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Show me the way to you

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Show me the way to you ◆Wott.eaRjU




「チクショウ……なんだってこんな面倒なコトに……あーーー! ぶん殴りてぇ!!」

紡がれた言葉は悪態をついたもの。
周囲一帯に犇めく森林が僅かに揺らぐ。
怒りに満ちた声の主に対してまるで木々が恐れを抱くかのように。
周りには誰も居ない。
存在するは支給されたデイバックを担ぎ、少し猫背気味に機嫌悪そうに歩く一つの人影。
必要以上にギラついた双眸で時折辺りを見回す姿は獲物を求める獣のそれに近い。
黒髪をおさげに纏め、大胆に肌を露出させたタンクトップとホットパンツ姿は活動的な雰囲気を匂わせる。
そう。その人物――一人の女性は捜していた。
憂さを晴らすように土を踏みしめ、跳ね除けても見つかるわけでもないだろう。
だが、抱いた感情は燻ぶり続け、彼女から平常を失わせていく故にそれは仕方のない事。
彼女――名簿上ではレヴィと表記されたその参加者は怒りを露わにしながら、歩いていた。

「やっぱりあいつか? あのヘンテコな腕をした眼つきの悪いガキ……それかあの黒マントって線が妥当か。
あんなふざけたコトをこのレヴェッカ様にかましてくれた、勘違い野郎は……!」

レヴィとは一種の通り名。
レヴェッカという本名を持つレヴィは相変わらず愚痴を零す。
今も記憶に新しい数時間前の出来事。
気に入らない男共でもぶん殴ってやろうと思っていた矢先に飛んできた奇妙な物体。
生憎上手い対抗手段もなく、撤退という手を取ったレヴィ。
そこまでは辛うじてレヴィの堪忍袋の御を切れずにいた。
だが、問題はその後、突如彼女を襲った閃光と馬鹿みたいな強さで吹き荒れた突風。
憎々しい事をやってくれた人物は何処のどいつか――と、レヴィが疑問に思うのは自然な話である。
またレヴィの機嫌を損なう要因はそれだけではない。
愛用の二丁拳銃、ソードカトラスは何故か手元にない。
それどころか只の一丁の銃ですらもレヴィは所持しておらず、彼女の苛つきはかなりの域をいっている。
殺し合いをしろというのなら、せめて希望の武器でも持たせる位はやってもいいだろう。
このふざけた集まりの主催者と思えるギラーミンという奇妙な男への怒りもままならない。
しかし、今は自分をこんな目に遭わせてくれた人物を捜すのが先の問題。
怒り心頭のまま、レヴィは森林地帯を歩き周り辺りに目を配っていた。
目的地も碌に決めてはいない。
只、己の勘が赴くままに恐ろしい形相で、徘徊を続けるレヴィに進んで近づくのは殊勝な人間位だろう。

「ん? 人か……よし!」

やがて暗闇の中、レヴィが両目を凝らして呟く。
良好とはいえない視界の中でレヴィが確認したのは一人の参加者。
名前などレヴィが知る由もないがそんな事を彼女は気にはしない。
若干機嫌を持ち直し、レヴィは林を掻き分けて前方を歩く参加者へ近づく。
幸い目的の人物は此方へ背を向けているため、逃げられる事もないだろう。
取り敢えずの忍び足を含ませて、レヴィはその人物に接触を図ろうと声を掛けようとする。


「――何か用か?」


しかし、先に口を開いたのはレヴィではなくその参加者――――車掌服を着た男の方。
10メートルは離れた距離で男はくるりと振り向き、レヴィに問う。
既に開きかけていた口からは次の句を繋げずに、レヴィは思わず両目を見張った。
気づかれていた筈はない。無駄な音を出す程のヘマはかましていない。
だが、目の前の男はさも当然な様子で眺めてくる。
まるで大分前から自分の存在には気付いていたとでも言わんばかりの落ち着き。
更には一見武器を持たずに無防備な素振りだが其処には隙が見られない。
堅気の職に就いているとは到底思えず、自分達がやっている運送屋のようなものに近いのだろう。
時には法に触れる事もする――まさしく以前、同僚のロックに対して言った表現が相応しい。
レヴィは気を引き締めると共にその男に対し軽く苛つく。
それは八つ当たりと似たような感情だが、出鼻を挫かれた事に対し悶々としながらもレヴィは改めて口を開き始める。

「あんた、銃とか持ってねぇか? もしあたしに譲ってくれたら、その分はあんたを守ってやってもいいぜ?」

ギブアンドテイク。
未だに怒りの感情はあるものの、冷静を装いながらレヴイは交渉を持ち掛けた。
ロアナプラでの揉め事を通して、ある程度の取っ組み合いには自信がある。
だが、レヴィの本業は二丁拳銃を携えての荒事処理。
二丁とは言わずとも拳銃が一丁もなくてはレヴィの真価は発揮できず、彼女も落ち着かない。
銃はレヴィをいつでも守ってくれたのだから。
彼女の大事な半身ともいえる商売道具であり、物言わぬ相棒は彼女になくてはならない。
此処は精一杯の妥協をし、レヴィは男の反応を窺う。
見たところ細い身体つきをしており、お世辞にも良い肉体とは言えないが。
彼の言葉を一言も逃さず、そしていつでも跳びかかれるようにレヴィは身構える。

(さぁて、どうするかな。 名無しの兄ちゃんよぉ?)

理由は単純。
目の前の男が、平和ボケした人間でない事を疑う余地は最早レヴィにはなかった。
そう。只の一般人が赤く染まったスーツ、夥しい程の返り血を浴びた服装で平然としているわけがない。
赤黒い、仕事上で何度も見てきた返り血の広がりがその存在を示す。
加えて、両の拳も拭き取ったらしいが未だに赤く染まっている。
きっと既に誰か人一人でも負傷させ、若しくは殺したのだろう。
名も知らぬ死人にはご愁傷様としか言えないため、特に感想もない。
重要なのは男がどれ程の練度、どんな人柄の者かという事。
軍人崩れの気まじめな男か、殺人に興奮を見出す快楽者かそれとも見かけ倒しの臆病者か。
知り合いの同業者の顔をルーレットでも回すように思い浮かべ、一体どいつに当て嵌まるのかと考える。
荒事もなく済むのなら別に構わない。
男を気に入らないのは依然としてだがそれでも先程、突風を起こした人物に対してのそれよりは弱い。
兎に角銃を手に入れる事をレヴイは目的としていたのだから。

「断る、俺にお前の助けは必要ない。見知らぬ奴の世話になる程俺は弱くない」
「へぇー……大した自信だな、あぁ?」

レヴィの表情が急に曇り始める。
簡単に渡してくれるとは思ってはいなかったが、どうにも気に障った。
確かに男が醸し出す雰囲気はロックとは程遠く、言うなればバラライカのものに近い。
だが、此処まで自分に対して自信を持っているのは不思議さを通り越して不快感すらもある。
レヴィの眼前に立つ男は血に濡れているが見たところ素手であり、武装も皆無。
なのに男の表情には特に変化もなく、レヴィが軽く睨みを利かせても動じない
やがて男は、今度は自分から言葉を紡ぎ始める。


「当然だ。何故ならこの世界は俺のものであって俺のためにある。
俺が死ぬというコトはこの世界が終る事に等しい……だったら俺が弱いわけがない。
いや、許されないといった方が正しいかもしれない」

空いた口が塞がらないとはこの事だろう。
あまりにも突拍子のない事を言って退ける男に対し、レヴィは呆れかえる。
一種の冗談かと思ったがそんな様子にも見えない。
自分に対してではなく、どこか遠くの方を見やるように堂々と口を開き続ける目の前の男が。
気に入らない。

「だってそうだろう? 俺が死ねば世界も終わる、世界が終ればこの世界に住む人間も一人残らず死に絶える。
俺はそんなコトは望んではいない。
ガンドールの兄貴達にも未だ借りは返せていないし、それに俺の花嫁になってくれるかもしれない女も居るからな。
だから俺が死ぬわけはないというコトだ」

次第にレヴィの眉間に血管が色濃く浮き出る。
段々と腹が立ってきたのだろう。
別に自分の事を罵倒されたわけではないが、それでも憤りを感じるのは無理もない。
男の緩み切った一言、一言がレヴィを刺激する。
あまりにも舐め切っている。
レヴィだけではなく、彼を取り巻く全てのものに対して――

「オーケー、もうわかったから黙りな。力づくでも荷物確認させて貰うぜ。
お前の話聞くとムカついてきたからな……!」

デイバックを投げ捨て、レヴィは更に男へ近づく。
右手と左手を絡め、ボキボキと鳴らしながら向かうその姿は只ならぬ様子である事は間違いない。
一発もしくは五、六発でも殴り倒してやろうとレヴィは考えているのだろう。
いや、もしかすれば殺してやろうとでも思っているかもしれない。
自分が死ぬわけがないと、まるで幻想染みた事を言う男がレヴィはハッキリいって気に入らない。
不幸自慢をするつもりは毛頭ないが、それでもレヴィは生きるのに苦労をした。
汚い事はなんでもやり、只日々の日常を生き残るのに精一杯だった。
幾度かの転機を乗り越え、ラグーン商会の一員となり、ようやく腰が落ち着ける居場所を掴む事になる。
その過程の中で『自分は死なない』などふざけた事を言えただろうか。
絶対にNO。そいつは甘い、甘過ぎる考えだとレヴィは考える。
ジョークならまだしも、仮にも殺し合いと銘打たれた此処で良くもそんな事が言えたものだ。
きっと男は生温い国で今まで過ごしてきたに違いない。
そう。ゴミ溜めのような場所で無我夢中に生きていた人間の事などこれっぽちも想像できないのだろう。
現実を、果てしない現実の厳しさを教える意味合いも兼ねてレヴィは確実に男に近づく。

「あたしはレヴィ、お前の名は何て言うんだ? 教えろ」
「――――だ。もしくは『線路を辿る者(レイルトレーサー)』か『葡萄酒(ヴィーノ)』とも呼ばれている。
だが、お前では俺には――」
「オーライ、よーく覚えておくぜ、このクソ野郎おおおおおおおおおおおおおッ!!」

男の声をレヴィの叫び声が強引に打ち消す。
同時に男へ飛び込んできたのはレヴィの右の拳。
女性にしては程良く付いた筋肉から捻り出された拳骨が、怒りと共に軌道を描く。
振りかぶった一撃は自分の名前、通り名を律儀にも教えた男の顔面に突き刺さる。


「無駄だ、俺にとって遅過ぎる」

だが、それは男が只の車掌であればの話。
素早く右腕を上げ、男はレヴィの右手を掴む。
受け止めただけでなく、がっちりと固定しレヴィはそれ以上拳を進める事は出来ない。
予想以上の反応、そして握力の強さにレヴィは驚くが未だに彼女の意思は折れていない。

「けっ! 女みてぇな名前の癖にやるもんだ!」
「ッ!―― 後悔するなよ」
「おわぁ! 上等だッ!!」

意気込みは十分だったがレヴィの身体は急に浮き上がり、彼女は思わず叫ぶ。
下を見れば何故か今まで自分と向かい合っていた筈の男の姿が。
言ってみれば答えは至極簡単な事にしか過ぎない。
そう。レヴィの身体は一瞬で上に持ち上げられ、彼女の身体は宙を舞っていた。
そして唐突に厳しさを増した握力による拘束の痛みに、レヴィは顔を顰めずにはいられない。
今までとは違う。心なしか男の語気にも荒々しさが見えたような感じを受ける。
何か『スイッチ』が入ったのかもしれない。
上等だ。思わず心が躍り、レヴィのテンションも今以上に膨れてゆく。
投げ出された空の中で体勢を整えるが、男によりそのまま木々の方へ片腕で飛ばされる。
しかし、一本の大木に激突するかの勢いをレヴィはものともせずに両足を向け、蹴り飛ばす。
前方に一度転がり込み、即座に男の次の行動に備えるレヴィの動きには無駄はない。
既に戦闘体勢は整えたレヴィは急いで男の姿を見上げるが、彼女は思わず眼を疑った。
何故なら自分の目の前に転がり込んできた物体――一丁の拳銃が其処に転がっていたのだから。

「銃が欲しいんだろう? ならそれを使えばいい。幾ら何でも俺がそれを使えばお前とはあまりにも勝負にならない。
かといって素手同士で闘り合っても俺の勝ちは明確だ。
まあ、俺としては手っとり速く終わるし構わないといえば構わないが、どうせならお前の方に少しでも勝機がある方がいいと思ってな。
その方がこっちにも潰しがいがある」

レヴィの目に飛び込んできたものは、一丁のスプリングフィールドXDと呼ばれるハンドガン。
それは目の前の男の余裕から齎された、餞別だという事実をレヴィは漸く確認。
待ち望んでいた銃が手に入り、レヴィの表情にはキャンディーを貰った子供のように喜びが浮かび上がる。
いや、そんな事は一体あり得るだろうか。
確かに無償で銃が手に入った事は紛れもなく幸運な事に違いない。
事実、レヴィの身体はまるで残像を残すかの如く跳び跳ねてデザートイーグルを掻っ攫う。
再び転がり込み、片膝を地につかせながらレヴィは右腕を突き出す。
握られたものは言うまでもなく、銀色の光沢が闇夜にも眩しい拳銃。
右手の中でスプリングフィールドが滑らかに一回転し、男のご好意に応えるかのように銃口が向く。
月光をバックにし、映し出されるレヴィの表情には――喜びなどという感情は一片もない。

「クソったれがッ!!」

銃弾に籠った想いは一つ。
只、男に対する揺らぎようのない殺意。
グリップを握りしめ、トリガーを引き絞りレヴィは躊躇なく発砲する。
サイレンサーもついていないため銃声を聞きつけて、更に面倒な参加者も駆けつけてくれるかもしれないが関係ない。
最早、数時間前の出来事すらも忘れたかのようにレヴィは目の前の男へ敵意をむき出しにする。
自分を低く見られ、銃すらも分け与えられるという屈辱は夢にも思っていない。
口汚く罵った言葉と共に銃弾が宙を駆けてゆく。


「おっと」

が、男の姿は既に其処には居ない。
耳を劈くような銃声が木霊する中で、新たに起きた一際大きな音は林がざわめいた事によるもの。
気軽な掛け声で男は横っ跳びに身体を投げ込み、銃弾から逃れた。
更に一息つく間もなく、もう一度身体をバネのように使っての跳躍。
それは一発目が外れたと確認するや否や、レヴィが撃ち込んだ追撃の銃弾を避けるための必要動作。
再び地に降り立った男は、今度は跳ぶ事はせずに両足で大地を駆け巡り始める。
男が走った後には不自然な凹凸が幾度も生まれるが彼は碌に気に留めない。
既に何発かの銃弾を弾き出したスプリングフィールドの銃口より常に一手、二手先の軌道で動き回る男。
奥歯を噛みしめ、雄たけびのような声を上げながら新しい銃弾を放ったレヴィをよそに男の姿は動いた。
一瞬で、レヴィの視界から消え失せるかのような動き――と言っても過言ではない。

「チョロチョロと……ああ! マジでムカつくぜてめぇはッ!!」

しかし、レヴィが男を見失ったのは一瞬。
日常が命を掛けた過酷なものであったため、レヴィの戦闘によるセンスは荒削りだが光るものがある。
一本の太木をほんの数歩駆け上がるように蹴り飛ばし、その反動で反転しながらレヴィの方へ向かった男を彼女は捉える。
まるで何処かのサーカス団員のようなイカレた動きだが、レヴィにその動作に対し拍手する気など毛頭ない。
強いて言うなれば、お礼として是非とも特上の鉛玉を全身にでも撃ちこんでやりたいといったところか。
レヴィが割とどうでもいい事を考えたのもまた一瞬。
直ぐに先程からレヴィの脳を支配する一つの感情に塗り潰されていく。
そして怒りに満ちたレヴィが視線と、男のこれまた程良く膨れた怒りに満ちたそれがぶつかり、互いに敵を確認。
いつまでも同じ場所に立っている義理もなく、レヴィは横へ走りスプリングフィールドの銃口を逸らす。
右の拳を振り上げて、宙から傾れ込むように跳び込んだ男から距離を取りながら一撃を見舞う。
狙った先は男の左即頭部、容赦など微塵もない銃撃。
タイミングに抜かりはなく、レヴィの勘は思わず『HIT!』という単語を告げる。

「吼えるな、なにせ俺は不死身。どうせお前では俺には勝てないからな」

だが、男からは苦渋に満ちた嗚咽も、地に滴る赤い鮮血も見られない。
そう。阻むものはなく、男の身体を貫く筈だった銃弾が地に生い茂った林を暴力的に抉り取っただけ。
男は強引に身を捩じって、頭部を軽く引く事で着弾から逃れた。
次に重力に引かれて地に落ちてゆく自らの身体を、男は片腕を地に突き出して支える。
腕一本で逆立ちに固定した身体を再びその腕に力を込め、力強く跳ね飛ばす。
相当の筋力があれば決して不可能ではない動作だが、レヴィの反応は遅れる。
何故ならその動きはあまりにも早かったためであったから。
大きく外れた自らの射撃に舌打ちし、レヴィは男を追い縋るように駆け出す。
しかし、前方に男の姿は見えない。
既に男は大木に生える太い枝を狙い、それらに両足を掛けてまるで空中ブランコの演技をするかのように飛び去っていた。
時間は遅く、周囲の暗さもかなりのものであり、一旦茂みの中に隠れるつもりか。
せわしなく左右に視線を飛ばすがレヴィの視界には男の姿は映ら――いや、映った!
前後左右ではない。そう。男の両脚は地についていなかった。


「――上か! チクショウがッ!!」

横目で捉えた影に向かって、レヴィは咄嗟に首を捩じって後ろを振り返る。
先程と良く似た光景にレヴィは歯ぎしりを隠せない。
空に輝く月を背に、自分へ向かって飛びかかろうとする憎々しい男。
先刻の応酬とは違って、レヴィは後ろを向いているため反撃にしにくい。
付け加えて二人の距離は既に数メートル程くらいしか離れていなく、レヴィにとってあまりにも不利な状況。
幸いレヴィの身体には大した怪我もなく、避ける分には体力的にも距離的にも十分だろう。
只、男の攻撃から今は体勢を整える意味も兼ねて、避ける事に専念すれば問題はない。
その筈であった。


「けっ! ここで逃げたら『二丁拳銃(トゥーハンド)』の名が廃るってもんだぜッ!!」


しかし、今はたとえ一丁の、それも使い慣れていない銃を使う事になってもレヴィは二丁拳銃(トゥーハンド)』
邪魔する奴には鉛玉を喰らわせ、請け負った仕事は必ず完遂する。
その仕事の中で逃げの文字などは存在しない。
ラグーン商会ことブラックラグーン号の仲間達からの指示なら、状況によっては従う事もある。
だが、今この場には彼らは居ない。
レヴィを縛れる者といったら名簿に載っていた戦争マニアことバラライカのみ。
よってレヴィの行動は何事にも干渉されない――よって逃げるという選択肢を彼女が選ぶ筈もなかった。
身体は後ろを向いたまま、右腕を自らの右肩に担ぐように置く。
男との距離を考えれば振り向く時間すらも惜しい。
今も接近する男に碌に眼もくれずに、且つそれでいて狙いに狂いは生じていない。
引き金を引き絞り、肩を通して伝わる反動をものともせずにレヴィは男へ向かって発砲。
レヴィの言葉、反撃を試みたその意思に対して驚いたような顔を見せた男は再び身を逸らす。
宙に浮いた状態では考えられないような動きだが、レヴィは関心を見せない。
振り向きもせずに、依然として男に対し背を向けているのみ。
何故なら全ての神経を集中させ、レヴィは賭けていたから。
避ける事も身を守る事も投げ捨て、只、ワンモアチャンスを成功させるために。
レヴィは正確にもう一度銃弾を弾き飛ばす。
男が先程の銃弾を避けた直後に既に付けた狙い。
瞬きする間もなく行われたレヴィの挙動により銃口は、一瞬で男に対し一直線に向かれていた。
男の頭部に向けて寸分の狂いもなく発砲された銃弾が空を切り、男へ突き進む。
そんな時、男は徐に右腕を動かして――弾丸を弾き飛ばした。


「……まさかこれを使う羽目になるとはな」


男は素手で迫りくる銃弾を跳ね飛ばしたわけではない。
意外そうに呟く男の右手に握られたものは鋭い輝きを放ち、蒼黒い柄に赤い紐状の装飾を施した一本の刃物。
それはレヴィと腐れ縁を持つ同業者、シェンホアが愛用するグルカナイフ。
仕込んでいたグルカナイフの刃先を翳し、男は難を逃れた。
またもや銃撃が通らなかった事にレヴィの表情は怒りと驚きで染まる。
男の口振りから当初は使うつもりはなかったに違いない。
手持ちの武器を温存していた事を自分への侮りだとレヴィは受け取ったのだろう。
増幅された憤りを糧にし、レヴィはもう一度銃身を動かすが既に男との距離は近い。
そう。あまりにも近すぎた。

「――がッ!!」

レヴィが右手に力を込めるよりも先に、男の右脚が弧を描く様に振り下ろされる。
右脚による打撃はレヴィの腰に叩きこまれ、耐え難い衝撃が彼女を襲う。
両脚による踏ん張りも利かずに、レヴィの身体は敢え無く後方へ吹っ飛ぶ。
受けた痛みにより碌な受け身を取る事も出来ずに、地面に対してしたたかに身体を打ちつける羽目となった。
一度目の回転の後、レヴィは距離を取るためにその勢いを利用してもう一度横へ転がる。
顔を上げて男の行方を追うレヴィだが、彼女はふいに背筋が凍るような悪寒を感知。
背中越しに強烈な視線が此方を見ている事に気づき、その場から咄嗟にその場から離れようと飛び退く。

「て、てめぇ……!」
「動くな、チェックメイトというやつだ」

だが、一手早く男はレヴィを羽交い絞めにし、手早く後ろ手に両手を掴む、
更に強引にレヴィの身体を押し倒し、彼女を地に這い蹲せる形を陣取った。
グルカナイフをレヴィの首筋に当てて、男が低い声で呟く。
そのまま腕を引いてしまえばレヴィの命は簡単に奪ってしまえるだろう。
実際、男はレヴィを殺すつもりで今まで彼女と戦闘を行っていた。
しかし、何故か男は馬乗りの体勢で彼女の動きを封じ込める以上の動きを見せない。
屈辱的ともいえる状況で、なんとか抜け出ようとするレヴィはトドメが来ない事を疑問に思っていた。
やがて男は再び、口を開き始める。


「お前はなかなか見どころがあるな。正直、このナイフを使うとは俺は夢にも思わなかった。
ここでお前を殺すのは簡単だがそれはどうにも面白くない。
ああ、残念だ……丁度お前は三番目の俺の恋人候補。もっと早く出会えれば順番待ちもなかったのにな。
ということで今回だけは見逃してやるさ、レヴィ。いや、『二丁拳銃(トゥーハンド)』って言った方が良かったか?」
「……後悔する事になるぜ、クソが……ッ!」
「悪いな、生憎俺は想像力に乏しくてお前が俺を殺す姿は想像出来ない。機会があればまた会おう」


男は勝手な事を言い連ね、レヴィに己の意図を告げた。
まさに理解不能、もしかすれば口に出した言葉にはあまり意味はなく、気が滅入っただけかもしれない。
はっきりしている事は、今の男にはレヴィに対しての殺意はないという事。
禍々しい程に放っていた殺意は既に消え失せ、逆に気だるそうな表情すらも男は浮かべた。
但し、戯言のような言葉には依然として絶え間ない自信が漲っている。
自分はレヴィには殺されない――と、そんな自信を持っているからこそ男はこの場でケリをつける事を取りやめたに違いない。
対するレヴィも未だに諦めてはいなく、発する言葉から隙あらば男へ飛び掛かろうとしているのだろう。
何を言われようともレヴィの意思は既に決まっている。
そう。散々コケにしてくれた男の人生を此処で終わらせて、言いようのない後悔を染み込ませる。
男の言葉から察し、彼の力が抜ける瞬間を虎視眈々と狙うレヴィの両目が異様な鋭さを伴っていく。
そしてグルカナイフを握りしめた男の腕が動き、レヴィが行動を起こそうとした瞬間。

――レヴィは思わず大声で叫んだ。



「があああああああああああああああああああああッ!!」


掛け声ではない。
これから男へ危害を加えようとする感情ではない。
それはレヴィが今まで生きていた中で経験した事のあるものと同質なもの。
そして何度感じてもその度に不快感を促す感覚であった。
レヴィの叫びと彼女の背中辺りに液体が飛び散る。
真っ赤な、真っ赤な液が彼女の身体に垂れて――何かが地に転がった。
肌色をした小さな肉片がコロリと音を立てて。


「だが、俺の名前を女のような名前だと言ったのは気に障ったな。まあ、そのお詫びに小指一本なら安いものだろう、ん?」
「殺す! ぶっ殺す! 絶対に殺すぞ! てめえええええええええええええええッ!!」


そう。転がった肉片はレヴィの左小指。
グルカナイフを用い、第一関節の辺りから男は器用にレヴィの小指を切断していた。
痛みのあまりにのたうち回るレヴィの上で男は彼女を押えつけながら平然と構える。
レヴィが知る由もないが男は自分の名前が女のような事を気にしていたためである。
不運にも男の怒りを買っていたレヴィは、振り構わず暴言の限りで罵り、両眼には明確な殺意を宿す。
しかし、男の言葉は終わっていなかった。

「あーそれと一つ、俺は『クソ』でもなければ『てめぇ』でもない。
『線路を辿る者(レイルトレーサー)』や『葡萄酒(ヴィーノ)』なんて呼ばれてるが俺は俺であって、それ以上でも以下でもない。
そう。俺は――」

グルカナイフを逆手に持ち換え、柄の刃がついてない方の先端を向けて振り下ろす。
瞬く間に手荒く抵抗してしたレヴィの脳天を突き、彼女は気を失う。
漸く大人しくなったレヴィの身体から離れて、男は夜空を見上げながら続ける。
まるでレヴイに言い聞かせているのではなく、大空に向かって己の存在を示すかのように。
燃えるような赤く、短い毛髪を生やした男は見たところ細見の肉つきで、とても先程の戦闘で見せた異常な動きが行えるとは思えない。
だが、実際に男はやって見せた。
自分には出来るという絶対的な自信を持つ限り、男は必ずそれを実現する事が出来る。
その人物こそレヴィが闘っていた相手であり、『線路を辿る者(レイルトレーサー)』や『葡萄酒(ヴィーノ)』と言った異名を持つ男。
そう彼こそ所謂BACCANO(バカ騒ぎ)という名のストーリーを盛り上げる役者の一人。


「――クレア、クレア・スタンフィールドだ。覚えておけ……まあ、もう聞こえていないかもしれないがな」


クレア・スタンフィールドが胸を張り、我が物顔に一人立ち尽くしていた。

◇     ◇     ◇



「さて、準備運動はこんなものか」

急に立ち止まり、身体を伸ばしながらクレアは言葉を洩らす。
準備運動。クレアにとっては一方通行を撲殺した事も、レヴィの左小指を切り落としたのも大した事ではない。
スポーツ選手が練習を行う際、事前に軽く身体を温める程度の意味しかないのだから。
既に今も生きているであろうレヴィにも『元気にやってるかな?』と、気楽な気兼ねがあれば上出来な方だ。
更に先程使用したグルカナイフは既に仕舞っており、同時に支給されたもう一本も準備している。
どうやらこの場にはそれなりに出来る手合いが揃っている事は一方通行とレヴィを見ればわかる。
しかし、クレアが武器の用意をするのは不測の事態を見越してではない。
殺し屋を生業とするクレアは素手でも十分過ぎる程闘えるが、それでも武器があった方が殺しの効率も上がるというのは自然な話。
そう。クレアは他の参加者を『さっさと』殺すために用意を整えていた。

「ギラーミンと言ったか、まあ今はのんびり構えているといいさ」

既に見極めは終わった。クレアは一つの方針を打ち出す。
よく考えればクレアには此処から抜け出すための理由がある。
幼い頃から世話になり、本当の兄弟となんら変わりない絆で結ばれているガンドール兄弟への恩義。
フライング・プッシーフット号の甲板上で、自分の愛の告白へ何らかの返事を返してくれたであろう女との再会。
そしてクレアが車掌を務め、今もなお黒服と白服の二大テロリストの危機に晒されている乗客達の保護。
やるべき事は幾らでもある。そのどれもが絶対に零れ落としたくはない。
自分にやるべき事が残っている事は未だ自分の死は世界は許さない事にも等しい。
きっと世界は自分自身を必要としているのだろう。
まあ、当然の事かと若干笑みを見せながら拳を握りしめる。
先ずは達成すべき目的はフライング・プッシーフット号の無事を確かめるために、この場からの脱出。
一番手っ取り早いのは優勝だろう。
集団を組んではギラーミンとやらに接触を図るのは時間が掛かり、そもそもクレアには他者と群れる程困ってはいない。
狙いはこの殺し合いでの迅速かつ圧倒的な単独優勝。
そしてギラーミンと対面した暁には、自分を此処まで連れて来た手段を洗い浚い吐いてもらう。
首を吹っ飛ばすという爆弾だがそれもクレアの気にする事ではなかった。

――何故ならクレアには、自分の首が爆発により四散するなどという幻想はイメージ出来ないのだから。

「さあ、俺は今から怪物だ。お前達――全員の全てを消し去るためのな」

この場に居る参加者全てに死の宣告を与え、クレアは闊歩し始める。
それは化け物がこの場に降り立った事を示していた。


【G-2 遊園地周辺 1日目 黎明】
【クレア・スタンフィールド@BACCANO!】
[状態]:健康 若干の疲労 拳に血の跡
[装備]:シェンホアのグルカナイフ×2@BLACK LAGOON
[道具]:支給品一式×2 未確認支給品0~1
[思考・状況]
1:優勝し、ギラーミンから元の世界へ戻る方法を聞き出す。
2:優勝のために他の参加者を殺す
3:レヴィと再び出会った時には彼女を殺す。
【備考】
※何処へ向かうかは後続の方にお任せします。
※参戦次期は1931~特急編~でフライング・プッシーフット号に乗車中の時期(具体的な時間は不明)
※未だ名簿は見ていないため、フィーロが居る事も知りません。



「ハァ! ハァハァ……あの野郎、絶対に許さねぇ……!」


四本の指となった左手を押さえながらレヴィは鼻息荒く、大声を上げる。
支給品の一つであった応急処置用の道具を使い、止血はしたが小指がくっ付くわけもない。
消せそうにない怒りでどうにかなってしまいそうな錯覚すらも起こるかもしれな。
そしてクレアにより、気絶させられたレヴィが眼を覚ました時に既に彼は居なく、すっかり彼の居場所がわからなくなっていた。
殺そうと思えば殺せただろうに、そうしなかったのもまたクレアの余裕によるものだろう。
堪らない。木々をクレアに見立てて、何度も蹴り飛ばすが一向にレヴィの気は収まらない。
更にそれでだけではなく、ご丁寧にスプリングフィールドの予備弾薬すらもクレアは置いて行っていた。
どうせ、これがないと自分が直ぐにでも死んでしまうからとでも言いたいのだろう。
何せクレアには心配がない。死ぬという心配はない。
この世界はクレアのためにあるのだから――
クレアが平然とほざきそうな事をそこまで考え、レヴィは一際強烈な一撃を大木に叩きこむ。

「いいぜ、やってやるよ……そうさ、どっちにしろあたしにはこっちの方が似合ってる」

伸びきった脚から、電撃のように伝わる痛覚もレヴィは碌な関心も見せない。
思う事は、深く刻まれた屈辱を晴らす為の方法の模索。
あの男、いや化け物というべき存在を殺すにはもっと武器が必要だ。
最上の武器を、ソードカトラスを手にいれて最高のタイミングで思いっきり叩きつける。
レヴィにとってどんな奴が持つ小指よりも、価値がある彼女自身の小指の礼をするためにも。
既にレヴィの中ではクレアへの復讐はこの場で己の命の次に優先するべき目的。
別に汚い手段でも構わない。あの男の死に行く様をこの眼で焼きつかせればそれでいい。
新たな武器を手に入れるには他の参加者に譲ってもらう必要があるが――交渉などあまりにも面倒。
『お願い』が聞き入られない場合は講じる手段はある。
クレアとの闘いで更に冷静さを失ったレヴィはスプリングフィールドを力強く握りしめた。


「四の五の言う奴はぶち殺す……!そしてあのクソったれを殺っちまえばそれでノープロブレムってやつだ」


気に入らなければ他者の命すらも厭わない。
ドス黒い感情に答える者は一人も居なく、スプリングフィールドがキリキリと軋む音を立てるのみ。
言葉とは裏腹にレヴィの表情には満足げな色はない。
只、彼女は浮かべていた。
過去の事を話す時に決まって見せていた死んだ魚のような目つき。
何故かその目つきと今のレヴィが見せていたそれは似ていた。
そう。それはレヴィの復讐の幕が上がった合図。
レヴィに迷いはこれっぽちもなかった。


【H-2 森の中/1日目 黎明】
【レヴィ@BLACK LAGOON】
【状態】:疲労(中)、全身に軽い負傷 、左小指欠損(応急処置済み)、ブチギレ、左脇腹に鋭い痛み
【装備】:スプリングフィールドXD 9/9@現実 スプリングフィールドXDの予備弾丸30/30@現実
【道具】:基本支給品一式、ランダム支給品(銃器類なし)0~2 応急処置用の簡易道具@現実
【思考・状況】
1:クレアを必ず殺す。
2:爆発?を起こしたゼロを許さない。(レヴイは誰がやったかは知りません)
3:他の参加者に武器を、特にソードカトラスがあれば譲ってくれるように頼む。断られたら力づく、それでも無理なら殺害。
4:気に入らない奴は殺す。
【備考】
※クレアが何処の方向へ向かったかは知りません
※何処へ向かうかは後続の方にお任せします
※参戦時期は今のところ未定です。





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我が﨟たし悪の華 レヴィ プッツン共の祭典
一方通行 クレア・スタンフィールド 時を止める幼女/チート野郎ってレベルじゃねーぞ!



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