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act.6

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act.6



翌日、明朝から第三騎士隊では騎士の鍛錬(スペシャルメニュー)が始まった。
城内の中庭で訓練は行われる。隊内全員集めての大規模な訓練だ。
中でもイザークは特別に、シアナに一対一で鍛錬を受けている。
イザークには何度もシアナの激が飛んだ。

「何だそのへっぴり腰は!!お前それでも騎士のはしくれか!!情けない!!」
「す、すいませ~ん!!」
「脇が甘いっ!!基本動作からやり直せ!!素振り二百回!!」
「ひいいー!!」
「だから、腰が引けてると……さっきから言ってるだろうがーー!!!」
ズカポーン!!シアナの乱暴な手刀がイザークに命中する。
イザークは盛大に気絶した。
「あ、しまった……ちょっと誰かイザークを救護室まで連れて行って!!」
とまあ始終こんな感じである。



他の騎士達も、イザークの無様な有様に苦笑ぎみだった。
周囲に認められる騎士になるにはどれくらいかかることか、先が思いやられる。シアナは息を吐いた。
一人の騎士が、休憩中声を掛けてきた。

「隊長はイザークに目をかけておいでなんですね」
「……あれでも一応私の部下だから。弱さが原因で死なれたら、たまったもんじゃないわ」
「そうですか。……他に理由は?」
「別にないけど。部下を教育するのは隊長の責務よ」
騎士はほっとしたような表情になって、そうですか、と返答した。

「それを聞いて安心しました。失礼ですけど、俺、隊長はあいつが貴族の出だから目をかけてるのかなって思ってたんですよ。 すみません。きっと隊長に見捨てられたら、あいつ行き場ないと思うんで心配してたんです。
あいつあんなんだけどイイ奴ですよね。……素直ですし」
「……そうね」
確かにイザークは曲者ばかりの騎士にしては珍しいほど素直だ。そこが長所で短所でもあるが。
「だから、これからもよろしくお願いします。俺が頼むことじゃないですけど……」
この騎士はイザークと親しくしているのだろう。それにしても。
こうして仲間に慕われるのは一種の才能だな、とシアナは微笑ましく思った。
「わかってるわ。大事な部下だもの。どんなことがあっても見捨てたりしない」

「隊長……ありがとうございます」
「礼には及ばない。それが私の仕事だから。それより、ほら、休憩も終わるわよ。訓練に戻りなさい」
「はいっ!!」
晴れやかな顔で、騎士は仲間の下へ駆け出していく。
剣が重なる音が響く空の下、シアナは隊員を見て回るのだった。


ズイマ総長から呼び出しがあり、シアナは訓練を終えてさっそく総長室へ向かった。
「失礼します」
「ああ、来たか。シアナ」
室内にはズイマだけではなかった。
見ると横にはエレがむすっとした顔をして立ち尽くしている。げぇっという声が喉から出そうになった。

「今回の任務は、第二騎士隊と第三騎士隊、双方協力して行ってもらう」
「……は、はっ!!」

威勢よく声をあげたものの、心の底から任務を蹴りたいと言う気持ちで一杯だった。
何ということだ。よりによってこいつと。

「フン。くだらん。俺の隊だけで十分だろうに。何故こいつまで任務に加えなくてはならんのだ」
総長の前にも関わらずエレはぞんざいな口の利き方をする。
「……エレ!口の聞き方に気を…」
無礼なふるまいを咎めようとした時、ズイマが手でそれを制した。
「ああ、いい。好きに言わせてやれ」
「ですが総長……」
「俺の口の聞き方などお前に関係あるまい。放っておけ」
「なっ……この……」

シアナはエレのこめかみを思い切り殴りたい気持ちをこらえる。
ズイマはそんな二人のやりとりを、厳しい顔で見つめていた。
慌てて総長に向き直るシアナ。

「失礼致しました。それで任務の詳細ですが、どのような?」
「ああ。ロスラ渓谷に向かう道に多数の翼龍が出て人を襲うという報告があった。
渓谷周辺の村にまで被害が出ている。襲われた人数は既に何十人にのぼるそうだ。
難度はBといったところか。至急、討伐に向かってくれ」

いつもは一隊で事足りる内容の任務だ。
何故共闘して任務に当たらせるのか、少しだけ疑問が残る。
シアナの心中を察したのか、ズイマは補足を加えた。

「お前達は仲が芳しくないそうだからな。……この機会に互いを認め合い、親交を深めるといい」
「……承知、致しました」
シアナはしぶしぶ承諾するが、エレは益々不愉快そうに顔を曇らせる。
「ふん。くだらんな。こいつと親交を深めてどうなる。無駄だ」
それはこっちの台詞だっ!!――と叫びたいのだが、良識ある騎士精神が総長の前でそれをすることを許さない。
ズイマに気圧されることなく、ずばずばと言いのけるエレはある意味大物なのかもしれなかった。

「出発は明朝、隊の者に伝え準備をするように伝えてくれ」
「はっ、了解です」
「エレも、分かったな?」
少しの静寂。
ズイマがエレに視線をやると、ふんと鼻を鳴らし、「ああ」と返事をした。
「では行っていいぞシアナ。ああ、エレはここに残ってくれ」
「はっ。それでは失礼致しました」
シアナは総長室を退出し、部下への伝達へと向かった。
部屋にはズイマとエレが残される。

「……それで、どうだ、身体の方は」
ズイマはさっきとは打って変わり、優しげな声になってエレに問いかけた。
「何も問題はない。人の心配をしている暇があったら自分の身体に気を使ったらどうだ。
いい加減ぽっくり昇天してもおかしくない年齢だぞ」
「ふっ。相変わらず口の減らない奴だ」
エレのぶっきらぼうな、粗野な言葉を、どこか嬉しそうに受け止める。
椅子から立ち上がり、窓の外に目をやった。
「早いな。お前がここに来てから、もう十年になるのか。……歳も取るわけだ」
「老人が昔の事を語りだしたら末期だぞ」
「まあそういうな。……ここに来た時はただの子供だったが、お前も大きくなったな」
「フン」
そっぽを向くエレ。不機嫌だが、その表情に、シアナと接する時のような乱暴さはない。
むしろどこか落ち着いた感じを受ける。ズイマの前でしか見せない姿だった。
「エレ。……お前は強くなった。強くなったが、足りないものがある」
「説教なら聞き飽きたぞジジイ」
「まあ大人しく聞け。おそらくお前は隊の中でも一、二を争うほどの腕の持ち主だ。
剣術も武術も、類まれなる才能を持っている。知識も技術も、そして経験もその歳にしては十分過ぎるほどだ。
だがな、このままではお前が勝ちたがっている者には永久に敵わんぞ」

意味ありげに、黙り込むズイマ。エレの脳裏に真っ先に浮かんだのは、龍殺しの女騎士だった。
シアナ。シアナ・シトレウムス。
エレがただ唯一、全騎士隊長の中で実力を認める者。
「……何故だ。俺の実力なら――あいつには敗北しない。多少苦戦するだろうがねじ伏せることなど造作もない」
「シアナにあってお前にないものがある」
エレの言葉を遮ってズイマは淡々と述べる。
「それが何か分からないのならばお前は一生シアナには勝てないだろうな」
「…………」
大丈夫だ、とズイマは言う。お前には、きっとそれが分かる日が来る。
「……戯言だ。そのような言葉に耳を貸す気はない。俺はもう行くぞ」

部屋を出る。共闘は不服とはいえ……明日が楽しみだった。シアナの剣技が間近で見れる。
その刃を交わらせる所を想像すると胸が躍った。弱い人間に興味はない。強い者にこそ、惹かれてやまない。
シアナに興味があるのは、あいつが自分を打ち倒せる可能性を孕んでいるからだ。
生死を賭けた争いだけが、この身を自分足らしめる。

一秒後にはどうなるかわからない、そんな戦場でこそ生を実感できる。

生きることを、死の想起でしか実感できない。
それこそがエレの生き様であり、本質だった。
頬に触れる。禍々しい刻印はじくじくと熱を持ち、痛みをエレに与え続けている。
「ふん、呪われた刻印か。……因果なものだ」
悪魔と自分を呼んだ者達は知っていたのだろうか?
死を与える刻印。これを俗に、悪魔の刻印と呼ぶことを。










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