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正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第6話 B 2/3


―――…

 「おっす!約束通りきたぜぇー!」
 「は…?」
 次の日。タケゾーという少年はカナミという昨日の少女を引き連れ山へとやって来た。
 「あ…タケゾー!カナミちゃん!」
 案の定嬉しそうな顔をする焔。こっちは全然面白くない。本当にやってくるだなんて…
 「よっし!じゃあまずはーっと…」
 「あ、あたし家からお菓子持ってきたんだ!二人とも食べる?」
 カナミはそう言って手提げ鞄から洋菓子の入った4~5cm程の袋を幾つか勝手に私の掌に置いていく。
 「あー!、ありがとーカナミちゃん!」
 焔は嬉しそうに受け取っていた。なんで…そんなに簡単に心が開けてしまうのか…これだって、何か怪しいものが意
図的に混入されているかもしれないというのに。
 「おいしー!ほら、火燐も!」
 「むぐ!?」
 ムリヤリチョコレイトでコーティングされた洋菓子を口内に突っ込まれる。上品な舌触り。仄かに広がる甘さ。カカオの
風味が口の中に広がり、空気と混ざり、洋酒の後味のみが残る。その余韻がまたたまらない。
 「…火燐、おいしいんだ」
 焔はニヤニヤと私の顔を覗いてくる。
 「…ッッ!!し、知らん!!」
 …食べ物に罪はないからな。うん。

 それからというもの…
 「今日も来たぜー」
 彼らは毎日のように…
 「ひみーつきちを、つくるぞぉー!!」
 私達に会いに来た。
 「こににちは、ほむっち、火燐!」
 いつしか私は…
 「…また懲りずに来たのか」
 それを拒まなくなっていった。

 「何故…お前達は、私達と仲良くするんだ?」
 ある日、私はタケゾーにそんな事を聞いた気がする。
 「何いってんだよぉ。お前らが気に入ったから…"一緒に笑い合いたい"って思ったからに決まってんだろ」
 タケゾーは特に何も考えていないというような表情で答える。
 「私達は…異形だぞ…?」
 「だからなんだよ。そんなのかんけーねーじゃん!異形だ何だって、そういうの…どうでもいいじゃん。俺もお前も、同
じ大地に生きているん…だろ?これは焔の台詞だけどさ…。つうか、俺もお前も笑い合いたいと思ってる、仲良くした
いと思ってる。なら何も問題ねーじゃん。それが理由じゃ、だめなの?」
 「…!」
 それは…今までの私の、バカな考えを正してくれる…バカなりの真剣な言葉だった。
 私の殻は…彼らの前では、無意味だったのだ。カナミもタケゾーも人間だ。それがどうした。悪者は人間だろうが異形だろうが悪者。逆もしかりだ。そんな簡単なことに、私は今まで頑固に滅茶苦茶な持論を妄信してて…気がつけなかったんだ。

 彼らとなら、約束の明日を迎えることができるかもしれない。そう…思ったんだ…

 そんな日々が続き…気がつけば数年の歳月が経っていた。

―数年後・夏至―
 「今日はよ、皆で街に行こうと思う」
 この日も私と焔は、タケゾー達に付き合っていた。もう見慣れた光景だ。
 タケゾーは街に行くだなんて言っていたが、流石にそれはまずいんじゃないかと思ったが、カナミにも押し切られてし
まって…結局私達は街へといくことになった。
 そうして、街中へと連れられた私達。角はカナミの帽子で隠すことにしたけど、尻尾は腰に巻いて上から服を被せて
いるだけだ。これではまるで私が肥満児のようだ…納得いかない。
 私達は服屋へと行くことになった。なんでも服を買ってもらえるとのことらしい。この服以外の持ち合わせはないから
助かるといえば助かるが…なんか裏がありそうで怖い。

―――…
 「に…似合う…かな…?」
 服屋へと来るやいなや、カナミはすごい勢いで試着室に焔を引っ張っていった。しばらくして出てきたのは…見違え
るような美しさに同姓である自分もドキドキしてしまうほどの色気を纏った焔だった。
 「ぐ…グレイトォ…!!」 
 「そんなに恥ずかしがる事無い。焔…すごい綺麗」
 口々に感想を述べる。私はお世辞なしに焔は可愛いと思った。こんな焔の姿を見ることができたのなら、案外街に
きても良かったなと…そう思えた。
 「んじゃー次、火燐いってみる?」
 …その言葉を聞くまでは…。

……………………

 「うう…お嫁に行けない…」
 あの後、ムリヤリ衣服を剥かれ、私はあられもない姿を披露してしまった。その時のことは…正直語りたくはない。
 一通り試着を済ませた私達は、会計へと足を運ぶのだが…事件は、そこで起きた。
 「おかいけーおねげーしますー」
 「はいはい、これ全部でいいんだね」
 「…ん、そっちの子は見ない子だねぇ…一体…!?」

 「い、異形よぉぉぉぉぉぉん!!だれかぁぁぁぁぁ!!」

……………………

 「ごめんね…ほんとに…ごめんね…」
 試着室に帽子を忘れて、頭の角を見られてしまった焔。当然、自分が異形であることはバレてしまい…街中には
居られなくなった。、逃げきれなかった時のことを考えぞっとする。ともあれ、無事ここまで逃げ切れてよかった。
 「服…残念だったね…はぁ…」
 カナミは、深い溜息をついて言った。よっぽど服を買えなかったことが残念なのだろう。
 でも私は、皆が無事なだけで…それだけでよかったと思えた。しかしこれで一つ、わかった事がある。
 「…やっぱり、無理だったんだ。私達と人間はわかりあえない」
 人間に未だに残る、異形拒絶。この街は以前、異形に襲われたことがあった。異形に対する目も厳しいだろう。
タケゾーもカナミも、私みたいな異形と仲良くしていたら…いずれ迫害を受けるかもしれない。そうなるくらいなら…
 「火燐!!なんであなたはそうやってすぐに見限るようなことを言うの!」
 怒鳴る焔。…怒った顔。久々に見た気がする。
 「だってそうじゃないか!あの街の連中の反応!あれは完全な拒絶だ!!私達はここで誰にも会わずに
暮らしていた方が幸せなんだッ!」
 そう…これが、私達にとっても、タケゾー達にとっても、最善の選択なんだ…少なくとも、私はそう思っていた…
 「おい…それ、まじで言ってんのかよぉ…」
 「ああ、マジだよ」
 「ホントかよ…お前は、ホントにそう思ってんのかよ。今まで俺達といて楽しくなかったか?あの笑顔は嘘っ
ぱちか?ちげーだろぉ?俺達は少なくとも…お前らと会えて…よかったと…うぐ…ひっく…」
 そう言ったタケゾーは、もう酷いくらいにグシャグシャな顔をして涙を流していた。
 「わ、わたしだって…お前達とあえて…ううううう……」
 私の顔も、ぐしゃぐしゃになっていただろう。
 今まで表に出なかった感情が、一気に吹き出した瞬間だった。ホントは一緒に居たい。ホントはずっと友達で居たい。でも…それを世界は許しはしないんだ。
 「そう…こんなにみんな大好きなのに…無理に自分から離れようとする必要なんて…無いんだから…」
 そっと、焔は私達を抱き寄せる。私は…ただ、焔の胸の中で泣いた…
 (…お姉ちゃん…)
―――…

 かくして、私達の絆は更に深まった。だが…それに伴い、問題も出てきた。
 「いやー、アンタたちがこの山の異形かい?」
 「…何なんですかあなた達は…」
 ある日突然山へと訪れた黒服の大男。
 「いやね、あっしらは上のモンに言われて遣わされてきたモンですわ。この山に住むアンタたちに、ちょっと聞いてもらいたいことがあんだわー」
 「聞いてもらいたいこと…?なんですか?」
 焔は、何か穏やかではない事態を察し、深刻な表情で黒服の男の話を聞く。
 「いやね、近々…この山、開発計画のために、一度更地にするんですわ」
 「なん…だって…?」

 この山は、ここいらの地域の龍脈を司る。その山を荒らせばどうなるか…私は知っていた。
 「ふざけるな!何が開発計画だ!この山を人の手で汚すということがどういう事か分かっているのか!?」
 思わず、怒鳴ってしまった私だったが、こんな馬鹿げた話、怒って当然なのだ。龍脈が犯されればこの地域は厄災
に見舞われる事はまず間違いない。そうなった時、タケゾー達は…
 「いやねぇ、こっちもお上の命令できてんのよ~…ぶっちゃけるとねぇ、あんたがたにここから出て行って欲しいんですわ」
 「何だと!?」
 「いやあ、これ、"警告"なワケよ。立ち退かなければ…力づくでってんだ。あっしはね、アンタらの身を案じて言って
やってんのよ?わかる?命惜しけりゃ、どっか行けってことだよ」
 「な…」
 それは事実上の脅しであった。そして私達はそれに立ち向かう術など持ち合わせていなかった。

―――…

 「横暴だ!それは許せないなぁ」
 その後、私は開発計画の事をタケゾー達に話した。今頼れる人間なんて…彼ら以外ない。
 「でもタケゾー…大人は子供の言うことなんて聞かないよ…?」
 カナミの言うとおり、今の街の人間は子供の話など聞かない。異形ならばなおさらだ。
 「じゃあ…こっちも力づくで言い聞かせればいい…」
 その日から、私達の密かな抵抗劇は始まった。


 「…準備は良いか?」
 「…うん」
 夜。顔を確認できない程度の暗闇に紛れ、警官隊の人間を待つ私、タケゾー、カナミの三人。焔は置いてきた…こんな事、焔は許さないと思うから。
 最近夜な夜な山中に現れるようになった警備隊の人間。ここはもう自分達の所有地だと言わんばかりに行脚するそ
の様を見ていると、なんだか自分の家を土足で入られているような感覚に陥ってイライラした。
 「ふんふんふーん」
 見回りの人間が現れる。今宵のターゲットはアイツだ。
 「オラァ!!」
 「!?」
 闇に乗じたタケゾーの足払い。見回りの人間は為す術も無く地面に倒れ込む。倒れた先には強力な接着剤をたっぷ
りと塗った木板が一つ。思惑通り男の顔は木板に豪快に突っ込む訳だ。
 「な、なんだぁ!?み、見えない!前が見えない…!」
 『この森を荒らすものよ…!』
 ここで私は、少し声色を変えた低い声で男を驚かしてみた。
 「ヒィ!?」
 『貴様等がこの森に足を踏み入れれば、必ずや神罰が食らう…死にたくなくば退く良いッ!!』
 「ひえええええ!!すいませんでしたぁぁぁぁあ!!」
 男は木板を顔面にくっつけたまま、脱兎の如く街の方へ逃げ帰って行く。その間抜けな格好と言ったら…
 「ぷぷぷ…」
 「あっはっは!!」
 「くく…おっかしー!」
 おかしくておかしくて、私達三人は腹を抱えて笑った。
 そして…その後も悪戯は続いた。

 「ぎゃあああああああ!!」
 『森を荒らすものよ…』
 何も愉しいからとか、そんな無意味にこんな事をしているんじゃない。
 「お。おたすけぇぇぇぇ!!」
 『この森に足を踏み入れる事なかれ…』
 こうやって脅しをかけることで、ささやかな抵抗を試みたんだ。
 「ひいいいいいいい!!」
 『さもなくば…神罰が下るであろう…!!』
 すると、山に足を踏み入れる人間は徐々に減っていった。
 「ふん!どんなもんよ!」
 「タケゾーすっごい!!」
 でもそれは…大人を本気にさせてしまう行為に過ぎなかった。火に油を注いでいることに…私達は気がつかない。



 「近々、自治体の奴等が計画を本格的に実行に移すらしい…」


 タケゾーの口から出た、ただでは済まない話。事態は自分達が考えているより…深刻だった。
 「近々って、いつぐらい?」
 「少なくとも、一ヶ月以内…それだけじゃない、計画実行の際、山の異形の討伐命令が出されて…つまり、火燐…お
前達の身が本格的に危ないってことだよ!」
 事がわかるにつれ、徐々に現実味を増していく計画の全貌。危機感だけが募る一方、私はある決断をした。
 もう二度とあの夜のような事を起こしてはならない。母の悲劇を…繰り返してはならないから。
 「この山は、おれたちの街を守ってくれてんだろぉ?だったら、絶対にそんなことさせちゃならねぇーよ!!」
 「そうだ…そんなこと……させてはならない…!!」

――悪鬼、討つべし…!!

  •   ・  ・  ・ ・ ・・・・・・………………――

 (ここからは、早かったな。時が流れるのが。あっという間に今日と言う日が来てしまった)
 自治体の最高責任者である森喜久雄に殺害予告の手紙を送りつけ、奴が怯めばそれでいい。尚も計画を中止しな
いと言うのであれば殺すだけ。母は言っていた。龍神は人々を守るものだと。…山が土人に犯されれば街も人々も
とんでもないことになる。もちろん…タケゾー達も。そしてなにより黙っていたら…焔の身だって。
 迷いは無かった。迷う理由がなかったから。これが正しい事だと信じていたから。
 …なのに…なんだ、これは。なんなんだこの状況は。タケゾー、正しい事をすれば、それは必ず報われるんじゃな
かったのか?一体どれだけの者が死んだ?一体どれだけの者が涙を呑んだのか?
 …これは、本当に正しいことなのか?…いや、やめようこんな事を考えるのは。考えれば考えるほど、自分の言葉に
自身が持てなくなってくる。ついてきてくれた他の連中に申し訳が立たない。
 …ふふ、今の自分が自分で信じられないよ。昨日までは皆で笑い合っていたのに、今じゃ血まみれの戦場にいる。

 …お前もそうだった筈だろう?…トエル…

――……………………・・・・・・・ ・ ・ ・  ・

―作戦実行二日前―

 「ふえー」
 トエル…この日、街中で警備隊に絡まれていた私達を助けてくれた幼女だ。背は私と同じくらいで、随分幼い。そん
な子供に大人数人を意図も簡単に捕縛してしまう力があるのはかなーり怪しく思ったが、何にせよこんな私達を助け
てくれた奴だ。悪い人間ではないのだろう。お礼にこうして、我らが秘密基地にまで招待してやったのだが。
 私は…このトエルという存在に何か引っかかるものを感じていた。それが何かは分からない。正体不明のもやもや
が、私の心の臓の半分を占拠する。
 「どうしたの?火燐。そんな怖い顔して」
 焔は仏頂面の私に気がついたようで、何時にも増して大人しい私に気をやっていた。私は焔を心配させないように
「なんでもないよ」と答える。どうも私は余所者が苦手なようだ。無意識に遠ざけてしまうのはかつて、母を殺された
ショックで人間を拒絶していたあの頃の名残とでも言おうか。
 今はちゃんと、いい人間も悪い人間も居るというのが、分かっているつもりなんだが。
 「ふえ!ホモからにげきれたらごまんえんおにごっこする?」
 不意に、少女、トエルに話しかけられた。先程から彼女に対して素っ気ない態度を取っていた私が、話しかけられる
とは思っていなかったものだから。私は内なる動揺を押さえて応える。
 「いや、私は遠慮しておく」
 するとトエルは「ふえぇ…」なんて言って、それ以上何も言わずタケゾー達と鬼ごっこをはじめた。あれほど絡みづらそ
うなオーラを纏っていた私に話しかけるなんて、このトエルという奴も中々お人好しなのかもしれない。悪い気はしなな。
 そうして、タケゾー達が戯れる様子を見ていたのだが…やはり何か、違和を感じる。皆が笑顔のこの状況で…目に
見えずとも何かがおかしい事だけは確かだった。ただ、タケゾー達があんまりにも楽しそうに笑うものだから、そんな事
は途中からどうでも良くなったが。
 時間も忘れ、ひたすらに遊びまわった。気がつけば自分もその輪に組み込まれてて、皆が皆、汚れだらけになって
遊んだ。擦り傷ができようが、みっともない格好になろうが、今だけはそんな事も気にせずに遊んでいられる。
 明日からはまた、厳しい現実が待っている。この時間は、私の夢みたいなもんだ。…と、勝手に私自身は思っていた。
 夢…そうか、これが母の言っていた、人と笑い合える今日なんだ。これが、母が夢に見ていた光景なんだ。
 こんなにも素晴らしいものだったのか。ならばなおさら、この時間を、場所を!無くすわけには…いかない!



――約束の明日を…守るためにも!!


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