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正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第6話 B 1/3


―――…

 「お前…一体なんなんだ…?」

 「"えいゆう"です。12えいゆう…HR-500・トエル」


 数多の敵の攻防をくぐり抜け、ようやく敵の居城へと足を踏み入れた三人を待ち受けていたものは…彼女だった。


第六話
「テロリストのウォーゲーム」


2.「龍神の夢、約束の明日」
 「なんでトエルが…意味分かんないよ…!」
 カナミは酷く狼狽していた。無理もないか、仲が良いと思っていた相手が…敵の護衛だったんだからな。人間なんて
そんなモノだ。騙し裏切り、陥れる。わかっていたことじゃないか。カナミ達が特別なだけだったんだ。

 だから…少しでもトエルに心を許してしまった、自分が許せなかった。

 カナミと私は長い廊下をひたすら走っていく。とても長い、まるで己の罪を懺悔しろというような、先の見えない道。
 今となっては、正しいことなんて分からないが、それでも私にとって焔は全てだ。ただ一人の肉親だ。正直に言おう、
私はカナミ達と焔を天秤に掛けた。どちらも大切な者達なのに…私は焔をとったんだ。今回の事だって、カナミ達の協
力を断ることだって出来た筈だ。それをしなかったのは、やはり私は焔が一番大切なのか。ならば皆がこんな目にあっ
てもいいのか?
 …分からない。そんな事良いわけ無いって、わかりきっているのに。結局は私の我儘だ。誰だって一人は怖いんだ。
誰かと繋がっていたいんだ。皆といれば、やれるって思えるんだ。皆といれば、逃げずにいられるんだ。
 だから私は皆を巻き込んだ。もう取り返しの付かないことになってしまったけど。これは驕慢な自分の、愚かしく、
下卑されるべき罪だ。一体、この罪はどれだけの時間をかけて償えばいいのだろうか?
 ここで、今まで絶えず動かしていた足を止めるカナミ。私は声をかけてみると、カナミは「…ゴメン…やっぱあたし、
だめみたい…」と言い、体を翻し背を向ける。大体カナミが何を考えているかは予想がついた。
 「あたし…やっぱり戻る…!」
 やっぱり、そうきたか。カナミはタケゾーといつも一緒だったからな。放縦なタケゾーの相方をできるのはカナミしか
いない。カナミは皆を信じると言っていた。だから私もカナミを信じよう…無理はしないで、絶対に生きのびてくれ…!!
 私はカナミの姿が見えなくなるまで後ろを振り向いたまま走った。なんだか、とても遠くへ行ってしまっているように
感じたから。

 カナミの姿も見えなくなり、とうとう私一人となった。どうしようもなく心細くなった私は、皆の顔を思い出す。瞼の裏
に映る皆の笑顔。皆が無事だなんて、そんな事ある訳無い事ぐらい分かっている。でもせめて…そう願うくらいは…
そんな夢くらいは…見せてくれてもいいだろう?

 約束の明日を、夢見たって…

――……………………・・・・・・・ ・ ・ ・  ・

 私達は、次元龍。かつては龍神として祭り崇められた騎龍家の末裔。最も、今じゃそれを知るものはいない。
誰に知られるわけでもなく、私達『家族』はひっそりと山奥で暮らしていた…
 「おねーちゃん!おかーさん!今日も一杯セミとってきたよ!!」
 「あらあら、火燐ちゃんは虫取り名人ね」
 「ふふ、火燐ったら、またこんなに捕まえてきて」
 母と焔と私の三人。質素だけど幸せな毎日だった。その日もこんな風に山で捕れた虫を自慢していた幼い私。
脳天気な顔して…これから起こる事なんて、まるでわかっていない。
 「セミィィィィィ!!セミィィィィィ!!」
 「もうわかったって火燐」
 「うふふ…」
 父親は、この土地を命がけで守り、随分前に亡くなった。だから私は父親の顔を知らない。寂しくは無かった。父親
がいない分、母がたくさん愛情を注いでくれたから。母のあの温もりは、今も私の心の中に残っている。
 「おかーさん?」
 「なぁに火燐ちゃん?」
 「…だーいすき!」
 私にとって、この時間はかけがえの無いものだった。それさえあれば、何も要らなかった。
 そう願っていても、時の流れは止められない。運命は着実に動き出す。


 「今の世の中、昔のように異形の者が蹂躙する時代になってしまいました」
 ある日、母は珍しく外の話をした。人間に会ってはならないと常々口を酸っぱくしていた母にしては珍しい事だ。
私はその時の母の顔が、今までに無いくらい真剣な表情であったことをよく覚えている。
 「私達はこの土地を守る龍神。今こそ再び姿を現し、人々を助け、協力し合う時がきたのです…!」
 以前は殆ど姿を消していた異形。今になって何故増えてきたのか…それは分からない。
ただ一つ分かっていることは、長い間交流を隔てていた龍神と人とが再び相見しえるということだった。
 「お母さんはお偉いの方と会ってきます。焔ちゃん、火燐ちゃんをよろしくね」
 「うん、おかあさん」
 「おかーさん何処かいくの?」
 「ふふ、旧友たる人間の皆さんの所へ行くのよ。大丈夫、私達はとっても仲良しなんだから」
 「おともだち…?私も仲良くなれる?」
 「もちろん……、じゃあ、行ってくるわね。いい子にしているのよ…」
 そう言って、母は山を降りていった。母が山を降りるところを、私はその時生まれて初めて見た。母が未知の世界へ
足を踏み入れることは、私にとってとても不安な、しかし一種の羨望に似た感覚を感じさせた。その頃はまだ幼い為か
その世界の恐ろしさに気づく事は無かったのだ。
 ポツリ。一粒の雫が額に落ちる。空を見上げてみれば、くぐもった雲が太陽を阻まんとどんどん肥大化してゆく。
これから大雨になるであろうことを察した焔は、幼い私の手を引き、自分達の住処へと戻っていった。

 自分たちの住むおんぼろ家屋に着くと、程なくして大雨が大地に降り注いだ。私は外にいる母の事が心配で心配で
仕方が無かった。
 「はい、火燐」
 そんな母を心配する私に、焔は暖かいお茶を淹れてくれた。人肌ほどの温かさのそれは、私の体の芯を温め、
心を少し楽にした。
 「おかーさん…大丈夫かなぁ?」
 「きっと…大丈夫よ、きっと…」


ざあざあと止め処なく降り続ける雨。曇天が晴れることは無かった。


……………………


 「おかー…さん?」
 「はぁ…、はぁ…、」
 「おかあさん!?」
 その日の暮れ、事件は起きた。
 「火…燐、焔…」
 「おかーさん!!一体どうしたの!?凄い苦しそうだよ!!」
 雨に濡れ、びしょびしょになった母。家に帰って来るなり床に倒れ込む。
 明らかに様子がおかしかった。雨に濡れて体調を崩したのかもしれない…、と焔は母の上体を起こそうとした。
 「!?」
 そこで焔は異変に気がつく。手に違和を感じた焔は自らの手を見てみると…血まみれの手が目に映った。
 「い…いやぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああッッ!!」
 「お…お母さん……!?」
 何故?どうして?こんな事になっているの?意味がわからない。目の前の現実が、あまりにも非日常的で、私は事
を理解できずにいた。
 「おかあさあぁぁん…これ…一体どうしたの…?」
 「…ふふ…、お母さん…ちょっと勘違いしてたみたい…」
 「沢山血が流れて……お母さんしんじゃうよおぉぉ…!!」
 死ぬ?お母さんが死ぬ?何を言っているんだと、私はただただ放心していた。必死に話しかける焔。腹から濁流の
如く血を流す母。すべてが狂ってて、圧倒的な理不尽だけがそこにあった。
 『おーい、見つかったかー!?』
 『こっちに逃げてったぞー!?』
 「!?…何…?」
 外から聞こえてくる雨音と、聞き慣れない声。私はそれに少なからず恐怖を抱いた…こんな状況だから。頼るべき母
はあの有様だ、無理もない。ばしゃばしゃと、家屋に近づいてくる足音。その音が大きくなっていくにつれ、私の心音も
大きくなっていった。
 「にげ…なさい…」
 母は、振り絞るような声で言う。そんな事できるはずが無い。私は本能的に危険が近づいているのを感じていた。
ここにいてはいけない。
 「お母さんも一緒に!!」
 「それは無理よ焔ちゃん…どの道私は…」
 「そんな事言わないで…!!」
 大粒の涙。龍の涙が焔の頬から零れ落ちる。そしてそれは焔の握る母の手にかかった。何粒も何粒も。
 「いい…?焔。火燐。あなた達は龍神の子…人々を助け、この土地を守るもの…決して、人を恨んではいけません」
 「お母さん…」
 母がこの時何故こんな事を言ったのか、その時の私にはわからなかった。それどころか私は…
 「おかあさん…それ、もしかして、人間にやられたの…?」
 だなんて、この時から私の人間疑心は始まっていたのかもしれない。
 「…それは、些細な問題よ…」
 「…どうして!?人間にやられたなら…私がやっつけて!!」
 「ダメよ…火燐ちゃん…」
 「なんで!!」
 何故母が人間の肩をもつのか?何故こんなひどい仕打ちを受けているのに…私は幼心ながらに必死に考えたが、
答えが出ることは無かった。そしてそれは今も…わかっていない。
 「人間を…守るのが…龍神の役目だからよ…」
 「そんな…」
 「大丈夫…今回は…少し歯車が狂っただけなのよ…二人が人間たちを守っていけば…いつかその思いは人間たち
に伝わる……私はね、いつか神も仏も人間も、皆協力して仲良く暮らしていければいいなって思っているの……夢物
語かもしれないけど…二人が人間と仲良くすれば…きっと、いつか……」
 「お母さんの…夢…」
 「だからね…約束して…人を憎まず…仲良くすること…そうすれば…親しき友として笑い合える、そんな人と妖の明
日が待っているはずだから…」
 「そんなの…無理だよ…」


 『おい!この家、怪しいぞ!』
 「!!…早く行って、二人とも!!」
 「やだよお…おかあさんといっしょじゃなきゃ…!」
 「…ごめんね…二人とも…『時空の扉よ…次元を翔ぶ彼らを導き給え…同位空間転移術!!』」
 「おか…!!」
 「龍神が人々に受け入れられる…そんな約束の明日が来るまで、大切な人々を守りなさい…お母さんとの約束よ
……あなた達ならできる…龍神の子であるあなた達なら…」
 法陣が私と焔の足元に現れる。時空転移術。次元龍にしか扱えぬ能力。母はそれを使い…私達を安全な他所へと
飛ばそうとしていた。光が私と焔を包む。暖かくて、全身を何かが駆け巡るような慣れない感覚が襲う。
 空間転移間際、最後に見た母の顔は…とても満足気だった。まるで、何か一仕事やり終えた後のような…

 「おかあさぁぁぁぁぁん…!!」
 「じゃあね…焔、火燐…!」

 ――みながわたしにつくすならば、―――

 ――わたしはみなにつくそう――

 ――われはりゅうじん、ひとのこら。このちをまもる、まもりがみ…――


―――…

 「うっ…うっ…」
 母の空間転移術によって、山奥の洞穴へと飛ばされた焔と私。焔はずっと泣いていた。母は多分もう…
 私はと言うと、不思議と泣くことは無かった。あまりにもショックなことが起きると、泣くを通りこし壊れてしまうらしい。
私の心の中で、様々な感情が湧き出して、ぶつかり合って、抑えきれなくなったそれが爆発したんだ。
 …後には何も残らなかった。無心。私の心は枯れ果てた。
 「…"焔"」
 「…えぐっ…火燐…?」
 「…この洞穴が、新しい住居だ。ここで誰にも会わないで、二人だけで生きていこ…」

 誰にも会わなければ、傷つくことはない。私が始めにしたのは、心を覆い隠し、弱い自分を守ることだった。
硬い殻を作って、外界からの接触を一切絶とう。悲しみも憎しみも、その中に閉じ込めてしまえ。これは反抗だ。こんな
残酷な世界を受け入れてなるものか。そう思い、私は世界に干渉することをやめた。


  •   ・  ・  ・ ・ ・・・・・・………………――

 (…このころから…私は人間が嫌いだった)
 まだまだ先の見えない廊下を走り、私は流れ出る記憶の断片を拾い集めていく。あの頃の私ははまるで死んだ魚
のような目をしていたに違いない。…と、過去の自分のことを思い出し、そのころの姿を思い描く。
 (…もう、自分は一生腐って生きていくんだなと、その頃は思っていた…あの二人が現れるまでは…)

――……………………・・・・・・・ ・ ・ ・  ・
―数年前、初夏―
 「おいお前達…ここで何している」
 母が死に、長い時間が経った。あの日以来、私は何もしなくなった。笑うことも、怒ることも泣くことも。
そんなある日、たまたま焔の事を茂みから盗み見る怪しい人間を発見した。私は関わりたくなど無かったが、焔になに
かあっては困るので、声を掛ける。人間なんて、皆嫌な連中だ。当然のように、私は敵意むき出しだった。
 「え…?」
 「だ、誰だよ!」
 人間は、丸坊主の雄の子供とショートヘアーの雌の子供。どちらも私と同じくらいの背だ。おそらく…あの街の人間。
 彼らは酷く怯えているように見えた。足はがくがくと震え、背を向いているので顔は見えないが、おそらく真っ青に
なっているはずだ…そう、その時の私と同じように。
 「…質問に答えろ。何をしているんだ。事と次第によっては、お前達をただで帰す訳にはいかない」
 幸い、二人から自分の姿は見えていない。私は精一杯の勇気を振り絞り、強がった。自分の最も怖いと思うような声
で喋った。大見得を張った手前、もう後には引けないし、なにより私は、弱い自分を見せたくなかった。
 「火燐、やめて。そういう脅しみたいな言い方…」
 そんな私に見かねたのか、そう言って焔が中に割って入る。情けないことに私はその事で少し安心してしまった。

 「こいつら、人間だぞ」
 そんな弱い自分のことを認めたくないのか、私は適当な指摘をする。すると焔は…
 「人間だからよ。人間を憎んではいけないと、お母さんも言っていたでしょ?」
 …と、母の言葉を私に言い聞かせる。やめてくれ、その言葉は聞きたくない。私は焔の目から逃げるように目を背る。
 「…悪い連中かもしれない…」
 「お、俺達はたまたま通りかかっただけだ!…綺麗な歌声が聞こえたもんだから、つい…」
 私の言葉を遮るように、丸坊主の少年が喋る。それを皮切りに少年はやたらと早い口調で言葉を続ける。
 「…こんな小さい子に、あなたは何をしようとしていたの?」
 少年の話を全てを聞き終えた焔は、どうやら私に非があると判断したようで、私はそれが疑問でならなかった。
 何故私よりそんなどこの馬の骨とも分からない人間の言うことを聞くのか。
 「う…でも!」
 それに私も十分小さい(自分でいうのも癪だが、龍族は基本成長が遅いのでこれから大きくなるはず)ので、不公平
だとおもった。寧ろ親族な分、私の方が優遇されるべきじゃないか。7:3ぐらいが妥当な線じゃないか。
 「おいお前。私の顔に何か付いてるのか?」
 苛立った私は、ジロジロと私のことを見ていた少女にやり場の無い鬱憤を向ける。しかし、それは焔の手によって邪
魔されてしまう。
 「ストップ、お互い悪人じゃあないんだから、無理にいがみ合わないの。ほうら、こうして」
 そう言って、焔は私の手と少女の手をお互いに握らせ、そして自らの手も被せる。私は何でこんな事をしなくちゃいけないんだと思ったが…
 「暖かいでしょ?これが人の温もりなんだよ…」
 なぜだろう、不思議と腹は立たなかった。人の温もり…何だ、たかが体温の事じゃないか。人の手は暖かい。別に
おかしな事じゃない。至極当たり前のことだ。

 でも、そんな当たり前のことが、私にとってはとても特別なものに思えた。

 触れたことの無い温かさだ。悪い気はしない。こいつらは人間。その時の私は、人間は皆、血も涙もない、冷たい連
中だと思っていた。なのに…どうしてかな、他人の温もりは…こんなにも簡単な方法で確かめられるというのに。私は…
 「同じこの大地に住むもの…きっと仲良く出来るはず…」
 焔のその言葉で…私は不覚にも、ホントに一瞬ではあったが「こいつらと仲良くしてもいい」なんて思ってしまった。
今となっては…それがきっかけだったんだろうなと昔を振り返り、考える。

―――…

 「ここを抜ければ出口だぞ」
 とりあえず、焔に免じて二人を許してやる事にした私は、道に迷ったと言う二人を山の出口まで案内してやった。
 「じゃあ…さよならだね…」
 「ああ…」
 もう合うことはないだろう。明日からはまた、代わり映えの無い日々が始まる…筈だった。
 「ありがと、二人とも!」
 少女は、屈託の無い笑顔で感謝の言葉を述べる。人間から感謝されたのは…初めてだ。
 (う…嬉しくなんか、ない…)
 自分の中に生まれる感情を、私は必死に否定する。それを認めてしまえば、私の殻は見事に瓦解してしまうから。
人間を拒絶するという、見えない殻が。
 「ほんとにありがとーよ、俺達このまま帰れないんじゃないかと思った…ああ、それとさ」
 「?」

 「また…会いに来てもいいか?」

 「へ…?」
 少年は、意味のわからないことを言った。また会いに来るだと?何故…?
 「そんな…ここは、危ないし…」
 焔は優しいから、二人の心配をする。
 「いいってそんな事気にすんなよぉ!俺達…友達だろー?」
 「友達…!」

 友達…?異形である私達と?まさか…冗談だろう?でも…もし…本当なら…
 (いや!何を考えているんだ私は…!)
 バカらしい。そんな事…どうせ嘘だ。私は絶対に心は開かないぞ。
 そうして、街へと帰る二人を見送る…何故か焔が花の咲いた様な満面の笑みを浮かべていたのが気になった…


―私たちは出会い、運命は、繰り返す。―


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