厄介な奴に引っかかってしまった。
そう、心中で愚痴りながら稟は走り続ける。
後ろから迫ってくる少年、長沢勇治は鬼のような形相を浮かべながら奇声を発している。
その大部分は殺す、死ね、ぶっ壊すなどの単語の羅列で稟の耳にはもう満杯というくらいだ。
そう、心中で愚痴りながら稟は走り続ける。
後ろから迫ってくる少年、長沢勇治は鬼のような形相を浮かべながら奇声を発している。
その大部分は殺す、死ね、ぶっ壊すなどの単語の羅列で稟の耳にはもう満杯というくらいだ。
(途中で諦めるかと思ったけど執念深く追ってくる……このままの状態を続けるべきか? 楓達や杉崎達とも大分離れただろう。
後は俺だけだ。俺が無事にこいつを撒ければ目下の問題は解決する)
後は俺だけだ。俺が無事にこいつを撒ければ目下の問題は解決する)
だが、長沢はしつこく自分を追いかけてきている。追跡を撒こうと全力で走ることも考えたが万が一のこともある。
体力はできるだけ残しておいたほうがいい。
体力はできるだけ残しておいたほうがいい。
(この拳銃を使って、追い払うべきなのか? そんなこと、できやしない。もし、反動でずれてあいつに当たったら……)
腰につけている大型の拳銃は説明書を読む限りでは威力は掠るだけでも致命傷を負わせることができるくらいだと書いてあった。
そんな物騒なものを決意も定まっていないのに使っていいものなのだろうか。
これは人を殺す道具である。銃口を人間に照準し、引き金を引けばそれで死体の出来上がりだ。
そんな物騒なものを決意も定まっていないのに使っていいものなのだろうか。
これは人を殺す道具である。銃口を人間に照準し、引き金を引けばそれで死体の出来上がりだ。
(この拳銃を使うということは二者択一だ。殺すか、殺さないか。俺に人を殺す覚悟はあるのか?)
これを使うということはそういうことだ。
ただの空撃ちで退いてくれる相手だとは思えないし、そんな中途半端なことでこれから先を生き抜くことはできない。
それでも稟の中の常識が人を殺すことに対して重い鎖を何重にも縛っている。
この拳銃を人に向けることを考えただけでも強い嫌悪感を覚えるぐらいだ。
ただの空撃ちで退いてくれる相手だとは思えないし、そんな中途半端なことでこれから先を生き抜くことはできない。
それでも稟の中の常識が人を殺すことに対して重い鎖を何重にも縛っている。
この拳銃を人に向けることを考えただけでも強い嫌悪感を覚えるぐらいだ。
(もし、殺されそうになった時、俺はこれを……使うのか?)
一応ではあるが稟は人を殺すことを全否定してはいない。
先程の渚の一件みたく襲われて殺さざるを得なかったケースでありその罪を償う決意があるのなら、稟は赦すつもりだ。
だが、それはあくまで他人のことであって自分のことではない。
先程の渚の一件みたく襲われて殺さざるを得なかったケースでありその罪を償う決意があるのなら、稟は赦すつもりだ。
だが、それはあくまで他人のことであって自分のことではない。
(俺自身に降りかかったら……俺は俺の都合で人を――)
延々とした思考は銃弾が右肩を掠った痛みで打ち切られる。
思考の海に入りすぎて油断した。
今は殺人について考えていられる程の余裕もないというのに。
思考の海に入りすぎて油断した。
今は殺人について考えていられる程の余裕もないというのに。
(まずはこいつから逃げなきゃな!)
稟は大通りから逸れている脇道に駆け込んで、長沢から逃げれるよう撹乱を図る。
入り組んだ道を法則無視に適当に曲がり、時には大通りを横切りまた脇道へと入りのくり返し。
走る。最善の逃げ道を頭で考えながらも足は全力で字面を蹴りつける。
捕まったら最後、生き残れる確率は一気に下がってしまう。
入り組んだ道を法則無視に適当に曲がり、時には大通りを横切りまた脇道へと入りのくり返し。
走る。最善の逃げ道を頭で考えながらも足は全力で字面を蹴りつける。
捕まったら最後、生き残れる確率は一気に下がってしまう。
(一応、方向も二人とは違うのを選んでるしあいつに巻き込まれることもない)
そして数分後、長沢の罵声と銃声が途絶え、自分の足音しか聞こえなくなった所で稟はやっと地面にへたり込むことができた。
全力で走りすぎたのか額からは汗が浮き出し、気持ちが悪い。額を制服の袖で軽く拭うことで気持ち悪さを払拭する。
全力で走りすぎたのか額からは汗が浮き出し、気持ちが悪い。額を制服の袖で軽く拭うことで気持ち悪さを払拭する。
「さてと、いい加減休んでばかりじゃなくて動かねえと」
そう、この場所もいつまでも安全だと限らない。いつ、長沢が追いついてきて襲いかかってくるかわからないのだから。
今は距離が離れているだろうが血眼になって捜されている以上このままとどまっていると見つかる可能性は何倍にも膨れ上がる。
今は距離が離れているだろうが血眼になって捜されている以上このままとどまっていると見つかる可能性は何倍にも膨れ上がる。
(楓達、それか杉崎達に合流しよう……もしかすると別の奴に襲われているかもしれないし)
この島にいる殺人者は長沢だけではない。他にもこのクソッタレな殺し合いに乗り気な参加者は数多くいる可能性が高いのだ。
自分が護らなくては。人を殺す覚悟も定まらないが大切な人達を護りたいという意志はプリムラが死んだその時から変わっていない。
遠くない内に選択の機会はやってくるだろう。その時、自分はどうするのか。
自分が護らなくては。人を殺す覚悟も定まらないが大切な人達を護りたいという意志はプリムラが死んだその時から変わっていない。
遠くない内に選択の機会はやってくるだろう。その時、自分はどうするのか。
「やぁぁっと見つけたぜぇ……?」
そして、結論を出すことができないまま、機会はすぐにやってきてしまった。脇道から大通りに出た瞬間、脇腹に刺さる強い衝撃が地面へと這いつくばらせた。
何が起こった? 稟は脇腹の痛みに呻きながらも考えた。
なぜ、長沢が自分を待ち伏せていたのだろう。自分は彼を何とか撒くことができたのではなかったのか。
何が起こった? 稟は脇腹の痛みに呻きながらも考えた。
なぜ、長沢が自分を待ち伏せていたのだろう。自分は彼を何とか撒くことができたのではなかったのか。
「へへっ、バァカ。何で待ち伏せされてたんだって思っているだろ? アヒャヒャヒャヒャっ!
お前みたいな鈍いやつでもわかるんじゃねえのか?」
お前みたいな鈍いやつでもわかるんじゃねえのか?」
長沢は地面にうずくまっている稟を気絶しない程度に蹴りつける。気絶なんて逃げは許しはしない。
今までの鬱憤を晴らすかのごとくガシガシと踏みつけ、蹴り上げ、殴りつけ、M4で叩きつける。
今までの鬱憤を晴らすかのごとくガシガシと踏みつけ、蹴り上げ、殴りつけ、M4で叩きつける。
「この選ばれた俺が特別に教えてやるよ! 支給された物の中にな、お前みたいなバカな奴の居場所がわかるレーダーがあったんだよ。
それで、ぼ……俺は逃げきったとわざと油断させてお前の逃げそうな道を先回りしたって訳! まさか、こんな簡単な作戦が成功するなんてなぁ!」
それで、ぼ……俺は逃げきったとわざと油断させてお前の逃げそうな道を先回りしたって訳! まさか、こんな簡単な作戦が成功するなんてなぁ!」
最も、その声の内容は稟の耳に半分も届いていないだろう。
稟は絶え間なく襲いかかる痛みに耐えることでいっぱいいっぱいなのだから。
稟は絶え間なく襲いかかる痛みに耐えることでいっぱいいっぱいなのだから。
「ということでさ、精々いたぶらせてもらうぜ……! あひゃ、くへ、へへいひゃいひゃはははははは!」
何を、間違えたのだろう。いつ、どこで自分は選択肢を誤ったのだろう。
ぼんやりとした頭で問いを投げかけようとも答える者はいない。何せ自分は散々になぶられて死ぬのだから。
ぼんやりとした頭で問いを投げかけようとも答える者はいない。何せ自分は散々になぶられて死ぬのだから。
気絶寸前の今、稟は思う。
死んでしまった二人の親友のこと。
恐怖から人を殺してしまった渚のこと。
この島の何処かで生きているであろう親友と先輩のこと。
そして――。
死んでしまった二人の親友のこと。
恐怖から人を殺してしまった渚のこと。
この島の何処かで生きているであろう親友と先輩のこと。
そして――。
(かえ、で)
死んでしまったらあの笑顔がもう見られない。
死んでしまったらあの柔らかい手をもう握れない。
死んでしまったらあのうまいご飯をもう食べれない。
死んでしまったら――――好きだってもう伝えられない。
死んでしまったらあの柔らかい手をもう握れない。
死んでしまったらあのうまいご飯をもう食べれない。
死んでしまったら――――好きだってもう伝えられない。
(か……え、で)
嫌だ。それは、嫌だ。
嫌なことはしたくない。嫌な目にはあいたくない。
もっと、大切な人と何気ない日常を過ごしたい。
もっと、大切な人と手を握り、口づけを交わしたい。
嫌なことはしたくない。嫌な目にはあいたくない。
もっと、大切な人と何気ない日常を過ごしたい。
もっと、大切な人と手を握り、口づけを交わしたい。
(かえで)
その為に今すべきことは、何だ?
このまま黙って嬲られるがままに殺される――違う。
何とかこの状況を抜けだして長沢を説得する――違う。
このまま黙って嬲られるがままに殺される――違う。
何とかこの状況を抜けだして長沢を説得する――違う。
そう、違うだろう――――? あるじゃないか。一番手っ取り早くて簡単な方法が。
(だ、めだ)
それは何がダメなのだろうか。
正しくないからダメ? 倫理的に間違っている?
人としてやってはいけない? 土見稟の根本を覆すから?
正しくないからダメ? 倫理的に間違っている?
人としてやってはいけない? 土見稟の根本を覆すから?
(だめなんだ……)
理由はわからないが稟は漠然と思うのだ。
そんなことをしても誰も喜ばない。もし、それを犯すと皆と笑って向き合えなくなる。
だけど。
そんなことをしても誰も喜ばない。もし、それを犯すと皆と笑って向き合えなくなる。
だけど。
『それで、いいの?』
声が聞こえる。少女のか細い声が。
『そんなので、いいの?』
声が聞こえる。少女の快活な声が。
『それで、よろしいのですか?』
声が聞こえる。少女の鈴の音のような涼やかな声が。
(いや、だ……)
どんなに正しさで取り繕ってもメッキは剥がれてしまう。
死にたくない。まだ、生きていたい。こんな訳もわからないまま、一生を終えたくない。
それが稟が思うことだった。
死にたくない。まだ、生きていたい。こんな訳もわからないまま、一生を終えたくない。
それが稟が思うことだった。
(しにたくない、しにたくない)
死にたくない。それは普通の人間なら誰しもが思うこと。
死にたくない。それを防ぐ為にできる一番のこと。
その一番のこととは何か。
■■。
土見稟が最も忌避するものだった。
死にたくない。それを防ぐ為にできる一番のこと。
その一番のこととは何か。
■■。
土見稟が最も忌避するものだった。
◆ ◆ ◆
「へへっ、もう飽きてきたしそろそろ終わりにしようっと!!」
嬲ることに飽きたのか、それとも疲れたのか。
長沢は嬲るのに邪魔だったM4を取り出すべくデイバックを乱雑にまさぐる。
それは勝利が確定した者の油断、驕り。
長沢は一瞬でも稟から目を放すべきではなかった。
長沢は嬲るのに邪魔だったM4を取り出すべくデイバックを乱雑にまさぐる。
それは勝利が確定した者の油断、驕り。
長沢は一瞬でも稟から目を放すべきではなかった。
「さぁってとぉ! これで終わ……ガァッ!」
稟は残る力全てを振り絞り、勢い良く起き上がり。その勢いのはずみで長沢の顔面へと拳を叩きつけた。
予想だにしなかった反撃とこの島に来て初めての痛みに長沢は怯み、地面をのたうち回る。
予想だにしなかった反撃とこの島に来て初めての痛みに長沢は怯み、地面をのたうち回る。
「お、オマエエエエエエエエエエエエエエエエエエ! 殺してやるぅ!!! もう許さねえ! お前は、お前は――」
だが、その怯みも一瞬のこと。長沢は喚きながらも何とか立ち上がり――。
「――――」
銃声と同時に何かを振り絞る叫び声が響いた。
そして、最後まで立っていたのは神にも悪魔にも凡人にもなれるはずだった男の成れの果て。
ただの人殺しだった。
そして、最後まで立っていたのは神にも悪魔にも凡人にもなれるはずだった男の成れの果て。
ただの人殺しだった。
【長沢勇治@キラークイーン 死亡】
【D-2/一日目/朝】
【土見稟@SHUFFLE!】
【状態】全身打撲、右肩に銃弾のかすり傷
【装備】『死』@操り世界のエトランジェ、『死』@操り世界のエトランジェ
【持ち物】支給品一式、特性予備弾@操り世界のエトランジェ、不明支給品0~1
【思考】
基本:????
1:????
※コルト M4 カービン(20/30)支給品一式、献身@永遠のアセリア、スティンガー×12@魔法少女リリカルなのは、参加者察知レーダー、不明支給品0~1が近くに落ちています。
【状態】全身打撲、右肩に銃弾のかすり傷
【装備】『死』@操り世界のエトランジェ、『死』@操り世界のエトランジェ
【持ち物】支給品一式、特性予備弾@操り世界のエトランジェ、不明支給品0~1
【思考】
基本:????
1:????
※コルト M4 カービン(20/30)支給品一式、献身@永遠のアセリア、スティンガー×12@魔法少女リリカルなのは、参加者察知レーダー、不明支給品0~1が近くに落ちています。
【参加者察知レーダー】
同じエリアにいる参加者の現在位置を把握できるレーダー。電池式。
同じエリアにいる参加者の現在位置を把握できるレーダー。電池式。
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