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「蜘蛛の糸」、「海水浴」、「インク」②

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「蜘蛛の糸」、「海水浴」、「インク」②


328 名前:地獄の日々(海水浴、インク、蜘蛛の糸)1/4 ◆phHQ0dmfn2 [sage] 投稿日:2008/11/22(土) 22:31:44 ID:NMHUpILn

 なあ、ロールシャッハテストって知ってるか?
 紙にインクを垂らして、出来たシミが何に見えるかで、精神分析をする方法だそうだ。
それによると俺の性格は、凶暴、残忍、冷酷、非道……まあ、とにかく最悪らしい。
 自分で言うのも何だが、たしかに俺は悪党だ。ガキの頃から悪さばかりしてて、大人に
なってからは盗みに殺し、何でもござれだ。しかし挙げ句の果てには警察に捕まり、死刑
判決が下された。そしてめでたく刑が執行され……
 まあ早い話、俺は死んで地獄に落ちたんだ。

 さて、お前さん『地獄』って聞いて、どんなことを連想した?
 地の池地獄に針地獄、拷問拷問また拷問、金棒持った鬼どもに、鬼より怖い閻魔様。
 こんなところだろ。
 だがなあ、それが全然違うんだよ。俺も来てみて驚いた、罪人どもは自由そのもの。地
の池地獄で海水浴、針の山でピクニックと、どいつもこいつも『あの世の春』を謳歌して
やがるんだ。
 何でかって?
 まあ考えてもみろよ。今の世の中、善人なんて一握りもいやしねえ。どいつもこいつも
他人をだまくらかし、蹴落とし、てめえがいい思いすることばかり考えてるじゃねえか。
んで、死んだ後、そいつら御一行が次から次へと地獄にやってくるんだぜ。地獄はパンク
寸前ってなもんよ。

329 名前:地獄の日々(海水浴、インク、蜘蛛の糸)2/4 ◆phHQ0dmfn2 [sage] 投稿日:2008/11/22(土) 22:33:45 ID:NMHUpILn

 となると、管理する側はたまったもんじゃない。とてもじゃないが、まともに面倒みき
れる人数じゃねえからなあ。鬼どもは疲れ果てて拷問どころじゃないし、閻魔様の顔から
はすっかり覇気が消えちまった。地獄の責め苦は、今や完全にお役所仕事だ。

 さて、そんなこんなでしばらく地獄で過ごしてみたんだが、悪くない。あくせく働く必
要もねえし、腹も減らない。つまらん犯罪なんて起こる訳もない、なにせ金だの女だの、
もめ事の元になるもんがねえんだからな。
 だが、さすがに飽きてきた。それに、人が多すぎて窮屈だったらありゃしない。何とか
ならねえかなあ。
 そんなことを思いながら、地の池のほとりに寝そべっていると、天から白い糸が降りて
きた。
「さあ、これに掴まりなさい。そなたを極楽へと導いてしんぜよう」
 威厳と優しさに満ちた声が響く。
 ひょっとすると、これが噂に聞く『蜘蛛の糸』って奴かい?
 俺は蜘蛛なんて助けた覚えはないんだが、まあいい。せっかく極楽に案内してくれるっ
て言うんだ、ありがたく世話になろう。

330 名前:地獄の日々(海水浴、インク、蜘蛛の糸)3/4 ◆phHQ0dmfn2 [sage] 投稿日:2008/11/22(土) 22:36:06 ID:NMHUpILn

 糸を昇りきった俺の前には、言葉では表せないくらい美しい光景が広がっていた。
 どんな場所かって? だから『口じゃあ言えない』って言ってるだろうが、この唐変木。
 んで、そこに立つ一人の男……いや、女か? とにかく絶世の美男……いや、美女がい
るんだわ。
「そなたを歓迎しようぞ」
 さっきのあの声だ。するってえと、あんたがお釈迦様かい?
 そう聞くと、神秘的な微笑みを浮かべながらうなずいた。よく見ると、背中には後光が
射してやがる。こいつはたまげた。
 しかし、俺みたいな悪党を極楽に呼んだりして良かったのかい?
「そなたのような悪人こそ、救われるべきなのじゃ。さあ、罪を告白して悔い改めるがよ
ろし」
 おいおい、そいつは宗派が違うだろ。いい加減なこったな。
「そなたもきっと、心を入れ替え生まれ変わることができるであろう」
 だからもう死んでるんだよ、俺は。
 まあ、何にせよありがたい。これからは夢のような毎日だ。極楽極楽……

331 名前:地獄の日々(海水浴、インク、蜘蛛の糸)4/4 ◆phHQ0dmfn2 [] 投稿日:2008/11/22(土) 22:38:10 ID:NMHUpILn

 ……ここは地獄だ。
 しばらくの間、極楽で過ごしてみた俺は、ここへ来たことを心の底から後悔した。
 ここに集まる連中は、どいつもこいつも聖人君子ヅラした奴ばかり。きらきらした目で
お互いを褒め合い称え合う毎日、胸がムカムカしてくる。
 何より大変なのは説法の時間だ。お釈迦様が、ありがたーい教えを朝から晩まで皆に説
いて下さる。周りの連中は、涙を流しながらひたすらそれに聞き入る。だが、俺にとって
は苦痛以外の何者でもない。
 だめだ、これ以上こんな所にいては気が狂う。何とかしなくては。
 頼むから地獄に返してくれ。俺はお釈迦様にそう頼んだ。
「何を言うのです、せっかく極楽に来られたのですよ。気は確かですか?」
 今は確かだよ。だが、このままだといずれ、精神が参っちまう。
「……そうですか。そこまで言うのなら仕方ありません。もう一度、あなたを地獄に落と
しましょう」
 ありがたい……俺の目から、思わず涙がこぼれる。地獄での懐かしい日々に戻ることが
できるのだ。
「気が変わったら、またいつでもおいでなさい。極楽は、あなたを歓迎するでしょう」
 二度と来るか、こんな場所。聞いて極楽見て地獄たあ、このことだ。


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