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魔女

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魔女


長老会議。この町のあらゆる物事を決定する場所。要は政治を行うところだろう。
会議はさまざまな部門の長、十二人が参加している。
ここでの決定事項はほぼ絶対であり、反対意見の場合は一応役所のほうで受け付けている。
とは言ってもある程度の反対意見が集まらないと意味もなく、今まで反対意見について会議が行われたことはない。
また選出された十二人も過半数が母体が町役場の人間なので要は全て役人の言うとおりになるというわけだ。
「それって会議する必要あるのか?」
「まぁ稀に意見割れして国民投票になったりしますね」
亀という場所に行きがてら、コユキからこの町の話を聞く。
「今回の場合は自衛団の隊長が欠席扱いなのでうちからは補佐官が出てるんですよね」
「副隊長が出るんじゃないのか?」
「最初はそういう予定だったんですけどね。役所のほうから召集をかけられたのは補佐官でした」
ということは補佐官は役所とべったりと考えてもおかしくないな。
それ相応の手段というのも役所からの何かなのだろう。
村ではそういう機関はなかったから想像でしかないが罰金や何かしらの懲罰のことを指しているに違いない。
「そういえばこれから行くとこについて説明してませんでしたね。
 これから亀と呼ばれている人のところに案内します」
「人? 亀というのは仇名なのか」
「ええ、私は先生と呼んでいます」
いくつかの角を曲がり、そのたびに人気がなくなっていく。
最初は扉が付いていたのに段々と左右は壁しかない。
既に陽は傾き始め、高い建物に囲まれた路地に暗い影を落としている。
時々出っ張った何かに足を取られそうになりながら、コユキに着いていく。
「着きましたよ。ここが先生の家です」
暗がりの中に建つ一軒の建物。周りの石造りの家と明らかに異なる木で出来たちぐはぐな建物。
そこだけが別世界の場所かのような錯覚を覚える。それほど周りの建物からも、現実からも剥離している。
コユキは扉を叩かず、そのまま中へ入っていく。
「せんせー! ソーニャさんをお連れしましたよー!」
何の躊躇いもなく、明かり一つない家の中にそのまま入っていく。
付いては行くもののどこで靴を脱げばいいかすらわからない。というか土足のままでいいのか?
「あ、ソーニャさんは待っててください。下手に歩くと危ないんで。ここ」
上げていた足をゆっくり後ろに戻し、家の外へ逃げようとした。
扉が勝手に閉まった。誰もいないはずなのに。置く場所を失った足を慎重に下ろす。
建てつけが悪いに違いない。つま先を軸に回転してドアノブを捻ろうとする。
ない。それどころか扉にも手が当たらない。目の鼻の先にあったはずなのに。
唯一の明かりの漏れどころだった扉が閉まり、完全な闇がソーニャを囲む。
何かの気配を感じ、腰の獲物に手を添える。小さな、引きずるような音。
決して恐怖に囚われてはいけない。この状況だからこそ混乱せずに心を落ち着かせる。
気配を目で追う。見えるわけではない。ただもしも何かがあったとき。
場所がわかったほうが斬り易い。ただそれだけだ。
「シラけるねぇ」
灯りが一つ点き、闇を払う。
不健康そうな少女が手に灯りをそのまま持っていた。
「もっと反応してくれないと面白くないだろう」
「お前が……」
亀か。その言葉は悲鳴で遮られ続くことはなかった。
ソーニャはこの声を知っている。間違いない。コユキだ。
悩むよりも早く。声の元へと行くために暗がりに足を踏み入れた。



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