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act.4

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act.4



シアナは部下の騎士達を率い、フレンズベルの城へ帰還した。
早速、騎士隊を総括するズイマ騎士総長の元へ報告へ向かう。
総長は王と同様に、全ての騎士隊に命令を下す権限を持っている。
総長の意が騎士隊全ての総意であり、騎士隊の中で最も偉い人間がこのズイマであった。
首まで伸びた白髪は年齢を感じさせるが、若々しい表情からは老いを全く感じられない。
年齢は五十前半という話だが、直接聞いたわけではないので実際年齢は不明である。
剣の腕も確か。ダンディな容姿から騎士隊の中だけでなく、国民からの人気も高い。
勿論それはシアナも例外ではなく、尊敬できる上司の一人だ。
シアナの簡素な報告を、いかめしい顔で聞いていたズイマは話を聞き終えると、緊張を解いて微笑んだ。

「……ご苦労だった。森への討伐、疲れただろう。今日はゆっくり休むといい」
「はっ、お気遣い光栄にございます」

「それはそうと。シアナ。お前の隊員のイザークはどんな様子だ」
「どんな様子、と申しますと……」
「うまくやっているかね?」
シアナは正直に伝えようかしばらく逡巡して、結局「ええそれなりに」と一言でまとめた。
「そうか。あれの父親とは古くからの知り合いなんだが……。息子の様子を心配していたものでな。
勘当したとはいえ、 やはり一人息子が可愛いのだろう。うまくやっていると伝えておく」
父親……シュトラール家の当主か。それにしても勘当されていたとは初耳である。大方、騎士隊の入団に際して
もめたのだろう。

「もう行っていいぞ。何かあった時はまた連絡する。……ではな」
「はっ。了解いたしました。それではこれで失礼致します」
シアナはさっと敬礼し、部屋を出た。

……ゆっくり扉を閉める。
これから夕飯を取りに寄宿舎へ向かおうとしたのだが――

「よお、随分長話だったな」

嫌な奴が現れた。思わず顔が引きつりそうになる。
「……エレ」

いつからそこにいたのか。壁に背をもたれて、偉そうに腕を組んだままシアナを眺めていた。
真っ黒な甲冑、マントを身に纏い、全身真っ黒に染まったような出で立ち。
ぎらぎらと、凶悪な色を宿した血潮のように紅い瞳。
均整の取れた体躯は騎士というには細身ながら、獰猛さと粗暴さを感じさせるその雰囲気を見るものに与える。
獣じみた空気を放ちながら、周囲を侵して行く。シアナの五感全てがこの男は危険物だと伝えていた。
そしてそれは、この上ないくらいの事実である。この男は危険だ。安全とは真逆にいるような男。

目の下には、茨を思わせる刻印があった。……エレも、また刻印の所有者である。
ただシアナのものとは別種のものであったが。
品定めをするように向けられる視線が疎ましい。

ああ、気に入らない、気にいらない。この男の全てが感に触る――!!

「何の用?……くだらない話なら帰るわよ」
きっぱりと開口一番撥ね付けると、エレは愉快そうに唇を吊り上げた。
「くくっ。しばらく待たしておきながら随分なご挨拶だな」
「待っててなんて一言も頼んでないけど」
「この俺が待ってやったんだぞ。礼の一つでも聞かせてみろ」
「誰が……!!」
この傲慢不遜唯我独尊男、と言い出しそうになってかろうじてこらえる。
怒鳴り声が騎士総長に聞こえてしまう可能性を危惧し、声を落とした。

「用件を言いなさい。でないと今すぐ帰るわ」
「……ふん。気が短い女だ。……ならば率直に言うぞ。いつまでこんな所で甘んじている?」
「どういう、意味よ」


エレは壁から離れ、シアナに一歩接近する。
反射的に後退るシアナに構わずどんどん近づいてくる。
反抗する間も与えられず、腕を掴まれた。
「お前なら、第一騎士隊隊長の席に昇ることも容易いだろう。それを、何をぐずぐずしている?
甘ったれの若造や、無能な輩共のおもりをする為に騎士になったのではないだろうに」
「それは、私の部下のことか」
「他に誰がいる?弱いんだよお前の隊は。害虫が」
ぷちっと。何かが切れた。……部下を馬鹿にされて黙っていられるほど、シアナは穏便な性格をしてはいない。
腕を振り解いて、そのままエレの顔面を殴りつける。
続けざま、中段から蹴りをくらわそうと攻撃の体勢に入った。エレの懐を狙って蹴りを放つ!!
……腐っても男は第二騎士隊の隊長、爪先がエレの位置に届いた頃には、既に二、三歩後ろに回避していた。
「ほう。それでいいぞシアナ。それでこそ龍殺しの騎士ではないか。
戦いこそ生業。そうだ、俺はお前とつまらぬ会話に興じたかったのではない!!戦い合いたかったのだ!!」
口の端から血を流しながら、この上なく嬉しそうに対峙する。龍殺しと、この男に言われたことがたまらなく不快だった。
「お前がその名を呼ぶな!!」
「怒り猛る姿、いつもの澄ました顔より似合いだぞ?そうして永劫に怒り続けるがいい!部下の一人まともに鍛えられぬ自分を悔いて憤怒するがいい!!」
「黙れ!!じゃないと今すぐ地を這わせてやるわ!!」
「ふん。やれるものならやってみるがいい」

余裕綽々に挑発してくるエレを見据える。強さなら、おそらく互角。今まで何度か討ち合いしたことがあるが、決着は着かなかった。
シアナの武術は剣においても頑なに習った教え、正攻法を守り通そうとする。それに対してエレは我流。
時々、外道とも思えるような戦法すら躊躇いなく使ってみせる。それを指摘すると、エレは嘲る様に言うのだ。
「殺し合いに、反則も、規則もない。……お前が守るのは自分の中の信念であって剣術じゃないだろう。
意味を取り違えるなよ。俺は俺の好きなようにやっているだけだ。どんな方法であれ、
勝てばいい。戦いとはそういうものだろう。例え騎士でああろうとな」
それが許せない。騎士は人の見本であるべきだ。人格者として尊敬されるに足りる人間であるべきだ。
非道な行いを善しとし、人の道に背くのなら、それはもはや騎士ではない。
卑怯な振る舞いは、その人間を貶めるからだ。
騎士になる時に、それは嫌というほど叩き込まれるはず。それをこの男は、無意味なものだと、哂うのだ。
ならば、お前は、何のためにここにいる? 国を守るためではないのか。民を守るためではないのか。
もし何の意味もなくここにいるというのならば、その性根、私が叩き切ってやる!!

「……いくわよ」




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