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☆-3-002

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集

投下作品まとめスレ3-2〔3-077~133〕



77 :創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 17:49:59 ID:s53y1xEw
【天国の控室】

ここは通称「天国の控室」、正式名称は「国立終末介護医療センター」である。
比較的裕福で身寄りの少ない重病患者が終の棲家として選択する医療機関だ。
ただ、すでに危篤状態になっている患者はここに入院することは無い。
なぜなら、寿命を全うするまでの期間たとえそれが数日であろうと、本人の意思で
至福の時間を過ごす事を目的としているからだ。
人によっては数年間の長期入院になる事もある。幸せな時間を1日でも多く
過ごしたいという欲求がその命を永らえるのかもしれない。
N氏もそんな患者の一人であった。

「Yさん、ちょっとこちらへ来てくれないか」
「はいN様」
そう応えたのは、N氏が入院してからずっと付きっ切りで介護してきたY看護婦だった。
「もうどれくらいになるかな…」
「約4年7ヶ月になりますわ。正しくは4年6ヶ月と28日8時間46分…」
「ははは、君はいつも正確無比だな」
「恐れ入りますN様」
「私にはもう近々お迎えが来る。君には本当に世話になった」
「そんな気の弱いことをおっしゃってはいけませんわ」
「いや、分かるんだよ自分の事は」
「N様がそんな気持ちになってしまわれると、私が担当の先生に叱られます」
「そんな医者、私が怒鳴りつけてやる!わっはっは」
「うふふ…患者様から気を使われるなんて、看護婦失格ですわね」

「ところで、私が死んでからの事なんだが…私にはこれまで苦労の末築いた財産がある
 それを君に相続してもらうわけにはいかんだろうか?」
「唐突なお話ですのね。しかし私には財産をいただく権利はございません。それに
 N様もご存知のように…」
「そう、君はロボットだ。だがロボットが相続してはいけない法律はないだろう」
「いいえN様、法律の問題ではなくて、私にとってはその財産が無意味なのですわ」
「そうなのか、私の財産は君には何の価値も無いということなのか…」
「申し訳ございません、私には物の価値を認識するデータがプログラムされていないのです」
「…確かにな、金や不動産や贅沢品は人の欲望が造り上げた物。君には無用か…」
「ご好意には感謝いたします」

「Yさん、今だから言えるが、私は起業には成功したが良い家庭は築けなかった。
 家族ほったらかしで仕事に没頭し、愛想をつかした妻は一人息子を連れて家を出て行った」
「そうだったのですか」
「だが、今私はとても幸せだ。君のお陰で最高の死を迎えられそうだよ」


その時、一人の男性が病室に入ってきた。

「お、お前は…」
「父さん、久しぶりです」
「今更名乗りをあげても、お前達には財産はやらんぞ!」
「父さん、母さんはもう5年前にここで亡くなりました。最期まで父さんを愛していましたよ」
「そ…そんな人情話は通用せん!」
「僕は財産が欲しくてここに来たんじゃありません。本当のことをお話しに来たのです」
「何だと?」
「母さんは家を出たあと、大変な苦労をして僕を育ててくれ、大学にまで入れてくれました。
 お陰で僕は思う存分自分の好きなロボット工学の勉強をすることができました」
「ロボット工学…」
「そうです。実は、この施設の介護ロボットはすべて僕が開発したものなんです」
「では、このYさんも…」
「ええ、今まではロックがかかっていたのでお話できませんでした。申し訳ございません」
「父さんは先程、彼女のお陰で幸せだと言っていましたね。どうしてだか分かりますか?」
「ああ、彼女は親切でよく気が利いて私の好みも分かってくれていて、まるで…」
「まるで?」
「…かつての私の妻のように…!」
「そうです、Yには僕の覚えている限りの母さんの性格やしぐさをプログラミングしてあります。
 ただ、父さんの好みまでは僕は知りませんが」
「そ…そうだったのか」

「母さんは本当に最期まで父さんを愛していました。これを聞いてください」

息子はY看護婦の耳たぶにそっと触れた。

「お父さん、お久しぶりです。もう、お互いに昔の事になってしまいましたね。
 あの時は突然出て行ってしまってごめんなさい。ご苦労されたでしょうね。」

Y看護婦はN氏の妻の声で話し続ける。

「お父さんのお仕事の邪魔になってはいけない。私達が出て行かなければいけないって
 勝手に思い込んでしまって。でも大成功されたんですものこれで良かったんだと思います。
 私が先に逝くことになってしまったけれど、本当に愛していました、さようなら…」

その後、幾日かしてN氏は天寿を全うしこの世を去った。
病室には1通のメモ書きがサインを添えて残してあった。

『遺言 私Nの全財産を Y看護婦の開発者に贈与する』

終わり

85 :創る名無しに見る名無し:2010/10/07(木) 21:06:12 ID:5hTm5MZQ
    ショートショート  『鈍感な男』

ああ、また今日も会社に行かなければならない。もういかなくては。
テレビでは最近起こった殺人事件を頻繁にやっている。生まれたばかりの子供が
殺された事件だ。「なんとも可哀相だ。生まれたばかりで殺されるなんて。」
本当にそう思った。だが人間というものは鈍感な生き物だ。
そのときはそう思ってもテレビから離れればそんなことは忘れてしまう。
嫌なニュースを見て私はひとつ、ふたつ、せきをした。そういえば喉の調子が悪い。そりゃそうだ。
先週まで38度の猛暑日の連続、今日は20度を切っている。
夏にはクーラーでがんがんに部屋を冷やし、アイスキャンディーを食べながら
ああはやく冬になればいいのにと嘆き
冬にはこたつで温まりみかんをほおばりああ寒い、早く夏になればいいのにとわがままを言う。
ひどく鈍感な生き物なのだ人間という生き物は。
おっともうこんな時間だ。もう出なくては電車に遅れる。私は家を出た。

ちょうど途中の駅まで電車がすぎたころだった。猛烈な腹の痛さが襲ってきた。
もうこの世のものとは思えないほどの痛みだった。痛すぎる。
駄目だ、この電車は特急だからあと20分は止まらない。やばい、これはもたない。
となりのやつらがえらく幸せそうに見えた。ふざけるな。何で俺ばっかりこんな目に。
だんだん脂汗が出てきた。神様すいませんでしたもう悪いことはしません。
考えれば便所に行きたくなったら行きたい時に行って大をする。こんな当たり前のことが
とてつもない幸せだったのだ。そうだ、そうなのだ。
そのときになって苦しんでも遅いのだ。なんて私は鈍感な男だったんだ…。
神様、これからは幸せをかみ締めながら大をします。大をしたならば
必ず「ふぅー今日も大ができました。私は幸せでした」と唱えながらしますから。

結局なんとか、トイレには間に合った。

私は変なせきをして大好きなタバコを2本いつもより余計に味わって吸った。
なにやら喉がイガイガするが「ああなんて上手いんだ。何気ないことがこんなに幸せだったんだ」
そういいながら吸い終わったタバコを2本道端にポイ捨てして、歩き出した。

88 :創る名無しに見る名無し:2010/10/08(金) 09:16:51 ID:/0JhTlUO
            『美女と野獣』

暑い。しかし、暑い。外は35度を超えている。
仕事帰りに拾った財布を交番に届けて帰って来た所だった。
「普通100万も入った分厚い財布落とさないだろまったく…」
お巡りさんにはこんなの届けるなんて
あんた今時の若者にしては珍しいなと言われたが
何が珍しいのか分からなかった。

テレビをつけると、今日から始まる月9のドラマが始まっていた。
ジャニーズ事務所の売れっ子超イケ面俳優と超美人女優の恋愛ものだ。
おそらく視聴率は軒並み30%超えだろう。
しばらくドラマを見ていると耳元で夏にはおなじみの嫌な羽音が聞こえてきた。
私の血を吸おうとしている。「しょうがないなぁ… どうだ旨いか?俺の血は」
たっぷり吸わせてやり、手で叩くのは可哀相だから窓から逃がしてやった。
窓に誘導するのに10分近くかかってしまった。

汗だくになった顔を洗おうと洗面所の前に立った。
「しかし不細工だなぁ俺は。もうちょっとましな顔だったらもてたのになぁ」
その時だった。誰かに後頭部をハンマーで打ち抜かれたような衝撃とともに
私は意識を失った。数分で意識を取り戻したが、どこか悪いのだろうか。

翌日何事もなかったように会社に行くために電車に乗った。
なぜか今日は自分を見る周りの視線が多い気がする。特に女性からの。
ふと女子高生の会話が耳に飛び込んできた。
「てか見た?ゲツク。主役不細工すぎじゃない?ヒロインもやばいでしょあの顔は」
『わかるわかる。あれはおかしい。もっと美男美女使うべきよ』
この子たちは美的感覚がおかしいのか?

会社に着き、午前中の仕事を滞りなく終え昼休みに入った私の前に行列ができた。
「これ食べてください。」 『お返しはいらないです…』 
今日はバレンタインだった。だがおかしい。おかしすぎる。
私は生まれてこの方チョコレートをもらったことなんてない。
周りを見ると毎年山のようにチョコレートをもらう同期のNには誰もあげていない。
天地がひっくり返ったとしか思えない。

…そ、そうか天地がひっくり返ったのだ。
あの瞬間以来 世間の価値観がひっくり返ったのかもしれない。
つまり「イケ面は不細工に見え、美人はブスに見える。」
=俺はめちゃめちゃイケ面 ということになる。

そして美人がブスに見えるということは…誰も美人に見向きもしなくなる!

私はあこがれの超美人のMさんに告白し、成功。やがて結婚することになった。
同僚、家族口々に皆こう言った。
「こんな美人な嫁さんもらうなんてお前は幸せだな」
【絵に書いたような美男美女カップル】周りはみんなそう言った。
本当にその通りだ。本来不細工な俺がこんなに美人な奥さんを…
あれ?Mさんは新しい価値観ではブスなはずだが…まぁそんなことはどうでもいい。
やっぱり新しい価値観では私はイケ面なのだろう。
Mさんは「あなたは本当にいい男ね」と言う。

3年後のある日、洗面所に立つとまた後頭部を殴られたような衝撃とともに私は意識を失った。
それ以来あれほど人気があった私には、誰も振り向かなくなった。
イケ面イケ面ともてはやされることも全くなくなってしまった。
そしていつしか私達夫婦は【世界有数の美女と野獣カップル】と呼ばれるようになった。

一つだけ変わらないことがあった。
それはMがいまだに私を「いい男」だと言っていることだ。

             おわり。

文章書くのムズ杉ワロタ・・・

93 :創る名無しに見る名無し:2010/10/09(土) 09:59:26 ID:otgtLBRR
   『卒アルカメラマン』

夕方、中学時代からの親友Nが家に遊びに来た。
こいつとは何をするときも一緒だった。完全に腐れ縁だ。
中学を卒業してもう何年が経つだろう。二人とも年を食った。
ふと中学時代のアルバムを久しぶりに見てみようということになった。
何もかも懐かしい。一枚一枚が記憶の片隅にあった風景を呼び覚ました。
「懐かしいなぁ。しかし、卒業アルバムってのは運動会とか修学旅行とか
 イベントの写真も多いけど授業中とか休み時間とか何気ない日常を取ってるのがいいな。
 しかも取られてる側がカメラマンを意識してないからすごくいい写真が取れてる」

『いや、実際バリバリに意識してたけどなー。でみんなカメラマンの方向に目向けちゃって
 普通でいられなくなってんの。そんで見かねたカメラマンが
 あー…私はいないものと思って普通にしててね
 私目に入るとさ、いい写真とれないからさ、って』

「そういやそうだったな。おーこれも懐かしい。昨日のことのように覚えてるなぁ。
 こう考えると人生ってあっという間かもな。」

『うーん、なんだかさみしいな。死ぬ時に神様が人生の卒業アルバムみたいなの
 くれたらいいのにな。』

こんな会話を交わしているうちに私はある一つの事実に気がついた。
過去の記憶がふと思い出される時、なぜか決まって思い出されるのは毎回同じような場面が多いこと、
そしてそれはなぜこんなことを覚えているのだろうというような、取り立てて特に印象深いことも起こらない
本当に些細な日常の場面が多いことに。まるでだれかがその些細な日常の場面でシャッターを押しているかのように。

「きっと、神様が卒アルカメラマンを派遣してんじゃない?
 死ぬ時に見せるためにってさ。あーもうこんな時間だ、帰るわ」

友人はおどけて帰っていった。

外はすっかり暗くなってしまった。私は卒業アルバムを元の場所に戻し、
部屋のカーテンを勢いよく引いた。

その瞬間、カーテンを引く「シャーッ」という音と同じくらいのタイミングで
かすかに【カシャッ】という音が聞こえた気がしたのだが、まぁ、気のせいだろう。

【あー…私はいないものと思って普通にしててね
 私目に入るとさ、いい写真とれないからさ】

94 :創る名無しに見る名無し:2010/10/09(土) 22:22:08 ID:d+ojtWDQ

前スレで例の薬を書いた人です。覚えてくれてると嬉しいんだぜ!

 その部屋には、一人の男が一日中酒を飲んで過ごしていた。
 とは言っても、今日は休日ではない。男はかなり前から会社には行っていなかった。
 普通は、すぐにお金に困るはずだが、男はそうならなかった。
 彼は鞄を持っていた。それは少し大きめでの色あせた、時代を感じさせる鞄だった。

 もう一年ほど前になるだろうか。男がまだ会社にきちんと勤めていた頃。
 彼はとても真面目な人物だった。真面目に働き、誤魔化しをしない。嫌がられている仕事を進んでやる。良い人の良い所ばかりを集めたような人物だった。
 その人の良さが認められて、男は異例の昇進をした。もちろん、昇進してもきちんと働いた。
 むしろ責任のある地位ということで、仕事にかける熱心さはさらに強くなった。
 それからしばらくした頃である。男がベッドで寝ていると、夢の中で声を聞いた。
「君は真面目でしっかりした人物だ。そんな君にちょっとしたプレゼントをあげよう」
「あなたは一体……」
「うむ。名乗っても分かるまいが、強いて言えばお前たちの言うところの神だ」
「か、神様ですって」
「そうだ。そしてプレゼントというのは、この鞄だ」
「鞄ですか……」
「もちろんただの鞄ではない。なんでも取り出せる鞄だ」
「と、言うと」
「欲しいと思ったものを思い浮かべながら手を入れると、なんでも出てくるのだ。忙しいお前さんにはちょうどいいだろう」
「なんというすばらしい鞄でしょう」
「うむ。ただし一つ注意してくれよ。その鞄は……」
 その時、ベッドから転がり落ちて、男は目が覚めた。
「なんだ、夢か。しかしあんな鞄が本当にあったら便利だろうな……」
 しかし、男はそこで言葉を詰まらせた。
 部屋の中で先ほど神様が言っていたらしい鞄があったのだ。
「や、するとさっきのは本当のことだったのか」
 彼はおそるおそる鞄に手を入れた。酒を思い浮かべながら。
 最初は何もなかったはずの鞄に、手ごたえがあった。
 引き抜いてみると、まさしく酒が出てきた。しかも、思い浮べた通りの高級品だった。
 それを飲む。確かに本物だ。ということは、この鞄も本物ということになる。
 かくして、男は会社に行かなくなった。
 いつでも好きな物が好きなだけ手に入るのだ。働いてなんになる。
「まさか遊んで暮らすのがこんなにおもしろいとはなあ。今まで忙しく働いてきたのがばからしくなってきたぞ」
 最初こそ、同僚やら社長やらが男の家に訪ねてきたものの、彼が会社を辞めると言ってからは全く来なくなった。
 もちろん鞄のことは誰にも言わなかったし、誰にも見せなかった。
「そういえば神様が何か注意しようとしていたけど、なんのことだったのだろう。きっとこの鞄を自慢するなと言いたかったんだろう。誰も欲しいと言うに決まっている」
 腹が空けば鞄からあらゆる料理を取りだして食べる。暇になれば鞄はあらゆる娯楽を提供してくれた。
 まさに至れり尽くせりの生活だった。
 今ではこの部屋に来るのは、部屋代を取りに来る大家くらいのものだった。そんなときも鞄からお金を出せばいい。
 男は完全に働く気が失せていた。
 そんな生活が続いていたある日。
 ノックの音がした。今日は部屋代の日だったかなと思いながら、男は鞄からお金を取り出そうとした。
 蓄えなどあるはずがない。いつでも何でも手に入るのだから。
 しかし、紙は紙でも紙幣ではなく、ただの紙が一枚だけ出てきた。
 よく見ると、このような文章が書かれていた。
 毎度ながら、ご利用ありがとうございます。初使用から一年が経ちましたので、本日を決算日とさせていただきます。
 あなたは支出と収入のバランスが悪く、すでに貯金は底をついております。
 それでも使用されたため、多額の借金が発生しております。次回の使用は借金を片付けてから……
 そしてその下には、信じられない額の数字が書き込まれていた。
「や、この鞄はなんでも無限に出せる鞄ではなく、神様の買い物道具だったのだな」
 借金を返さないといけないからか、もはや鞄に手を入れても、何も出てこなかった。

98 :創る名無しに見る名無し:2010/10/10(日) 10:35:26 ID:+vKtWC2y
            『見えなかったもの』    

2040年、ガソリン車はすっかり影を潜め電気自動車が主流となり
テレビは全て3D、テレビゲームも3D、音楽でさえも科学的にも目の前で歌手が歌っているのと
変わらないと証明されるほどの3D音質なるプレーヤーも出回るような時代になった。

おじいさんとおばあさんは孫のN君に3Dメガネをつけるとまるで目の前に敵がいるかのような
最新のシューティングゲームソフトをプレゼントするためにN君宅へ向っていた。

「喜んでくれますかねぇ?」
「きっと喜んでくれるとも。なんたって最新のゲームじゃからのう。
 店員さんも本当に画面上の敵がこっちに向ってくるように見える3Dだからとすすめてたしのう
 まるでゲームなのに本当の人間がそこにいるみたいにみえるそうじゃよ。きっと気に入ってくれるじゃろ」
「喜んでくれるといいですねぇ。しかし、時代も進化しましたねえ…私らの時代には考えられないような
 ものばかりです」
「そうじゃな。3Dばかりで、本当にある大事なものが見えなくなるようにも思えるわい…」

無事N君宅につき、プレゼントを渡すとN君は大変嬉しがった。
「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう!!さっそくやってみるよ!
 わぁーすっげー!本当に敵がいるように見えるよ!バン!バン!
 面白い!ありがとうおじいちゃんおばあちゃん!」

「ほう、それはよかったのう。わしらは用事があるもんでこれで帰るよ
 物騒な世の中じゃからお父さんお母さんが帰るまでおうちで留守番しているんだよ」

N君はゲームに熱中していた。3Dメガネをつけて次から次へと本物に見える敵を
おもちゃのピストルでやっつけた。
ふと玄関のドアが開いた気がした。おかあさんが帰ってきたみたいだ。

「おおっ!?なんだ?いきなり強そうなやつがきたぞ。こいつが最後のボスか!?
 黒いマスクをつけて顔が分からないな。カモフラージュだな!?そうはいくか!」

 パーン! 乾いた音とともに火薬の臭いが立ち込めた。

その後おじいさんとおばあさんは100歳まで長生きしたが
死ぬ間際まであんなゲームを贈らなければと、自分達を責め続けた。

102 :創る名無しに見る名無し:2010/10/10(日) 18:20:20 ID:Dg8FyhgB
【キノイさん】

「おい!今日、探検に行かないか?」
授業が終わった途端、いきなりS君から声を掛けられた。
「面白いところがあるんだぜ!」
僕はこの小学校に転校してまだ3ヶ月。初めてできた友達がS君だ。
彼は毎日のように僕をこの町の『名所』に連れて行ってくれる。
駄菓子屋はもとより、用水路のザリガニ釣りや裏山の秘密基地まで。
都会から来た僕にはすべてが新鮮だった。
「どんなところ?」
「うーん、まだちょっとお前には無理かなー」
S君は何かにつけ大人ぶった言い回しをする。
「言っとくけど、僕のほうが誕生日が早いんだからね!」
「へへっ!お前、お化けとか大丈夫か?」
「へ…平気さ!」(平気じゃない!まったく平気じゃない!)
「ほんとかなー?」
「ああ本当さ!」(嘘ですごめんなさい)
「じゃあ俺が地図を書いてやる。今日はお前一人で行って来いよ」
「ええー?」
「怖いんだ」
「怖かないさ!」(一緒に行ってくれよー)
「決まり!」

S君は国語のノートを破って鉛筆で意気揚々と地図を描きはじめた。
「ここを曲がってこう行くと右手に石の階段がある。こいつを上ると、古い寺があるんだ。
 階段は108段、一気に上れば大したことはない」
「ちょっと疲れそうだな。もう少し体を鍛えてからの方が…」
「寺の境内に入ると、本堂がある。でもここじゃない」
S君は容赦なかった。
「本堂の裏に廻る。ここに渡り廊下があって、その下をくぐるんだ」
下手だけどやたら詳しい地図が出来上がる。
「ここに小さなお堂がある。これだ!ロウソクが並んでるからすぐ分かるぜ」
「そのお堂がこわ…面白いの?」
「そうさ、自分で確かめて来いよ。よし、こうしよう!そこでお前は『キノイさんこんにちは』って
 声を掛けて、ロウソクを1本持って帰ってくるんだ!」
「『キノイさん』?」
「ああ、みんなそう呼んでる」
「その人に『こんにちは』って言うだけ?怒らないかな」
「大丈夫さ、それと、明るいうちに行った方がいい。でないとお堂の中が真っ暗になって
 何にも見えないぞ。ロウソクを持ってくるの忘れるなよ、証拠だからな!」
S君は命令口調でそう言うと、僕に地図を押し付け、笑いながら帰っていった。


僕が家に帰ったのは3時ごろだった。しばらくの間地図とにらめっこ。どうしたものか…。
行かなきゃ弱虫決定だ。僕は二度とそうなりたくなかった…思い出したくもない。
お父さんとお母さんは、ここへ引っ越したために2時間もかけて仕事場に行っている。
またここでいじめられるようなことがあったら…。
僕は決心した。外はまだ明るい。今ならきっと大丈夫だ。
さっそくS君作の地図と、念の為懐中電灯を持ち家を出る。
隣町との境にあるお寺まで自転車を走らせる。歩いて行けば結構時間がかかる距離だ。
ようやく到着したそのお寺の階段の前で、僕はちょっと立ちすくんでしまった。
108段あると言うその階段は、上に行くほど霞んで薄暗くなっている。
あまり上を見ないように1段1段ゆっくりと上って行く。
『30…50…80…100…』あと8段のところで顔を上げると、すぐ目の前が本堂だった。
『108っ!』うっそうとした木に囲まれた境内はそんなに広くない。
S君作の地図を見返してみる。本堂の右に向かうように矢印が描いてある。
この先の渡り廊下の下をくぐるんだっけ。
渡り廊下は結構高いところにあって、しゃがまずにくぐることができた。
本堂の裏に廻るといっそう薄暗くなり、持って来た懐中電灯が役に立った。
S君の言っていた小さなお堂が見える…抑えていた恐怖心がじわじわ湧いてくる。
そろそろと近づいて行くと、お堂の前にロウソクの明かりがちらちらと揺らめいているのが見える。
こんな所へ一人で来るなんて、僕は弱虫じゃなくなったんだろうか?いや別に何も変っちゃいない。
もしかしたら今まで、あいつらの…いじめっ子達の暗示にかかっていたのかも知れない。
そう思うと、先ほど湧き出した恐怖心がすうっと引いて行く。

ついにお堂の前にやって来た。そうだ、まずは声を掛けるんだ。
「キノイさん…こんにちは」(ちょっと声が震えた)
「はい、こんにちは」
「わっ!」
まさかお堂の中から返事があると思っていなかったので、びっくりして尻餅をついてしまった。
懐中電灯もどこかへ吹っ飛んでしまった。
「キ…キノイさん?」
「まあそう呼んでくださるお方もおいでじゃのう」
話し方がやさしく、なんとなく僕のおじいちゃんを思い出した。
「ゆっくりと話をしたいところじゃがもうすぐ夕立が来るでの、今日はまっすぐ帰るがええ」
「あ…え…あの、ロウソクを一本…」
「代りにまた新しいのを持っておいでなされや」
ピカッ!近くではないが稲光が光った。キノイさんの言う通り夕立が来そうだ。
「ありがとうキノイさん」
返事も待たず走り出し、境内を抜け108段の階段を転がるように下り、元来た道を自転車で
全速力で飛ばす。雨は次第に強くなり雷も近づいて来た。
ずぶぬれになりながらもようやく家にたどり着いた途端、ガラガラピシャーン!
稲光と同時に轟音が鳴り響いた。どこかに落ちたみたいだ。
その夕立は日暮れまで止むことは無かった。


翌日、学校へ着くと…。
「おい、お前昨日だいじょうぶだったか?」
S君が駆け寄ってきて言った。
「ああ、別に怖くもなんともなかったよ!ロウソクもこの通り」
「違うよ、雷だよ!あのお寺に落ちたんだぜ!知らなかったのかよ!」
町では大騒ぎだったらしいが、新入りの我が家には連絡がなかった。
「それでキノイさんは?無事だったの?」
「ほら、これ」
S君が差し出したのは今朝の新聞記事の切り抜きだった。

『古寺の木乃伊 落雷で消失』

「ええっ!キノイさん死んじゃったの?」
「死ぬわけないじゃん、ミイラだぜ?」
「…ミイラ?」
「『木乃伊』って書いて『ミイラ』って読むんだ。『キノイさん』ってのは俺達がつけたあだ名さ」
S君はミイラになった即身仏の伝承を詳しく話してくれたが、ほとんど覚えていない。
ましてや、キノイさんとの会話など僕の口から話せる状態にはなかった。

放課後、すっかり焼け落ちてしまったあのお堂へ新しいロウソクをお供えに行った。
もちろん僕一人きりで。

終わり


108 :創る名無しに見る名無し:2010/10/11(月) 10:21:03 ID:k/h3yTWi
  『戦争のある風景』

 今は何時なのか、ここはどこなのか、そんなことは分からない。
 ただ一つ分かっていること、それは毎日が戦争であるということ。
 生きるために、戦わなければならない。戦わなければ死ぬだけだ。
 そしてこの戦争には終わりがない。もし終わりがあるとすれば、
 それは私が死ぬ時だ。

 私は何時生まれたのか記憶がない。もっとも、それは誰だって同じだろう。
 両親の顔は覚えていない。兄弟はたくさんいた。
 しかしおそらくもうみんな戦死しているだろう。

 私はこれまで無数の仲間が死んでいく様子をこの目で見てきた。
 完全に油断してやられる者、敵から長時間必死で逃げ惑った末に
 結局はやられてしまった者などどれも目を覆いたくなる光景だった。
 やられた者は皆例外なく白い布で覆われた。
 なぜなのかは分からない。敵なりの弔いなのかもしれない。

 最近はこれまでの旧式武器とともに、敵は最新式毒ガスを使ってくるようだ。
 ガスを吸ってしまうと意識が遠くなっていき、やがて死に至る。おそろしい兵器だ。
 だが旧式武器でやられるよりもこっちでやられる方が案外楽なのかもしれない。

 もうずっと何も口にしていない。動くのも辛くなってきた。
 私は意を決して敵に飛び込み、食料を盗むことにした。
 なーに、心配は要らない。慣れている。私は戦争をするために生まれてきた
 ようなものだから。幸い敵は気付いていない。私はありったけの食料を盗み
 その場で食らい尽くした。やっぱり旨い。

 これであと3日は食わなくても平気だろう。
 急いで見つからないようにその場を去ろうとした時だった。
 「パーン」という乾いた音ともに鈍い痛みが走った。
 とうとう私もやられたらしい。ついに私も死ぬのか… 戦争は終わりだ…。
 薄れ行く意識の中私にも白い布が被せられようとしている。
 視界が遮られる直前、敵の仕留めた、という優越感に浸る顔と同時に
 旧式武器についてしまった血を「汚らしい」という目でふき取る敵の顔が見えた。

 しかし、全くおかしなやつらだ…
 武器についた血は確かに私の体から吹き出たものだが、
 その血はまぎれもなくやつらのものであるというのに…。

109 :創る名無しに見る名無し:2010/10/12(火) 17:48:47 ID:GQIhhOLb
     『含み笑い』

今日は友人と飲みに行く約束をしていた。約束の6時までまだちょっと時間がある。
私は寝転がりながら暇つぶしに1歳半になる息子を横においてスポーツ紙を読んでいた。

息子は可愛い。1歳半にしては表情が豊かな気がするのはきっと親バカだろう。
最近はキャッキャッと笑うだけでなくニタニタ笑うようになってきた。そう、また今笑った。
ちょうどいい時間になり私は息子に行ってくるよと言って部屋を出た。
息子はキャッキャッと笑っている。

行きつけの店でビールを飲みながら友人と話していると息子の話になった。
「お前の息子ももうすぐ2歳か。可愛いだろう。」
「ああ、可愛いね。ずっとこれ位の歳で止まってて欲しい」
「親としては心配だよな。この子はどんな一生を送るのか」
「そうだな。タイムマシーンでもありゃ未来に行って確かめられるのにな。
 近い将来もうできたりしてな」
「タイムマシーンなんてできてるわけねーよ。
 そんなもんできてたらもうとっくに未来人がきてるだろーが」
「小学生みたいな話題だな(笑)ま、たまにはいいか。でもタイムマシーンができたら
 俺は過去に行きたいね。ただし…」
「ただし、今の記憶をそのままにして過去に戻りたい だろ(笑)?」
「そう(笑) それで競馬当てたり幼稚園の先生にどさくさにまぎれて…」

あっ…

ふと息子のさっきのニタニタした顔を思い出した。
ちょうどスポーツ紙の「競馬欄」と「ちょっとエッチな欄」の時だったような気がした…。

112 :創る名無しに見る名無し:2010/10/16(土) 12:58:03 ID:bAo2gpJ6
『出会い』

取り立てて普通の会社員についている神様Nはこちらも特に変わったところもなく
穏やかで気立てのいいOLについている神様Mとついに訪れる瞬間にむけて
ガッチリ堅い握手を交わしてほほえみながら下界の様子を見渡していた。

「いやあーM神様長かったですなぁ。あなたの会うのにかなりの年月がかかった。」
「本当ですN神様。やっと二人が会えるのですね。運命には逆らえないんですねー」

二人ともそれなりに出会いはあった。お互い数人とは付き合ったが結婚までは至らず
いい歳を迎えていた。そろそろ結婚したい。運命の相手に巡り合いたい、そう思っていた。

「本当に運命です。私たちがそういう風に二人の人生を作ってきたって言う風にもいえますが
 二人が会うのは天文学的な数字なんですから」
「そうですねぇ。何しろもし二人が人生の岐路で別の選択をしていたらこの場所で出会うことはなかった
 んですよねぇ」

時計は午後3時40分35秒を指していた。
二人の神様は息を飲むように秒針を見つめていた。あともう少し、5,4,3、2、… 

午後3時40分40秒。
二人は紆余曲折を経てついに駅前の交差点で出会った。
そして何事もなかったように別々の方角へ歩き出した。

二人の神様はせわしなくもう別々の相手と話を始めていた。
「いやーS神様 長かったですなぁ…」

114 :創る名無しに見る名無し:2010/10/16(土) 14:53:59 ID:bAo2gpJ6
   『控えめな男』

「やっぱり俺たちはお前を1番最初にすることに決めたよ。満場一致だ。
 実を言うとここに来るまで地上であれだけ人目を忍ぶように生活してたお前を
 あまり知るものはいなかったんだ。でもお前はここに来てから水を得た魚のように
 明るくなった。まるで絶望した俺たちを励ますかのように。そんなお前に俺たちは勇気付けられたんだ。
 これは俺たちの感謝の気持ちなんだ。さぁ一番に上がってくれ。上では世界中のテレビカメラがお前を
 待ってる。世界の注目の的だ。
 え?できれば真ん中あたりがいい?どうしてだ。
 そんなこと言ったら世界中に顔が映らないじゃないか」

123 :創る名無しに見る名無し:2010/10/18(月) 20:16:30 ID:ioTal7q5
『ため息』

S少年には何かあると人より深くため息をつく癖があった。
学校のテストで点数が悪いと人の何倍も落ち込み、友達関係で悩みがあると
人の何倍も深いため息をついていた。

そんなSをことごとく救ってきたのは同じクラスのT少年だった。
彼はまじめで勉強がとても良くでき、クラスの人気者だった。
Tは事あるごとにSの力になった。Sのテストの出来が悪ければ勉強を教えてやったり
Sと他の子が喧嘩したときは仲裁をし、Sのためになんでも力を尽くした。
また、その奉仕はSだけにとどまらなかった。同じクラスだけでなく、他のクラスの生徒
にさえも同じように接したのだった。
ある時SはTに尋ねてみた。
「なぁ、何でお前はそんなに皆に優しくしてくれて悩みを解決しようとしてくれるんだ?」
「そんなの簡単だよ。皆がため息つくのが見てられないだけさ。
 特にお前のため息を見ると本当に何とかしてやりたいと思うんだよ」

時が過ぎ、二人は社会人になった。
社会人にもなると悩みの種は学生時代とは比べ物にならないほどに深く、Sのため息は
以前よりもっと激しいものになっていった。
しかしそれでもTはSを助けてくれた。
借金をした時も多くのお金を貸してくれたし仕事で失敗したときも親身になって
アドバイスをくれたのだった。
また、Tは
「これを部屋に置くと心が落ち着くよ」と言ってよく観葉植物をプレゼントしてくれた。
SはTのそんな優しさが本当に大好きだった。

ある時SはTを部屋に呼んだ。また新たな悩みの種ができたらしかった。
「はぁ……」Sは深い深いため息をついた。
TはSを黙ってみていたがしばらくして何やらもごもごと呟いた。
「おんだんか」という単語しか聞き取れなかった。

「そういやぁ、お前は1年生から6年生までずーっと環境美化委員に進んで立候補してたもんなぁ…」
うっすら、本当にうっすらと記憶が蘇って来た。Sは悲しかった。

TはSのアパートを静かに後にした。
Sはもう、息を吐いてはいなかった。。

125 :創る名無しに見る名無し:2010/10/18(月) 21:20:07 ID:BXuAXYrA
一発ギャグを思いついた

「土葬」

 M県S村には未だに土葬の風習があるという。
 早速私は取材の為、そこへ行った。
 私がS村に着くと丁度土葬の真っ最中だった。
「この村ではどんな者でも土葬にするんです」
 不謹慎に思いながらも土葬の様子を撮らせていただいた。
 そしてその日の夕食に焼き魚を頂いた。
 お腹が空いていた私はあっという間にそれを平らげる。
 食べ終えた骨と皮をゴミミ箱へ捨てようとすると突然村の人に怒られた。
 そしてひったくるように魚が乗っていたお皿を奪うと外へ飛び出していった。

 なるほど、この村ではどんなモノでも土葬にするんだな。

128 :創る名無しに見る名無し:2010/10/19(火) 10:04:42 ID:UO4gcRk8
『どんぐりころころ』

 どんぐりころころどんぐりこー。
 さあ大変です。どんぐりが、お池にハマってしまいそうです。
 これを承けた報道陣が、いち早くお池の周りを取り囲んだ。今日の昼間のワイドショーは生中継。見出しは、『どんぐり、死す!? どんぐり落下の一部始終を生中継!』だ。
 真っ先にすっ飛んできた民間企業のリポーターが、どんぐりの様子を大声でハキハキと、尚且つ早口でカメラに向かって実況している。
「大変です! あのどんぐりが、この大山池に向かってこの山の斜面から転げ落ちてきています。危ない、岩にぶつかる、きゃあ! 救助隊はまだこないのでしょうか。わたくしがこうして話しております間にも、どんぐりはどんどんお池に向かって転がりつつあります」
 気がつけば、この報道を見たであろう地元住民もお池を取り囲んでどんぐりの行く末を見守っていた。
 すると、遠くから空気を切り裂くような断裂音が聞こえてきた。それが徐々に近づいてきて、真上で停止した。
 それを必死に伝えるリポーター。
「今救助隊のヘリコプターが到着しました! どうやら、斜面からの救助は不可能と見込み、上空からの救助となる見込みです!」
 この事態を深刻そうにとらえる報道陣を見て、ある老人が、冷静な口調で呟いた。
「大袈裟じゃのお。この五十年間、事件や事故が皆無だからと言ってどんぐりごときにこれはやりすぎじゃ……平和じゃのお」

129 :創る名無しに見る名無し:2010/10/19(火) 17:14:37 ID:n1l3XjMC
【釣り】

「どうですか、釣れますか?」
「いえ、今糸をたらしたばかりなんですよ」
「本命は?」
「あの底の方に群れてるのが見えますでしょ」
「ああ…あれですか」

「おっ、引いてますよ!」
「…」
「合わせないんですか」
「ええ、向こう合わせで」
「引きますねぇ」
「群れが一気に寄ってきたみたいで…」
「あっ!」
「…」
「切れてしまいましたね、もう少し太い糸になさってはいかがですか?」
「これが精一杯でしてね…さてと」
「え?もうお引き上げですか」
「ええ、これは1回限りなんですよ」

そう仰るとお釈迦様はくるくると蜘蛛の糸をお仕舞いになったのでした。

終わり

133 :創る名無しに見る名無し:2010/10/20(水) 16:44:52 ID:+/06QtUI
『知ってか知らずか』

 薄明りの中、プラネット教室という授業の中で、地球という惑星に関する授業が行われていた。
「えー、この惑星は近年、我々モリオン人によって発見された美しい惑星です。見てごらんなさい、ここがアメリカという大陸です。大きいでしょう」
 モリオン人教師が、宙に浮いた地球の中のアメリカ合衆国に指を触れて言う。
 それを見ていた生徒たちは、つまらなさそうに大あくびをかいた。
「先生、そんな小さな球を見たって、何もおもしろくありません」
「そう言わずによく見てごらんなさい。この辺りには、この惑星の人びとが造りあげた素晴らしい彫刻があるのですよ。これを見れば、感動するに違いありません」
 モリオン人教師はビサの斜塔のある辺りを指で触れ、もう片方の手に持っていたホログラム映像機で、ビサの斜塔の立体資料映像を映し出した。
「どうですか、この傾き具合。これぞまさに芸術だとは思いませんか。そして、このギリシャという大陸のコロシアムは大変素晴らしい闘技の歴史を持っているそうです。
他にも、建築物がたくさん密集している地帯があるんですよ。例えばこのホンコンという都市には、アメリカ大陸のラスベガスという都市並みに細長い建築物が密集していて――」
 説明をしながら、モリオン人教師は次々と各地を触れていく。
 しかし、モリオン人教師の独りよがりな授業に疲れた生徒たちは、既に別の星に興味の対象を移していた。
「あの星、ドッジボールに使えそうだな……」

 一方その頃、地球では、世界規模での非常事態宣言が発令されていた。各国の放送局では全ての番組が臨時ニュースに差し替えられ、地球の人々は某国が開発した新兵器だの、宇宙人の侵略だのと騒ぎ、慌てふためいていた。そんな中、キャスターは冷静に事実を伝えていく。
「大変です。世界各地の都市が謎の巨大物体により一瞬にして破壊され、多くの人々の命が今もなお失われ続けています。たった今入ってきた情報によりますと、つい五分ほど前に日本の本州が陥没したようで……」



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