総括所見:アイスランド(OPSC・2006年)


CRC/C/OPSC/ISL/CO/1(2006年6月21日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2006年5月26日に開かれた第1146回会合(CRC/C/SR.1146参照)においてアイスランドの第1回報告書(CRC/C/OPSA/ISL/1)を検討し、2006年6月2日に開かれた第1157回会合において以下の総括所見を採択した。

A.序

2.委員会は、締約国の包括的な第1回報告書の提出および事前質問事項(CRC/C/OPSC/ISL/Q/1)に対する文書回答の提出を歓迎する。委員会は、ハイレベルな代表団との間で行なわれた率直かつ建設的な対話を評価するものである。
3.委員会は、締約国に対し、この総括所見は、締約国の第2回定期報告書に関して2003年1月31日に採択され、かつCRC/C/15/Add.203に掲載された以前の総括所見とあわせて読まれるべきであることを想起するよう求める。

B.積極的側面

4.委員会は、選択議定書を実施し、かつ選択議定書上の権利の保護を強化するために締約国がとったさまざまな措置、とくに以下の措置に、評価の意とともに留意する。
  • (a) アイスランドの子どもの権利を強化した子ども法(法律第76/2003号)の採択。
  • (b) 刑法を改正し、かつ「人身取引」の新たな定義および子どもに対する性犯罪の厳罰化を導入した法律第40/2003号の制定。
  • (c) 国連児童基金(ユニセフ)の事務所の設置(2003年11月)。

C.主要な懸念領域および勧告

1.実施に関する一般的措置

選択議定書の実施の調整および評価
5.委員会は、選択議定書の実施に関与するさまざまな省庁および国家機関に関して提供された情報に留意するものの、選択議定書で網羅されている権利を保護するためにさまざまな省庁が行なっている活動の、包括的かつ十分に調整された実施を確保するための特定可能な機関が存在しないことを懸念する。委員会はまた、議定書の実施を定期的に評価するための特定可能な機構が存在しないことも遺憾に思うものである。
6.委員会は、締約国に対し、選択議定書で対象とされている分野における調整を引き続き強化するとともに、議定書の実施を定期的に評価するよう奨励する。
国家的行動計画
7.選択議定書を実施するために締約国が行なっている努力には評価の意とともに留意しながらも、委員会は、締約国で子どものための国家的行動計画が策定されていないことを懸念する。
8.委員会は、締約国が、子どもに関する特別会期(2002年5月)で総会が採択した成果文書「子どもにふさわしい世界」で要請されているように、市民社会を含む関連のパートナーと協議しかつ協力しながら子どものための国家的行動計画を策定し、採択しかつ実施するための努力を強化するよう、勧告する。さらに委員会は、締約国が、子どもの性的搾取(児童買春および児童ポルノを含む)の防止に特段の注意を払うよう勧告するものである。
普及および研修
9.委員会は、選択議定書の規定に関する子ども、親およびさまざまな専門家の意識を高めるために締約国が行なっている努力を歓迎するとともに、締約国に対し、とくに学校カリキュラムに選択議定書の規定を含めることを通じて、子どもおよび親に特段の注意を払いながら、選択議定書の規定に関する住民の意識を高めるための努力を引き続き強化するよう、奨励する。委員会はまた、締約国が、関連のすべての専門家集団を対象とした、選択議定書の規定に関する体系的かつ継続的な研修プログラムを開発することも勧告するものである。
データ収集
10.委員会は、児童ポルノを除いて選択議定書の規定に該当する事案が報告されていないことに留意するとともに、締約国が、選択議定書の適用範囲に該当する活動の性質および規模を評価するための研究を行ない、かつ、報告されていない事案を明らかにするための努力についての情報を記載するよう、勧告する。
予算配分
11.委員会は、選択議定書に掲げられた規定を実施するための予算配分について提供された情報が限られていることを遺憾に思う。
12.委員会は、締約国が、選択議定書の包括的実施のための予算配分に関するさらなる情報を次回報告書で提供するよう、勧告する。

2.子どもの売買、児童ポルノおよび児童買春の禁止

現行刑事法令
13.委員会は、とくに子ども保護法(法律第80/2002号)および子ども法(法律第76/2003号)の採択、刑法を改正して「人身取引」の新たな定義を導入した法律第40/2003号の制定ならびに売買春を禁ずる広範な法律によって、子どもの売買、児童買春および児童ポルノを犯罪とするために締約国が行なっている努力に、評価の意とともに留意する。しかしながら委員会は、売春を行なう子どもが犯罪者として扱われていることを懸念するものである。さらに委員会は、性的同意年齢がやや低い(14歳)ために14歳以上の子どもに対して性的搾取からの十分な保護が提供されない可能性があること、子どもに対する性犯罪についての現行の公訴時効、および、選択議定書第3条1項に定められた犯罪について法人の責任を問えないことについて、依然として懸念を覚える。
14.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 売春に従事した子どもが犯罪者として扱われるのではなく被害者と見なされることを確保するため、法律を見直すこと。
  • (b) 14歳以上の子どもが性的搾取から効果的に保護されることを確保するための立法上の措置をとること。
  • (c) 一般刑法の改正案を採択し、子どもに対する性的虐待事件についての公訴時効を延長すること。
  • (d) 選択議定書第3条1項に定められた犯罪の責任を法人に対しても拡大すること。

3.刑事手続

域外裁判権
15.委員会は、一般刑法第5条で「双方可罰性」の原則が定められており、国外で重大なまたはより軽微な犯罪を行なった者をアイスランドで処罰できるのは当該行為が行為地国の法律で処罰対象とされている場合のみであるとされていることに留意する。委員会は、この要件により、選択議定書第1条、第2条および第3条に定められた犯罪を訴追する可能性が制約され、したがってこれらの犯罪からの子どもの保護が限定的なものとなることを懸念するものである。
16.委員会は、締約国が、国外で行なわれた犯罪をアイスランドで訴追する際の双方可罰性要件を廃止する目的で法改正を行なうよう、勧告する。

4.被害を受けた子どもの権利の保護

選択議定書で禁じられた犯罪の被害を受けた子どもの権利および利益を保護するためにとられた措置
17.18歳未満の被害者から法廷陳述を受ける際の体制に関する規則第321/1999号には評価の意とともに留意しながらも、委員会は、締約国が、選択議定書で禁じられた犯罪の被害を受けた子どもの権利および利益を刑事司法手続のあらゆる段階で保護するための措置を、引き続き強化するよう勧告する。
18.委員会は、性的虐待の被害を受けた子どもに対し、「子どもの家」(Barnahus)によって提供されている処遇およびサービスに関する締約国報告書の情報を歓迎する。委員会は、締約国が、その効果的職務遂行のための十分な財源および人的資源を提供する等の手段により、「子どもの家」の考え方を引き続き強化し、かつその対象範囲を締約国全域に拡大するべきである旨の勧告を、あらためて繰り返すものである。締約国は、このようなサービスおよび援助プログラムの内容および効果に関するさらなる情報を次回の定期報告書に記載するよう、要請される。

5.子どもの売買、児童買春および児童ポルノの防止

選択議定書に掲げられた犯罪を防止するためにとられた措置
19.委員会は、国および地方のレベルでの意識啓発キャンペーンならびに児童買春および児童ポルノの規模に関する2002年の政府研究報告書を含め、防止に関して締約国が行なっているさまざまな努力に評価の意とともに留意する。委員会は、締約国が、引き続き意識啓発の努力を強化するとともに、政府報告書に掲げられた勧告を速やかに実施するためにあらゆる必要な措置をとるよう、勧告するものである。
20.アイスランド赤十字社が運営する、おとなと子どもの双方を対象とする現行のホットラインの存在には留意しながらも、委員会は、赤十字社が、資金欠乏を理由として、ヘルプラインと連携していた夜間シェルターを閉鎖した旨の情報があること、および、とくに子どもを対象とするヘルプラインが締約国に存在しないことを、懸念する。
21.委員会は、締約国が、暴力および虐待の被害を受けた子どもをとくに対象とするヘルプラインを創設するための金銭的および技術的支援を提供するよう、勧告する。委員会はまた、ホットライン・サービスにアクセスするための費用をヘルプラインも子どもも支払わなくてよいようにし、さらにホットラインが24時間のサービスを提供できるようにするため、子どもヘルプラインに対し、全国からアクセス可能な3ケタのフリーダイヤル番号が与えられるべきことも勧告するものである。
犯罪を広告する資料の製造および配布の禁止
22.委員会は、子どもによるインターネットの安全な利用を確保するための措置も含む情報社会国家政策(2004~2007年)が採択されたことに、評価の意とともに留意する。委員会はまた、欧州評議会・サイバー犯罪条約(2001年)の批准および実施に関連して一般刑法の改正が提案されていることにも留意するとともに、締約国に対し、当該条約を遅滞なく批准し、かつ、選択議定書で述べられた犯罪を広告する資料の製造および配布を効果的に禁ずるための措置を引き続き強化するよう、促すものである。

6.国際的な援助および協力

防止
23.締約国がとっている防止措置には留意しながらも、委員会は、締約国が、立法上の枠組みを強化するとともに、国際組織犯罪防止条約を補足する人(とくに女性および子ども)の取引を防止し、抑止しおよび処罰するための議定書および人身取引と闘う行動に関する欧州評議会条約の批准を検討するよう、勧告する。
法執行
24.委員会は、司法共助および治安協力の領域で締約国が調印したさまざまな二国間および多国間の協定に評価の意とともに留意し、締約国が、子どもの売買、児童買春および児童ポルノをともなう行為の防止、摘発、捜査、その責任者の訴追および処罰のため、とくにこの分野で問題に直面している国々の法執行機関との、二国間、地域間および多国間の協力を引き続き強化するよう、勧告する。
財政援助その他の援助
25.委員会は、二国間および多国間の開発協力を含む国際協力の分野で締約国が行なっている貢献およびさまざまな子どもの権利関連の活動に評価の意とともに留意し、締約国に対し、とくにGDPの0.7%を国際開発援助に振り向けるという国際連合の目標の達成に努めることにより、国際協力の分野における活動を引き続き強化するよう、奨励する。

7.フォローアップおよび普及

フォローアップ
26.委員会は、締約国が、とくにこれらの勧告を関連省庁、議会(アルシング)および県当局に送付して適切な検討およびさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
普及
27.委員会は、条約〔ママ〕、その実施および監視に関する議論および意識を喚起する目的で、締約国が提出した第1回報告書および文書回答ならびに委員会が採択した総括所見を、インターネット等を通じ(ただしこれにかぎるものではない)、公衆一般、市民社会組織、若者グループ、専門家グループおよび子どもが広く入手できるようにすることを勧告する。

D.次回報告書

28.第12条2項にしたがい、委員会は、締約国が、選択議定書の実施に関するさらなる情報を、子どもの権利条約第44条にしたがって2008年5月26日が提出期限とされている、条約に基づく次回定期報告書(第3回・第4回)に記載するよう要請する。

  • 更新履歴:ページ作成(2012年4月2日)。
最終更新:2012年04月02日 17:56