記憶喪失した少女入館
「ふぁ~あ」
時計の短針が十をちょっぴり過ぎているのに誰もこない教室を見回して、
箱庭学校の教師、橋本ほとりは欠伸を一つしました。
箱庭学校の教師、橋本ほとりは欠伸を一つしました。
フレックスタイム制を導入した進んだカリキュラム……という訳ではもちろんなく、
この学校唯一の生徒がまだ来ていないからです。
この学校唯一の生徒がまだ来ていないからです。
唯一の生徒と言っても別に少子化の影響などではありません。
読み書き計算などの基本的なところは家族が教えて、
他の勉強は基本的にしない、それが箱庭では一般的なのです。
読み書き計算などの基本的なところは家族が教えて、
他の勉強は基本的にしない、それが箱庭では一般的なのです。
「せんせー、来たよ~!!」
教室のドアが乱暴にガラガラッと開けられ、
一人の少年が飛び込んできました。
一人の少年が飛び込んできました。
彼はこの箱庭学校の唯一の生徒である原野菜斗くん。
箱庭商店街にある八百屋の息子です。
箱庭商店街にある八百屋の息子です。
「こらっ、何で遅刻したの!!」
「夜更かししてたら起きれなくって……」
「そんなの理由にならないでしょ!」
「だって昨日は先生だって寝坊したじゃんか」
「夜更かししてたら起きれなくって……」
「そんなの理由にならないでしょ!」
「だって昨日は先生だって寝坊したじゃんか」
うっ、と返す言葉に困る先生。
日頃の行いという物はこういう時にモノをいいます。
日頃の行いという物はこういう時にモノをいいます。
そうなのです。
昨日は見たい深夜ドラマを見るために夜更かししたせいで、
先生が起きたのは十一時を過ぎていたのです。
昨日は見たい深夜ドラマを見るために夜更かししたせいで、
先生が起きたのは十一時を過ぎていたのです。
先生が起きるまでの間、菜斗くんは自習をしていました。
根は真面目な子なのです。
根は真面目な子なのです。
「こ、こほんっ! とにかく!!」
「あっ、ごまかす気だっ! せんせーズルい!」
「あっ、ごまかす気だっ! せんせーズルい!」
大人はいつだってズルいのです。
「今日、新しいお友達がきまーす」
「え、マジで!?」
「はい、マジです」
「なんでもっと前に言ってくれなかったのさっ!!」
「菜斗くんをビックリさせようと思って」
「え、マジで!?」
「はい、マジです」
「なんでもっと前に言ってくれなかったのさっ!!」
「菜斗くんをビックリさせようと思って」
前々から学校に友達が欲しい欲しいと言っていた菜斗くんは、
よほど嬉しかったのか教室中を走り回って喜びを表現しています。
よほど嬉しかったのか教室中を走り回って喜びを表現しています。
「どんな子? どんな子?」
「女の子だって」
「名前は? 名前は?」
「う~ん、女の子だって事しか聞いてないのよねぇ」
「いつ来るの? いつ来るの?」
「そろそろ来るはずなんだけどねぇ」
「女の子だって」
「名前は? 名前は?」
「う~ん、女の子だって事しか聞いてないのよねぇ」
「いつ来るの? いつ来るの?」
「そろそろ来るはずなんだけどねぇ」
場所は変わって箱庭館。
倉刀くんが師匠に命令されて庭先の掃除をしています。
倉刀くんが師匠に命令されて庭先の掃除をしています。
「こういうのって管理人の仕事なんじゃないかなぁ……」
そういえば家賃とかってどうなってるんだろうなんて事を考える倉刀くん。
「ん、あれ?」
倉刀くんは門のそばに立っている女の子に気が付きました。
お客さんかな? 迷子かな?
お客さんかな? 迷子かな?
「どうしたの? お名前は?」
女の子のそばに行って、声をかける倉刀くん。
「う……う……うわぁ~ん!!」
突然、女の子は泣きだしてしまいました。
「女の子を泣かすのは感心しないな、倉刀くん」
「うわっ、いたんですか!?」
「うわっ、いたんですか!?」
これまた突然現れた管理人にビビる倉刀くん。
「どうしたんだい、お譲さん?」
「あのね……実はね……」
「あのね……実はね……」
女性の扱いには定評のある管理人さん。
女の子からあっという間に事情を聞きだすことに成功しました。
女の子からあっという間に事情を聞きだすことに成功しました。
「あ、はいそうですか分かりました」
場所は再び学校。現在先生は電話に対応しているようです。
「学校の場所が分からなかったから、お家に先に行っちゃったって」
「せんせー、迎えにいこうよー」
「迎えに行くっていったってもう授業終わってるけどね」
「せんせー、迎えにいこうよー」
「迎えに行くっていったってもう授業終わってるけどね」
既に放課後です。
「いいじゃ~ん、挨拶だけでも~!」
「じゃあ行こうか。場所は……箱庭館?」
「えぇ!?」
「菜斗くん、知ってるの?」
「お母さんがあの館は変な人が多いから近寄っちゃいませんって」
「じゃあ行こうか。場所は……箱庭館?」
「えぇ!?」
「菜斗くん、知ってるの?」
「お母さんがあの館は変な人が多いから近寄っちゃいませんって」
間違ってはいませんけどね。
「じゃあやめる?」
「……行く!!」
「……行く!!」
学校から箱庭館までの距離は大したことありません。
どんな子なのかについて話しているうちに館に到着してしまいました。
どんな子なのかについて話しているうちに館に到着してしまいました。
館の入口では管理人さんと倉刀くんと女の子が立っています。
が、何故かどことなく重い空気が漂っています。
が、何故かどことなく重い空気が漂っています。
どう見ても女の子が転校生です。
菜斗が近寄って話かけます。
菜斗が近寄って話かけます。
「名前はなんて言うの?」
「うっ……うっ……うわぁーん!!」
「え? え? どうしたの?」
「うっ……うっ……うわぁーん!!」
「え? え? どうしたの?」
突然泣き出した女の子に菜斗くんは戸惑ってしまいます。
何かいけないことをしてしまったのでしょうか?
何かいけないことをしてしまったのでしょうか?
「自分の口でちゃんと説明しなさい?」
管理人さんが少女に優しく促します。
「お……思い出せないの……」
女の子が嗚咽混じりに話します。
「え、何を?」
「名前も……何でここに引っ越すことになったのかも……」
「名前も……何でここに引っ越すことになったのかも……」
管理人さんがため息交じりに言いました。
「どうやらこの子ね、記憶喪失らしいんだ」
――記憶喪失した少女・入館――