総括所見:ネパール(第1回・1996年)


CRC/C/15/Add.57(1996年6月7日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1996年5月29日および30日に開かれた第301回~303回会合(CRC/C/SR.301-303)においてネパールの第1回報告書(CRC/C/3/Add.34)を検討し、以下の総括所見を採択した(注)。
  • (注)1996年6月7日に開かれた第314回会合において。

A.序

2.委員会は、ネパール政府に対し、第1回報告書、事前質問事項(CRC/C.12/WP.3)に掲げられた質問への回答としての文書による情報、および、委員会との対話の過程で締約国によって提供された追加的情報の提出に、謝意を表する。対話の過程で、締約国の代表は、政策およびプログラムの方向性のみならず、条約の実施の過程で直面した困難も、自己批判的な形で明らかにしてくれた。

B.積極的な側面

3.委員会は、法改正の領域で政府がとった努力、とくに、子どもの権利を確保するための特別な節を設けた新憲法、および、子どもの権利に関わる多くの領域を対象とする子ども法の採択に、留意する。委員会は、拷問および他の残虐な、非人間的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰の禁止ならびに被害者補償制度に関するものを始めとして、政府が現行法の再検討に前向きな姿勢を見せていることに、満足感とともに留意するものである。委員会はまた、政府が国際労働機関第138号条約の批准に前向きであることを代表団が認めたことも、歓迎する。
4.委員会は、子どもの問題および子どもの権利の問題に対処する機構、とくに中央子ども福祉委員会および郡子ども福祉委員会を設置するための政府の努力を歓迎する。委員会はまた、「女性および子どもの発達のための国家評議会」および国家計画委員会事務局内の「子ども女性開発部」が最近設置されたことに、満足感とともに留意するものである。
5.委員会はまた、差別、児童労働、子どもの取引、子どもの売買および少年司法の運営の領域に関するものを始めとして、子どもの権利に関する条約の規定が全面的に実施されるようにするための国際的助言および技術的援助に関して、締約国が開かれた態度をとっていることにも、評価の意とともに留意する。
6.委員会は、締約国が国家行動計画を採択し、かつ、「1990年代における子どもと開発のための10か年国内行動計画」を策定したことに、満足感とともに留意する。
7.委員会は、締約国が、子どもたちの組織を始めとする非政府組織との協力に前向きであることを歓迎する。このことは、政府報告書の作成過程に、かつ対話の過程で非政府組織の子ども代表が出席した事実に、反映されているものである。
8.委員会は、子どもの権利を促進しかつ保護するために行なわれている国際的な取り組みに関して一般大衆の意識を喚起する手段として、政府が、委員会による第1回報告書の検討に先立ってネパールで記者会見を開くと決定したことを歓迎する。委員会は、ネパールへの帰国にともなってあらためて記者会見を開き、委員会の総括所見を公にすると代表団が述べたことに、さらに心強い思いを感ずるものである。

C.条約の実施を阻害する要因および困難

9.委員会は、ネパールが、人口の半数以上が絶対的貧困下で暮らしている世界の最貧国のひとつであることから、もっとも脆弱な立場に置かれた集団に主として影響が生じ、かつ子どもの権利の享受が阻害されていることに留意する。この現実は、対外債務および債務調整措置に加えて、条約に基づく政府の義務の履行の程度に影響する深刻な困難を代表するものである。

D.主要な懸念事項

10.委員会は、国内法が条約の原則および規定に全面的に一致するようにするための措置が十分でないことを懸念する。委員会はとくに、差別の禁止(婚姻、相続および親の財産に関するものを含む)、拷問および体罰に関わる法規定が条約との一致を欠いていることに留意するものである。委員会はまた、現行法とその実際の実施との間に乖離が存在することについても懸念する。
11.委員会は、締約国が、条約の一般原則──第2条(差別の禁止の原則)、第3条(子どもの最善の利益の原則)、第6条(生命、生存および発達への権利)および第12条(子どもの意見の尊重)──を、立法および政策立案において全面的には考慮に入れていないことに、懸念を表明する。
12.委員会は、差別の禁止の原則が効果的に実施されるようにするためにとられた措置が不十分であることを、とりわけ懸念する。委員会は、息子優先の風潮が支配的であること、早期婚が根強く残っていること、女子の通学率が男子よりも目立って低いことおよびその中退率が男子よりも高いことに表れているように、女子に対する差別的態度が根強く残っていることに留意するものである。婚姻年齢が女子と男子で異なることも、条約第2条と一致しておらず、懸念される。委員会はさらに、デウキ、クマリおよびデビスといったカーストの制度および伝統について懸念を覚えるものである。委員会はまた、子ども法第7条により、親、家族構成員および教員が「子どもの利益にかなうと思われる場合」に子どもを叩くことが許されていること、および、締約国の報告書が認めるように、子どもの意見が尊重されることがないという事実にも、懸念を表明する。このような伝統的な慣行および態度が根強く残っていることは、子どもの権利の享受を深刻な形で阻害するものである。
13.委員会は、子どもの権利の促進および保護のための政策を実施するに際し、関連省庁間ならびに中央当局と地方当局との間に効率的な調整機構を確立することに関して、締約国の歩みが遅いことを懸念する。
14.委員会は、体系的かつ包括的なデータの収集および適切な指標の確立、ならびに、条約が対象としているすべての領域およびすべての集団の子ども(マイノリティに属する子ども、低層カーストに属する子ども、きわめて貧しい家庭の子ども、農村部の子ども、障害児、施設に措置されている子ども、売買、取引および買春の被害を受けた子どもならびに路上で生活しかつ/または働いている子どもを含む)に関する監視機構の設置に対し、十分な注意が向けられていないことを懸念する。
15.条約第4条の実施に関して、委員会は、利用可能な資源を最大限に用いて子どもの経済的、社会的および文化的権利を実施することに対し、政府が優先順位を与えていないことを懸念する。委員会は、都市部においても農村部においても、もっとも不利な立場に置かれた集団に十分な注意が向けられていないという見解に立つものである。
16.委員会は、とくに遠隔地に住んでいる子どもについて、子どもの出生登録を確保するために十分な措置がとられておらず、かつ、そのためにこのような子どもの基本的権利の享受に悪影響が生じていることを、懸念する。
17.委員会は、学校中退率がとくに農村部に住む女子の間で高いことおよび児童労働が数多く行なわれていることを憂慮する。委員会はまた、保健、社会サービスおよび教育といった基礎的サービスを確保するうえで農村部および遠隔地に住む子どもならびに障害児が困難に直面していることも懸念するものである。
18.第28条に照らし、委員会は、初等教育がすべての子どもにとって義務的となっていないことに、深い懸念を表明したい。委員会はまた、子どもおよび成人の間で非識字率が高いことも懸念する。
19.委員会は、いかなる形態のものであれ、家庭における子どもの不当な取扱いおよび体罰を効果的に防止しかつそれと闘うための適切な措置が、いまなおとられていないことを懸念する。委員会は、条約第39条に照らし、被害を受けた子どもの回復および復帰を確保することを目的とした十分な立法および機構が存在しないことを深刻に憂慮するものである。
20.農村部からの集団移住、極度の貧困ならびに家庭における暴力および虐待のために路上で暮らすことを余儀なくされ、かつ、基本的権利を奪われてさまざまな形態の搾取にさらされる子どもが多数存在し、かつその人数が増加していることは、深い懸念の対象である。
21.委員会は、インフォーマル部門(とくに家事労働、農業および家族内労働)におけるものを含む児童労働に従事する子どもが多数にのぼることを憂慮する。
22.子ども、とくに女子の売買および取引の問題の規模にかんがみ、委員会は、この現象と闘うための具体的な法律および政策が存在しないことを深く懸念する。
23.委員会は、児童買春の現象がますます増加しており、とくに低層カーストに属する子どもに影響を与えていることを、懸念する。委員会は、この現象と闘うための措置がとられていないことおよびリハビリテーションのための措置が欠けていることを憂慮するものである。委員会はまた、薬物依存の子どもの状況に取り組むための措置が十分ではないことも懸念する。
24.少年司法の運営の状況、および、とくに、条約第37条および第40条ならびに北京規則リャド・ガイドラインおよび自由を奪われた少年の保護に関する国連規則のような他の関連の基準にその状況が一致するかどうかは、委員会にとって懸念の対象である。委員会はとくに、刑事責任年齢が低すぎること、国法典(ムルキアイン)第2号の規定によって精神病の子どもを収監しかつ鎖で拘束することが認められていること、および、拷問の法的定義が条約第37条(a)に一致していないことを、懸念する。

E.提案および勧告

25.委員会は、締約国が、条約のすべての規定と法律との全面的な一致を確保するため、とくに条約の一般原則(第2条、第3条、第6条および第12条)を考慮にいれながら、あらゆる必要な領域で十分な法改正を行なうよう勧告する。
26.根強く残って女子に影響を与えている差別的な態度および好ましくない伝統と効果的に闘うため、委員会は、締約国に対し、社会における、かつ、とくに家庭における子どもの権利を促進することを目的として、包括的かつ統合的な広報キャンペーンを行なうよう奨励する。委員会はまた、締約国が、子どもとともにおよび子どものために働く専門家集団(教員、ソーシャルワーカー、保健従事者、裁判官および法執行官を含む)を対象とした、条約に関する具体的研修を確保することも勧告するものである。この目的のため、とくに〔国連〕人権センターおよび国連児童基金との国際協力を求めることが考えられる。
27.委員会は、条約第12条および第42条に照らし、条約の規定および原則が子どもにも大人にも同様に広く知られかつ理解されることを確保するため、さらなる努力が必要とされているという見解をとるものである。委員会は、締約国に対し、子どもの参加権に関する公衆の意識をさらに高めるとともに、学校カリキュラムに条約を編入することを考慮するよう、奨励する。
28.委員会は、子どもの権利に関わるさまざまな政府機構間の調整を中央レベルにおいても地方レベルにおいても強化し、かつ、非政府組織との密接な協力を確保するために、締約国があらゆる必要な措置をとるよう勧告する。
29.委員会はさらに、締約国が、条約が対象とするさまざまな領域について、かつ、もっとも脆弱な立場に置かれた集団に属する子どもを含むすべての集団に関して、子どもの状況に関するあらゆる必要な情報を収集するよう勧告する。委員会はまた、経済政策が子どもたちに与える悪影響に特段の注意を払いつつ、条約が認める権利を中央レベルおよび地方レベルで実現するにあたって達成された進展および直面した困難を評価するための、学際的監視システムを確立するよう提案するものである。このような監視システムは、締約国が、適切な政策を策定し、かつ、蔓延する社会的格差および伝統的偏見と闘うことを可能にするはずである。委員会はまた、締約国に対し、子どもの権利の実現を監視し、かつ、これに関する個別の苦情申立てに対処するために、オンブズパーソンまたは人権委員会のような独立の機構の設置を検討するよう奨励する。
30.条約第4条の実施に関して、委員会は、差別の禁止および子どもの最善の利益の原則に照らし、経済的、社会的および文化的権利を実施するための予算配分を、利用可能な資源を最大限に用いることにより確保する必要性に対して特段の注意を向けるよう、勧告する。国際協力に基づく資源は子どもの権利の実現に向けられるべきであり、かつ、対外債務および債務調整が子どもたちに与える悪影響を軽減するための努力が追求されるべきである。
31.すべての子どもが人として認められ、かつその権利を全面的に享受できることを確保するために、子どもの出生登録に優先順位が与えられるべきである。委員会は、移動登録所および学校登録部の設置を含む、子どもの出生登録を確保するためのさらなる措置を奨励する。
32.条約第2条に照らし、委員会は、農村部および都市部における女子の中退率を削減し、女子が児童労働または買春に関与することを防止し、かつ、基礎的サービス(保健、教育および社会的ケア)に対する農村部の子どもおよび全国の障害児のアクセスを強化する目的で、締約国があらゆる必要な措置をとるよう勧告する。政府はとくに、最低層カーストに属する子どもをいかなる形態の搾取からも保護するために、好ましくない態度を変えるための意識向上キャンペーンを含む具体的措置をとるべきである。
33.難民の子どもの保護を促進するため、委員会は、締約国に対し、難民の地位に関する1951年の条約の批准を検討するよう奨励する。
34.条約第19条に照らし、委員会はさらに、家庭におけるものを含むいかなる形態の子どもの不当な取扱いおよび性的虐待とも闘う目的で、政府が、立法上の措置を含むあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。委員会はとくに、この問題の性質および規模に関する理解を深め、かつあらゆる態様の児童虐待およびネグレクトを防止するための社会プログラムを確立する目的で、公的機関が情報を収集し、かつ包括的な研究に着手するよう提案するものである。
35.委員会はさらに、ネパールのすべての子ども(路上で暮らしかつ/または働いている子どもを含む)の生存権を確保するために確固たる措置をとるよう、勧告する。このような措置においては、あらゆる形態の搾取、とくに児童労働、買春、麻薬関連の活動ならびに子どもの取引および売買から子どもを効果的に保護することが目的とされるべきである。
36.児童労働の問題に関して、委員会は、ネパールが、就業が認められるための最低年齢に関するILO第138号条約の批准を検討するとともに、国内法を子どもの権利条約その他の関連の国際基準に一致させる目的で、関連するすべての国内法を見直すよう、提案する。児童労働に関する法律が執行されるべきであり、査察制度が確立されるべきであり、苦情申立てが調査されるべきであり、かつ違反については厳しい処罰が課されるべきである。家事労働を含むインフォーマル部門の労働に従事している子どもの保護に対し、特段の注意を払うことが求められる。委員会は、政府が、この分野に関してILOに協力を求めることを検討するよう、提案する。
37.子どもの国際的取引および売買と効果的に闘うため、委員会は、ネパールが立法上および行政上の措置を含むあらゆる適切な措置をとるよう提案するとともに、締約国に対し、このような現象を防止しかつ解消するために二国間の措置をとることを検討するよう、奨励する。コミュニティ段階における意識啓発キャンペーンを発展させ、かつ、徹底した監視制度を確立するべきである。
38.少年司法の運営の分野において、委員会は、法改正を追求し、かつ、子どもの権利条約、とくに第37条、第39条および第40条、ならびに、北京規則リャド・ガイドラインおよび自由を奪われた少年の保護に関する国連規則といった他の関連の国際基準を全面的に考慮にいれることを勧告する。その際、刑事責任に関する最低年齢の引き上げ、少年裁判所の設置、現行法の執行、少年非行の防止、自由の剥奪および施設養護に代わる措置、少年司法制度のあらゆる側面における基本的権利および法的保護の尊重、ならびに、少年司法の完全な独立性および公平性に対し、特段の注意が払われるべきである。精神障害を有する子どもを刑務所に措置することを認めた法律は、緊急に見直されなければならない。
39.委員会は、子どもの権利の分野における法改正および子どもとともに働く専門職の研修の分野等において、〔国連〕人権センターとともに技術的援助プログラムを発展させるよう、提案する。その際、とくに裁判官、法執行官、矯正担当官およびソーシャルワーカーを対象とした、関連の国際基準に関する研修プログラムに特段の注意が払われるべきである。子どもの権利条約についての意識啓発キャンペーンおよび情報提供キャンペーンにも注意を向けることが求められる。さらに、子どもの権利に関わる問題がどのぐらい実現されているかを監視するための、人権委員会その他の独立の機構の設置に関して引き続き検討が行なわれるべきである。
40.委員会が懸念を指摘した分野および委員会が行なった勧告に照らし、委員会は、政府が、国際労働機関、国連難民高等弁務官、国連児童基金、世界保健機関を含む関連の国際機関に対して技術的援助を求めることを検討するよう、提案する。条約に規定された権利を促進しかつ保護する目的で、締約国で活動している国際機関のタスクフォースの設置を検討することも考えられる。委員会はまた、国際社会に対し、締約国が現在行なっている努力を援助するよう奨励するものである。
41.委員会は、締約国に対し、第1回報告書、討議の議事要録、および、報告書の検討後に委員会が採択した総括所見を広く普及するよう奨励する。委員会はまた、委員会による提案および勧告のフォローアップを確保する手段として、これらの文書に対して議会の注意を喚起するよう提案したい。


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