人外と人間

ビターチョコレート×少女 甘い恋人

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甘い恋人 903 ◆AN26.8FkH6様

ドアを開けたら、部屋の真ん中に人間サイズの板チョコレートが立っていた。
何を言っているのかわからないと思うが、都もわからなかった。
部活で疲れた頭が幻覚を見たのかもしれないと思って目をこすってみたが、その幻覚は消えなかった。
板チョコは、「やあおかえり」と甘いバリトンで出迎えてくれた。
都の手からドサリと鞄とスポーツバッグが落ちた。

「疲れてるんだ私……」
「それはいけない、甘いものでもどうかな」

板チョコが、ベッドによろよろと腰掛けた都の顔を覗き込んだ。
カカオの甘い匂いがする。
シュールだ。非常にシュールだ。
成人男性ほどもある2m弱の板チョコレートである。銀紙に包まった上から、紙のパッケージが巻いてあり、
茶色いパッケージには優美なフォントでBitter chocolateと銀の箔押しがされている。
パッケージデザインだけを見ると、都が愛しているメーカーの板チョコレートによく似ていたが、
パッケージのどこにもメーカー名は見当たらない。

「あの……どなたですか」

都は恐る恐る聞いてみた。もしかしたら、これは何かの壮大な冗談なのかもしれない。
クローゼットの中からドッキリのプラカードが出てくるとか。隠しカメラがついていて、
誰かがどこかでこんな彼女の様子をみて笑っているとか。

「名乗るほどのものでもない。ただのビターチョコレートだよ」

板チョコは優しく囁いた。

「えっと、普通ただのチョコレートは」
「ビターチョコレート」
「ビターチョコレートはしゃべらないと思うんですが何でですか」

この状況に流されまい、何か言わねばなるまいと、都は一生懸命に聞いた。聞いたのだが

「何故といわれても……愛?」

質問に疑問系で返ってきた。質問には質問で返すなと教わらなかったのかこのカカオマスが。

「意味がわかんないです……」

少し脱力気味に都は頭を落とした。もしかして何か脳の病気にかかっていたらどうしようという
怖い考えが浮かんできて、慌てて頭をふる。

「愛っていうのは多分、いつも愛してくれている君への愛なんだと思う」

確かに都はチョコが大好きだった。愛していると言ってもよかった。
太る、にきびができるなどの乙女にとっての一大事理由から、一週間に板チョコは三枚までと
固く制限はしていたが、都は板チョコが大好きだった。この少々酸味のある苦さと絶妙な甘さ、
歯に当てた時のパリっとした感触、喉を通っていく濃厚なチョコレート味。
糖分を摂取するときに脳が恋愛時のような幸福感を感じるというが、それならば都がいつも感じるのは
恋の甘さなのかもしれなかった。
まさしくスイートエクスタシー。祝福しろ、天国にはチョコレートが必要なのだ。
だからと言って、部屋に巨大なチョコの幻覚が現れることへの説明にはならないのだが。
でも、そんな都だからその台詞には少しときめいてしまったのだ。
漫画や映画の中でしかお目にかかれない大仰な台詞も、じかに耳障りの良い甘い声で愛して止まないカカオマスと砂糖、ココアとバター、粉乳で出来た甘い被造物の愛の告白は心地よく
都の硬直していた脳を溶かし、酩酊させていくようだった。

「チョコさんは私の事好き?」
「そうみたいだ。ほら、胸がドキドキしてたまらない」

都がそっと手を伸ばすと、チョコレートのパッケージの上からでもドキドキという鼓動が伝わって
くるような気がした。

「私も、チョコさんの事大好き」

うっとりと少女が囁くと、ハラリと紙のパッケージが外れて落ちた。
銀色の包み紙が端からビリリと慎ましやかに破れ、茶色く滑らかなカカオマスの四角い角が艶かしく
顔を出した。
板チョコはまるでゴム板のようになめらかに身体を曲げると、チョコレートの露出した上部を
ベッドに座っていた都の顔に近づけてきた。
先ほどと比べ物にならないほどの濃厚な甘いチョコレートの香りがただよってくる。
都はそっと目を閉じた。男性経験などなかったが、それでもこれがどんな意味を持つのか、
これからどんなことが起こるのか、少女には理解できた。
部屋の中に巨大板チョコがいた時の衝撃などとうに吹っ飛んでしまった。
板チョコレートとキスをするというシチュエーションにもはや何の疑問も抱けなかった。
ああ、キスされちゃう。
ドキドキと胸が痛いほどに高鳴った。
これがきっと、恋なんだ。少し震え、制服のスカートを握り締める少女の唇に、少し固い感触が触った。
固さはすぐに柔らかくなり、柔らかく甘い感触は都の唇の中にねっとりと忍び込んできた。
甘い。
これがキスの味……。
濃厚な甘さがあとからあとから口の中を蹂躙し、咥内を満たして喉の奥まで流れてくる。
ぬるいホットチョコレートを飲んでいるような気分だった。
体の中の中までチョコレートでいっぱいになって、体中がチョコレートになってしまうようだ。
脚の間が熱い。甘いチョコの匂いに、頭が痺れる。
銀紙が、都の身体をそっと包んできた。
気がつくと、都は左手でブラウスの下からその控えめだが形の良いやや小ぶりの乳房を愛撫し、
右手をスカートの中に入れ、下着の上から濡れそぼった秘所を何度も撫で回していた。

「体の中、全部チョコレートになっちゃう……こんなの…だめぇ……」

舌ッたらずな甘い声が少女の唇からこぼれた。
上部が溶けかけた板チョコレートは、嬉しそうに都の耳元で甘く囁きながら、ゆっくりと覆いかぶさってきた。

「君に食べられてしまいたい…。どうか全部食べてくれないか、君の中に入りたいんだ」
「来てぇ…チョコさん来てぇ…二人で一緒になろぉ…?」

ふとももに絡みつく銀紙がスカートを捲り上げてくる。
都はうっとりと目を閉じた。



「あれー不二家、何かいいにおいする?」
「そう、かな?さっきチョコ食べたから、その匂いじゃないかな?」

クラスメートから声をかけられた都は、曖昧に微笑んでみせた。
控えめで可愛らしい彼女の笑顔は、甘い匂いとともに、とろけるような色気を感じさせた。
男子生徒は慌ててその顔から目を逸らす。強烈に反応しかかった股間がどうか彼女に気がつかれて
いませんようにと願いながら。

「うふふ、チョコさんの匂いが残っちゃったかな…?」

少し自分の制服の匂いを嗅いでみた都は、うっとり笑った。
非常食と称していつも入れている鞄の中の小さなチョコ袋から「君は良い匂いがするよ、愛する人」と
甘いバリトンが聞こえたが、その声は教室の他の誰にも気がつかれることはなかった。

「みやこー、ポッキーいるー?」
「あっいるいる、一本ちょうだい」

友人から差し出されたチョコポッキーから「愛してるよ」と声が聞こえた。
都は微笑みながら「私も」と答え、パクリとくわえた。

「何か言った?」
「ううん」

口の中に広がる甘さに恍惚となりながら、都は何気なく答えた。
チョコレートに愛される。なんて甘美なのだろう。





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