総括所見:アイスランド(第1回・1996年)


CRC/C/15/Add.50(1996年2月13日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1996年1月16日および17日に開かれた第272回、第273回および第274回会合(CRC/C/SR.272, 273 and 274)においてアイスランドの第1回報告書(CRC/C/11/Add.6およびHRI/CORE/1/Add.26)を検討し、以下の総括所見を採択した(注)。
  • (注)1996年1月26日に開かれた第287回会合において。

A.序

2.委員会は、締約国に対し、委員会のガイドラインにしたがって構成された包括的報告書について評価の意を表する。委員会は、報告書の作成にあたってアイスランド政府がとった自己批判的アプローチを歓迎するものである。委員会はまた、委員会の事前質問事項(CRC/C.11/WP.8)に対する文書回答が期限どおりに提出されたことも歓迎する。
3.ハイレベルな代表団の出席により、委員会は、条約の実施に直接関与している人々との建設的対話を行なうことが可能になった。

B.積極的な側面

4.委員会は、条約の批准時にアイスランドが第9条1項および第37条(c)について行なった宣言が、最終的な撤回の方向で見直される可能性がある旨の代表団の発言を歓迎する。
5.委員会は、憲法において人権一般およびとくに子どもの権利の保護が強化されたことに、評価の意とともに留意する。委員会はとくに、条約第3条2項に直接基づく規定が憲法に含まれたことを歓迎するものである。委員会はまた、国際的な子の奪取の民事上の側面に関するハーグ条約および子の監護の決定の承認および執行ならびに子の監護の回復に関する欧州条約のような重要な国際文書が、最近アイスランドによって批准されたことにも留意する。就業が認められるための最低年齢に関するILO第138号条約を近い将来批准することに対する当局の決意も、満足感とともに留意されるところである。
6.委員会は、子どもオンブズマン事務所の設置、ならびに、子どもの権利に関する広報およびこれらの権利に関わる国際文書のうちアイスランドが批准したもの(とくに条約)の遵守の奨励に関して同事務所が果たしている役割を、歓迎する。
7.委員会はまた、1995年5月に子ども保護庁が設置されたことも歓迎する。子ども福祉委員会に対していっそう充実した支援を提供し、子ども福祉委員会の委員を対象とする研修プログラムを作成し、または里親に対して情報提供を行ないかつ里親がその任務を担えるよう準備させるという、中央機関としての同庁の職務は、条約に掲げられた権利の実施の向上にとってきわめて重要である。
8.委員会は、条約に関する広報キャンペーンのあり方について決定するための省庁間作業部会の設置など、条約の効果的普及を確保するための創造的方法を見出すために公的機関が行なってきた努力を認知する。委員会はまた、子どもの権利の保護および促進の分野で活動している非政府組織との関係および協力を強化することに対する、公的機関のコミットメントも認知するものである。
9.子どもが被害者である家庭内の事故その他の事故がアイスランドで多いことに関連して、委員会は、1994年に事故防止評議会が設置されたことを歓迎する。
10.委員会は、移民に関する包括的政策を立案し、かつ移民問題に関する公的機関の活動を調整するために教育省が行なった、省庁間委員会の任命の取り組みを歓迎する。1993年秋以降、教育省の後援のもと、(保育所から中等学校および成人教育に至る)あらゆるレベルの教員のための特別プログラムが設けられたことも、委員会の歓迎するところである。
11.難民問題分野における最近の進展は、委員会が希望をもって受けとめるところである。子どもの難民に対して特別な注意を払いながらアイスランドにおける難民の受け入れおよび到着を組織し、かつ申請に関して公的機関による決定がまだ行なわれていない庇護希望者に対応する難民評議会の設置は、きわめて前向きな措置であると見なされる。同様に、委員会は、アイスランド市民権を求める者はそもそもの名前にアイスランド名を加えなければならないとする要件が法改正によって廃止されたことを、歓迎するものである。
12.条約第7条2項に関して、委員会は、無国籍児の地位について明示的に取り上げた政府の提案をしかるべき時期にアルシング(議会)に提出したい旨の、代表団によって表明された意向に、満足感とともに留意する。

C.主要な懸念事項

13.委員会は、条約が子どもの保護およびケアについてならびにとくに権利の主体としての子どもの承認について定めていることを強調したい。これとの関連で、委員会は、条約が有するこの本質的側面がアイスランド法にまだ全面的には反映されていないことに留意する。
14.委員会は、条約が国内法に統合されていないことには留意しながらも、国内法令への条約の反映に関して乖離が存在しうることを懸念する。
15.委員会は、子どもの問題を扱うさまざまな政府省庁の部門別政策を調整することの重要性を強調する。とくに子どもの保護および福祉の分野で地方当局が広範な自治権を有していることを踏まえ、委員会はまた、この分野で行なわれる決定および活動を、中央および地方の当局の間でおよび地方当局間で調整する機構が存在しないことにも、懸念とともに留意するものである。
16.委員会は、子どもの保護および福祉の分野で、異なる行政圏間に予算配分額の格差があることについてとくに憂慮する。このような状態は、たとえば教育および放課後ケアの分野で、住む地域が異なる子どもの間に差別をもたらす可能性がある。
17.すべての学校段階の生徒の間で条約本文を配布するための措置がとられたことには留意しながらも、委員会は、人権一般およびとくに子どもの権利を学校および大学の強化に含めるという決定がいまだになされていないことに留意する。
18.子どものためにおよび子どもとともに働く専門家(教員もしくはソーシャルワーカーなど)または子どもと接する専門家(警察官、弁護士、裁判官もしくは医師など)を対象とする、子どもの権利およびその権利の行使に関する包括的かつ体系的な研修プログラムが設けられていないことも、委員会にとって懸念の対象である。
19.委員会は、家庭環境のもとで過ごす子どもの最善の利益が親の長時間労働によって損なわれているおそれがあること、および、親の就業時間中に子どもが家でひとりでいることを防止するためにとられた措置が不十分であることに、留意する。これとの関連で、保育所の定員が不十分であることも懸念されるところである。

D.提案および勧告

20.委員会は、締約国に対し、条約に関する宣言の撤回の可能性を検討するよう奨励することを望むとともに、この件に関する進展について通知を受けることを希望したい。
21.委員会は、条約に掲げられた権利の全面的保護が確保されるよう、条約のすべての実体規定を国内法令に反映させるための措置をとることを勧告する。
22.委員会は、条約の実施に関して生じる可能性のある格差または差別を解消し、かつ条約がアイスランド全域で全面的に尊重されることを確保する目的で、締約国が、子どもの権利の分野における政府の政策ならびに中央および地方の公的機関の政策の調整を増進するための機構を設置するよう、勧告する。
23.委員会は、締約国に対し、条約に関する情報の普及および意識啓発を目的とした政策を引き続き追求し、かつさらに発展させるよう、奨励する。委員会はまた、公的機関に対し、子どもに対応する専門家グループの養成・研修カリキュラムならびに学校および大学のカリキュラムに条約および子どもの権利を統合するよう、促すものである。
24.委員会は、条約第4条に照らし、利用可能な資源を最大限に用いた予算配分が確保されるべきことを勧告する。これとの関連で、地域によって子どものためのサービスに格差が生じる危険性を回避するため、条約第2条および第3条にも正当な注意が払われるべきである。委員会はまた、締約国が、子どもの権利の促進および保護を増進する目的で国際協力および国際援助の強化を検討することも、勧告する。
25.委員会は、賃金に関する男女間の不平等に対応するための適切な措置がとられるべきことを提案する。このような不平等は、とくに単身女性が世帯主である家庭の子どもにとって有害となる可能性があるためである。
26.委員会は、子どもの最善の利益が常に第一次的に考慮されることを確保するため、監護権または親からの子どもの分離に関する手続をさらに再検討するよう、勧告する。
27.最後に、条約第44条6項に照らし、委員会は、アイスランドにおいて報告書を公衆が広く入手できるようするとともに、関連の議事要録および委員会の総括所見の刊行を通じ、当該報告書に関する委員会の検討状況を公表するよう、勧告する。


  • 更新履歴:ページ作成(2011年4月2日)。
最終更新:2012年04月02日 17:46