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ものがたり

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ものがたり


「とある老人は自らが蝶になる夢を見た。
 目を覚ました後、老人は考える。果たして自分は蝶になる夢を見ていたのか。
 それとも今の自分が蝶の見る夢なのか」
意識がぐちゃぐちゃになって廻っていく。それなのにその言葉は頭にすんなりと入る。
壁にぶつかりながらふらつきつつも歩く。床や壁にはよくわからない奇妙な模様が書かれている。
頭を振るい、意識を救い出す。私はこの世界に来たのだ。ハルトシュラーに連れられて。
「あの寄生がより強い固体に寄生することで種の存続を図ろうとしたのと同じように
 お前もこの血まみれの世界で精神を不安定にさせないように変化したのかもしれない」
そう言ったのは誰だろうか。いや、そう、ハルトシュラーだ。そうだ。間違いない。
「今のあなたは夢を見せられている。白騎士シカ・ソーニャとしての夢を」
何を言っているんだ。ハルトシュラー。いや、今のは違うのか?
ゴンと壁に当たり、その場に崩れ落ちる。曲がり角のようだ。目の前に壁がある。
頭が痛いのはこれに当たったからだ。なぜ壁があるんだ? そうか、曲がり角か。
壁に寄りかかりながら立ち上がる。何か棒があればいいのだけど見当たらない。
森であれば木の枝を使えるのだがここには木が生えていない。なぜだろう。室内だからだろうか。
ふと右手の籠手が目に入る。そうだ。これの形を変えればいい。どうやるんだっけ。
粘土みたいにこねるのかな。でもそれじゃあ手が汚れちゃう。あれ、でも手が汚れたら洗えばいいのか。
「最初は正義のため、人民のためと戦ってきたが例え正当化出来る理由があっても
 その手で他者を殺したときに精神に異変を起こす人間もいる。お前は本来そういう人間だったのだ」
「人間だけが特別かぁ」
口をついて間延びした言葉が出たが周りに人はいない。じゃあ声はどこから聞こえるんだ? おかしいな。
それとも前に誰かから聞いた話なのだろうか。でもそれがなんで聞こえたんだろう。おかしいな。
そもそも人間でない私が人間を殺しても人が狼を殺すようなものじゃなかろうか。
「理由はそれだけではない。おそらくお前には小さな歪があった。原因はそうだな……。
 本来お前が体験するはずであった物語とは大きく異なる物語を体験することになったから、ということかな」
物語! そう、私は一月ほど前に長い寄生との戦いを終えたのだ。長かった。何年かかっただろうか。
あれは一つの物語と言える。戦いの物語。長い戦いの物語。誰も知らない物語。これはそれの続き。

「この悪夢はもうすぐ終わりを告げます。あなたは本来の物語に戻るのです」
本来の物語。じゃあ寄生との戦いの物語はなんだったんだ? 偽物の物語?
袋小路にたどり着いた。一本道だったはずなのに。もしかしてここは最初から袋小路だったのだろうか。
一本道なので迷子にはならない。しかし袋小路。でも私は壁と壁に隙間があるのに気づいた。
さらに取っ手もある。これは扉だったのだ。横開きだ。がらがらっと開ける。
「お前はもう一つの物語に興味はないか?」
「あなたは目を覚まし、現実へと戻るべきなのです」
二つの声が聞こえた。左耳と右耳から別の言葉だ。でも聞き取れた。
脳みその中で二つの言葉が本に文字を書くかのように記されていく。
もう一つの物語といえば前にあった私だ。世界を滅ぼしてしまった私。あれのことだとしたら
今更興味がないかとか言われても困る。あれは終わった物語だ。私にとってはどうでもいい。
でももう一つの物語というのが現実への帰還を表すならば。私の知らない世界がそこにある。
白い部屋だった。異様に広く、必要以上の白く、不気味なくらい何もない部屋だった。
ただその部屋にあったのは一つの人型だ。暫ししてからあれが人間であることに気づいた。
私は異世界を旅して人を殺している。殺さないと落ち着かないからだ。ハルトシュラーはそれのお手伝い。
今回の殺す相手はあれなんだ。でもどうやって殺せばいいんだ? 殴り殺せばいいのか?
ふと右手の籠手が目に入る。そうだ。これの形を変えればいい。どうやるんだっけ。
膝に力が入らず、その場に倒れこむ。考えようにも考えが集まらない。みんなてんでばらばら。
視界がぼやけてきた。このとき始めてこの感情の正体が睡魔だということに気づいた。
夢の中で眠くなるなんておかしな話だ。眠っているのに眠る。目を覚まし現実へ戻るというのは
夢で目を覚まし元の世界へ戻ることを指しているのか? あれ、でもこれは夢の世界と見せかけて
ハルトシュラーと旅に出てるだけで夢ではないとか言ってたような。
まぶたがおちてくる。目を開けていられない。人影が寄ってくる。傍まで来て膝をついた。
すぐ近くだ。手が届く範囲。確実に殺せる範囲。でもどうやって殺す? 殴る? 時間がかかる。
部屋の電気が消えた。いや、まぶたが下りた。だめだ。もう。
「長いつらい夢をお疲れ様。もしもこれが物語であるならばそのオチはきっと……」



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