総括所見:アイスランド(第2回・2003年)


CRC/C/15/Add.203(2003年1月31日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2003年1月28日に開かれた第856回および第857回会合(CRC/C/SR.856 and 857参照)において、2000年4月27日に提出されたアイスランドの第2回報告書(CRC/C/83/Add.5)を検討し、2003年1月31日に開かれた第862回会合において以下の総括所見を採択した。

A.序

2.委員会は、第2回報告書が委員会の報告ガイドラインにしたがっていることに留意するとともに、豊富な情報を含む文書回答が提出されたことを評価する。委員会はまた、ハイレベルな部門横断型の代表団の出席が、締約国における条約の実施に関する開かれたかつ率直な対話に貢献したことも評価するものである。

B.締約国によりとられたフォローアップ措置および達成された進展

3.委員会は、前回の勧告にしたがって締約国がとったフォローアップ措置に評価の意とともに留意する。委員会はさらに以下の措置を歓迎するものである。
  • (a) 武力紛争への子どもの関与ならびに子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する条約の両選択議定書の批准。
  • (b) 2002年子ども保護法の採択。
  • (c) 子ども保健センターの設置。
  • (d) アルコールおよびタバコの消費への対応および精神医学サービスの範囲の拡大ならびに事故に関連する負傷および死亡の削減を目的とする子どものための戦略を含む、国家保健計画の採択。

C.主要な懸念事項および勧告

1.実施に関する一般的措置

宣言
4.委員会は、条約第9条および第37条を全面的に遵守するために締約国がとりつつある措置(とくに、2002年子ども保護法の規定、および、間もなく通過することが期待されている、子ども保護事件における唯一の決定権限を裁判所に与える法案、ならびに、警察保護観察局と政府子ども保護庁との間で1998年に締結された、18歳未満の受刑者を本人の申請により子ども保護庁の監督下にある処遇施設に収容できるようにする協定)について代表団から提供された情報に留意する。にもかかわらず、委員会は、締約国が第9条に関する宣言をまだ撤回していないことを遺憾に思うものである。さらに委員会は、1998年の協定は、条約第37条C項〔ママ〕に掲げられた、成人からの分離の法的保障には至らないと考える。
5.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 条約第9条との全面的一致を確保するための法律の公布を急ぐこと。
  • (b) 条約第37条C項〔ママ〕にしたがい、拘禁された子どもと成人との分離を法律で保障すること。
立法
6.委員会は、とくに子どもの監護に関わる子どもに関する法律案について締約国から提供された情報に留意する。
7.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 同法および子どもに関わるその他の法律ならびに行政規則が、人権を基盤とし、かつ条約に一致したものであることを引き続き確保すること。
  • (b) これらの法令の効果的実施にために十分な体制(予算配分を含む)が整えられることを確保すること。
  • (c) 法律、政策および予算の立案における子どもの権利影響評価の制度的活用を検討すること。
調整
8.委員会は、包括的な、部門横断型の国家子どもの権利政策を立案しようとする締約国の努力を歓迎する。委員会はさらに、2002年子ども保護法で、社会問題省および各自治体当局が、子どもの保護に関する4年間の行動計画を提出しなければならないとされていることを歓迎するものである。
9.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 2001年5月の議会決議に基づき設置された委員会に対し、条約の実施に関する部門横断型の調整を行なう恒常的な権限を与えることを検討するか、そのような職務を果たすための、十分な権限および資源を与えられた他の機関を設置すること。
  • (b) 子どもの権利に関する国家計画および2002年子ども保護法で求められている計画の作成および実施が、人権を基盤として、かつ開かれた、協議型および参加型のプロセスを通じて進められることを、引き続き確保すること。
  • (c) とくに自治体レベルで(すなわち自治体均等化基金を通じて)、諸計画を実施するための十分な資源が配分されることを引き続き確保すること。
データ
10.委員会は、文書回答で提供された統計データを歓迎するとともに、子どもに関するデータを組織化されたやり方で収集しかつ分析する必要性を締約国が認めていることを、心強く思う。
11.委員会は、締約国に対し、以下のを措置をとるよう奨励する。
  • (a) 条約が対象とするすべての分野について、18歳未満のすべての者(移住者である子どもを含む)に関する統計を引き続き収集すること。
  • (b) 当該データを、進展を評価し、かつ条約実施のための政策を立案する目的で引き続き活用すること。
  • (c) この点に関する統計について包括的な年次調査を行なうことを検討すること。
監視体制
12.委員会は、子どもオンブズマンによって行なわれている卓越した活動を歓迎する。しかしながら委員会は、締約国による資源の提供が、調査件数の増加を含め、オンブズマンの活動に十分に釣り合っていないことを懸念するものである。
13.委員会は、同機関が条約の実施を監視する職務を効果的に遂行できるようにするため、締約国が、同機関に対して十分な人的資源および財源が与えられることを確保するよう、勧告する。
資源配分
14.委員会は、子どもの経済的、社会的および文化的権利のための包括的かつ漸進的な資源配分が中央および自治体のレベルで行なわれていることに留意する。しかしながら委員会は、この点に関していっそうの努力を行ないうるという見解に立つものである。
15.条約第4条に照らし、委員会は、締約国に対し、子どもの経済的、社会的および文化的権利のための資源配分を――利用可能な資源を最大限に用いて――増加させるよう奨励する。
国際協力
16.委員会は、国際協力の分野で締約国が行なっている貢献およびさまざまな子どもの権利関連の活動に、評価の意とともに留意する。しかしながら委員会は、政府開発援助が、絶対額では増加していながらも、対国内総生産(GDP)比では増加していないことに留意するものである。
17.委員会は、締約国に対し、とくに国際開発援助にGDPの0.7%を配分するという国際連合の目標達成のために努力することにより、国際協力の分野における活動を継続しかつ強化するよう、奨励する。
研修/条約の普及
18.委員会は、条約を普及するために締約国が(たとえば「私の権利」というブックレットおよび条約に関する教員向けハンドブックを通じて)行なっている努力を歓迎する。
19.委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう奨励するものである。
  • (a) 子どもおよび親の間、市民社会の間ならびにすべての行政部門および行政段階で条約およびその実施に関する情報を普及するためのプログラム(非識字であるまたは正規の教育を受けていない、脆弱な立場に置かれた集団に情報を届けるための取り組みを含む)を強化し、拡大し、かつ継続的なものとすること。
  • (b) 子どものためにおよび子どもとともに働くすべての専門家集団(たとえば裁判官、弁護士、法執行官、公務員、地方政府職員、教員および保健従事者)を対象とする、子どもの権利を含む人権に関する体系的かつ継続的な研修プログラムを発展させること。

2.子どもの定義

20.アイスランド法(たとえば1997年成年法)で子どもが18歳未満の者と定義されていることには留意しながらも、委員会は、この定義と一致しない規定が他の法律に残っていること(たとえば子ども手当が支給されるのは16歳まで)を懸念する。
21.委員会は、締約国が、現行法(たとえば1997年成年法)との年齢制限の一致を確保するために法律を見直すよう、勧告する。

3.一般原則

差別の禁止に対する権利
22.アイスランドで外国系の人々の人数が増加していることから、委員会は、そのニーズに対応するために(たとえば、外国人に関する2003年法の採択、国家警察における特別代表の任命、保健専門家向けの文化的寛容に関する刊行物およびレイキャビクにおける異文化間センターの設置を通じて)締約国が行なっている努力を歓迎する。にもかかわらず、委員会は、アイスランドにおける移民の増加にともなって生じる可能性がある人種主義の問題に率先して対応するため、さらなる努力が必要であることを懸念するものである。
23.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 第2条にしたがい、自国の管轄内にあるすべての子どもに対して条約に掲げられたすべての権利を保障すること。
  • (b) 発展しつつある移民の現象に対応するための包括的なかつ調整のとれた政策(寛容を促進するための広報キャンペーンも含む)を策定するとともに、人種主義的動機に基づく行為を監視し、かつこのような行為に関するデータを収集すること。
  • (c) 自治体、とくに学校制度における移民の子どもの状況、および、その統合を促進するためにとられている措置の有効性について研究を行なうこと。
  • (d) 「人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容に反対する世界会議」で採択されたダーバン宣言および行動計画をフォローアップするために締約国が実施した措置およびプログラムのうち条約に関わるものについて、条約第29条1項(教育の目的)に関する一般的意見1号も考慮に入れながら、次回の定期報告書で記載すること。
子どもの最善の利益
24.委員会は、子どもの最善の利益の原則が2002年子ども保護法第4条に編入されたことを歓迎する。
25.委員会は、締約国が、子どもに関連するすべての法律および実務に条約第3条を全面的に編入するための努力を引き続き行なうよう、勧告する。
子どもの意見の尊重
26.委員会は、ユースネット議会をはじめ、子どもたちが自己の意見を知らせることのできるいくつかの体制がアイスランドで設置されたことを歓迎する。にもかかわらず、委員会は、子どもたちに対し、自己に影響を与える政策(たとえば学校運営、規律措置の管理、有害物質濫用の防止、関連のコミュニティ計画問題など)に直接貢献する機会が十分に与えられていない可能性があること、および、どのようにすれば効果的に貢献でき、かつその意見(たとえばユースネット議会の決議)がどのように考慮されるのかについて十分な情報を与えられていないことを、懸念するものである。
27.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 資源を十分に提供すること等も通じ、ユースネット議会への支援を強化すること。
  • (b) 条約第12条にしたがって、引き続き、家庭、学校、裁判所、行政機関および地方当局における子どもの意見の尊重を促進し、かつ自己に影響をあたえるすべての事柄への子ども参加を推進すること。
  • (c) 親、教員、ソーシャルワーカーおよび地方公共職員を対象として(たとえばパンフレット「土地を受け継ぐ者たち……その声は聞こえない」を活用しながら)コミュニティの現場で行なう、子どもたちに対して十分な情報に基づく意見および見解を表明し、かつその意見を考慮してもらうよう奨励するためのスキル訓練プログラムを開発すること。

4.家庭環境および代替的養護

暴力/虐待/ネグレクト/不当な取扱い
28.委員会は、家庭におけるネグレクトおよび不当な取扱いから子どもを保護するための包括的な諸規定を掲げた2002年子ども保護法の採択を歓迎する。委員会はまた、性的虐待を受けた子どもを治療する「チルドレンズ・ハウス」が設置されたことにも留意するものである。
29.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 現行法の規定に基づく体罰の禁止(家庭におけるものも含む)に関する親、その他の養育者および公衆一般の意識啓発を図ること。
  • (b) 引き続き、締約国全域で「チルドレンズ・ハウス」の考え方を強化し、かつそれが設置される地域を拡大すること。
  • (c) 子どもの不当な取扱いの悪影響に関する公衆教育キャンペーンを実施するとともに、体罰に代わる手段として積極的かつ非暴力的な形態の規律およびしつけを促進すること。
  • (d) 被害者に対してケア、回復および再統合を提供するために十分な資源を配分すること。
  • (e) 教員、法執行官、ケアワーカー、裁判官および保健専門家を対象として、不当な取扱いの事案の発見、通報および処理についての研修(虐待の被害を受けた子どもにとってもっとも害が少ない事情聴取法に関わるものも含む)を行なうこと。
親の援助
30.委員会は、子どもがいる家族への支援に関わる事柄についての包括的政策に対する締約国のアプローチを評価する。このようなアプローチは、公式な家族政策に関する議会決議、家族評議会の設置、ならびに、男女の平等な地位および平等な権利法(2000年)および父性母性法(2000年)の採択から明らかである。しかしながら委員会は、以下のことを懸念する。
  • (a) 自治体による家族政策の策定が十分に重視されていないこと(いまのところ数件しか策定されていない)。
  • (b) ひとり親家族に対する支援が不十分であること。
  • (c) 子どもが病気の親に与えられる休暇が不十分であること。
  • (d) より一般的には、親の援助の分野における取り組み(評議会の活動の効果を含む)が、人的資源および財源の十分な配分なしには限られたものになるであろうこと。
31.条約の規定、とくに第18条および第27条にしたがい、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 自治体に対して公的家族政策の策定を奨励するためにいっそうの努力を行なうとともに、その際、当該政策が人権を基盤としたものになること、および、自治体に対して目標達成のための十分な資源が提供されることを確保すること。
  • (b) ひとり親家族への支援を強化するためにいっそうの努力を行なうこと。
  • (c) 子どもが病気の親が利用可能な休暇期間を延長すること。
  • (d) 家族評議会に対し、その任務を効果的に遂行するための十分な資源が提供されることを確保すること。

5.基礎保健および福祉

障害のある子ども
32.委員会は、締約国が障害のある子どものインクルージョン政策をとっていることを歓迎するとともに、最近採択された、慢性疾患児に関する政策(保健、社会保障、教育および費用の提供を含む)に留意する。委員会はさらに、長期疾患児および障害児をケアするための施設が最近開設されたことにも留意するものである。
33.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 障害児の家族に対する支援を増強すること。
  • (b) 障害のある子どもによる権利の享受についてのデータの収集および分析を引き続き行なうこと。
  • (c) 障害のある子どものすべてのニーズを満たすための努力を継続しかつ強化すること。
思春期の健康
34.委員会は以下の情報を歓迎する。
  • (a) アイスランドの一部の保健センターが、有害物質の濫用、性感染症、リプロダクティブヘルス情報および精神保健カウンセリングに関するものも含む青少年向けの特別サービスを提供していること。
  • (b) 保健庁長官が自殺防止のためのプログラムを開始したこと。
35.委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう奨励する。
  • (a) 保健サービスへのアクセス(教育制度を通じてのものも含む)を拡大するための努力を強化すること。
  • (b) 思春期の健康問題の性質および規模についての研究および評価を継続するとともに、青少年の全面的参加を得ながら、これを政策およびプログラムの策定のための基礎として活用すること。

6.教育

36.委員会は、多くの学校でいじめ反対キャンペーンが採用されていること、および、ライフスキルに関する科目が含まれていることに、評価の意とともに留意する。しかしながら委員会は、以下のことを懸念するものである。
  • (a) 条約第29条に掲げられた教育の目的(すなわち、人権、寛容ならびに男女間ならびに宗教的および民族的マイノリティ間の平等の尊重の発展)が、締約国全域のカリキュラムに明示的に含まれているわけではないこと。
  • (b) とくに中等段階において移民の子どもの中退率が高いこと。
37.委員会は、締約国が、教育の目的に関する委員会の一般的意見1号を考慮しながら以下の措置をとるよう、勧告する。
  • (a) とくに人権、寛容ならびに男女間ならびに宗教的および民族的マイノリティ間の平等の尊重の発展との関連における人権教育(子どもの権利を含む)を、すべての初等中等学校のカリキュラムに明示的に含めること。
  • (b) 移民の子どもの中退の問題に対応するための措置を強化すること。

7.特別な保護措置

性的搾取
38.委員会は、児童ポルノに関する法律(2000年)が新たに採択された旨の情報を歓迎する。委員会はさらに、さまざまな勧告を掲げた、児童買春および児童ポルノの規模に関する政府研究報告書を歓迎するものである。しかしながら委員会は、性的同意年齢がどちらかといえば低い(14歳)ことから、14歳以上の子どもが性的搾取から十分に保護されない可能性があることを懸念する。
39.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 前掲政府報告書に掲げられた勧告を速やかに実施するため、あらゆる必要な措置をとること。
  • (b) 14歳以上の子どもが性的搾取から効果的に保護されることを確保するための立法措置をとること。
  • (c) 1996年および2001年の子どもの商業的性的搾取に反対する会議で採択された宣言および行動綱領ならびにグローバル・コミットメントにしたがい、性的搾取と闘うための国家的行動計画を策定しかつ実施すること。
少年司法の運営
40.委員会は、いくつかの特別措置(たとえば、逮捕者の法的地位および尋問に関する規則第395/1997、および、性的犯罪の被害を受けた子どもの事情聴取に関する改正刑事訴訟法の規定)を除き、締約国で包括的な少年司法制度が整備されていないことに留意する。
41.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。

8.報告書の普及

42.条約第44条6項に照らし、委員会は、締約国が提出した報告書および文書回答を広く公衆一般が入手できるようにするとともに、関連の議事要録および報告書に関する委員会の総括所見とともに報告書を刊行することを検討するよう勧告する。このような文書は、締約国の行政のあらゆる段階においてかつ一般公衆(関心のあるNGOを含む)の間で条約ならびにその実施および監視に関する議論および意識を喚起するため、広く配布されるべきである。

9.次回報告書

43.委員会が採択し、かつ報告書(CRC/C/114およびCRC/C/124)に掲載した報告の定期性に関する勧告に照らし、かつ締約国の第3回定期報告書の提出期限が第2回報告書の検討から2年に満たないことに留意し、委員会は、締約国に対し、第3回・第4回統合定期報告書を2008年5月26日(すなわち、第4回定期報告書の提出期限として条約で定められた日の18か月前)〔まで〕に提出するよう、慫慂する。


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最終更新:2012年04月02日 17:50