。
 その何かの起こした風で、まだ空中にいた俺の姿勢が僅かに崩れた。
 一体、何だ、と俺がそれの行方を見ようとした瞬間――


 轟音と共に、爆発が起こった。それは、目の前の劇場から起こっていて――


 間もなく、爆風が俺を容赦なく地面に叩き落した。


「うああああっ!!」


 金属音と一緒に、俺は地面に叩きつけられて転がった。転がった時に見えた破片、多分X-Wiが落ちた衝撃で壊れたんだ。少なくとも、羽は完全に折れてる。
 俺はなんとか手を突いて立ち上がろうとする。

 何が、起こったんだ? 突然、劇場が爆発して、凄い風と熱が襲ってきて、姿勢を完全に崩してしまったんだ。
 その疑問の答えは、すぐにやってきたんだ。

 大きな、大きな声と一緒に。


「ひゃっははははははは! どうだぁガキィ!! 安全地帯から地獄へ戻ってきた気分はよぉお!! おかえりなさい地上へ、ってなぁ!」



       ♪ ♪ ♪
       『←Past―』


【小夜曲(セレナード) ~グラハム・スペクター~】





「っ……くっ」


 少し、気を失っていたかもしれん。
 気がつけば上に重いものが載っている。
 ああ、物だ。人じゃあない。おそらく俺が突っ込んだ時に落ちてきた瓦礫だ。


 なら、問題ない。


 俺は派手に瓦礫を、持っていた剣で打ち砕いた。斬ったりなんかしない。俺にはやはり、斬るのはなんか性に合わない。
 瓦礫が飛び散るのも待たず、俺は立ち上がり、店の外向けて走った。パチパチ、とガラスを踏むのも無視した。

 アイツは、いない。
 俺が死んだと思って命の恩人達を追って行ったのか。くそ!


 奴の攻撃が決まる瞬間、俺は何とかコイツで奴の拳を受けた。だが、それでも勢いは殺しきれず店に吹っ飛んでしまった。それでも普通なら流石の俺もしんでいたかもしれないが……たしかこの剣は『使う奴の能力を1ランク上げる』とあった。1ランクというのはよくわからないが、もしその中に丈夫さとかが入っていたならおそらくそれも強化され、そのお陰で俺は助かったのだろう。これをくれた命の恩人Aにはもう、枕を向けては寝られない。……む?しかし足を向ける方が失礼じゃないか? いや、しかし―

 と、俺は我に返った。しまった!こんなことをしている場合じゃあない!奴を早く追って、命の恩人たちを救わねば!
 俺はすぐに店から飛び出し、あのツンツン頭を追おうとした。



 次の瞬間、俺の足から……完全に力が抜けた。


 な、ま、また、か? なんでだ――そもそも、さっきだって――!?

 そこで俺はもう一つ思い出した。
 剣の説明の、『使う奴の能力を1ランク上げる』。この前の文。


 『使用者の体力を消費して』。


 そう、か――俺は、戦っている間に――どんどん体力を、失っていたのか――なんて、こった――
 説明を忘れて、自爆だと――なんだんだ、俺は――

 地面が近づいてくる。ああ、俺はこんな所で倒れていられないってのに。


 滅多にないことなんだぞ? 破壊しか能がない俺が、ラッドの兄貴とシャフトその他大勢やジャグジーたちくらいしか付き合う相手がいなかった俺が。


 誰かに命を救われて、その恩を返せる機会が来るなんて――


 俺は、それすらできないのか――









 く、そ――――





        ♪ ♪ ♪
       『―Same Time―』




【狂想曲(カブリッチオ) ~四重奏・Ⅱ~】



「どうだいどうだい! 天使や悪魔じゃなさそうなのは少しばかり残念だが別にいい! いや、でもお前背中から出たあの羽何よ? なぁ、なんか武器で出でたのか? それ
ともおまえ自身が出してたのか? なあ、どっちなんだよ? やってみせろよ、おらあ!!」
「ぐあああああ!!」
「ああ、できるわけねえか……俺が今踏みつけちまってるんだからなぁ、ヒャハハハハハハハ! こいつぁすまねえなぁ無理言ってよぉ!」

 自分勝手にそう叫ぶ狂人ラッドはレッドの足を踏みつけながら言った。踏まれた足は無残に捻れ、歪な方向を向いている。折れているのは明らかだった。その箇所を、
踏み砕いた時そのままのラッドの足が容赦なく力を入れて苦痛を与える。
 それは圧倒的な蹂躙だった。地に落ちたレッドを逃がさず、ラッドが与えた苦痛。それによりレッドを苦しみ、ラッドは嗤う。殺人鬼は、嗤う。


「ヒャッハハハハハハハ!
 …………ここまでして、諦めねえのかてめえは」

 今まで高テンションだったラッドのテンションが一気に下がった。その原因は、レッドの眼だ。
 苦痛に歪んでも、絶望を与えられても、レッドは諦めていない。その目から光が失われない。
 だが、それよりもラッドが気になることは。


「なんでお前、俺を恨まねえ」


 普通、足を折られ、ここまで罵倒されれば、敵意はおろか憎悪を抱かれるのが普通だ。だが、レッドは苦しみこそすれ、ラッドを見るその目に憎む色は見られない。
 生粋のマゾ野郎なのか、とラッドが更に罵倒してやろうと口を開いた。


「確かに、痛いよ。それに、俺は死ぬわけには行かないから、だからラッドさんを全く憎んでないわけじゃない」
「ハッ。なるほどなあ。死なないと思ってるんじゃなくて、死ぬわけには行かない、ってか。そりゃあ俺の勘違いだったな。ま、それでもここまでやったんだ。今更やめるな
んざ――」


 そこでラッドの口が止まる。
 おいまて、今こいつなんて言った。


「お前、なんで俺の名前を」
「だって……聞いたとおりなんだ。自分が死なない、って思ってる人を殺したいなんて――」


「グラハムさんが言ったとおりの人なんだ。だから、俺はグラハムさんが信じている人を……悪い人だって、どうしても思えない」


 仲間である、グラハムへの信頼。そのグラハムが信じる、ラッドへの――


「てめ……なんでグラハム坊やの事を」


 その言葉にラッドは僅かに動揺した。自分の弟分であるグラハム、それを知る目の前の少年、しかも自分に対して信頼を向け続けるおかしな少年に。





 そのわずかな隙を、『彼』は見逃さなかった。




 銃声、そして刹那。



 ラッドの胸に穴が開き、そこから血が噴出した。



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