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なかよしハウス第三話

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なかよしハウス第三話

第三話『くらとうさんのなやみごと』

 さてさて、住民の方達の好感を得るどころか不信感を増幅させてしまったゆゆるちゃん
なのだが、ここで諦めてしまっては魔女の名折れ。
 早速自室へ戻り、難しい顔で歩き回りながら、次なる作戦を考えているところである。

「ゆゆる、かんがえついた!」

 ぱちんと手を叩いて部屋を飛び出すと、ドアの前に一枚の画用紙を貼り付けて、そこに
マジックで「おなやみそうだんじょ」とダイナミックに書きなぐった。

「これはめいあん」

 確かに住人の方たちが他の人に言いづらい悩みを抱えている可能性は高く、新参である
ゆゆるちゃんになら、それをぽろりとこぼすこともあるかもしれない。そうするとこれは
中々に良いアイディアと言えよう。

 ――暫くすると、ドアをノックする音が聞こえた。

「おなやみならたちまちかいけつ、ゆゆるのなやみそうだんじょへようこそ」
「表の張り紙を見たんだけど……だ、大丈夫かな。この子」

 半開きのドアからこちらを覗く青年は、ここで暮らしている倉刀くん。
 怪訝な顔で部屋を見回したあと、かちゃりと後ろ手にドアを閉め、自分の悩みをぽつり
ぽつりと話し始めた。それは彼に対する、住人たちの態度のことであるらしい。

「大体みんな僕の事をバカにしすぎなんだよ。いっつも損な役回りばかりでさ」

 倉刀くんの言葉に頷きながら、なにやらメモをとるゆゆるちゃん。

「いじられ役は嫌いじゃないよ。でも、たまには優しくしてくれてもいいじゃないか」
「なるほどよくわかりました、キャンディどうぞ」
「あ、どうも」

 ころりとキャンディを頬張る倉刀くんの前、手をゆらゆらと揺らすと、ぽんという音と
ともに小さな木の実が現れた。

「これはホメオスタシスのたね。ひとのおなやみをすいとるの」

 ゆゆるちゃんが種を一粒とりだして手に乗せると、ぴこんと芽が出てぐんぐんと伸び、
最後に小さな黄色い花が咲いた。当然ながら倉刀くんは眉を寄せるばかりである。

「このように、おなやみはすいとられ、はなになるわけです」
「ははあ、なるほど。要するに溜まったストレスを吸収してくれるわけか」
「そういうこと。さいたら、おしばななどにするといいです」

 ゆゆるちゃんは魔女なので、人間関係という大変デリケートな悩みですら臭いものには
蓋の原理なのだ。しかしそれではさっきまで取っていたメモは一体なにかというと、ネコ
やイヌなどのイラストであったりして、器の大きさを物語っている。

「おだいはけっこう」
「ありがとうゆゆるちゃん。これならまだまだ頑張れそうだ」

 倉刀くんは嬉しそうにばたんとドアを閉めて出て行き、ゆゆるちゃんもまた満足そうに
何度も頷いていた。



 それからしばらくの間、いくら待っても誰も訪ねてくることがないので、ついにベッド
でうとうとし始めたところ、がしゃんと窓を破る音にゆゆるちゃんが跳ね起きる。

「うわー、助けてくれー」

 続けて聞こえてきたのは倉刀くんの叫び声。
 窓の外に目をやると、ホメオスタシスの実と思われる巨大な茎が、物凄い勢いで空へ向
かって伸びているのだ。その先端にひっかかった倉刀くんも、どんどん空へと登っていく。

「わ、たいへん」

 彼が一体どれほどのストレスを溜め込んでいたのか、それはこの巨大な茎を見れば一目
瞭然。さすがのゆゆるちゃんもこれには驚き、ぺたぺたぺたと外へと走る。
 倉刀くんの部屋から伸びた巨大な茎は、館の屋根あたりで動きを止めており、その根元
には住民の方たちが集まっていた。

「これはこれは、また随分と派手なお遊戯ですね」
「お前、また面白そうな事をやっているな!」
「倉刀! 全く何をやっているんだ、みっともない!」

 住人たちの声が上がるたびにずるずると茎が伸びる。これは大変な異常事態なのである
が、住民の方たちは一向に倉刀くんを心配する様子がなく、そればかりか罵声を浴びせ続
けるせいで彼のストレスは高まり、茎は再び空へと伸び始めた。

「わ、わたし、たすけてくる」

 たまりかねたゆゆるちゃんが両手を広げると、その身体がゆっくりと浮かびあがる。
 ゆゆるちゃんのウサギスリッパは上昇と下降に限り空を飛べるのだが、その速度は非常に
のんびりしたものであり、倉刀くんを救出して戻った頃にはすっかり夜になってしまっていた。

 とん、と着陸した先では住民の方たちが焚き火を囲って待っていたのだが、ここで猛烈
に怒っているのがゆゆるちゃんである。

「もー、ゆゆるあきれた! どうしてみんなくらとうさんにつめたいの!」

 しかし、詰め寄ろうとするゆゆるちゃんを、倉刀くんがそっと手で制する。

「いいよ、ゆゆるちゃん。みんな僕を心配して待っててくれたんだ」
「ひどいこといってたよ?」
「この茎にぶら下がりながら、ずっと考えてたんだ。こんなにストレスが溜まってるのは
自分のせいなんじゃないかって。みんな不器用なだけで、本当はいい人なんだ。僕はそれ
を知ってたのに……」

 口を尖らせるゆゆるちゃんを優しく撫でる倉刀くん。
 頭の上で結わえた髪がぱたぱたと音を立てる。

「でもいいたことは、ちゃんといわないとダメだよ」
「柄じゃないんだ。この植物が僕のストレスだってことは、二人だけの秘密に――」

 その時突然、ゆゆるちゃんの胸のあたりが輝き始め、一瞬の閃光を放ってそこに現れた
のは、金色に輝く小さなハートのバッジだった。

「あ」
「何だい? それ」
「ともだちにんていバッジだ!」

 こうしてめでたく一人目の友達を獲得したゆゆるちゃんなのだが、伸びきったホメオス
タシスの茎は結局そのままになっており、箱庭館の新しい名物となるのであった。
 その先で咲いているであろう大きな花は、きっと月の光を浴びて輝いていることだろう。

つづく

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