人外と人間

竜鱗族軍人×人間♀ 夫婦

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前スレぐらいで短いネタで書いたのを少し書き足したんで出しとく。
同種の雌が生まれないなら人間の女を嫁にすればいいじゃない、な話の。
 → 小ネタ置場 五「竜鱗族軍人」

竜鱗族軍人×人間♀ 6-198様

 軍人の朝は早い。夜明けとともに起きたエギンが階下へと向かうと、
台所からはパタパタと立ち回る軽い足音がする。
 勤めに出る夫に供する朝餉の支度に忙しい、出来たてほやほやの新妻である。
 どのぐらい新しいかと言うと、嫁いでこの家に来て共に過ごしている日数が指十本で充分事足りるぐらい新しい。
 共に暮らす日は浅いが、すこぶる出来た妻だ。全く違う世界に連れられてきたというのに、
自分の意に従おうと一生懸命いじましいまでに振舞っている。
 本当に良い妻だ。その献身をはたして自分が受けるに値する身なのか、エギンにとって目下一番の深刻な悩みである。

 嫁取りは前夜碌に眠れぬほど心配した割にはスムーズだった。
 歪曲円環装置で送り出された人間世界では、現地に着いた途端に、うら若い娘が真っ白な、いわゆる花嫁装束に身を包んでぽつねんと目の前にいた。
 何というチート。
 時間と手順がすっ飛んだというレベルじゃない。
 出発前に人間の生態を大まかにエギンに教授した教務官の言うところでは、なんでも昔から竜麟族はこの地の住民に干渉し、
土着信仰の形で年頃の娘を差し出すことを定着させているのだという。だから今回もエギンの嫁取りを神託と称して事前告知してあるので、向こうに行ったら対の装置のある山の中の神社に娘がもう来てるぞ、と。
 見返りにこちらでは珍重されるがエギンの世界では全く価値のない金銀財宝や、
ちょっとした土壌改良や人間の糧となる植物の種を信仰の対象である竜神からの恩寵という形で与えているので、人間たちもへへぇーとばかりにありがたがってなかなか結構この世界で嫁に困ることはないのだそうだ。
「他所の種族の連中もこっちと似たようなことやってんだろうなあ」とは教務官のぼやきである。
 双方得して諍いはない。理想の関係といえる。
 それはともかく、初々しい花嫁を前にしたエギンはまずどうしたか。
 なにもしていない。

 それどころかその場でぶっ倒れた。
 現地の気候は例年のデータから十分活動に堪えうる気温であると算出されていたのだが、
その年に限って季節は夏なのに晩秋並の異常寒波が襲っていたのだ。
 技術官が面倒くさがって事前調査を怠ったのが運の尽きだ。
 竜麟族は寒さに弱い。
 行動不能に陥ったエギンを前にして、花嫁は驚きの顔を隠さず一旦どこかに姿を消した。
すぐに戻ってきたその両腕には、前が見えなくなるくらいの沢山の枯れ木が抱えられ、
それで火を熾し、自らも裸になってエギンの体に寄り添い、
エギンを温めようとした。
 おぼろげな意識の中でエギンは覚えている。自分よりもずっと小さく華奢で脆弱な存在が、
異形の存在に恐ろしさを感じぬはずがないのに、
懸命に縋りついてその温かさを分け与えようとしてくれたことを。
 鱗を通して沁み渡るようだった。
 問題はそのあとだ。
 寒さで硬直した体を必死で温めてくれたその優しい娘を、朦朧としたままエギンは抱いてしまった。
 半ば本能的な行動だったといってもいい。二通りの意味で、まるで夢のようだった。
ミチミチと、細く柔い体の、肉を、無理やりにこじ開けて猛りのままに捩じ込んでゆくその愉悦。いっそ砕けよとばかりに揺さぶり、突き立て、初めての射精をぶちまけた。
 事前に教本まで用意されて散々教え込まれたことだ。人間は自分たちとは体のつくりが違うのでその扱いには細心の注意を払うべきと。
 本当はもっと、契るのはまだ先で、今日は迎えに行くだけの心積もりでいたのだ。
 ハッと気がついた時には全部がもう終わっていた。
 ぐったりと気を失った娘、嫁入り前に十分洗い清めてきただろうに、
いまや血と精液に塗れて酷く汚れた体。
 何より細い指先の幾つもの小さな切り傷を目の当たりにした時が一番エギンに堪えた。
紛れもなく、娘がエギンを助けるために枯れ枝を外で大急ぎで?き集めたときに付いた傷だ。
 いっそ死にたいとマジでエギンはへこんだ。
 傷ついた裸体を脱ぎ捨てられていた花嫁衣装で覆い、大事に大事に抱え上げる。
片腕をかざすと、竜麟族特有の因子に反応し転送装置が微かに青い光を放ち始める。
 こんな自分に果たして添おうとしてくれるだろうか。
 多大な罪悪感と、腕の中の温もりと。
 まだその名すら知らない花嫁を抱きかかえ、エギンは迷いつつも光の中に踏み出した。

 新妻は優しく、献身的である。
 こちらの世界に慣れようと努力し、手ずから作って出してくれる料理はどれも美味い。
 エギンはまだ、共に暮らすこの家の、二人のための寝室を妻に全て明け渡したまま、一度も共寝をしていない。





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