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「木賃宿」、「妖怪」、「マネーロンダリング」

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shoyu

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108 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/23(火) 00:02:33 ID:4Kip+NQi [1/7]
長めになっちゃいました。ネタスレなのに、すいません。

109 名前:木賃宿・妖怪・マネーロンダリング[sage] 投稿日:2008/09/23(火) 00:11:02 ID:4Kip+NQi [2/7]

日が沈みかけた夕方、とくに何をするでもなく、俺は部屋でぼんやりとテレビを見て時間を無為に過ごしていた。
ここはネットで見つけた木賃宿。山あいの田舎にあるところだ。信じられないくらい格安の宿だった。
だがその分、部屋は狭い上に障子も壁も薄汚く汚れている。テレビなんかもう何年前の物なのかわからない。
俺は何をやっているんだろう……。テレビの音声は耳に届いているが何も感じられない。
楽しいと思えない。だがチャンネルを変える気にもならない。
それも全て、この目の前にあるトランクケースのせいだ。
この中にあるものが俺の心を空っぽにしたんだ。なぜ俺は、こんな仕事に手を出さざる負えなくなってしまったんだろう。


110 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/23(火) 00:12:32 ID:4Kip+NQi [3/7]

思えばバカな人生を送ってきたものだ。
ネオン街の女、パチンコ、麻雀……。これらに溺れた俺はあっという間に借金を重ねてしまった。
借金が借金を呼び、気がつけば3000万の負債を抱えていた。とても俺個人で返せる額ではない。
俺の経済力では高額な利子を払うことすらできやしなかった。


そして俺は迷いに迷ったあげく麻薬組織に入った。上の命令に従って、麻薬取引の一端を担うだけでいい。
莫大な報酬を貰うことができる上に、楽な仕事だという話だった。
実際その通り。初仕事であるにも関わらず俺の仕事はあっけないほど簡単に終わった。
あとは、この大金の入ったバカでかいトランクケースを明日、隣街まで運べばいいだけ。
マネーロンダリングは別の人間がやってくれる。これで俺は報酬として数百万貰えるのだ。


だが良心の呵責がないわけではない。俺はテレビを消して立ち上がると、夕日が沈みかけている山の端を眺めた。
茜色に染まった景色が心に染み入る。これで俺は完全に犯罪者になったのだ。
ふぅーっと溜め息ひとつついて、俺は上着をはおった。夕飯までに時間はある。
このへんはのどかな田舎街で、懐かしい気分にさせられる。散歩でもして気分を変えよう。

111 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/23(火) 00:13:45 ID:4Kip+NQi [4/7]

大金の入ったトランクケースが多少気掛かりだったがトランクにも部屋にも鍵は掛けてあるし
宿泊客は俺以外にいない。何が入ってるかなど誰にもわからないだろうし盗まれる心配はないだろう。


「おじさん、どこ行くの?」
廊下に出ると、小さな女の子が声をかけてきた。さっきも見掛けたが、どうやら宿の子供らしい。
「ちょっと散歩にね……」
「やめた方がいいよ。昼から夜に変わるこの時間はね、妖怪が出るの」
「妖怪……?」
「そう妖怪!怖いんだよ、やめた方がいいよ」
真面目な顔で女の子は言った。このあたりにそんな伝説でもあるんだろうか。
「そうか、それは恐ろしいな。じゃあ、外の風を浴びたらすぐ帰ってくるよ」
「絶対だよ。出歩いたりなんかしたら妖怪に襲われちゃうからね」
「わかった、忠告ありがとな」
俺は女の子の頭の上にポンと手をのせた。女の子の真剣で、不安気な眼差しがまだ俺に向けられている。
俺はバイバイと手を降ると玄関に向かって歩き出した。

112 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/23(火) 00:15:50 ID:4Kip+NQi [5/7]
外は割と寒かった。気温が低いというのもあるのだろうが、吹きつける風が余計に寒さを感じさせる。
「妖怪か……。本当にいるなら見てみたいもんだな」俺はポケットに手を入れたまま呟き、茜色に染まった田舎道を歩き出した。


歩き始めて10分くらい経っただろうか。俺は宿の裏手にある小高い山の中を歩いていた。
山、とは言っても神社の境内に続く道だ。入り口のところにそう書いてあった。
夕闇が迫る時間帯になった上に、伸び放題になっている木々がうっそうと茂っていて、辺りは大分暗くなっていた。
足下もよく見えなければ道もよく見えない。周囲の景色が闇に呑まれていくように見える。
帰ろうか、という気持ちになった。夕飯もそろそろだろうし、トランクケースが気にならないでもない。
でも俺は歩みを止めるようなことはしなかった。神社の前で手を合わせたかった。
神を信じるほどの敬虔な心は持ち合わせていなかったが、麻薬取引に手を出してしまったという背徳感があったからなのだろう。


間もなく、俺は狭い敷地にある境内についた。当然のことながら人影はない。所々が欠けた狛犬が忘れ去られたように鎮座していた。
開けた場所になっているので多少明るく感じたがそれでもやはり暗い。早く用を済ませて帰ろう。
そう思った俺は急ぎ足で、簡素な造りの古めかしい社殿に向かった。

113 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/23(火) 00:17:08 ID:4Kip+NQi [6/7]

「珍しい。こんな時間に、ここを訪れる人がいるなんて」
ふいに背後から女の声がした。心臓がビクッと跳ね、反射的に振り返った。
そこには、妖艶な笑みを浮かべた若い女が立っていた。
薄暗くてもわかるほどの真っ白なワンピース。腰まで伸びる真っ直ぐで艶やかな黒い髪。
明らかに場違いなその様に対して、俺の本能が警告を発していた。危険だ、と。
だが蛇に睨まれた蛙のように足が動かない。なぜだ。
俺の目の前にいるのは、いかつい顔をした巨体の男ではない。
美しい顔をした小柄な娘なのに……。
「何で化け物をみたような顔をしてるのよ。失礼ね」
女は怒ったような口調で言った。それから薄く笑い、長い髪をかきあげた。
「あんた……何者だ?こんな時間にこんな所で何してる?」
俺はそう問掛けた。得体の知れない恐怖に、体が小刻に揺れる。
「それを聞きたいのは、こっちも同じよ。ここはあなたみたいなイイ男が来ても、面白いモノなんてなーんにもないと思うけどな」
女は少女のような無邪気な笑顔を浮かべながら、じりじりと歩み寄ってきた。
「やめろ……来るな」
「なんで?」
俺の顔を見上げるようにしながら女は言った。
「綺麗な顔ね」
「な……?」
「綺麗な顔。私の好みのタイプだわ」
女は両手で、俺の頬を優しく包みこんだ。細い指から伝わる冷たさに、顔がこわばる。
「な、なにを……」
脂汗が背中をつたって滴り落ちた。
「ふふ……あなたからは何をもらおうかな……」
次の瞬間、糸がぷつりと切れるように、俺の意識は闇に閉ざされた。


114 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/23(火) 00:18:46 ID:4Kip+NQi [7/7]
途中で切ってすいません。続きは明日投下します。まだ未完ですが明日には書き終わるはずなんで。

(ケータイです。読みにくかったらごめんなさい)

119 名前:木賃宿・妖怪・マネーロンダリング[sage] 投稿日:2008/09/24(水) 05:57:15 ID:GxZ1zxqV [1/12]
続きいきます

120 名前:木賃宿・妖怪・マネーロンダリング[sage] 投稿日:2008/09/24(水) 05:58:26 ID:GxZ1zxqV [2/12]

朦朧とした意識の中、俺は手足を縛られたまま、固い床の上に寝かされているのに気がついた。
腹筋に力を込め上体を起こそうとしたが、後ろ手に縛られているせいで、うまく身を起こせない。
そのせいで周囲を見渡すことが難しい。それでも、ここがどこなのかは瞬時にわかった。
洞窟の中だ。熊の寝床よりは遥かに大きいのだろうが、八畳間程度のこぢんまりとした空間。
外の気配をまるで感じとることができず、出口へと続いているらしい一本の道は、先が暗くてまるで見えない。
「あら、起きちゃった?」
その通路の先からコツコツと、ゆっくりと近づいてくる足音が聞こえ、次第に闇の中に女の輪郭が浮かびあがってきた。

「気に入ってくれたかしら?ここは私の寝室なのよ」
さっきの女だ。吸い込まれそうになるほどの透明な瞳で、俺を見下ろしている。
「俺をどうするつもりなんだ……?」
「あら、そんな敵意のこもった目で私を見ないでよ。私はあなたを気に入っているっていうのに」
「冗談言うなよ。人をこんなところに連れこんでおいて……」
「仕方ないじゃない。ここじゃないと、私の力は使えないんだもん」

121 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/24(水) 05:59:36 ID:GxZ1zxqV [3/12]

「力……?」
俺は弱々しく呟いた。
「そう。私の"盗み"の力。私はね、自分が生まれたこの場所なら、力を使って目の前の人間のモノを何でも盗み出すことができるの」
「へーそうか。で、俺からは何を盗むつもりなんだ?生憎だが財布には小銭しか入ってないぜ」
「うーん、そうだな……。まだ決めてないんだけどね……」
女はそう言って微笑みながら俺のそばに腰を下ろした。そして、考え込むような仕草を見せながら独り言のように呟いた。
「あなたのトランクケースの中に入ってるお金にしようかな」
全身を衝撃が貫き、寒感が走った。なぜ知ってるんだ……?!誰にも見られてはいないはずなのに。
「麻薬取引、うまくいってよかったわね」
「……あんた、何者だ?」
俺の虚ろな声が、洞窟内に響きわたった。
「私?私は神よ。里には私のことを"妖怪"だなんて失礼なことを言う人もいるけどね」
「神か……」
まんざら冗談にも聞こえない。一種独特な雰囲気を醸し出しているし、何より金のことを知っているのだ。
「神のくせに人様の金を盗もうってか……」
「ふふ、人にだって良い人と悪い人がいるように、神にだって善良な神とそうでないのがいるものよ」
一拍置いてから、女は笑いを含んだ声で言った。
「ちなみに私は後者かな」

122 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/24(水) 06:00:50 ID:GxZ1zxqV [4/12]

「悪い神様ってわけか……」
「でも極悪非道ってわけじゃないのよ。今までもたくさん盗んできたけど、ただ盗むんじゃなくて、代わりのモノをちゃんとあげるようにしてるんだから」

俺は言葉を失ってしまった。どうも頭が状況についていかなくなってきた。しかし、女は構わず言葉を続ける。
「例えば、この顔を盗んだときは私の顔を代わりにあげたの。
この顔ほど綺麗ではなかったけど、醜いわけでもなかったし、今も不自由なく暮らせてるはずよ」
「顔まで盗めるのか……」
「ついでに言うと、この声も貰いものなの。透き通るような透明な声でしょう?」
軽く鼻唄を口ずさむと、女はいたずらっぽく口元に笑みを浮かべた。
「あなたからは何を盗もうかな。いくらでも盗めるわけではなくてね
 一度に盗める数は決まってるのよ。だからいっつも迷っちゃうのよね。」
俺は全身が脱力していた。それが精神的にまいっているせいなのか、女に何かされたせいなのかはわからない。
確かなのは抵抗が無駄だということくらい。何しろ相手は神なのだから。

仔猫を撫でるような仕草で、女は俺の頭を撫ですさると、ゆっくりと立ち上がった。
「もう少し眠っててね。何を貰うのか決めるのにもう少し時間がかかりそうだから。
大丈夫、何を盗んだとしても代わりのモノはちゃんとあげるわ」

そして俺の意識は、再び暗い奈落の底へと落ちていった。

123 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/24(水) 06:01:57 ID:GxZ1zxqV [5/12]

悪夢から逃れるように、俺は勢いよく跳ね起きた。

視界に飛込んできたのは、布団をかぶった自分の下半身と見慣れない、古い和室。
そうだ。俺は昨夜、宿に泊まったのだ。そして……。

少しずつ記憶が蘇ってくる。古ぼけた境内。謎の女。穴蔵のような洞窟。
だがその全てが遠い過去の記憶のように、曖昧で霧がかっている。
夢だったのか……。よかった……。心底安堵した俺は、布団から抜け出すと窓を開け、朝の爽やかな風を浴びた。
気持ちがいい。あとはトランクを持って山を下り、隣町まで行くだけ。
……トランク。俺の脳裏に思い出したくない言葉がよぎった。

『あなたのトランクケースに入ってるお金にしようかな』

やめてくれ。冗談だろ?あれは夢だったんだ。ただの悪夢さ……。そう思いながらもガタガタと体が震えだし、止まらない。
俺は部屋の隅に置かれた真っ黒なトランクケースのもとへ歩み寄った。
心臓が音をたてて鳴っている。俺は震える手でトランクケースの取っ手を握り締めた。
ひと呼吸おいてから、手に力を込めた。頼む……、そう思いながら……。


124 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/24(水) 06:03:26 ID:GxZ1zxqV [6/12]

重い……。トランクケースは重かった。大金を中にぎっしり詰めたときに感じたのと同じ重み。
ふっ、と体の力が抜けるのを感じた。そうだ、やはりあれは夢だったんだ。だいたい、いくら神と言えども
遠く離れた場所にある金を盗めるはずがないじゃないか。
俺は今まで真剣に心配していた自分を鼻で笑った。

さて、出発するか。俺はトランクをとりあえず畳の上に置いた。
汚れた金は早くマネーロンダリングに回したほうがいい。
でも、隣町まで運ぶ前に念のために中を確認しておくか……。
軽い気持ちだった。軽い気持ちでトランクを開けたのだ。
中を見た瞬間、全身の血の気が失せ、視界がぐにゃりと歪んだ。

トランクケースの中に入っていたのは小石と木の葉。万札の代わりに、それがぎっしりと詰まっていた。
再び女の声が蘇る……。

『ただ盗むんじゃなくて、代わりのモノをちゃんとあげるようにしてるんだから』

これか……この葉っぱと石が札束の代わりか……。全身を包んだのは、怒りよりも、絶望に似た感情だった。
何しろ、これで人生が終わったのだ。俺は組織の大切な金を失ってしまった。
幹部に何て謝ればいい?「神様に盗まれちゃいました、ゴメンナサイ」とでも言うか。
だめだ、殺される。いや、どんなふうに謝ったところで殺されるだろう。


125 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/24(水) 06:04:32 ID:GxZ1zxqV [7/12]

俺はくすんだ色の天井を仰いで大きな笑い声をあげた。
逃げたって無駄だろう。麻薬組織と借金取の集団に終われて逃げ切れるはずがない。
俺は空っぽの心のまま机の上のケータイを広いあげた。正直に話そう。何をしても無駄なのだ。
それならせめて、最後くらいは正直に生きよう。
俺は覚悟を決めて携帯電話の電話帳を開いた。

……ない。どこにも組織に通じる番号はなかった。続いて俺はリダイヤルをしようと試みた。
しかし、やはり番号は消えていた。俺が組織と通じていたという形跡は何もなかった。
どういうことだ……まさかあの女は組織の電話番号を「盗んだ」というのか?

俺は車に乗り込んだ。とにかくトランクを運ぶ予定だったはずの所へ行ってみよう。
そうすれば、何が起こったのかわかるはずなのだから。
キーを差し込み、エンジンをかける。俺はシートベルトを締めることも忘れてアクセルに足をかけようとした。

126 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/24(水) 06:07:50 ID:GxZ1zxqV [8/12]

そのとき、助手席に一枚の封筒が置かれていることに気がついた。全く見覚えのない、宛名書きのない茶色の封筒。
俺は気になって、封を切り、中を見た。


「色々と悩みましたが、あなたからは以下の物を盗ませてもらいました」

昨日見た女の秀麗な顔が頭に浮かんだ。盗んだのは、金だろ?そう思いながら文字を下へと追って行く。

「あなたの"仕事"」

俺は、はっとして目が覚めるような感覚を覚えた。
そういうことか……。あいつは俺の金を運ぶという仕事そのものを奪ったわけだ。
それならば電話番号が消えていたわけもわかる。あいつは俺と麻薬組織の関わりを絶たせたわけだ。
俺はくつくつ、と笑った。さすがは神様。人を正しい道へと導いたわけだな。
だが、これで、俺は組織から報酬を受け取る機会を失った。まともな仕事に就いているわけでもないのに
あの莫大な借金を返さねばならない……。悪事から手を引けたことに、ある種の安心感を覚えていた。しかし、この後、俺はどうすればいいのか……。
完全に意識が手紙の外へ行っていたことに、はっとして、再び視線を手紙に落とす。

「それから、もうひとつ」
なんだ、いったい?もう俺にとって盗ませて困るものはない。何を盗まれていたとしてもショックは受けまい。

127 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/24(水) 06:10:30 ID:GxZ1zxqV [9/12]
「あなたの借金」

俺は言葉を失った。そして、しばし呆然とした後、ようやく我に帰った。
借金が盗まれた……?それは借金取りから自由になったということか。
あの女は俺のことを気に入ったと言っていた。どうやら冗談ではなかったらしい。
「悪い神様どころか……俺にとっては女神様じゃないか……」
俺はひとりごちた。では、代わりにもらったものは何だ?
「まぁ、何でもいいか……」
男はアクセルを踏み、車を発進させた。今なら何だってできる気がする。
田んぼの脇の畦道を、太陽が明るく照らしていた。
代わりにもらったもの……それはひょっとしたら、燦然と輝く"未来"なのかもしれない。

128 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/24(水) 06:33:04 ID:GxZ1zxqV [10/12]

「ふふふ……」
洞窟内に女の笑い声が木霊していた。暗い穴蔵の中で女は腰かけ、一人の男の頭を撫でている。
「あなたは今、どうしてるのかな……」
うっとりとした恍惚の表情を浮かべながら、膝の上に置かれた虚ろな男の顔をのぞきこむ。
「あなたは永遠に私のものよ……。嬉しい?」
魂の抜け殻となったような男は当然、返事はしない。ぐったりと女の膝にもたれかかったままだ。

「あなたからは色々もらっちゃな……何でかしら。いつもは数の制限があるのに今回はなかったの……だからね……」
女は口元を緩め、宝物を数えあげるように静かに語り始めた。
「あなたの仕事でしょ、それに借金。ふふ、盗んだことをあなたに教えたのはここまで」
女は、その細く美しい指で、男の頬を優しくつついた。
「あとはね……あなたの命。だってあなたが欲しくなったんだもの。仕方ないじゃない。でもね、大丈夫……」
女は目を細め、再び男の頭をゆっくりと撫で始めた。
「あなたの記憶も盗んでおいたわ。命を盗まれたこと……つまり、死んだことなんて覚えていない。だから、あなたの亡霊は生き続けるはずよ」
女は歌うような口調で言った。
「本物のあなたは……永遠に私のもの……」
言い終えると、静寂が洞窟内を包んだ。しっとりと湿った土壁の中は、幸せな空気で満ちていた。

129 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/24(水) 06:34:54 ID:GxZ1zxqV [11/12]
以上で終わりです~


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