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ややえちゃんはお化けだぞ! 第8話

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ややえちゃんはお化けだぞ! 第8話




「――なるほど、解呪申請書か。別に出してやらんこともないが」

俺たちの目的は閻魔大帝ではなく最初から皇太子殿下、つまりは閻魔の息子だったわけで、
それがちっぽけなクソガキなんじゃないか、なんて想像もしなかったわけじゃない。
しかし実際にこうして、年齢が二桁にいっているかも怪しい子供に見下された態度を取ら
れるのは、いささか腑に落ちないものがある。

思い返してみればここまで全部、おかしな話なのだ。
頭の悪い幽霊に呪い殺されてはキチガイ悪魔に恐怖し、秀麗な鬼の優しさに触れたかと
思えば変態猫女に翻弄される。挙句の果てには高飛車なガキにすがらねばならなという
この有様。

確かに俺は人生に退屈していた感はある。怠惰な生活を送りがらも人生バラ色なんて言葉に
憧さえ抱いていたようにも思う。
だが、バラ色という言葉のそれは、決してバラエティ色が強いという意味ではない。

「まあ、とりあえず中に入れ。お前らがそれに値するかどうか、オレが見定めてやる」

もし蘇ることができるのなら、俺は今後「ほどほど」の人生を送るため惜しみない努力を
すると、ここに誓おう。



卍 卍 卍



門をくぐると白砂敷の広がる庭園になっており、ところどころに珍妙な形をした岩や木が
植えられていた。
見ようによっては美しいのかもしれないが、地獄の陽光を浴びる庭は皆紅く染まっている
ため、どうも不気味な感じが拭えない。

やや狭い間隔をもって並ぶ敷石は俺の歩幅とちょうど具合が悪いらしく、時折踏み外したり
飛ばしたりしながらも、ひょいひょいと前を進んでいく夜々重の背中を追っていた。
そんな俺につかえるようにしていた閻魔殿下が、つぶやくように声をもらす。

「それにしてもでかいな……」

夜々重の胸は侍女長にさらしを取られてしまっていたせいで、形をあらわにしてはいたが、
それもあくまで侍女長と比べればで、特別でかいというわけでもない。
下品な言い方をすれば「中の下」だ。

「……鈴のことだぞ?」
「あ、ああそうか」
「まったく、どうしてオレの周りには、こう煩悩にまみれた奴ばかり集まるんだ」

閻魔殿下はそれだけ言い残すと俺を追い抜き、足早に先へと進んでいった。
これはなんとも、返す言葉もない。

敷石は途中から二手に別れ、一つは大きな本殿に、もう一つは小さなお堂のような建物へと
続いており、俺たちはそのお堂へと案内された。
打ち付けられた古めかしい木の板には、かすれた文字で「魂言堂」とあり、そのすぐ下には
「堂内嘘ツクベカラズ」と注意書きがされている。

「なに、ちょっと話を聞くだけさ」

声と共に、華奢な木戸が軽い音を立てながら開かれた。
覗いてみると中には大きな机と椅子が置いてあるだけで、奥は暗がりに隠れていてよく見え
ない。



「この魂言堂の中ではウソをつくことができん、質問に対しては真実のみで答えろ」
「ウソをつく気なんてさらさらないね」

即答する俺に対し、閻魔殿下は見た目に似合わず、あごを撫でながら不適な笑いを浮かべた。

「お前に言ってるんじゃない、そっちの女幽霊だ」
「……え、ウソつけないの?」

恐らくはここが最後の関門。しかし夜々重はこういう場面でヘマをするのが大概であり、
それを考えると心配でならない。

「入るのは一人ずつ、加呪者の聴取が先ニャ」

侍女長が言いながら夜々重の腕を掴む。いつの間にかメイド服になっていた侍女長の胸は、
先ほどにも増し、内に秘めた怒りを思わせるほどの巨大さを誇っていた。

「すぐに終わる。お前はそこで待っとけ」

まるで予防注射を受ける子供みたいな顔をする夜々重を、親のような気持ちで見送る。
地獄で言うのも変な話だが、神にでも祈りたい気分だ。


卍 卍 卍


家を出てから何度か思ったことなのだが、腕時計でも持ってくればよかったと思う。
魂言堂の石段に腰をかけてはみたものの中のやりとりは全く聞こえず、それが故に随分と
長い時間が経ったように思える。

周りでも歩いてみようかと立ち上がったとき、ようやく木戸が開き、うつむいた夜々重が
力なさげに出てきた。その姿を見て、また何かやらかしたのかとため息が漏れる。

「……代われって」

しかし、例えどういう状況になっていたとしても、今や夜々重の保護者となった俺が
全ての責任を回収せねばならない。
不安げな顔を向ける夜々重の頭を一度撫で、石段を登って魂言堂へと入った。
薄暗い堂内は随分使われていなかったのか、カビのような臭気で満たされており、机の
上に灯された蝋燭が偉そうに座っている閻魔殿下の影を背後の壁に映し出している。

「桐嶋祐樹、十六歳――だな」
「そうだ」

黒いノートをめくりながら放たれる威圧的な口ぶりの前、命ぜられるままに前へ出て椅子に
座ると、俺を迎えたのはくぐもった笑い声だった。

「あの女幽霊め、とぼけた風を装いながらも実に面白い話だったぞ」
「……間違って呪い殺されたのがそんなにおかしいか?」

やや皮肉混じりに腕を組んでみせると、閻魔殿下と侍女長は顔を見合わせ、盛大な笑い声を
あげた。

「こいつ、何も分かっちゃいねー!」
「まったくおめでたい奴ニャー」

一瞬言葉に詰まった。
二人の妙な態度に、ふと何か俺の知りえない事態が進行しているような、そんな不安が
ふつふつと沸き起こる。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。どういうことだ」
「お前あの女幽霊について、一体どこまで知ってる?」

暗い堂内を照らす蝋燭の火が揺れた。
言われてみると俺は夜々重についてほとんど、いや何一つとしてその素性を知らない。

あいつが一体ここで何を聞かれ、そして何を話したのか――
そのバカの奥底に秘めた恐るべき過去を、俺はこれから聞かされることになる。


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