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NEMESIS 第5話 告死天使 1/2


第5話 告死天使

残る五人の告死天使たちの元へと向かう車の中。その空気は重いものに包まれていた。5人に対して疑惑を持ち続ける神谷。
助手席に腰かけ、その様子をうかがうステファン。犯人かも知れない人物に会いに行くという緊張感を抱き、すっかり無口になってしまったヒカリ。
アリーヤの自信満々のセリフとは裏腹に一抹の不安を抱くクラウス。なにも話題もなくただ車窓の外を眺め続けるセフィリア。
そして、そうしているうちに車はスラム街のうちのある場所へと止まっていた。助手席の窓を開き、ステファンがその建物の看板を見やる。
どうやらライブハウスのようだった。ここに一人目がいるのだろうか。

「一人目はセオドールだね。彼は確かここでミュージシャンをやっているんだったね」

クラウスが語る。ベルクトとアリーヤがその言葉にただ頷いたのだが、ライブハウスのドアには準備中の札がかかっていた。
おそらくはリハーサルかないしは清掃中であろう。しかし神谷はその札を完全無視し、ドアノブに手をかける。鍵はかかっていなかった。
神谷を先頭として7人はライブハウスの中になだれ込む。ライブ中は大勢の観客の歓声とスポットライトなどの照明、そして何より
ステージの上で奏でられるミュージシャンたちの演奏に大いに盛り上がる会場も今は無人で静まり返っている。
どうやら清掃中ではないようだ。明りはついているから誰かがいるはずなのだが30坪ほどのライブ会場には人の影が7人を除いて一人も見受けられない。
ただ、ステージ上にはギターやドラム、マイクと言った楽器類がセッティングされいつでも演奏が始められる環境が整っていた。

「おーい、誰かいないか!」

神谷が大声で叫ぶ。広い会場に彼の声がこだまし、そしてまた静寂が訪れる。だが、10秒ほどで彼らの真横の『関係者以外立ち入り禁止』
という張り紙がなされたドアが開き、一人の青年が現れた。

「誰だい?表に準備中の札がかかってたと思うんだけど………ってクラウスとベルクトと…それにアリーヤ!久しぶりじゃん!どうしたのよ?」
「やあセオドール。久しぶりだね。実は…」

7人の前の金髪ロングの青年、彼の名はセオドール。歳は21。このスラムの大人気ロックバンド『ブルー・スカイハイ』のメインボーカルである。
お金のないスラムの住民の数少ない娯楽として1週間に一度のペースで彼らはここでライブを無料で開催するのだ。
なぜ無料で維持できるのかというと、様々な諸経費をCIケールズ社が負担しているからである。
積もる話は後ということで、クラウスが彼に事情を説明する。そして、事件当時どこで何をしていたかを問いただした。

「あー…その時間は確かまさにこのライブ会場でライブの真っ最中だった。証明するものはマネージャーが撮ったビデオがあるけど、再生してみる?」
「お願いできるかな?」
「あいよ、ちょっち待っててな」

といってセオドールは足早に戻って行った。3分もたたないうちに彼は片手にビデオカメラを持ち、戻ってきた。
そのカメラを操作して再生モードにし、テープを再生する。ビデオカメラに取り付けられている液晶画面を覗き込む7人。
その映像には、ブルー・スカイハイのライブの様子が鮮明に記録されていた。右下に表示されている記録日時を見てみると、
セオドールの言葉通り確かに事件が起きた時間帯と合致する。これは文句なしの完全な現場不在証明であった。

「ありがとうセオドール。君のアリバイは完璧だ。あ、紹介が遅れたけど君にとって初対面の人たちをここで紹介するよ」

クラウスは告死天使以外の4人をセオドールに紹介し、セオドールは4人と握手を交わした。セフィリアの時だけやけに長かったが
それはきっと気のせいだろうということで解決した。

「それにしてもジョセフさんが殺されるなんてな…意趣返ししてえってところだな。俺も手伝うよ」

セオドールからの突然の申し出に顔を見合わせる7人。しかし考えてみれば彼もまた恩人を殺された被害者なのである。

「そう言ってくれると助かるよ。それじゃあそうだね…これからの計画をみんなで練りたいから…アスナのところに集合しよう」

それに頷き、セオドールはまた後で、とライブハウスを後にする7人を見送った。再び車に乗り込み、次の告死天使の元へ向かう。

「軽めの男だがいい奴じゃないか。たまにはライブも見に行ってやったらどうだ?」
「そうしたいんですが生憎遠いんですよね…」

さて、次は誰のところに行くか?この場所はスラムでも外れのほうに位置している。スラムの外に出ようと思えば簡単に出られるのである。
だが、ここの住民はよほどのことがない限りは外に出ようとはしない。スラムの人間は総じて身なりが水簿らしい。
そのため、その格好で都市部などをぶらつこうものなら、街ゆく人々から蔑みの目で見られることになるのだ。
それに反抗して暴力に打って出ようものならたちまち自警団のお出ましである。それゆえ、外に出てもいいことなどなにもないということで
人々はスラムというゴミ溜めの中で暮らしているのだ。もっともスラムの中でもいいことなど何もないのだが。
と、ここで自警団が話題に出たところで何かを思い出したようにアリーヤが口を開いた。


「フィオのところへ行ってみてはどうだ?自警団第一課長である彼女ならば今回の事件についても何か掴んでいるに違いあるまい」

フィオとは、自警団総本部第一課課長・フィオラートのことであり、歳はなんと17歳で告死天使最年少でありながら
その優秀な頭脳と正義感と行動力から第一課の中でもメキメキと頭角を現し、自警団長・アンドリュー・ヒースクリフの推薦の元
第一課長の座に就任したのである。一方で告死天使の中でもその愛らしい顔や性格から『フィオ』という愛称で呼ばれるようになったのだ。
その彼女の元へ行き、今回の事件で自警団の捜査で掴んだ情報を提供してもらおうという魂胆だ。
さて、その自警団総本部だが、この閉鎖都市の中心部・つまり摩天楼に位置している。といっても貴族たちが住まう超高層ビルではなく、
一見するとそれが総本部だとはとても思えないわずか3階建てのぼろぼろのビルである。塗装は剥がれおち、ところどころ内部の鉄骨までがその顔を
のぞかせている始末だ。しかし、建物はぼろぼろでも自警団員たちはこの閉鎖都市の平和と治安を維持するために日夜戦っているのだ。
さて、積もる話で時間も潰れ神谷のバンは自警団総本部前の駐車場に止まっていた。5台ほどのパトカーのほかに、
来客用に設けられた駐車スペースに車を止め、7人はそのぼろぼろの建物の中へはいってゆく。内装がぼろぼろであれば中身も…と思ったが
見事なまでに反比例しており、白を基調とした壁紙に白螢色の蛍光灯、さらにところどころに飾られている観葉植物とその内装はさながら病院のようですらあった。
入口をはいってすぐのところにある受付の係員に神谷が要件を切り出す。

「先日殺害されたジョセフ氏のことで話がある。第一課長のフィオラートを頼む」

突然現れた謎の男に係員の女性は訝しげな表情を向けるが、ため息をひとつついたのち電話をかける。

「第一課ですか?課長にお客様がお見えです。人数は7人。先日のジョセフ氏の事件についてお話があるそうです」

そして受話器を置き、7人の背後に設置されているソファを案内し、お掛けになってお待ち下さいとだけ言うとまた自分の業務に戻るのだった。
係員の愛想の悪さにむっとする神谷だったがここは自警団総本部であり、コンビニでもなければスーパーでもない。
係員がやってきた人間に対して愛想よく応対しなければならない理由は存在しないのだ。不愉快な思いを胸に抑えて神谷はソファに腰掛ける。
傍らには自販機が設置されていたがそのラインナップに神谷の食指を動かすものはなかった。
そして5分ほど待っただろうか。ベンチから見える各課のオフィスへつながる廊下へ伸びる階段を下りてきたのは…
身長150cmほどの緑髪の少女だった。階段を降りた後きょろきょろとあたりを見渡し、神谷たちの姿を確認するとこちらへ向かってきた。

「ボクに用事っていうから誰かと思えばクラウス君とベルクト君、それにアリーヤちゃんだったんだね。久しぶり!」
「確かに久しいが…8歳も年上の相手に『ちゃん』はどうかと思うのだが。まあ、それも告死天使の好として目をつぶろう」

先ほどの係員とは正反対に満面の笑顔で7人を出迎えたこの少女こそ、自警団総本部第一課長・フィオラート、通称フィオである。
緑かかったショートカット。群青色の瞳、愛らしいその顔だちからおよそ警察関係者だとは思えないが、2年前。つまり彼女が15歳のときには
もう自警団に入団していたのだ。当初はスラム出身ということで周りの人間から散々疎まれたフィオだったが、
それを何ら気にかけることもなくただマイペースに日々の仕事をこなし、さらに告死天使の能力を最大限に活用して
日々起こる事件を解決に導いてゆくうちに次第に周囲も彼女を見る目が変わっていった。そして2年たった今では彼女をスラム出身者などと見下す人間は自警団にただ一人も存在しなくなっていた告死天使一番の出世頭である。
ただ、少女であるのにも関わらず自分のことを『ボク』と呼称するなど少々変わった一面も持ち合わせているのだが。

「実はフィオ。そこの係員のお姉さんから聞いたとは思うが俺たちは今先日殺害されたジョセフ氏の事件についての情報を集めていてな。
 何か捜査で掴んでいることがあれば俺たちに提供してもらいたいんだ。もちろんタダでとは言わない。俺たちが掴んだ手掛かりとトレードってことでどうだ?」

ベルクトの言葉にフィオは5秒ほど顎に手を当てて考え込むが、やがてニコっと笑ってベルクトに切り返した。

「うん、いいよ。それに自警団の立場としても現場にいた二人の証言を聞きたいところだったし。手掛かりはその証言と交換ってところだね」
「よし、交渉成立。ああ、本題の前に初対面が4人いるだろう。紹介しておく。まずこのブロンド髪の別嬪さんがセフィリアさん。クラウスの妹君だ。
続いてこの坊主頭のナイスガイが神谷さん。あのスラムで探偵をやってる。で、この金髪ボーイがステファン君。神谷さんの助手だ。
そして最後に、ヒカリお嬢様。ジョセフ氏の実の娘で、ケビン爺様の孫に当たる方だ」

彼に紹介された4人と握手を交わすフィオ。ステファンとは同い年であり、彼と手を交わしたときはニコっと彼に笑いかけた。
挨拶も終わり、フィオは7人をある部屋へと案内する。『取調室』と記されたその部屋にはこの都市でもよく放送されている刑事ドラマに
登場するようなものとよく似ていた。殺風景な部屋の中心に置かれた2つの机と椅子。鉄格子が填められた窓。
だが、ただ一つ違う点があった。ドアを背にして部屋の両端になぜか三人掛けほどのソファが設置してある。
フィオによると、取り調べの最中たまに暴れ出す被疑者がいて、それを拘束するために常に6人の刑事が立ち会うことになっているのだとか。
7人の相談の結果面と向かってフィオと話すのは神谷ということになり、クラウス、アリーヤ、ベルクトら告死天使のメンバーが右側、
残りの3人が左側に座ることになった。そして、いよいよ話が始まった。

「さて、まずは俺たちがこれまで集めた情報を提示しよう。あんたはそれ以外の手掛かりを俺たちに提供してくれればいい。被ってる情報をもらっても意味がないからな」

神谷の語る情報は、ベルクトが語った情報と、さらに犯行に使われた凶器が338ラプアマグナムであること。そして神谷がもっとも知りたい情報、
犯人は告死天使のメンバーである可能性をフィオに告げた。フィオはそれを即座に否定し、誰に聞かれるわけでもなく事件当時のアリバイを説明する。

「事件の時ボクは署長さんや各課の課長さんたちと会議だったよ。せっかくだからそれを証明してくれる人を呼んであるんだ。入ってきてくれるかな?」

その声とともに取調室に入ってきた2人の若者。いかにも硬そうな身なりの少女とそれとは対照的ないかにも怠惰そうな青年。
アシュリー・ヒースクリフとハーヴィーといい、フィオや彼女の父親で自警団長アンドリュー・ヒースクリフ、各課の課長らとともに会議に出席していたメンバーのうちの2人であった。

「CIケールズのCEO、ジョセフ・J・ケールズ氏が殺害された事件。君たち2人も知ってるね?
その事件が起きた時、ボクたちは会議だったっていうことを証明してもらいたいんだ」

フィオのその言葉に頷き、アシュリーはあるものを机の上に並べる、会議の際書記が記入する議事録である。
会議が終わるとこれをコピーし各課に配布し、課長がそれを保管するのだ。当然、フィオもこれを持っているのだからなにも2人を呼びださずとも
よかったのではないかと神谷が言うが、自分の分を見せると改ざんをしているのではないかと突っ込まれたときに否定できない、そこで
『たまたま』暇だった第4課課長、アシュリーとその部下であるハーヴィーを呼びだしたのである。

神谷ら7人は机の上に広げられた議事録に目を通す。みると、確かに犯行が行われた時間フィオはこの自警団総本部にて会議中であった。
その議事録にも改ざんされた様子もなくまた、アシュリーに改ざんする理由もない。

「付け加えていえばフィオラート課長は会議中2時間の間一度も会議を抜けておりません。またたとえ抜け出したとしても
 会議終了までに現場を狙撃できる場所に行きそこから戻ってくるなど不可能です。さらに武器庫から狙撃銃が無断で持ち出された形跡も発見されませんでした」

アシュリーが補足説明をしてくれる。つまり、セオドールに引き続きフィオにも完璧な現場不在証明、どころかそもそも彼女は犯行が不可能という状況だったのである。

「ありがとうフィオ。君のアリバイも完璧だ。さて、次は君の番だよ。捜査で得られた情報を提供してくれないかな?」

クラウスが礼と同時に情報を催促する。そうだったねと笑い、フィオはこれまで捜査の結果を話す。
フィオによるとすでに犯人および犯行グループの目星は付いているのだとか。おそらくは「CWジェネシス社」の仕業と見ている。
この会社はCIケールズ社と様々な面でかちあい、対立していたのだ。そして、いよいよジョセフ氏が邪魔になってきたということで、
今回の事件を起こしたのだろうと第一課は見ている。さらに、2年前の告死天使による貴族たちの大粛清の際、当時の会長もその犠牲者のうちの一人だったのだ。
告死天使の素性はスラムの住民以外はほとんど知られていないので、その意趣返しの矛先を告死天使に肩入れしたジョセフ氏に向けたという訳でもある。
さらにこのCWジェネシスはマフィアとの癒着も噂されていて、あまりクリーンなイメージの会社ではなかった。。
しかも、スラム方面に駐屯する自警団からの報告によれば、最近街の外から新手のマフィアが頻繁に街に出入りするようになったそうだ。
おそらくは、スラムに本社を置くCIケールズ社の事業の妨害、マフィアの勢力拡大の面で利害が一致したのだろう。
このマフィアの正体、およびマフィアと企業との癒着関係の証拠をつかむことができればそれをもとに関係者の一斉摘発が行えるのだが、
それは自警団の仕事でありまた、これからの捜査次第だった。と、ここでフィオが第4課の2人組にあることを告げる。

「アシュリー・ヒースクリフ、ならびにハーヴィー捜査官。私、フィオラート・S・レストレンジは第一課課長として2人の捜査協力を要請します」

この言葉にアシュリーの顔は一気に晴れやかになる。ジョセフ氏の事件に捜査員として介入する大義名分が手に入ったのだ。
彼女の父、アンドリュー団長は第一課が担当するからお前の出る幕はないと言っていたが今回その第一課の課長から直々の要請があったとなれば
さすがの父親も認めざるを得ないであろう。このことを報告するため、アシュリーは意気揚々と団長室へと向かっていき、
その後ものすごくだるそうな顔をしてハーヴィーが出て行った。苦笑いを浮かべ、二人を見送るフィオ。そしてまた話を元に戻す。

「ボクがみんなに提供できる情報はこれくらいかな。ところでクラウス君たちは告死天使みんなのアリバイを確かめるんだったね。
 みんなのアリバイが取れたら、ボクに連絡をくれるかな?久しぶりにみんなに会いたくなってきちゃったから」
「ああ、それなんだけど、アスナのところに集まることになってるんだ。もうセオドールには伝えてあるし」
「うん、わかった。頃合いをみてボクもアスナちゃんのところに行くよ。じゃあ、そろそろ時間だね。入口のところまで送るよ」

そして、笑顔で手を振るフィオに送られ、一行は自警団総本部を後にする。そしてまた次のメンバーの元へと向かう。

「しかし、あんなかわいいお嬢さんが軍のトップだとは知らなかったな。勤まるものなのか?」
「軍だけではなく自警団そのものが完全実力至上主義だ。有能であれば出身、性別、年齢など一切問わずさ」

そこへ行くとフィオは告死天使の中でも特に頭もよく行動力もあったのでリーダーであるアリーヤも彼女に大きな信頼を寄せているのだ。
そして、告死天使で最大限に生かされたその能力を自警団という巨大組織の中においても遺憾なく発揮しているという訳だ。

「それにしても、あのCWジェネシスが絡んでいるとなるとこれはかなり難航しそうだな…弱音などは吐きたくはないが」

神谷が思わず弱音を漏らす。しかしそれも無理はなかった。CWジェネシスとはこの閉鎖都市でも最大の企業なのである。
製造・サービス・製薬などあらゆる方面に規模を拡大させて事業を成功させ、今では摩天楼の中心に本社を構えその本社ビル『ジェネティックビル』は
摩天楼の中でも一番の高さを誇り、その高さはなんと300mにも達する。それはまるで自身の巨大さを誇示しているかのようでもあった。
当然のことながらそれほどの大企業がそうやすやすと尻尾を出してくれるわけもない。だからこそ神谷も難航するというのだ。

「せめてジェネシスのメインコンピューターにハッキングすることができればいけるかもしれないが…そんな凄腕のハッカーなんて…」
「いますよ。神谷さん」

唐突にクラウスが口を出す。そして語り出す。彼の話によるとその男もまた告死天使のメンバーなのだとか。
アリバイを確かめに行くついでに協力を頼みに行くという訳だ。彼は今もスラムで株の取引にて生計を立てて暮らしているという。
そして一行はまたスラムへと戻ることになる。高速道路に乗り、窓の外に広がる摩天楼を眺めるヒカリ。
父親を殺した奴らを見つけることができた。それもこんなに早く。本当なら今すぐにでも奴らのビルに乗り込んでいって追及したかったが
門前払いにされるのがオチだということは彼女も十分に理解していた。だから今は我慢するのだ。
確固たる証拠をつかみそれをもとに奴らを破滅に追い込む。社会的抹殺という極限の苦しみをじっくりと味わせてから殺してやる。
そのためにもうすでに10人もの仲間が集まっているではないか。告死天使のクラウス、アリーヤ、ベルクト、セオドール、フィオラート。
探偵の神谷とその助手のステファン。クラウスの双子の妹で自分と同じ境遇を持つセフィリア。
自警団第4課のメンバーであるアシュリーとハーヴィー。さらにまだ見ぬ3人の告死天使。 総勢13人もの人間が集まった。
ここでヒカリはちょうど一年前のことを思い出す。15歳。中学3年生の時だ。CIケールズの令嬢であるヒカリに教員をはじめとして
級友たち周囲は非常に仰々しく接してきた。なぜ周囲が自分に対してそのように接するのかを理解していたヒカリは周囲に完全に心を閉ざした。
そしていつからか彼女は他人に対してどう接していいのかがわからなくなっていたのだ。それは彼女が神谷の事務所に初めて上がった時に神谷に対してどう接したかにも表れているといえた。
しかし、神谷をはじめとしてここにいる人間はみなヒカリのことをCIケールズ令嬢としてではなく一人の人間として見てくれた。
父親を殺されることもなければ彼らと出会うこともなかったであろう。父親を亡くし、天涯孤独の身になったはずが気がつけば
多くの仲間たちができていた。気がつくと、ヒカリの両目から涙が滴り落ちていた。それに気付いて目頭を押さえようとするが、
それを制するものがあった。彼女の両隣に座っていたクラウスとセフィリアだ。

「泣いていいんだよヒカリちゃん。今までずっと泣かずに耐えてきたんだから。悲しければ思い切り泣いていいんだよ。どんな時にも僕たちは君の味方だよ」

そしてセフィリアは彼女を胸元に引き寄せて、抱きしめた。その胸の中でヒカリはこれまで抱え続けてきた感情を一気に吐き出した。
その感情が涙となり、嗚咽となりヒカリの溶けた心から流れ出す。それを受け止めるセフィリア。ヒカリの涙に自らの純白の服が
汚れるがそれを気にも留めることもなくセフィリアはヒカリの頭をなでる。気がつけば車は止まっていた。窓の外へ広がるのは
クラウスにとって見慣れた光景。スラムだった。セフィリアはヒカリにハンカチを手渡し、ヒカリはそれでようやく涙をぬぐう。
そして一同は車を降りた。中心の共同墓地を中心としてグランドクロスを描くかのごとくに東西南北に延びたメインストリートの外れに
車を止め、一行は一本の路地へと入ってゆく。クラウスに案内され、5分ほど歩いたところで一軒の家の前にたどり着く。
スラムに似つかわしくないきれいな鉄製ドアに提げられた札には『シュヴァルツ・ゾンダーク』の文字があった。
そのドアを札のすぐ上に設置された天使を模ったノッカーを用いて叩く。ガンガンと金属と金属がぶつかり合う音を立てる。それから10秒ほどだろうか。ドアが開く。
ただし、そのドアにはチェーンが掛かっていて、ドアと住居の隙間から身長190cmほどの長身の男がこちらを窺っていた。
彼こそがこの家の主、シュヴァルツ・ゾンダークであり、歳は23になる。赤みがかかったセミロングの髪はぼさぼさだったものの、
ひげなどはきれいに剃られており服もきれいに着こなし、清潔感が垣間見える男だった。

「おや、久しぶりのお客様かと思えばクラウスさんじゃないですか。それにアリーヤさん、ベルクトさん。さらには初対面の方が4人ほど。
 さて、クラウスさんのその格好は…なにやら訳ありのようですね。立ち話もなんですから上がってください。今チェーンを外しますから」

一度ドアが閉まり、カチャカチャという金属音がした後に再びドアが開かれる。180度の角度までドアを開き、シュヴァルツは7人を招き入れた。

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