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村を出て七日目。ソーニャは草原を歩いていた。
吹く風は優しく、足元の小さな草は静かに揺れている。
少しだけ高い丘の上でソーニャは目的地を目視する。
草原の中に突如現れた高い防壁。色合いから考えると石で出来たものなのだろう。
防壁の上には人の歩けるスペースがあるらしく緑の点が動いている。
その防壁の奥に見える赤茶色の屋根と白い壁の家々。
「あれが町か……」
遠景から見るだけで村よりも遥かに大きいことがわかる。十倍、いやもっとだろうか。
緑の海を横断する茶色の線はあの地へと伸びている。
この調子なら正午前には辿り着けるだろう。そう思いつつソーニャは歩き出した。

薄汚れた防壁を見上げる。近づいてみると石を組んで建てられたことがよくわかる。
高さはおおよそサーニャの五倍はあるだろうか。村にある木で出来た防壁ですらサーニャの三倍程度で数ヶ月かかった。
この高さや広さを考えるとおそらくは数年、数十年とかけて作ったのだろう。
だがそれと同時に平穏を手に入れた。これだけの防壁だ。早々に壊れることはない。
ゆえに空からの襲撃に警戒し、それに対しての備えをしている。
これほどの規模の設備を整えることは出来ないが中の設備で村にも流用できるものもあるかもしれない。
どうせならそういったものを持ち帰って村の発展に役立てよう。
「そこのお前。何をやっている」
ソーニャが一人で頷いていると門番の男に咎められた。
慌てて懐から一枚の手紙を出して男に手渡す。
最初は胡散臭げな目つきをしていたが手紙を読んだと同時にその顔色は一変し
「そ、そうしょうお待ちくださいませ!」
と噛みながら戻っていった。
ソーニャもそれに付いていき、門の前で待つ。
門は二種類あり、一つは荷馬車などを通すようであろう大きなこれまた石で出来たもの。
もう一つは人用の小さな門。
小さいのはさておきとしてこの石扉を人力で開けるのはおそらく不可能だろう。
しかし何かに仕掛けを使ったところでこんな重そうな物を動かせるのだろうか。
言うまでもないが村には石扉などない。木で出来たものを紐を引っ張って開けるのだ。
しかし村のあんな小さいものでも何人かが力を合わせないと開けることが出来ない。
この大きさで石となると何十人もの男たちが開けるのだろうか。
その図を想像して少しおかしくなる。
そこに丁度荷馬車を引いた行商人らしき一行が辿り着いた。
主人らしく男がソーニャをじろじろ見ながら門番の男に紙を手渡す。
門番の男はそれを読んだ後、紙を主人に手渡し小さなベルを鳴らした。
それは目を疑う光景であった。石扉がゆっくりとだが一定の速度で開いていくのだ。
口を開けて見ている人間が珍しいのか門番の男がソーニャに話しかけてきた。
「なんだい、うちは初めてか?」
「あ、ああ。そうだ。私は村から出ることがなかったからな……」
「村って言うとなんだい。まさかあの秘境にあるとか言う最果ての村か。まさかな」
「そのまさかだ」
「おっとこれは失礼。そういえばあの村には魔法使いがいないと言う話だったな」
「ということはこれが……」
「そうだ。いわゆる魔法ってやつさ」

軽口の門番が言うには先ほど鳴らした小さなベルも魔法道具の一種であの音に反応して扉が開閉するようになっているそうだ。
さすがにこのベルは売ってはいないが一般人にも魔法の道具は販売されているらしい。
そういった道具は町中にある魔法工房で作っているそうだ。魔法に疎いソーニャには信じがたい話だ。
門番の話を聞いていると先ほど手紙を渡したほうの門番と中年の男がやってきた。
彼らは総じて緑を基調とした服を着ているが中年の男は門番のそれよりも少々豪華に見える。
軽装の鎧をしていることから自衛団の者であるのはわかる。
中年の男はソーニャを見て驚いた顔をした後、それを打ち消すために歪んだ笑みを浮かべた。
「え、や、これは遠方から感謝致します。や、これは、ええ、まさかこれほど若い、ええ、女性だったとは」
なんだろうか。言葉の間に一言入れないと喋れないのだろうか。
とりあえずそう言った言葉を飲み込み、男の言葉を待つ。
「え、あ、私はこの町の自衛団の補佐官、といった立場のですね。ええ、そういった人間です」
「これからご迷惑をかけると思いますがよろしくお願いします」
型通りの挨拶をして、お辞儀をする。確かに見た目は普通の中年だし言葉もあれだが補佐官である以上は
そこそこの実力を持つ男なのだろう。
しかしそもそもにしてその補佐官という役職は村にはなかったのでいまいちどのようなものかわからない。
「え、や! むしろ頭を下げるのはこちらのほうです。ええ、あの『白騎士』のソーニャさんに、ええ、来ていただけるなんて」
「ほう。あんたが、いやあなたがそうでしたか」
先ほどまで軽口を叩いていた門番まで言葉を改める。ソーニャは混乱する。そもそもしろきしってなんだ。
確かにソーニャは白い服装を好む。それに持つ武器も白いし、ついでに髪も白い。
ふとかつて村の団長になった青年が言っていた言葉を思い出す。
「世の中には二つ名をいうその人間をわかりやすく示した名があるらしい。
 お前は全身白いしそのままの名前が付けられそうだな」
彼はこれのことを言っていたのだろう。どのようにして伝わったかはわからないが
ドラゴンを切り伏せた白い騎士がいるというのが行商人を仲介に町へと広まったのだろう。
知らぬは本人だけ。と言ったところか。そもそも馬に乗れないのに騎士なのか?
色々な物事に不安を感じながら、ソーニャは中年の男に案内されつつ町へと足を踏み入れた。



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