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タイトル未定 ◆KazZxBP5Rc

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タイトル未定

作者:◆KazZxBP5Rc

西堂氷牙は地震の揺れで目を覚ました。
辺りは暗く、どうやらまだ夜中であるらしい。
頭上を見れば木の葉の隙間からいくつかの星が覗える。
木の葉? 星?
おかしい。野宿などした覚えは無い。
だが、詮索は後回しだ。
闇の中に、自分を取り囲むように光る目、目、目。
「なんや、新種のキメラか?」
寝起きの軽い運動とばかりに、氷牙は両手を真横に広げる。
一斉に飛び掛ってきた異形の者どもは、瞬く間に一体の例外も無く氷漬けにされた。
「さて、と。」
改めて、自分がなぜこんな所にいるのかを考えるために、土に腰を下ろそうとする。
が、それはまたしても遮られることになる。
木々の向こうから、今度は人間の声が聞こえてきたのだ。
「おい、こっちに逃げたぞ!」
数秒して武装した男たちが現れた。
彼らは氷牙と氷漬けの異形を見ると、あっけにとられたような顔をした。

氷牙は男たちに連れられて大きな門をくぐる。
その先には街があった。
中に足を踏み入れながらも、彼らは何か話し込んでいるようだ。
そのうちの一言が耳に飛び込んでくる。
「魔法をあんなレベルで扱えるなんて……。」
耳慣れない『魔法』という言葉。
確かに、現在世界中の人間が持つという特殊能力は様々に呼ばれている。
だが日本で『魔法』という呼称を使うとすれば……彼らはオカルトの集団か何かだろうか。

とある建物の中に入り、氷牙は彼らが「隊長」と呼ぶ男の前に通された。
「“ここ”の武装隊をまとめている門谷だ。」
男が手を差し伸べる。
目を見る限り、危険は無さそうだ。
そう判断して氷牙は握手に応じる。
「S大学研究生・西堂。」
最低限の単語で自己紹介を済ませ、早々に二人は問答に入る。
「それにしても君はなんだってあの森にいたんだ?」
「さあな。俺にもさっぱり分からん。それどころか俺は“ここ”がどこかすら分からんのやが……。」
「“ここ”はイズミだ。」
「イズミ? イズミって大阪の和泉か?」
「その通りだ。」
氷牙は驚愕する。
「俺は確かに東京におったはずやねんけどなぁ。」
そう言ってから、武装隊の詰所らしき室内を見回し、独り言のようにつぶやいた。
「それにしても、大阪もいつの間にこんな物騒になったんや。」
その何気ない一言が、決定的な話の食い違いを明るみに出すきっかけとなる。
「いつって、異形が出てきてからだろう。」
「異形?」
「おいおい、東京にもいるだろう。異形だよ異形。20XX年、日本各地で地震によってできた裂け目から出てきた化け物どもだよ。」
自分の知らない“日本の歴史”を、門谷はさも当然のように語った。
氷牙の頭に、ある“とんでもない仮説”が上る。
その仮説を確かめるため、氷牙は声のトーンを落として尋ねる。
「なあ、ひとつ聞きたい。『チェンジリング・デイ』って知っとるか?」
氷牙の読み通り、門谷は怪訝な顔をして聞き返す。
「なんだ? それは。何かの記念日か?」
これで確定だ。氷牙の知る世界の住人なら、その日を知らない者はいるはずがないのだから。

氷牙は緊張で大きく息を吸い込んだ。
本人は確信しているとはいえ、こんな世迷い言を素直に信じる者はそうそういないだろう。
「俺はどうやら、別の世界から来たらしい。」
そして氷牙は自分の知る世界の全てを聞かせた。
隕石の落ちた日。二つの能力。それを手にした人類が変わったこと。変わらなかったこと。
門谷は決してその話を一笑に付したりはしなかった。
ただし鵜呑みにするということももちろん無かった。
「では見せてもらおうか、その能力とやらを。」
お安い御用だ。
氷牙は右の掌を仰向けにし、空気を凍らせた氷柱を作り出した。
「ふむ……“この世界”の人間が簡単にできる業でないのは確かだな……。」
門谷は思考を巡らせ、部屋の外から部下を一人呼び寄せた。
「もう一度やってみろ。」
氷柱が再び現れる。すると、部下の男が突然叫んだ。
「隊長! おかしいですよ! 魔素の流れが全く感じられません!」
門谷はそれには答えず、あごに手を当て、もう一度考える。
やがて、静かに口を開いた。
「分かった、信じよう。」

翌朝、用意してもらった軍手をはめて、氷牙は門谷の部屋を訪れた。
「本当にもう行くのか? 一日くらいゆっくりしていってもいいだろうに。」
「『善は急げ』言うやろ?」
氷牙は門谷から「手掛かりが無いのならば」と平賀の研究区に行くことを勧められていた。
実を言うと、氷牙には手掛かりと言えるかもしれないものがひとつだけあった。
最近、能力研究者の比留間慎也がパラレルワールドについて調べているらしい。
しかしどうしろというのだ。
彼が本当に絡んでいるとして、決して会えないなら手掛かりは無いも一緒だ。
結局、この世界で今できることと言えば、門谷から勧められた通り研究区に行くことくらいだろう。
「ほんじゃま、おおきにな。」
「ああ、こちらこそ、昨夜は異形を退治してくれてありがとう。」

しかし、この時の氷牙に知る由は無かった。
和泉と研究区の間に“また別の世界”が広がっている、ということを。



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