創作発表板@wiki

ともだちハウス第二話

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

ともだちハウス第二話

第二話『なかよしだいさくせん』

 管理人さんが用意してくれた部屋は大変にこざっぱりとしており、小さな窓からは海が
覗く、質素ながらも素晴らしいものであった。

 少しだけ埃をかぶったベッドにぽすんと座ったゆゆるちゃんは、しばらく足をぶらぶら
させながら鼻歌を歌っていたのだが、思い出したようにポシェットをごそごそと漁りだす
と、小さなボリュームダイヤルを取り出した。

「これは、おなじみダイヤル」

 ゆゆるちゃんは魔女なので、色々と不思議な秘密道具を所有しているのだが、そう
いったものを取り出すときも絶好調にテンションが低く、近年アニメで見れるような魔女
とは一線を画していると言わざるを得ない。

「これをおでこにはりつけると、みんなのおなじみさんになるのです」

 しかしきちんと説明をしてくれるあたり、ゆゆるちゃんは全く持って正しいと言えよう。

「そういうこと」

 不意にドアをこんこんと叩く音がひびいた。

「そろそろお昼だよ。みんなが集まるから挨拶しにおいで」
「はーい」

 ゆゆるちゃんは綺麗に切り揃った前髪の下にダイヤルを貼り付けると、目盛りを「おな
じみさん」に合わせた。どうやら馴染み具合を調整できるらしく、効果のほどは一切不明
だが、これを持ってして集団に溶け込んでしまおうという魂胆なのだろう。



 天井の高い食堂には箱庭館で生活している人たちが大勢集まっており、大きな窓から
差し込む日差しが、細長いテーブルを明るく照らしていた。
 銀色の髪の少女、ぶつぶつと独り言を続ける不気味な青年や、燕尾服を着た人形みたい
な少女。みな思い思いの会話を楽しんでいる。
 果たしてそこへゆゆるちゃんが歩み入ると、信じられないことが起きた。

「やあ、ゆゆるちゃん。今日もかわいいね」
「こんにちはゆゆるさん。いつもかわいいですね」
「やーやー、おなじみのゆゆるです。そんなにかわいいですか」

 おなじみダイヤルの効果は絶大らしく、住人の皆さんもそれはもう数年連れ添った友達
のようにゆゆるちゃんへ接してくるのだ。
 さらに追い討ちをかけるように、お腹の前で手をゆらゆらと揺らすと、ぽんという音と
煙を伴って、大きな包みが現れた。

「ゆゆるはおにぎりをにぎってきました。みなさんどうぞめしあがれ」

 通常おにぎりというのは白米と海苔による心やすらぐモノトーンであるのだが、ゆゆる
ちゃんのそれは何故か鮮やかな極彩色を放っており、危険な雰囲気をかもし出している。

「師匠、青いおにぎりがありますよ」
「それはトルネードおにぎり、ゆゆるおすすめ」

「こっちの黄色いおにぎりはなんです?」
「たんさんレモン」

「この赤いのはなんだ」
「ナベゾームのマヨネーズあえ」

 沢山の質問に受け答えするゆゆるちゃんは大変にご機嫌な様子で、かつこれらはゆゆる
ちゃんが朝早くに起きて一生懸命に握ったものであるからして、得体が知れないことをの
ぞけば、大変に心のこもったおにぎりなのだ。

「これは酷い味だね、ゆゆるちゃん」
「まあ、舌が腐り落ちてしまいそう」
「吐いてもいいか、ゆゆるちゃん」

「どういたしまして」

 心はこもっていても、やはり魔女の料理は不評らしく、しかし当の本人と言えば会話を
成立させるのが目的であるため、全くお構いなしであった。
 はてさて、これが友達作りなのかというと少々違うような気がしないでもない。

 賑やかな談笑に混じって、大きな時計がこちこちと時間を進める。
 ――するといつからか、皆がゆゆるちゃんを無視するようになっていた。

「あれー?」

 おでこをのダイヤルを確認してみると、使いすぎているせいで目盛りがゆるんでおり、
小さな矢印が「くうきさん」の文字を指し示している。

「もー、すぐこれなんだから、やんなっちゃう」

 くるくると調整し直すも、バカになってしまったダイヤルは何かと設定がシビアらしく、
ついに目盛りは「いちげんさん」から動かなくなってしまった。

「なんでー、どうしてなのー」

 一瞬静まり返った食堂にぽつりぽつりと声が漏れ始め、沢山の視線の矢がゆゆるちゃん
へと突き刺さる。

「何だこの子。見たことないな」
「新しい住人か?」
「いつからここにいらっしゃったの?」

 追い詰められたゆゆるちゃんはしばし呆然とした挙句、とうとうダイヤルをポシェット
へ押し込みながら、顔を上げた。

「は、はじめまして。ゆゆるです……」



 ゆゆるちゃんは魔女なので、通常人間が友達をつくるプロセスとは違った手段を持って
いても不思議ではない。不思議ではないのだが、そこのところはちゃんと挨拶から始める
のが森羅万象ゆるぎない摂理なのである。
 先を急がなくても大丈夫。箱庭館での友達づくり生活はまだまだ始まったばかりなのだ
から。



つづく

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー